タイトル:本と鍵の季節
著者:米澤穂信
発行:集英社
発行日:2018年12月20日
あらすじ
堀川次郎は高校二年の図書委員。
利用者のほとんどいない放課後の図書室で、同じく図書委員の松倉
背が高く顔もいいが松倉は目立つ存在で、快活でよく笑う一方、ほどよく皮肉屋ないいやつだ。
そんなある日、図書委員を引退した先輩女子が訪ねてきた。
亡くなった祖父が残した開かずの金庫、その鍵の番号を探り当ててほしいというのだが……。
図書室に持ち込まれる謎に、男子高校生ふたりが挑む全六編。
帯が!!帯も、というべきか!!素晴らしい!!
これは
図書委員の
僕らの
推理と
友情の物語
思わず手に取りたくなる売り文句が書かれた帯。
期待を裏切らない面白い本書。
氷菓を読んだ時にも思ったけれど、米澤さんの情景描写がとても好き。
本作はそれにプラスして、高校生らしい微細な心の動きを巧みに描写してあり、その部分も必見である。
ここまで読んでわかる通り、
大絶賛である。
文体は固くなく、ライトノベル調であるにも関わらず本格的な推理小説。
よくある『ホームズとワトソン』みたいに
『片方が抜群の推理力で、もう片方が読者のために解説や疑問を呈する』という形ではなく、
本書はどちらも同じく『ホームズ側』の人間で、
互いに互いを補いつつ、着眼点を変えて物事を見る、という構成になっている。
登場人物、主人公の堀川も、その友人松倉も頭がキレ、知見が広い。
以下、ネタバレしない程度に収録されている6編を紹介。
■913
主人公・堀川と、堀川と同じ図書委員の松倉の元に、図書委員を引退した先輩が「開かずの金庫を開けてほしい」という話を持ってくる。
言葉巧みな先輩に押し切られるように堀川はこの件を引き受けるが、どうにも松倉は気乗りしない様子。
金庫を開ける手がかりは『いいものをあげよう。大人になってからもう一度この部屋においで』という先輩の亡き祖父との意味深な言葉のみ。
果たして金庫を開けるための数字とは?そして金庫の中には一体何が――――?
そして二人は隠された秘密を知ることになる。
2012年に読み切り短編として書かれた作品。
人気があり翌年に続編という形で『ロックオンロッカー』が執筆された。
P30
「情報ってのは『差』だ。
真っ白な紙にはなんの情報もない。
完全に規則正しく黒い点を打っても、やっぱり情報にならない。
ある場所には多く、ある場所には少なく点を打ってはじめて、それは情報になる」
なるほど。つまりどういうことかというと、
「……点のほかにも線も書くと、トン、ツーになる。モールス信号だ」
「その通り」
…今読み返すと、この会話って…。
■ロックオンロッカー
「ご友人を紹介いただくと、ご本人様・ご友人様どちらもカット料金四割引」ということで、利害が一致した堀川と松浦は、「ご一緒に来店の場合」という条件のもと、共に美容室を訪れることとなった。
ところが堀川行きつけのそこで、何故かいつも以上の歓待を受ける。
そして噛み含めるように「貴重品は、必ず、お手元にお持ちくださいね」と店長に告げられ――――
なんだかおかしい店の雰囲気に、ふたりはその原因を探っていく。
松倉が堀川にパセリコーラをすすめる話。(読めばわかる)
なにパセリコーラって。そんなのあるの?って馬鹿正直に調べた。
P91に飲んだ時の感想書いてあって気になっちゃったんだよ!!
ないのかよ!!(ないのなら作るしかない)
■金曜に彼は何をしたのか
図書委員の後輩・植田から「兄の嫌疑を晴らしてほしい」という相談を受けた堀川。
学校の窓ガラスが割られ、証拠もないのに普段素行の悪い植田の兄が試験問題を持ち出そうとした、と疑われているらしい。
その相談をたまたま居合わせ聞いてしまった松倉が、何故が一緒に解決することに。
いつもはこういう話は好きでない松倉が、どうして今回に限って自ら首を突っ込んだのか。
植田(弟)を含み三人で、事件があった時間帯の植田兄の行動を推理していく。
鮮やかな伏線に思わず拍手してしまった。
日常会話にさらりと何でもないことのように伏線忍ばせてくるその手腕に舌を巻くしかない。
素晴らしいの一言に尽きる。
P152
「だといいが」
含みのある言い方をするじゃないか。
「違うと思うのか」
松倉は、ふっと空を見上げた。
「わからん。(省略)」
大きな雲の塊が、西の空から流れてくる。
西の空から雲が流れてくる…
天候が崩れるのか、物語の雲行きの怪しさも同時に表している。
こういう表現が堪らなく好きだなぁ、と思う今日この頃。
■ない本
同じ学校の三年生が自殺した――――。
自殺した三年生・香田と友人だったと名乗る長谷川が、堀川と松倉にある本を探してくれと依頼してくる。
その本に、香田の遺書が挟んであるに違いないから、と。
まだ幼さを残した高校生らしさの滲む心理描写が美しい。
心の機微や相手への信頼、言葉に隠された真意など、そういう文字で表しにくい物事を詰めた作品。
なまじ頭がキレ抜群の推理力を発揮するが故の、行き届かなかった配慮に、心が打たれた。
■昔話を聞かせておくれよ
図書委員の仕事もせずぼんやりと過ごす松倉が、暇だからと、唐突に「昔話をしよう」と話を振ってきた。
堀川は幼き日の父親との数少ない思い出を語り、松倉はとある自営業者と泥棒の話を語るが、その話ってまさか――――
堀川と松倉は、松倉の親父が隠したとされる"宝"を探すため、推理を展開していくが……。
上3作品が15~20ヶ月かけて発表されている中、この作品は4年近く間の空いた作品となっている。
松倉が堀川に『紅緑茶オレ』なる謎飲料を飲ませている。
独特なセンスぅ~
垣間見える友情が実に尊い。
P205
「藪から棒だな」
と異を唱えると、松倉は椅子の背もたれに深く体を預けた。
「テーマがいるか?」
「そういう問題じゃない」
「物語の基本は復讐と宝探しだそうだ」
「話を聞けよ」
「復讐はきな臭いな。宝探しでお互い一席ぶつというのはどうだ」
どうやら松倉は、本気で僕に昔話をさせたいらしい。
お気に入りのシーン。
作者様も気に入っていらっしゃる?
「昔話を聞かせておくれよ」: A study in gray (pandreamium.sblo.jp)
P245
松倉は「新商品!」のマークがついた「紅緑茶オレ」のボタンを押した。
「……やると思った」
ふだんは冷静な判断力を備える松倉詩門が、こと飲み物を選ぶことに関してはどうしてこうも挑戦的なのか、腑に落ちかねる。(省略)
「紅茶と緑茶がキセキの結婚式!だとさ」
「ミルクが蚊帳の外で気の毒だな。きっとストーカーだ」
「仲人とか神父とか、いくらでも平和な発想はできるだろ。っていうか、どうしてくれるんだよこれ」
「個人的な宝探しに付き合ってくれたお礼だ」
「お礼がどうしてこういう形になるんだよ、お前は」
「ありがとう、堀川。感謝してる」
「そういう言葉はもうちょっと場所と場合を選んで言えよ」
掛け合いが楽しくて思わず笑った。
高校生の頃、そういえばこうやって意味もない掛け合いしながら夕暮れの中下校したなぁ~って。
ちょっと感傷に浸りながら。
高校生活、楽しかった。
■友よ知るなかれ
松倉の親父が隠したとされる"宝"の秘密、そして松倉詩門自身の秘密。
「嘘は言っていない」と松倉は言っていたけれど…。
松倉詩門が隠していた秘密を知った堀川は、この先一体どうするのか?
上の『昔話を聞かせておくれよ』の続きとなる、叙述トリックを利用した謎かけ。
この物語の終わりは切なすぎるだろ……。
他5編にも言えることだけれど、物語の締めの文が最高に素敵なんだ。
P296
手が空くとカウンターに頬杖をついて、窓を叩く木枯しの音を聞いた。
そうしながら、僕は友を待っていた。
あまり待たせるな、仕事がひととおり終わってしまったじゃないかと、少しだけ腹を立てながら。
THE END…
めっちゃエモい…
いや、年齢的にこの若者言葉での表現は些か無理があるし品性に欠けるのは承知で、でもそういう感想しかでてこなかった。
この物語の締め方、最高オブ最高だね……
ミステリーとして、きちんと謎は解かれていく。
矛盾もなくとても美しい。
それはそれとして、"あくまで連綿と続く人生の一部を切り取った"というストーリー構成が素晴らしい。
なんというか、謎解き以外の部分は読者の想像にお任せ、というか。
堀川視点で描かれているので、堀川が知らないことは、読者も知らないのだ。
無理やりストーリーに決着を付けようとしていない、曖昧なまま終わらせた部分が高評価につながる物語って、正直なかなかないから、本当に素晴らしいという言葉に尽きる。
最後、こんなに切ない終わり方をしてしまって、
続き気になるじゃん…って思ったら、なんと続編が出ているのね。
これは読むしかない。
いやはや、最高でした!という感想に尽きる本書でした。
TOP画は以下からお借りしました!
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この記事が出るころは、もうすっかり秋でしょう。
記事を書いている今は、まだ夏も来ていません。
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他にもおすすめの本があればコメントで教えてくださいね!
それでは素敵な読書ライフを!