タイトル:Hello,Hello and Hello
著者:葉月文
発行:電撃文庫
発行日:2018年3月10日
あらすじ
「ねえ、由くん。わたしはあなたが――」
初めて聞いたその声に足を止める。
学校からの帰り道。中学のグラウンドや、駅前の本屋。
それから白い猫が眠る空地の中で、なぜだか僕のことを知っている不思議な女の子・椎名由希は、いつもそんな風に声をかけてきた。
笑って、泣いて、怒って、手を繋いで。
僕たちは何度も、消えていく思い出を、どこにも存在しない約束を重ねていく。
だから、僕は何も知らなかったんだ。
由希が浮かべた笑顔の価値も、零した涙の意味も。
たくさんの「初めまして」に込められた、たった一つの想いすら。
これは残酷なまでに切なく、心を捉えて離さない、
2017年の電撃小説大賞、金賞受賞作。
著者のデビュー作。
先に言っておきます。
今回酷評。
正直ツッコミどころは多い物語だったけれど、
シンプルかつループもので、切り口は好きだった。
文体もあっさりしているので、小中学生向けのライトノベル、といった感じ。
個人的には頑張って張ろうとした伏線や、
色々なところに込めた想いを、
もうちょっと捻ってくれたらなぁ、などとは思ったものの、
ライトノベルってこのくらい軽い方がいいよね、とも思うから難儀である。
作中に登場した香水の意味付けや、あまりに無理のある設定は、
「編集さん、なんとかしてやれなかったの?」と思わなくもなかったけどね。
丁度この頃って、本で言えば君の膵臓をたべたいが話題になり、
アニメではRe:ゼロから始める異世界生活のループものが大注目を集めた頃だから、
流行最先端の美味しいとこどり作品として、
目の付け所はいいセンスしていたと思うんだけどねぇ……。
現在も年1ペースくらいで新刊出されているようなので、
期待高まる作家さん、と言った感じです。
今後に期待!!!
ここから先ネタバレがあります。
物語は基本一人称視点で描かれる。
主人公、瀬川春由。
彼は毎回同じ女の子に声を掛けられる。
「映画に連れて行って欲しい」とか「棚の本をとって欲しい」とか。
けれど、彼はそんなことを覚えていない。
彼だけでなく、世界自体もそんな事実を忘れてしまう。
ヒロイン、椎名由希。
7歳の頃事故にあい死にかけて、"なにか"に生きたいと願いを捧げた女の子。
本来死ぬはずの運命を無理に捻じ曲げたせいで、由希は生き残ったけれど、
世界は彼女のことを一週間で忘却して"なかったこと"にしてしまう。
毎週火曜日、午後十時五十四分。
毎週訪れる、世界のリセットのタイミング。
と言うわけで。
春由と由希が出会っても、一週間経つと由希の存在はなかったことにされ、
周りの人間の記憶が"由希の存在しない世界"のものに書き換わる。
二人で見た花火も、春由の中では『ひとりで花火をした』記憶に書き換わる。
ループもの、とは言ったけれど、世界の時間の流れはそのままに、
由希だけが一人、毎回春由やその他の人に忘れられて『はじめまして』をやっているだけで、
厳密に言えばループものではない。
まぁ、けど由希からしたらほぼやり直しなので、ループみたいなものでしょう。
ちゃんと知らない明日は来るけれど、リセットされた皆の過去には自分はいないわけだし。
コンビニでチョコレートを万引きしようとした由希を春由が止めた、というファーストコンタクトから、4年。
由希は春由にただ好きと言ってもらいたくて、春由好みの女の子になるよう努力する。
そして毎回、忘れられることを承知の上で、声を掛ける。
ただ、誰かに自分のことを覚えていてほしくて。
好きになって貰えれば、誰かの心に忘れられることなく残り続けられると信じて。
いやぁ……
由希は『自分のことを好きになってくれれば誰でも良かった』なんて後半言っていたけれど、ここの心理描写もっと突っ込んでも良かった気がするなあ、とか思った。
『雪を忘れる春が嫌い』という由希に、春由が『忘れないために』と桜の香水を渡すけど、
中学生が、プレゼントに香水贈るのか……
しかもちょっとピントがずれてる気がする……
最後の伏線回収で使いたかったのは分かるんだけど。
設定として致命的であったのは、
世界から忘却されて、どうやって由希は4年間も一人で生きてきたのか、という部分。
無視するのは無理すぎるだろ…
どこで暮らしてるってホテルっぽいけど、中学生高校生の子供がどうやってホテル泊まるのよ?
しかもループが始まったのは7歳。
まだ小さい子供がどうやって一人で生きるの。
家は?服は?食べ物は?お金はどうしているの。
頭がいい、なんて描写があったけれど、学校も行っていないのに勉強はどこで覚えたの?
設定された時代が現代だけに、疑問視せずに読むのは無理よ……
いくらファンタジーとは言えど。
物語最後。
ループ初日、初めましての日に、全ての現象を春由に話して一週間恋人になって貰って、
由希は6日目の夜に自殺を考える。
そうすれば世界から由希という矛盾はなくなるのでリセットされず、
春由はずっと由希を忘れることがないだろう、と思って。
でも設定上、由希は『7歳で亡くなった』のではなく、
『産まれなかった』ことになっているわけで、
自殺しようがしまいが忘却されると思うんだよね……。
で、自殺して春由の心に傷をつけて忘れないでもらおう、なんて話はあったものの、よくわからんままに自殺取りやめで再ループに入って。
結局由希はどうなった?みたいな感じで終幕。
ううーん……
『Hello,Hello and Hello ~piece of mind~』というタイトルで、
続刊みたいなのが出ているから、もしかしたらここで設定の辻褄合わせや調整が行われるかもしれないけど…
まぁ…
個人的には酷評になって申し訳ないけど、
自分で構築した世界の設定矛盾や、
ぼんやり読んでる読者が首を捻るような単純な疑問は解消できる構成で
是非頑張って欲しいね!!!
ごめんね!!
妥協一切なしの本レビューになってしまった!!
P290
「バイバイ、由くん。あなたのことだけをずっと想っていました。
椎名由希は、瀬川春由のことを世界で一番愛しています」
脳裏に由希の笑顔が浮かぶ。
僕の中にあった由希の最後の欠片だった。
足がスピードを緩めていく。
立ち止まるまで、そう時間はかからなかった。
続く言葉、あと一音。
なのに、僕はもうその言葉を知らずにいた。
世界が僕から何を奪っていったのか、そんなことすらも知らないでいた。
期待高まる作家さんですね。
多分恋愛メインのストーリーだから私の心に響かなかっただけだと思う。
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それでは素敵な読書ライフを!!