タイトル:ソビエトS・F選集2 四つ足になった金融王

著者:Z・ユーリエフ

訳者:彦坂諦

発行:大光社

発行日:1967年2月10日

 

 

ソビエトSF選集2巻に当たる『四つ足になった金融王』。

これまた絶版書籍となっており、面白いのになんてもったいない…という作品だ。

購入は難しいが、探せばまだ図書館などに置いてあるので、是非読んでいただきたい。

 

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あらすじ 

胃がんに侵され余命わずかと宣告された68歳のフランク・ジルバード・グロッパーは、四千万ドルの資産を持つ金融王。

死を宣告され絶望の淵にいる彼の元に、ある日一匹のブルドックが手紙を持ってやって来た。そして犬は器用に地面に文字を書き始める。『拝啓、のぶれば……』

グロッパーが怪しい手紙の呼び出しに応じれば、ベロウ教授とその助手のハントという二人の怪しい人物に出迎えられ、なんと彼らはグロッパーの命を長らえさせることができるという。別の人間の頭に、意識や記憶を電気信号として"移植"するという方法で……。

金融王の遺産を巡る、醜い人間たちの戦いの幕開けである。

 

 

 

 

 

永遠のSFテーマといえば『不老不死』。

 

本書の主人公、金融王グロッパーは死の宣告を前に命が――こと、自分の稼いだ金が誰かに奪われるのをひどく恐れた。

そんな彼の前に怪しげな教授が、不思議な機械を用いて"中身の入れ替え"を実演して見せる。そして金と引き換えにある提案を持ち掛けた。

若い肉体を用意すれば、貴方の意識をその身体に入れて差し上げますよ、ってな具合に。

 

グロッパーは金に物を言わせ人を攫ってきたものはいいが、

入れ替わりの途中で、グロッパーの唯一の遺産相続人の差し金によって、"若い入れ物"を失ってしまう。

仕方なく近く人いたブルドックにグロッパーの意識をいれた教授たちであったが、

銃撃戦の最中にブルドックとなったグロッパーは姿を消し――

消息不明となったブルドックを探して、教授らを始めとし、様々な人間たちがグロッパーの隠した遺産を手に入れるため奮闘する。

 

 

設定自体はSFだが、この物語の醍醐味はブルドックに翻弄される人間模様だ。

 

グロッパーの唯一の遺産相続人である甥は、グロッパーに生きていてもらっては困るので殺し屋を差し向け、

甥に雇われた荒くれ者は、縄張り争い相手に遺産を手に入れられてしまっては困るとばかりにとブルドックを手に入れようとする。

教授たちは入れ替わりの報酬金額をまだ受け取っていないとブルドックを探し、

グロッパーが誘拐してきた若者は銃撃戦で死んでしまったため、警察も重要参考人としてブルドック探しに精を出す。

 

皆に探されている金融王は、とあるお家の雌犬に惚れこんでしまって、

彼女と愛情を育みたいと望みつつ、人間に戻るため教授たちを探している。

 

遺産を巡るドロドロしたストーリーだが、

みんなが血眼で探しているのがブルドックというシュールさで、なかなかライトな感じの物語に仕上がっている。

コメディというほど軽くはないが(普通に登場人物死んでしまうし)

けして暗い物語ではなく面白かった。

 

 

 

 

 

 

P34

「(省略)

われわれの社会の唯一の弱点――それは死です。

死はわれわれの社会に社会主義の要素を持ち込みます。

つまり、金融が主要な役割を演じない社会をもたらすのです。

だが、神というものは有限会社であってはいけない。

神は全能であるか、さもなければ神たることを止めるかです。

わたしはドルを真の神に、全能の神となしたいのです。(省略)」

 

お金さえ持っていれば、生命さえ買える社会にしたいと望むベロウ教授。

ザ・マッドサイエンティストっていう感じの人物。

 

 

 

 

 

P99

ひとつ自分のからだをさわってみたいものだ、とおもうと、脳では、つまり人間の脳からは、両手で腹をなでろ、肩や胸をたたけ、足にさわってみろ、という指令がおりた。

だが、神経線維を通過したあとで、この指令は犬の肢の筋肉に伝えられるのだった。

だからグロッパーは両手をもちあげようとしても、うまくいかないのだった。

数分間、こうしてかれはふるえながら立っていた。

犬の無条件反射と人間の意識とが、かれの内部でたたかっていた。

 

襲撃のせいで入れ替わりに失敗し、ブルドックのなかに入ってしまったグロッパー。

持ち前の冷静さで、ブルドックになってもめげずになんとか人間に戻る方法を探そうとする。

まずははぐれた教授たちを見つけなければならなかった。

 

 

 

 

 

 

P104

いまや危険ははるかに大きなものとなってきた。

(省略)

でなきゃまた、カチンと眼と眼がぶつかるがはやいか、ほかの犬におそいかかられ、あわれ六八年の生涯はその毛皮の外にとびさってしまうだろう……もっとも、なんで六八年なのだ?犬ってやつは、平均いくつまで生きられるのかな、十四才ぐらいか?とすると、おれは、各種の状況から判断してまだ六才をこえとらんことになるぞ。

この考えはユーモラスだったので、かれは吹きだした。

だがこのとき聞こえたのは、あの、ひごろなれしたしんでいるわらい声ではなく、キャンキャンという声だけだった。

 

犬の年齢は人間に例えると何歳?平均寿命や長寿のためにできることも紹介 (nihonpet.co.jp)

まぁ、犬種によって寿命にも差があるし、

医療の発達は人間だけのものではないから、この時代とリンク先の表は多少ズレているけれど……

 

グロッパー、めちゃくちゃ前向きだな。

人間では68歳だけど、犬だからまだ6歳くらいでしょ!っていうポジティブさ、見習いたい。

 

 

 

 

 

P207

巡査は交差点のまんなかでピョンピョンはねたり、万歳したり、おまけにクツクツわらっているのだった。

「おい、モルフェット、きさま、なんだ、気でもちがったのか?」マック・グリーリは車から身をのりだしてどなった。

巡査は背筋に電流を流されたみたいにピクッとなった。

「なんてこった。あなたは、すくなくとも人間だ。犬じゃない。とすると、おれはあたまが変なんだ」

「犬だって?犬がどうした?」

「自分など首にしてくださってよいのでありますが、自分は、ついいましがた『キャデラック』に犬が乗っているのを見つけたんであります」

「それがどうした」

「運転してるんであります!おわかりですか、運転してるんで!ハンドルをにぎって車を動かしてるんであります!」

 

追いかけてくる様々な人間から逃げつつ、グロッパーは資産を預けている銀行へと向かう。

知り合いの手を借りて、教授たちを見つけてもらおうという作戦だ。

追手の車を奪い、グロッパーはブルドック姿で自ら運転し、銀行へと向かっていた。

 

シュール(笑)

アメリカン映画とかにしたらウケていたんじゃないだろうか。

 

 

 

 

 

訳者あとがき曰く、ソ連のSFとしてはかなり風変りな作品らしい。

 

P249(訳者あとがき)

この小説はソ連のSFとしてはかなり風変りな方だといえるでしょう。

舞台もアメリカ、登場人物もアメリカ人ばかりということからして変わっています。

SFというよりは、むしろディテクティヴ・ストーリーとでもいった方がいいのかもしれません。

ただ、いかにもソヴェートだなと思わせるのは、弱肉強食の資本主義に対する批判が随所に散りばめてある点でしょう。

 

……批判はあんまり感じなかったけど、そうらしい。

登場人物みんな、金にがめつく生きていて、私は良いと思ったよ。

 

 

面白かったなぁ。

絶版なの勿体ないよ、本当に…。

どこかの出版者様、出しませんかこの物語。

 

 

 

 

 

TOP画は以下からお借りしました!!

zoomを覗く犬 テレワーク - No: 4505939|写真素材なら「写真AC」無料(フリー)ダウンロードOK (photo-ac.com)

 

 

著者Z・ユーリエフ、検索しても出てこない。

日本語訳されていないだけで、当時のソビエトでは有名な著者だったのだろうか。

他の作品も読んでみたかった。

 

 

 

 

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