タイトル:ジェノサイド(上・下)

著者:高野和明

発行:角川文庫

発行日(上・下):2013年12月25日

 

 

 

 

 

 

 

あらすじ 

イラクで戦うアメリカ人傭兵と、日本で薬学を専攻する大学院生。

まったく無関係だった二人の運命が交錯する時、全世界を舞台にした大冒険の幕が開く。

アメリカの情報機関が察知した人類絶滅の危機とは何か。

そして合衆国大統領が発動させた機密作戦の行方は――

人類の未来をかけた戦いを、綿密なリアリティと圧倒的なスケールで描き切り、その衝撃的なストーリーで出版界を震撼させた超弩級エンタテイメント!

人類の命運は如何に――!?

 

 

 

『日本推理作家協会賞』、『山田風太郎賞』、『このミステリーがすごい!2012年国内編1位』などなど、たくさんの賞やランキングに輝いた超大作。

賞の種類からミステリー作品かと思ったけれど、どちらかといえばSF作品寄り。

但し、ミステリーで賞をとっている理由も分かる。

全てが伏線と言っていいほど、綿密に作られた物語なのだ。

圧巻だった。

 

こんなに綺麗にまとめられた小説、なかなかお目にかかれない。

著者が構想に20年、執筆に3年の年月をかけただけのことはある。

全てが理詰め。計算づく。

沢山の登場人物それぞれに思惑があり、立場があり、全員が何かしらの選択を迫られている。

それが上手くまとめられ、全てが人類の命運を握る『超人類』の手の中。

かなり分量があるにも関わらず、中だるみもなく、破綻もなく、

しかもこの作品、連載物だったという。

 

 

 

著者すごすぎる……!!!

 

 

 

 

登場人物も多く、それぞれに設定や思惑があり、描写されるひとつひとつに無駄がない。

全てが伏線、と冒頭で言ったけれど、

ちゃんと読まないとこの作品の良さはわからない。

つまり、少しでも読み飛ばしたり、記憶が抜け落ちたりしたら勿体ないことになる。

 

個人的にかなり多くの人におすすめしたい作品には違いないのだが――

戦争を扱っているし、そこそこ残酷な描写もあるので、ある程度読者を選ぶ作品でもあるだろう。

 

いやあでも、良い作品に出会えた。すごい好き。

満足度が非常に高かったね。

 

 

 

以下、もう少しだけ踏み込んだあらすじ。

 

薬学を専攻する大学院生、研人の元に、

数日前に病死した父から突然不可解なメールが送られてくる。

暗号めいたそのメールの受信を皮切りに、研人の周りに怪しげな人物たちがうろつき始める。

どうやら父が生前手がけていた何かの研究を引き継がされ、それが狙われているらしいが――。

一方、アメリカでは現生人類から進化した『超人類』なる生物を発見し、秘密裏に暗殺計画が進行していた。

その特殊部隊に選抜されたイエーガーは、治療法のない難病を患う息子がいる。

命を狙われる超人類は、アメリカの政治家相手に先手先手で対応策を展開し――。

そしてイエーガーに持ち掛ける。息子を救いたくないか、と。

 

 

ざっくりいうと、研人の作っている薬はイエーガーの息子を救う薬で、

ヌースと名付けられた超人類は、アフリカ大陸からの脱出に、

自分に向けられた暗殺者を利用しようと考えた。

他にもヌースがこの薬を開発しなければならない理由はあり、

イエーガー他の部隊員にもアメリカを裏切るだけの理由があり、

大統領には大統領の、FBIにはFBIの、CIAにはCIAの立場と思惑があり――

と、こんな感じで登場人物の数だけでとんでもない設定量なので、

要約することも難しいのだが、あらすじは大体こんな感じである。

イエーガーの息子は余命いくばくもないし、

薬の開発が間にあうかのタイムリミット付きでヒヤヒヤしたね。

 

下巻解説で瀧井朝世さんが本作の魅力を語っているので、そちらも是非読んでいただきたい。

本当に素晴らしかった。

物語の締めまで完璧である。

文庫で買ってしまったので、ハードの方で買いなおそうと思った。

 

 

 

P323(上)

「"ヌース"の処置について、博士も抹殺を支持されますか?」

(省略)

「(省略)その三歳児が成長して、常温核融合にでも成功すれば、世界の勢力図は書き換えられてしまう。エネルギー問題だけじゃない。兵器開発を含めた科学技術、医療、経済、すべての面において人類は支配される。

そうなれば世界中の富と権力がヌースに集中しかねない」

(省略)

「残念ながら、我々は不寛容だ」と博士は続けた。「自分たちよりも頭のいい生物がいることを許さない。もっとも、個人的にはヌースに会ってみたい気はするがね」

 

物語の中で、アメリカはヌースの抹殺に踏み切った。

利用する、という案もあるにはあったのだが、

『チンパンジーが人類を制御できるわけがない』ので、殺すことにしたのだ。

 

……実際、もし人類よりも賢い生き物が現れたら、人類はやはり数が少ないうちに、と始末してしまうだろうね。

 

 

 

 

P360(上)

「最悪の場合、正勲が警察に捕まるか、日本にいられなくなるかも知れない」

受話器からは、絶句しているような沈黙が返ってきた。

「それでもいいなら、来て欲しいんだけど」

しばらくしてから正勲は、「それが最悪の場合だね?」と訊いた。

「そう」

「最良の場合は?」

「全世界で、十万人の子供の命を救える」

「分かった」と正勲は、もとの朗らかな声に戻って言った。「行くよ」

 

このシーン、痺れたね……!!!

追手が迫り、潜伏生活を余儀なくされた研人の、

唯一の頼れる学友である韓国人の正勲は、ずっと研究を支えてくれた。

最悪の場合ではなく、最良の場合を想定して決断したのも、最高によかった。

 

 

 

P73(上)

「あの病気を治すのは不可能だ。どんな薬物を合成したところで、受容体そのものは動かないんだ。特効薬を作るなんて無理だよ」

すると正勲が顔を上げ、ためらう素振りを見せてから遠慮がちに言った。「研人、一つだけ言っていいか?」

「何?」

「無理だ、と言わない人たちが、科学の歴史を作ってきたんだよ」

 

かっこいい~~~!!!

そうだよね、簡単に無理だ、と口にしてはいけない。科学者ならば。

可能性は0ではないのだから。

(理系の人間の、「理論上は可能です」が口癖になるのはこういうこと)

 

 

 

 

P102(下)

子供を襲う不治の病と、特効薬の開発。

それらの事柄については、これまでもさんざん検討してきた。

難病の息子を持つ傭兵、ジョナサン・イエーガーを寝返らせるための工作だ。

だが、とルーベンスは、さらに一歩進んで考えてみた。

不治の病を治すというのは、ヌースにとってもハードルの高い条件だったはずだ。

(省略)

このままネメシス作戦の緊急対処フェーズを推し進め、ケント・コガの身柄を拘束すれば、彼が進めている新薬開発は頓挫する。

その結果、難病に苦しむ子供たちの命を間接的に奪うことになる。

肺胞上皮細胞硬化症の推定患者数は、全世界で十万人。

それは、バーンズ政権がイラク戦争で殺した人間の数と同じだった。

(省略)

ヌースの側は道義的に傷つくことなく、十万人もの人質を手に入れた。

 

 

P296(下)

――ヌースの側からすれば、特効薬の開発こそが、もっとも合理的な解だったんだ。

(省略)

セイジ・コガから息子のケントに託された特効薬の開発は、近親婚による遺伝病に対処するための最初の実験だったに違いない。

 

最初は1人だと思われた超人類"ヌース"には、実は腹違いの姉"エマ"がいた。

彼らが子孫を増やすには近親婚になってしまう。

それをわかっていたからこそ、彼らは関連する遺伝病の治療薬の開発をすることにしたのだ。

 

新薬開発には3つの意味があったってことよね。

こんな感じで、様々な物事に複数の出来事が結びついてくる。

 

 

 

 

 

 

P171(下)

「現在、地球上に生きている六十五億の人間は、およそ百年後には全員が死に絶える。なのに、なぜ今、殺し合わなければならないんだろうな?」

「本性剝き出しの人間が多いからでしょう」

博士は笑った。「歴史学だけは学ぶな。支配欲に取り憑かれた愚か者による殺戮を、英雄譚にすり替えて美化するからな」

 

アメリカ映画、チャップリンの『殺人狂時代』の名言、

「1人を殺せば犯罪者だが、100万人殺すと英雄になる」

この言葉、私はわりと好きだけれどね。

正義は獲得するものだ。

(映画自体は未視聴)

 

 

 

 

そしてすべてが終わった物語の最後。

ハイスピードの長距離走を追えて、ゴールをすぎても少し走る、あの余韻にとても似ていた。

良い物語を読んだな、という満足感ね。

 

皆さまも是非読んでください。

 

 

 

TOP画は以下からお借りしました!

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