さて、大昔はトレーニングと言えば「筋力トレーニング」ぐらいでしたが、最近では「ムーブメントトレーニング」「ファンクショナルトレーニング」「体幹トレーニング」「プライオメトリックトレーニング」「武道トレーニング」など、様々なトレーニングがあります。

それに合わせて「ピラティス」「ヨガ」「エアロビクス」「ズンバ」「ボディーワーク」など加えると一般の人は何をしたら良いのか?混乱して分からなくなるんじゃないでしょうか?
また、このトレーニングの細分化は今後も進んでいくと思いますので、私は業界として何かしら対策をした方が良いと思ってますが…皆さんはどう思っているのでしょうか?

「何が悪いの?選択肢が多い事は良いじゃない」と考える人もいるでしょうね。
しかし、本当にそう思いますか?


分かりやすい例を出すなら、全く身体の柔軟性が無い人が「ヨガ」をするとどうなりますか?
身体を壊しますよね?


少し難しい例を出すと
アニマルムーブメントなどは基本的な脊柱の運動連鎖が出てない人がやるとハードルがかなり高いと思います。
上手く実施出来ないだけでなく、身体を壊す可能性もありますよね?


では、運動連鎖を出そうと思って、脊柱の運動連鎖を引き出す「ファンクショナルトレーニング」を行っても、基礎的な「体幹」のスタビリティが無いと運動連鎖が体幹部分で破綻しますからエクササイズ効果が出にくいですよね?

そんな感じでエクササイズを効率的に行うには、その人にそもそも前提能力がある事が重要になります。
より土台に近い前提能力によって、効率的に実施出来るエクササイズの上限は決まってくると思います。

こういう考えの事を「パフォーマンスピラミッド」と言います。


私は思うのですが、トレーナーはもっと一般の人にも「パフォーマンスピラミッド」の概念を啓蒙すべきに思います。

そうしないと、何を判断基準に自分に合ったトレーニングを選べばよいのか?一般の人は分かりませんから、結局は運動指導者の「アテンションビジネス」によるパイの取り合いに巻き込まれるだけです。

私のクライアントでもぎっくり腰を過去に経験していて、脊柱のインナーユニットが痛み経験で「機能不全」に陥ってる人がいて、全く脊柱の動きが出てないのに通っているジムのイントラに勧められて「アニマルムーブメント」みたいな事をやっている人がいます。

当然、いくら頑張っても全く上達しませんね。
その人はイントラの知り合いが多いものですから、様々なとレーニングをあれや、これやと勧められて、人付き合いが良いから全部チャレンジして、どれもこれも上達しないから…ストレスばかり溜まっています。

選択の判断基準が無い人間に、選択肢がたくさんある事がどれだけ地獄でしょうか?
例えば、たくさんのテレビがあるショールームで、テレビのスペックが全く分からない状態だったら選べますか?

「パフォーマンスピラミッド」の概念をまず一般の人に理解してもらって、自分に足りない能力を補うトレーニングを選択してもらうようにしていかないと…

 

現実的に考えて、これからのトレーニングメソッドの乱立やアテンションビジネス化は止められないので

このままでは何をやっても効果が出ないで、流行りのエクササイズに振り回され逆に身体を壊してしまう人が大量発生してしまうと思います。

 

それは業界全体のイメージダウンにも繋がりかねないと懸念しています。

《普段運動してない人でも、一流アスリートでも、ベースメソッドを実施する事には恩恵はある》

実は人間の運動の一番の前提能力は「体性感覚」になりますよね。

そもそも私たちは「感覚」が無いと、いくら筋力があっても、柔軟性があっても、腕一つも動かせません。

実際に体制感覚を遮断する「アイソレーションタンク」という、本来はリラクゼーション目的に作られたタンクで五感を遮断するような装置があるのですが

ロボット工学や人間の意識に関する研究で有名な前野教授の実験によるとタンクに入ると徐々に身体イメージが消失していき、最終的にはほとんどの被験者は身体が動かなくなるそうです。

 

 

これは体性感覚から「補足運動野」「運動前野」で身体イメージが作られ、身体イメージを利用して「運動野」が身体の各部位の筋に指令を出すシステムの「身体イメージ」が上手く作れなくなるのが原因では?と前野教授は説明しています。

「かなしばり」なども同じ理論で説明出来ると言われていますね。
そんな人の運動に欠かせない体制感覚ですが刺激するには「ボディーワーク」が有効と言われています。

これは近年超一流のアスリートがボディーワークを実践している事実を理解するのに分かりやすい例だと思います。
つまり、パフォーマンスピラミッドの一番の土台を広げると「競技スキル」という頂点部分も高くなると言う事です。

当然ながら、普段全く運動をする習慣が無い人にも、高齢者のような低体力者にも土台を整えるボディーワークのような「ベースメソッド」は恩恵を与えます。

唯一無二のトレーニング方法はあり得ませんが、パフォーマンスピラミッドを理解するなら「ベースメソッド」は万人に進められるトレーニングだと言う事は分かると思います。

ボディーメイク系のトレー二ング指導でケガが多い事がテレビ報道などで取り上げられて、業界でも問題視する人も増えてきました。
指導者のスキルを高めないと!次のステージに高めないと!医療と同等の事が出来ないと!
と言ってるトレーナーの方々もいらっしゃいますが、それ以前に「パフォーマンスピラミッド」のような当たり前の事を啓蒙したり、ベースメソッドのような土台作りを行う重要性を説いた方が、私はよっぽどマシだと思っています。 

 

皆さんはいかが思いますか?

 

 

 

こんにちは

トータルコンディショニング研究会代表の奥川です。

さて、皆さまは「いわゆる」体幹トレーニングと呼ばれるトレーニング。

一定のポーズを取って静止するスタビライゼーショントレー二ングは腰痛リハビリと関係深い事はご存じでしょうか?

前回ご説明したように大きな意味での「体幹トレーニング」は定義が曖昧でして(私の知る限り)人によっては「上体起こし」「ピラティス」「ヨガ」なども体幹トレーニングに入れる人もいます。

 

『【体幹トレーニングはアスリートに必要なのか?】』

https://ameblo.jp/totalconditioning/entry-12837610031.html #アメブロ @ameba_officialより

 

ですが一般的に体幹トレーニングと言われてイメージするのは「プランク」では無いでしょうか?

 

実は私の整体院のお客様に伺っても「体幹トレーニングやった事ありますか?」と聞くとほとんどの方が「プランクですよね?」と仰るので、世間的にはプランクのようなスタビライゼーショントレーニングが体幹トレーニングなんだと思います。

 

実はこのスタビライゼーション系のトレーニングの歴史は「腰痛リハビリ」の歴史と密接なのを知ってましたか?

 

腰痛リハビリの歴史には大きく分けて3つ理論変遷がありました。

1,           腹腔内圧理論

2,           後部靭帯系理論

3,           体幹深層筋制御理論

の3つです。

まず「腹腔内圧理論」の時代には腹筋群が腹腔内圧を上昇させる事で脊柱を前側から支えて、尚且つ伸展モーメントを生み出し脊柱安定化に働くと考えられていました。

そして、猫も杓子も上体起こしを行っていたと思います。

私が若い頃は腰痛関係のリハビリの書籍では必ず「上体起こし」を推奨していました。

しかし、この腹腔内圧理論は重量物挙上時や運動時のような強い負荷が脊柱に掛かる時の安定化においては、そもそも腹腔内圧だけで脊柱を安定させる程の伸展モーメントが生み出せない事が分かってきた事から、今はそれほど重要視されていないと思います。

 

「数学的モデルによる検討では,重量物挙上時に腹腔内圧のみで脊柱を保持し て挙上動作が遂行されると仮定すると、その際に腹腔内圧は250mmHgを超え ることが要求される。もしこれが維持される場合には腹大動脈が圧迫され、内 臓と下肢への血液供給が遮断されることになる 19. さらに腹筋群の横断面積か ら推測される最大出力は60~50psi (0.3~0.4MPa) であり、この出力に対する 輪状の緊張力を体幹に生じることは、事実上、不可能である」

非特異的腰痛の運動療法 荒木著 引用

 

なんと!重量物挙上時に腹腔内圧だけで脊柱安定させようとすると「腹部大動脈」が圧迫されて下肢帯に血流が供給されない、と書いていますね…

計算上ではありますが、どうやらコンタクトスポ―ツやウェイトリフティングなどの高負荷が掛かる腰部の安定は「腹圧」だけで維持しているのか?は疑問の様です。

 

続いて、後部靭帯系理論が注目されるようになりました。

これは背筋群と股関節伸展筋群の収縮が筋膜連結している胸腰筋膜や脊柱の関節包、靭帯を伸長する事でやはり脊柱に伸展モーメントを生み出し、脊柱安定化に寄与すると言ったものです。

この時期は「上体起こし」の逆である「上体反らし」が重要と言われるようになったと思います。

しかし、後部靭帯系にも疑問符が付けられます。

背筋群が強く収縮すると脊柱に「剪断力」が発生するために、逆に不安定になるのでは?と言われるようになった来ました。

 

そして、両方の欠点を補う理論として登場したのが「体幹深層筋制御理論」です。

これは基本的なコンセプトはpanjabiの「脊柱安定化システム」の考え方です。

3つのサブシステムが相互に働く事で脊柱を安定させると考えられていて、前回のコラムで書きました「コアスタビリティ」においても重要な要素と言われています。

 

受動系(パッシブ)サブシステム

脊椎、椎間板、靭帯、関節包などであり、運動への機械的な抵抗や張力の最終域を安定させる。

能動系(アクティブ)サブシステム

筋腱、筋膜などであり、安定性に加え、感覚入力や運動生成に大きな役割を果たす。

制御系(ニューラル)サブシステム

筋紡錘、ゴルジ腱器官、および脊髄の靭帯からのフィードバックに基づき、筋出力を絶え間なく監視および調整する複雑なタスクを担う、姿勢の調整や身体の外部荷重に基づいて、十分な安定性を保証しながら目的とした関節運動を可能にする。

 

これらの3つのサブシステムが相互に作用して、コアスタビリティを確保して安全で効率的な運動を実現している訳です。

 

《急性腰痛後リハビリには体幹深層筋の特異的安定化エクササイズが必須》

 

この脊柱安定化システムの要となるのは「インナーユニット」と呼ばれる、横隔膜、腹横筋、多裂筋、骨盤底筋群からなる体幹深層筋群です。

特に注目すべきなのは「フィードフォワード制御」という、四肢が動く前にインナーユニットが事前収縮して腰椎~骨盤の下部体幹の安定を保つ機能です。

 

これがコアスタビリティの肝でもあります、安全で効率的なモーターコントロールの肝でもあります。

で、この体幹深層筋制御理論が腰痛リハビリのスタンダードになった理由の一つは、腰部捻挫などの急性腰痛を罹患した患者の多くに、腹横筋、多裂筋といったインナーユニットに「活動遅延」「不活動」などが見られ、それが原因となり運動時の局所的なストレスを高めて「慢性腰痛」に移行している事が分かったからです。

よく「ギックリ腰」つまり、腰部捻挫を経験した人は繰り返すと言われていますが、経験的に言われていた事が一部理論的に説明出来るようになってきたわけです。

 

私がこの事を始めて知ったのは、確か所属しているトレーナー団体NSCAの機関紙に「血圧測定のカフ」を腰の下に敷いてリハビリしている写真を見た時です。(下の写真はペルビックアプローチからの引用です)

ご存じの方もいらっしゃると思いますが、当初はインナーユニットの特異的な収縮エクササイズ…つまり、腹横筋だけを収縮させるような腰痛リハビリエクササイズが流行ったのですが、腹横筋を使えているか?クライアントにフィードバックするために腰の下に血圧計のカフを敷いて、血圧計の数値がどれくらいなら収縮出来ていると言ったようなチェック方法を採用していたようです。

 

私は初めてその写真を見た時に「なんか科学的で格好良い!絶対習いたい」と思って、その勢いで日本コアコンディショニング協会に入会したのですが、セミナーに始めた出た時に講師の方に「カフを使ったエクササイズはいつ習えますか?」と聞くと既にカフを使う方法は廃止されていて、結局は習わず仕舞いだったのをよく覚えています。

 

少し脱線しましたが、体幹深層筋制御理論がスタンダードになったのは恐らくですがインナーユニット事前収縮の不活動、または収縮遅延からの慢性腰痛化への予防に効果的だったからだと思います。

 

「Hides らは、腰痛患者に対する多裂筋の特異的安定化運動療法の効果を評価するため、特異的安定化運動療法施行群と非施行群とで、腰部多裂筋の横断 面積、疼痛,機能障害、可動域を観察した。

その結果、施行群では機能障害と 多裂筋萎縮がともに改善したが、非施行群では疼痛は改善したものの萎縮には 回復が認められず、多裂筋萎縮に関しては特異的安定化運動療法の重要性が示 唆された」

非特異的腰痛の運動療法 荒木著 引用

 

上記の通りHidesらの研究によると腰痛患者の多裂筋の機能障害や委縮は自然治癒では改善しない様です。

どうやら、体幹深層筋群の特異的安定化エクササイズが今のところは必須になりそうです。

 

実際に当院でも繰り返すギックリ腰を持っているお客様は多裂筋の特異的安定化エクササイズで非常に良好な結果を示しています。

で、最初は特異的にインナーユニットを収縮させるのが中心だったのですが、ウエイトリフティング、コンタクトスポーツのような高強度のスポーツを行う人はそれでは不十分だと言う事が分かってきました。

 

そして、表層筋を収縮させ、それらの筋膜連結によるテーピング効果で関節を安定させる「姿勢制御アウターユニット」もインナーユニットと一緒に収縮させて、より強いスタビリティを発生させる今のスタビライゼーショントレーニングが登場しました。

 

それが「スタビライゼーショントレー二ング」であり、いわゆる体幹トレーニングになります。

たまぁ~に「体幹トレーニング(スタビライゼーション)は要らない」「体幹トレーニング(スタビライゼーション)をすると動きが固くなる」というトレーナーがいますが

 

それは当たり前と言うか、そもそも論で言ってしまうと腰痛リハビリから生まれている訳で、実施する目的が違いますので当然だと思います。

 

言ってしまえば、スタビライゼーショントレーニングを一般の健常者が実施してパフォーマンスが上がる理由は、体幹の「剛性」が増す事が主原因だと思われます。

 

コンタクトスポーツや高強度の体幹負荷が掛かるスポーツは当然の事に剛性が高い方が有利です。

それに体幹の剛性は近年では「瞬発力」と関連が高いと言われていますので、切り返し動作が多いスポーツなど効果的になります。

また、最近は一般的にデスクワークが主な仕事になりますので、体幹の筋力は弱りがちですから多くの人にスタビライゼーションは実施の恩恵があるでしょう。

 

実施も静止するだけですから簡単なので、流行る理由も分かります。

ブームになるとどうしても表面的なイメージが先行するので誤解も増えますよね。

 

本来の意味での体幹トレーニングはもっと広い意味であり、前回お話しました「コアスタビリティ」の概念がベースにあるものですから、動き作りも要素に入ります。

しかし、スタビライゼーションはそもそもが腰痛のリハビリとして誕生しています。

 

この辺の言葉の定義が曖昧なのが一つの問題だと思いますが、直感的に結論を出す前に少し深堀して、色々と文献を調べてみると新たな発見があって良いのではないか?とも思ってしまいます。

 

参考文献

 

 

 

コラム作成者プロフィール

奥川洋二

新宿 おくがわ整体院院長

 

トータルコンディショニング研究会代表

NSCA(全米ナショナルストレングス&コンディショニング協会)認定パーソナルトレーナー
日本関節コンディショニング協会関節マニュアルアプローチマスタートレーナー
日本コアコンディショニング協会 マスタートレーナー
など
 
 

 

書籍レビュー「暴力はどこから来たか?」

 

 

まず、最初になぜ?この書籍のレビューを書こうと思ったのか?を説明すると

 

近年は日本と隣国の関係がにわかに緊迫してきているのはご存じかと思う。

ネット右翼、通称ネトウヨなんて言葉もあるけど(若干私はネトウヨだけど)日本人の民族として存続の危機感を感じる人が増えてきて「ナショナリズム」傾向の人が増えてきている。

 

ナショナリズム、つまり愛国心がある事は結構だと思うが、時にそれは過激になると「レイシズム(人種主義)」になってしまう事がある。

 

ネットを見ると、中国や北朝鮮という言葉に過剰反応して、中国企業が日本に進出すると「侵略だ!」と脊髄反射的に過剰反応しているケースも多く見られる。(最近だと熊本TSMC問題が記憶に新しい、台湾半導体ファブ企業のTSMCの創業者が中国人だというだけで大騒ぎした)

 

また、イスラエルとパレスチナ問題などではニュースを見ればガザ地区の小さな子ども達が空爆に巻き込まれて悲惨な姿になっている映像が流れ、それを見て心優しい人などは自分の無力さからくる自責の念に苛まれ、時に心を病んでしまう人もいる。

 

そんな悲惨な状況を見て、中にはイスラエル軍に強い怒りを感じてしまう人も多いと思う。

 

冷たい言い方かも知れないが、僕はそのようなニュースに余り感情的になるべきじゃないと思っていて、冷静になる事こそが世界平和につながるのではないか?と思っている。

 

というのも、感情的になると問題の本質を見失ってしまうのでは?という気持ちがあるからだ…

 

更にレイシズムのような状態になると収拾がつかず、時にそのようなレイシズムは為政者に悪用され、世界平和と真逆の方向に世論を誘導されかねないとも思っている。

 

イスラエルとパレスチナの問題はレイシズムによる「報復に対する報復」の繰り返しである事は間違いない。

 

この憎しみと暴力の連鎖をどうやって人類は克服すべきなのか?皆さんはどう考えますか?

 

この「暴力はどこから来たか?」は、京都大学名誉教授の山極寿一氏の著書である。

山極教授の専門は霊長類学、人類学者であるので、正にこの書籍のテーマを説明する人物としてうってつけだと思う。

 

学者らしく、感情を排除して冷静な目で霊長類のコミュニティー、または人間の文化、歴史を観察している。

そして、その観察から「人間の暴力の起源はどこから来たのか?」という謎に迫っている。

 

例えばゴリラの「子殺し」について書いている項では、群れのボスが入れ替わった時に新しいボスゴリラは古いボスの子供をその母親ゴリラの目の前で殺してしまう事がよくあるのだと言う。

そして、恐ろしい事に母親ゴリラは全く子供を助ける事なく、時には容認するような素振りを見せる事もあるらしい。

 

その上に母親ゴリラは子供が殺された後に、目の前で子供を殺した新しい群れのボスゴリラと交尾をすると言う。

 

このような話を聞くと「なんて残酷なんだ!人間と違ってゴリラは野蛮な生き物だ!」と感情的に思ってしまいがちだが、これには理由があって、簡単に言うとゴリラの生存戦略だと言う。

 

母ゴリラは子供がいるとホルモンの関係で新しい子供を宿す事が出来ない為に殺すのだという。

 

詳しい説明を本文から引用すると…

「授乳が止まった事によってプロラクチンの抑制が解かれ、エストロゲン量が上昇して発情するようになったと考えられる」

 

つまり、子供がいると授乳の際にホルモン分泌されて発情出来ないので、強く若い新しい群れのリーダーの子供を産むためにやむを得ず子殺しをしているというのだ

人間ではちょっと考えれない事だ…

 

なんて残酷なんだ!ゴリラは自分勝手だ!酷い!と思う人もいるだろう。

 

しかし、人間を少し考えて欲しい。

 

人間は冒頭書いたように、自分達と民族が異なるというだけの理由で、宗教が異なるというだけの理由で、直接的な利害関係の無い、何の罪もない子供たちを殺しているではなかろうか?

 

また、人間の殺戮には制限がないのも特徴で、ゴリラの子殺しはより若く強い子孫を残すという現実的な目的があってされる事であり、最終目的は種の存続であり我儘と言えるだろうか?

 

対するイスラエルとパレスチナの問題は複雑ではあるが「宗教」「領土問題」「人種問題」が原因である。

 

そこには制限がない。

 

「一族郎党根絶やしにする」という言葉があるが、現在のパレスチナ情勢などを見ると分かりやすいが、さながら民族浄化のような状況になっている。

 

ガザの住民は繰り返される空爆と兵糧攻めで住み慣れたガザ地区から放出されようとしていて、残った住民の命も風前の灯である。

 

このままだとガザ地区の住民は根絶やしになる危険性も出てきている。

ここまでする必要があるのだろうか?なぜ?ここまでするのだろうか?

 

こんな事をしても新たな「憎しみ」を生み出し、憎しみのループは無限に繰り返してしまうので、全く合理的ではない。

 

こんな事をする生き物は人間だけだと言える。

人間とゴリラの殺戮はどちらが我がままなんだろうか?

 

山極氏はこのような人間だけが行う理不尽な殺戮には特徴があると言う。

それは全てが人間の「想像力」が作った「概念」が元で始まる殺戮だと言う。

 

例えば、分かりやすいのは「宗教」である。

本来は人間の幸せの為の宗教だが、時に大量虐殺のきっかけになるのも宗教である。

猿に宗教はあるか?と言えば絶対に無い。

神を語る人は多くいるが、実際に見た人はわずかである、宗教はリアルというよりは概念の産物といえる。(全てとは言ってない事に注意)

 

「土地」の概念も人間特有のものであると言う。

例えば、小鳥は止まっている枝が「これは私の枝だ」と主張して、他の鳥と喧嘩になる事があるだろうか?

しかし、人間は本来は誰の所有物でも無いはずの土地を巡って争いが起こる。

実際の地面には土地を示す線などは一切に見当たらない、土地や領土は人間の想像力が作った概念だ。

 

なぜ?土地の概念が出来たのか?山極氏は「家系図」と「農耕の発展」が関係すると言う。

 

実は「家系図」「土地」は農耕文明特有のものだと言う。

事実として、世界中の多くの狩猟民族には「家系図」に当たるものや「土地」に当たるものはないそうである。

 

理由はそもそも狩猟民族は特定の場所に定住しないからだと言う。

その時その時で捕れる獲物は生息する場所が変わってくるために絶えず移動するのが狩猟民族である。

 

また、家系図はそもそも「豊かな農作物が育つ土地」や「備蓄した食物」などを子孫に継承するために作られたもので、やはり人間の想像力の産物だと言う。

 

なので、家系図や土地と言う概念は豊かな土地に定住する農耕文明が想像した概念だと言うのだ。

 

そして、その概念は人間の最大の暴力である「戦争」と関係する。

世界中で大規模な戦争の痕跡が見つかるのは、おおよそ農耕が始まった1万年前以降からだと言う。

日本でも13000年前~3000年前の縄文時代の間

約10000年間は大きな戦争の痕跡は見当たらず、痕跡が見つかるのは農耕が始まった弥生時代以降からと言われている。

 

一般的なイメージとして「狩猟民族は野蛮」であり、狩猟の為に武器を作って、火を使う事を通して、人間の脳みそが大きくなっていったという俗説があるが

 

これは第二次世界大戦後に、戦争を経験する事で得た心の痛手を癒したい世間の雰囲気と、当時レイモンド・ダートが発掘した霊長類の化石に対する間違った報告が元で生まれた一種のプロパガンダの様なものだったそうだ。

 

それに当時のハリウッドが飛びついて「猿の惑星」やら「2001年宇宙の旅」などの暴力的な猿が武器を持ち「智恵」を身に付けたという物語が流行ったらしい。

この辺りの話はめちゃくちゃ面白いので、是非書籍を購入して確認して欲しい。

簡単に言うと私たちは過去のプロパガンダに今も洗脳されている状態だと言う事である。

 

少し脱線したが、このような人間の争いの元になる創造力が作った「概念」には、言ってみるとこれといった「実態」は無い。

 

「宗教」だと「神」を語る人は沢山いるが、実際に見たと言う人は限られる。

「土地」や「領土」の境界線は実際の地面に線が引かれている訳でも無い。

「家系」や「財産」は実際にあるではないか?と言うかもしれないが、動物には「家系」も「財産」も無いので、人間の頭が作った概念なんだろう。

 

特に家族とは異なる血筋が作る共同体概念で、山極氏によると「財産」を共同体間で「非互酬的」に共有するために作りだした概念だと言う。

 

簡単に言うと嫁の借金は旦那の借金であり、嫁の財産は旦那の財産でもある。

また、時には嫁の借金を旦那のお父さんが肩代わりする事もあるだろう。

そこには貸し借りの感覚はなく、非互酬的に財産は共有されている。

 

また、家族の優れた点は本来は不可分である「性」を共有する事が出来る事だと言う。

例えば、お嫁さんは結婚すると両家にとっての所有物となる。

 

こういう事を書くと私が「差別主義者」と思われかねないが、これは書籍に書いてある事だと念の為に注釈を入れておきます。

 

簡単に言うと異なる血筋のA家とB家の財産、また互いの不可分の財産である娘と息子を「夫婦」とする事で、A家とB家で財産を共有できるようにした仕組みが「家族」という概念だと言う。

 

人間はこの「家族」という仕組みを作る事で、猿の「群れ」より巨大で強力なコミュニティを作る事が出来るようになったという。

 

財産も「貨幣」などは分かりやすいが、明かに人間の想像力が作り出した「概念」だ。

現在の「不換紙幣」による「貨幣」は「信用創造」と言って、金、銀を担保にしていた「兌換紙幣」と全く異なり実態は無いに等しい。

 

どれも実際には存在しない、感情を排除して事実を観察すると人間が生み出した概念だと分かる。

そんなドライに生きて何が楽しいと言われそうだが、いくつかメリットがある。

逆に言うとこれらの概念には人間特有の非現実的な「暴力」に繋がるデメリットがある。

 

「宗教」「土地」「人種」「財産」これらは概念だからこそ、それから生まれる「怒り」「憎しみ」には限界が無い。

 

例え話をすると…殴られた時の物理的な痛みは「発痛物質」が無くなれば消えるが…

恋人を失った時の心の痛みは脳が作り出した「概念」である。

言い換えると「妄想」なので、それについて思考出来る限りは「痛み」は無限に膨れ上がってしまう可能性がある。

 

それと同じく「人種」「宗教」「領土」「財産」などで生まれた「怒り」「憎しみ」は概念なので、どこかで歯止めをかけないと場合によっては無限に膨らんでいく。

 

それが時には「一族郎党皆殺し」「子々孫々根絶やし」などの大量殺戮に繋がる事がある。

 

動物はリアルを生きているので「怒り」「憎しみ」があったとしても一瞬のことで、シマウマが自分の子供を殺したライオンを付け回して、あの子の恨みを晴らすとばかりに寝ている隙に殺したとか聞いた事あるだろうか?絶対に無い。

 

それはそもそも、人間以外の生き物には「長期記憶」が余り出来ない事や、文章の文節が作れない為に「文脈」での思考が出来ないからである。

 

想像というのは記憶力と言語力が無いと出来ない事だ。

特に人間の言語は「リカージョン(入れ子構文)」と言って、無限に文節を作る事が出来る為に理論上は無限に妄想をする事が出来る。

 

その妄想は社会に役立つ時は「想像力」と言われ褒めたたえられるが、間違った使い方をするなら暴力や大量虐殺の源にもなる。

 

この人間特有の「想像力」の危険性を説いている著名人は他にも結構いて、私が知る限り「利己的遺伝子」のリチャード・ドーキンス「サピエンス全史」のユヴァル・ノア・ハラリなどである。

 

 

 

多くの著名人が警鐘を鳴らすように、21世紀の私たちが「戦争」に終止符を打ちたいと真に願うなら、人間とは何か?と言う事や、人間特有の能力であり、人類をここまで発展させた「想像力」のデメリットについても真剣に考えていく事が重要ではないか??と個人的には考えている。

 

この「暴力はどこから来た」は、ここで述べた内容以外にも「食物の質と分布と群れの関係」「猿はどうやって?インセストタブー(近親間性交渉)を回避するか?」「母系と父系」など、人間でも起きうる同様の問題を考える上で参考になる話がたくさん載っているので、興味が沸いた方はおススメなので是非ご購入頂きたいと思う。

 

最後に…

 

実は私たち運動指導者はこの問題の事を真剣に考えないといけないと思っている。

なぜなら、私たちの運動指導の仕事内容に密接に関係している問題だと思っているからだ。

「なんで?」と思われる人も多いと思うが、それは書くと相当長くなると思うので別の機会に書こうと思う。

 

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