タイトル:「毒」と「薬」の不思議な関係
著者:齋藤勝裕
発行:シーアンドアール研究所
発行日:2017年4月1日
あらすじ
「毒と薬は紙一重」万能薬も誤れば毒になる!?
医薬品の中には、素晴らしい薬だと思われているものが、実は恐ろしい毒薬というものがあります。
しかし、このような例は珍しいことではありません。
ほとんど全ての薬は服用を誤れば毒となります。
化学の発達と共に人類が手にした薬の知識や毒の歴史を化学知識をもとに解説します。
KAKEN — 研究者をさがす | 斉藤 勝裕 (00089096) (nii.ac.jp)
有機化学の教授ですね。
広く浅く、『有機化学?なにそれ?』と私みたいな素人にもわかりやすく毒と薬について解説してある。
丁度以下の事件が起きてる頃に読んだ。
小学校に市販薬持ち込み児童2人が過剰摂取 救急搬送「オーバードーズ」が社会問題に | NHK | 東京都
まぁ…もとより薬を医療目的で使ってないので、同情の余地なしですわ…。
小さい子供の誤飲とは違うし、インターネットの知識で
「試してみたい!」とか思ったなら、単なるアホですよ…。
やる前に危険性とか調べなかったの?
何が起きるか想像できなかったの?
背景がどうあれ、自己責任です。
死ねたらいいけど、後遺症抱えて生きることになったら地獄でしょうに……。
そんな、用量用法を正しく理解し使わないと"毒"になってしまう物について、
本書は専門性を持たない人間が読んでもわかるように書いてある。
毒と薬の違いからその歴史、
毒の仕組みや体内で起きる仕組みをどのように医薬として役立てるかなどなど。
P47
酒類を飲みすぎると二日酔いになって苦しみますが、これは酒類に含まれるエタノールのせいです。
しかし、同じようなアルコールでもメタノールを飲むと失明するといわれており、場合によっては、命を落とすこともあります。
アルコールの害は、どのような機構で生じるのでしょうか?
メタノール → ホルムアルデヒド → ギ酸
実際には構造式で記載があって、
ここでは「名前似てるなぁ」くらいのアセトアルデヒドとホルムアルデヒドが
どのくらい似通っているかも一目で分かる。
P55
■ヒガンバナ
ヒガンバナは球根で植え付けます。
そのため、基本的に人間が意識的に植えつけないと繁殖しません。
ヒガンバナが、田んぼのあぜ道に多く咲いているのは、モグラよけに植えているといいます。
モグラは、あぜ道に穴を開けて田んぼの水を流出させる害獣です。
しかし、ヒガンバナを植えると毒を嫌って寄り付かないのです。
墓地に多いのも同様です。
大切な人の遺骸を動物に荒らされないための防御です。
へぇえええ!!!
リコリンというのが毒の成分で、
これは水溶性だから飢餓の時にはよく球根をアク抜きして食すこともあったんだって。
以下はメモ
■スズラン
植物全体にコンバラトキシンを含む。
嘔吐、眩暈、心不全、心臓麻痺などの症状を出す。
■トウゴマ
ヒマシ油の原料。
種子に植物毒最強と謳われるリシンを含む。
リシンはタンパク質でできているため、加熱すると無毒となる。
■キョウチクトウ
排ガスに強いため街路樹として植えられることもある。
植物全体に毒があり、土壌にも毒が回る。
生の木を燃やしても煙が毒になり、腐葉土にしても一年間は毒が残ると言われている。
毒成分はオレアンドリン。
■イチイ
木質から彫刻の素材によく使われる。
毒は植物全体にあり、特に種子に含まれている。
成分はタキシン。
嘔吐、下痢、痙攣、呼吸または循環障害により死に至る場合もある。
赤い実をつける「イチイ」。北海道では「オンコ」とよぶ(季節・暮らしの話題 2022年11月16日) - 日本気象協会 tenki.jp
(結構知らずに食べてる人いるよね…)
■スギヒラタケ
かつては食用キノコとされていたが、2004年秋に毒性が明らかになった。
まだよくわかっていないので、とりあえず食べちゃダメとのこと。
■フグ
フグのテトロドトキシン。
フグ自身が作る毒ではなく、紅藻類の作った毒を体内に蓄積させていることで知られる。
そのため養殖フグは安全かと思われたが、天然フグを混ぜて飼育すると養殖フグも毒を持つらしく、フグがテトロドトキシンを生産する菌を持っているのではないかと言う説もある。
■イワスアンギンチャク/アオブダイ
パリトキシン。
こちらも食物連鎖で対象の生き物の体内に蓄積される毒。
海水温上昇に伴い、他の石鯛にも含まれていることがあるという。
美味で食用にされているけど有毒の魚たち 「海洋性蓄積毒」のリスクとは? | TSURINEWS
山育ちなのでわけのわからん実を口に入れることもあった…。
いま考えれば恐ろしいことだ…。
(まぁ友人が習慣的に食べているのを見て安全性の確認はしていたけども)
海にも行くし、怖いなぁ、というのが率直なところ。
クラゲとかもね、怖いし。ダイビングスーツ貫通してくるよ…。
P176~
ここからは化学兵器や金属毒について。
枯葉作戦で使用された2,4-Dに含まれていたダイオキシンや
除草剤として使用されていたパラコート。
金属毒は
水俣病の原因となった水銀、
イタイイタイ病の原因となったカドミウム。
むかし白粉としてしようしていた鉛。
昔のヨーロッパで酸化鉛の白い粉をワインに入れて甘くしてたと知って震えたよね…。
今考えたら信じられないことだわ…。
(とはいえ、後々になって『食用金箔に毒性が認められました!』とかになったら、普通に後世の人々は「当然では?」とか思うのかな…)
P150(抗生物質)
■チャーチルの肺炎
第二次世界大戦後、抗生物質が華々しく登場した陰には、美しい話がありました。
ペニシリンの派遣者であるフレミングは、若い頃に、後に英国首相になるチャーチルが池で溺れているのを助け、それに感謝したチャーチル家がフレミングに学資を出したというのです。
そのおかげで医学者になったフレミングがペニシリンを発見し、第二次世界大戦末期、肺炎で苦しむチャーチルの命を救ったというのです。
(省略)
ペニシリンの発見を契機にその後、多くの抗生物質が発見されました。
P165(麻酔)
■華岡青洲
世界最初の全身麻酔手術は、1804年に行われた華岡青洲の乳ガン提摘出手術といわれています。
青洲はマンダラゲ(朝鮮朝顔)、トリカブトなど6種類の薬草を取り合わせた薬を独自に調合し、それを服用させることによって全身麻酔を行ったとされています。
動物実験の後、人体実験に移りましたが、実験台になることを申し出たのは、青洲の母と妻でした。
度重なる実験によって母は亡くなり、妻は失明しましたが、ついに全身麻酔薬が完成しました。
ヨーロッパで完全麻酔が成功したのは、それから40年後といわれています。
これ、本当に偉大な話だ…。
全人類のために実験台になったのだから…。
P168~
ここからは抗がん剤の話と将来への可能性について。
P190~
薬→毒→薬
と世界の認識が二転したサリドマイドについて。
P199(爆薬と薬)
爆薬にはいろいろのものがありますが、有名なものに「トリニトロトルエン」と「ニトログリセリン」があります。
トリニトロトルエンはTNTともいわれ、爆弾や砲弾の火薬として有名です。
一方、ニトログリセリンはダイナマイトの原料としてよく知られています。
■ニトログリセリン
爆薬としてうってつけのように思われますが、実はそうでもありません。
あまりに不安定で運搬も困難なのです。
戦争で用いようにも、敵陣に届ける前に味方の陣地で爆発してしまいます。
ところがこれを珪藻土に吸着させると安定になり、落としても叩いても爆発しなくなります。
そして、信管を使いニトログリセリンとしての爆発力を示すことを発見したのがノーベルです。
彼はこれを用いてダイナマイトを作り、巨万の富を築きました。
1900年にノーベル賞を設けたのは有名な話です。
■狭心症
(省略)ニトログリセリンには、狭心症の発作を予防する効果と、起こった発作を鎮める効果があることがわかりました。
(省略)3人の研究者は1998年、ノーベル医学生理学賞を受賞しました。
ノーベル賞制定からほぼ100年後に、ノーベル賞の元になったダイナマイトの関係でノーベル賞を受賞したということで話題になりました。
知的好奇心だけで読む本を決めているので、
専門的すぎないこういう優しい本は有難い。
興味を持ったら専門書読めばいいしね。
参考文献がなく多少不安はあるけども、
初学者向けとしてなので良本なのではないだろうか。
面白いね。
偉人たちの努力に、私たちは今生かされているなぁ、と感じるわ…。
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まだまだ化学系の知識足らんなぁ…
他にもおすすめの本があれば教えてくださいね!
それでは素敵な読書ライフを!!