タイトル:沈黙の春

著者:レイチェル・カーソン

訳者:青樹簗一

発行:新潮文庫

発行日:1974年2月20日

 

 

 

 

 

 

 

 

あらすじ 

自然を破壊し人体を蝕む化学薬品。

その乱用の恐ろしさを最初に告発し、かけがえのない地球のために、生涯をかけて闘ったR・カーソン。

海洋生物学者としての広い知識と洞察力に裏づけられた警告は、初版刊行から四十数年を経た今も、衝撃的である。

人類は、この問題を解決する有効な手立てを、いまだに見つけ出してはいない――。

歴史を変えた20世紀のベストセラー。待望の新装版。

 

 

正直、この著書が現在どの程度の知名度があるのか私にはわからない…。

生物系の学問を専攻したことがあるのなら、

読むまで行かずともタイトルくらいは聞いているだろうし、

場合によっては必読書でもある。

 

これは化学の歴史書である。

 

 

 

 

P12

ところが、あるときどういう呪いをうけたのか、暗い影があたりにしのびよった。

いままで見たこともきいたこともないことが起こりだした。

若鶏はわけのわからぬ病気にかかり、牛も羊も病気になって死んだ。

どこへ行っても、死の影。(省略)

何が原因か、わからない。大人だけではない。子供も死んだ。元気よく遊んでいると思った子供が急に気分が悪くなり、二、三時間後にはもう冷たくなっていた。

自然は、沈黙した。うす気味悪い。鳥たちは、どこへ行ってしまったのか。

 

本書は、1962年に出版されたものであり、

殺虫剤や農薬などの危険性を世に広く訴えた最初の本だ。

現在、『生態濃縮』という言葉はわりと一般的に知られているが、

そのきっかけとなった本でもある。

 

本の内容に関してだが、1950年前後の環境問題が中心だ。

よって、現代から見たときに「これは…?」と思う、誤った内容もあるし、

やや偏りのある思想を感じた。

 

…私は生物学系の大学出身だが、この本が必読にならなかった理由をなんとなく察した…。

冒頭に、私は『化学の歴史書』と強調して紹介したが、

つまり、この本に書かれていることを現代の環境問題レベルで考えるべきではない、ということを示したかった。

 

 

 

 

当時のアメリカでは第二次世界大戦が終結し、経済は好調で、国内生産が増えた時期だ。

農業も盛んで、広大な土地での耕作に問題となったのが、害虫。

戦争の過程で化学も大きく進歩したし、

安価に作られた農薬が大量に撒かれたのは当然の流れだっただろう。

これが、環境に対して大きく問題になった。

 

害虫に対して効果を発揮する薬剤は、益虫たるミミズなどもまとめて死に追いやった。

農薬で死んだ虫を鳥が食べ、その鳥もまた死ぬ。

ペットの猫は手足を舐めるため同じく農薬の影響を受け、

産業動物も風で飛来した農薬で死んだ。

春になって見事な花をつけた草木は、受粉してくれる虫が居らず、実がならない。

実がなっても、それを食べにくる鳥がいない。

沈黙の春。

想像しただけで恐ろしい。

これが当時のアメリカでそこかしこで起きていたと思うと…

下手なホラー映画よりもずっと不気味だ。

 

 

本書はずっと、農薬などに関して危ない危ないと警鐘を鳴らし続ける。

どういう薬剤で何が起きて、被害はどんなものか。

害虫を減らすだけなのに、こんなに過度な散布が果たして必要なのか、など。

ずっと。本一冊。丸々使って。

 

……いやわかるよ?

想像しただけでぞっとするような環境破壊が、

当時その場で実際に起きていたのだから、

その重要性も危険性も分かる。

熱く訴える気持ちも察してあげられる。

 

 

ただ、既に時は2024年。

70年以上前の農薬について延々と注意喚起をされても、

今読む読者には辛いものがある…(本当にごめん)

 

 

これらの凄惨ともいえる事故があって、今の農薬は改良され安全だ。

少なくとも、今時点では安全のような気がしている。

そりゃあ、次世代やさらに先の世代に影響があるかもしれんが、

そんなことを議論していては、多分地球の人口爆発で必要になる食物が足りなくなる。

メリットがあるのだから多少のリスクは飲むべき。

 

というわけで、やたら

『無農薬!』

『無添加!』

『遺伝子組み換えではない!』

みたいなのがちやほやされるのは、

過去のこういう事件から、

自然のものが一番安全なんて思われているのだろうな、と感じた。

そんなことはないからね?

 

衛生面での私たちの生活水準を大きく上げているのは化学の力だ。

スーパーで年中野菜が手に入るのも、

買ってから数日冷蔵庫に入れて置ける食材があるのも、

化学の恩恵だ。

 

 

当時のこの有様を考えれば、

農薬や化学物質に対して過剰に「反対!」と訴えざるを得なかったのだと理解できるが、

やたら農薬――特によく名の上げられたDDTの悪い面ばかりが主張され、

公平性には欠けていると印象だ。

 

 

 

 

P385(解説:筑波常治)

DDTこそ薬害の元凶のごとくいわれるが、あまりに忘れっぽいのも考えものである。

熱帯で人間を多年のあいだ苦しめつづけたマラリアが、DDTの普及のおかげで激減したことも、まがうことなき事実である。

要するに、人間にたいして破格の恩恵をあたえたものが、その目的をいちおう達成するや、ぎゃくに人間に害する方向へ転じてゆく。

ここに文明というものの矛盾があるのだ。

現代における化学薬品こそ、そのジレンマの典型と言うべきである。

 

戦後の日本でも、ノミやシラミによる被害のため、DDTがよく使われていたらしい。

 

P385(解説:筑波常治)

主要な駅の改札口のちかくに、保健所の係員がまっていて、

通勤者や通学生にDDTの白い粉をあびせかけたものだ。

 

即、人間に害になるというわけではなかったようだね。

 

 

実際、薬剤などの動物実験で問題なかったのに、

いざ使ってみたら問題があった、というのがどうしてもある。

ある動物には無害だけど、他のある動物には有害だ、とか。

 

皮膚に触れる分には問題ないが、体内に入って脂肪に溶けたりすると

いきなり有毒になるとか。

あとは、直接死んだりはしないけれど、生殖機能に問題が起きて、

次世代が産めない、とか。

 

こればかりは多くの動物で実験してみるしかないし、

次世代に影響があるかどうかは時間を経てみないとわからない。

 

リスクがある。そんなの当然だ。

だけどリスクを取らないと、私たちは生きていけない。

COVID-19のワクチンだって、今後どのような影響が出るかはわからない。

でも、あの時の私たちが生き残るには、ワクチンが必要だった。

なんだって、そういうものだ。

過去を振り返って未来からでしか、評価は下せない。

 

 

 

 

そんなこんなで、個人的にはおすすめする人を選ぶ著書だなぁ、と思った。

歴史的名著には違いない。

だけど、これはもうサイエンスの本ではなく、歴史書になっている。

それを理解したうえで、手に取るべきだね。

しかも結構ツッコミたい感じの皮肉な矛盾もあって、なかなかねぇ……。

 

教養として読むにはいいと思う。

だけど、本当に時代感を間違えず、正しく理解して読んで欲しい。

そうでないとトンチンカンな環境保全家が暴れる結果になるだろう…。

 

 

 

 

TOP画は以下からお借りしました!

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それでは素敵な読書ライフを!