姿勢制御から考える体幹トレーニング|第4回・最終回
「インナー」か「アウター」か?
――体幹トレーニングはどこへ向かったのか
前回のコラムでは、非特異性腰痛のリハビリテーションの歴史をたどりました。
・腹腔内圧を高める。
・後部靱帯系を利用する。
・表層筋の共同収縮によって脊柱を安定させる。
・そして、脊柱を一本の柱として考えるのではなく、一つひとつの運動分節を制御するという考え方へ。
さらにPanjabiによって、脊柱の安定性は、
「受動的サブシステム」「能動的サブシステム」「神経制御サブシステム」
という3つのシステムの相互作用として捉えられるようになりました。

つまり、
脊柱の安定性は「筋力」の問題だけではない。
必要な筋肉を、必要な強さで、必要なタイミングに活動させられるかという「制御」の問題でもある。
ここまでが前回のお話でした。
では、実際に神経系はどのように体幹を制御しているのでしょうか?
その問いを追究していく中で、現在の体幹トレーニングに大きな影響を与える発見が生まれます。
腕を動かす「前」に、体幹はすでに動いていた
立った状態から、素早く腕を動かしてみてください。
腕という質量が動けば、当然、身体には姿勢を乱す力が加わります。
もし私たちの身体が、
という順番でしか対応できなければ、素早い運動を行うたびに身体は大きく揺れてしまいます。
しかし、実際にはそうなりません。
身体はこれから起こる運動を予測し、四肢が動き出す前から体幹筋を活動させています。
これが第2回でも紹介した、予測的姿勢調節(Anticipatory Postural Adjustments:APA)です。

そしてHodgesとRichardsonは、この仕組みを腰痛者と健常者で比較しました。
すると非常に興味深い違いが見つかりました。
腰痛者では腹横筋の活動が「遅れていた」
Hodgesらは、上肢や下肢を素早く動かした際の体幹筋活動を調べました。
健常者では、腹横筋は四肢の運動に先行して活動します。
ところが腰痛者では、腹横筋の活動開始が遅延していたのです[1]。(PubMed)
ここで体幹トレーニングの考え方が大きく変わります。
問題は、「腹横筋が弱いかどうか」だけではなかったのです。
たとえ十分な力を出せる筋肉があったとしても、その筋肉が必要なタイミングで働かなければ、運動に先立って脊柱を準備することができません。
つまり、Strengthの問題から、TimingとControlの問題へ。
体幹深層筋が注目された大きな理由の一つがここにあります。
痛みが消えても、多裂筋は元に戻っていなかった
さらに興味深い研究があります。
Hidesらは、初回の急性腰痛患者にみられる多裂筋の変化を調べました。
すると、腰痛症状そのものが改善し、日常生活へ復帰しても、低下した多裂筋の筋断面積は必ずしも自然に回復しませんでした。
一方、局所的な多裂筋を対象とした特異的運動療法を行った群では、より速く、より完全な回復がみられました[2]。(PubMed)
さらに同じ対象者を追跡すると、特異的運動療法を行った群では腰痛再発率が低かったことも報告されています[3]。(PubMed)
これは臨床的に非常に重要な意味を持ちます。
「痛みがなくなった=体幹機能が元通りになった」とは限らない。
そして、通常の活動に戻れば、深層筋の機能も勝手に戻るとは限らない。
だからこそ、
・腹横筋や多裂筋を意識的に収縮させる。
・低負荷で正確な収縮を学習する。
・そして徐々に四肢運動や日常動作へ統合していく。
いわゆるドローインを含めた深層筋の特異的な運動療法には、それが生まれた明確な理由があったのです。
では「ドローインをすれば腰痛は治る」のか?
ここで話を単純化してはいけません。
「腰痛者では深層筋に機能変化がある」
だから、
「すべての腰痛者にドローインをすればよい」とはなりません。
現在までの研究をまとめると、モーターコントロールエクササイズは慢性非特異性腰痛に対して、何もしない、あるいは最小限の介入と比較すれば疼痛や機能を改善します。
しかし、他の運動療法と比較して明確に優れているとはいえません[4]。 (コクラン)
ここは非常に重要です。
深層筋制御理論が間違っていたわけではありません。腹横筋や多裂筋の機能を個別に評価し、必要に応じて再教育するという考え方には、現在でも十分な意味があります。
しかし、「脊柱を安定させている主役はインナーマッスルである」とまで単純化してしまうと、今度は別の問題が出てきます。
なぜなら、人間は日常生活で常に小さな外力だけを受けているわけではないからです。
外力が大きくなれば、深層筋だけでは足りない
・重い物を持つ。
・相手と接触する。
・全力で走る。
・ジャンプから着地する。
こうした大きな外力が加わる場面では、局所的な深層筋だけで脊柱全体を安定させることはできません。
そこで重要になるのが、腹直筋、腹斜筋群、脊柱起立筋などを含めた多くの体幹筋による協調的な活動です。
この点を力学的に追究してきた代表的な研究者がStuart McGillです。
McGillらが示した重要なポイントは、
脊柱の安定性は特定の一つの筋肉によって作られるのではなく、多数の筋による高度に協調された活動によって作られるということです。
しかも、その筋活動パターンは固定されたものではなく、課題によって絶えず変化する必要があるとしています[5]。(PubMed)
これは非常に重要な指摘です。
脊柱は、筋肉がなければ「座屈」する
McGillらが脊柱安定性を説明する際に用いてきた考え方の一つが、工学における座屈(buckling)です。
細長い柱に上から圧縮力を加えていくと、ある限界を超えたところで、柱は真っすぐ潰れるのではなく横方向へ折れ曲がります。これが座屈です。
脊柱も、多数の椎骨が積み重なった構造です。そこへ大きな圧縮力や剪断力が加わる以上、筋による十分な剛性――stiffnessがなければ、力学的安定性を維持できません。
CholewickiとMcGillは、生体内の腰椎について、さまざまな動的課題における機械的安定性をモデル化しました[6]。(PubMed)
そしてMcGillが目指したのは、ただ強く固めることではありません。
必要十分な安定性を確保しながら、脊柱に過剰な負荷を与えないことでした[7]。(PubMed)
ここから、カールアップ、サイドブリッジ、バードドッグなど、いわゆるMcGill Big 3につながる考え方が発展していきます。

では「インナーよりアウターが重要」なのか?
ここでまた二者択一にしてしまうと、歴史を逆戻りすることになります。
深層筋だけでは、大きな外力に対応できない。
だから、「インナーマッスルは必要ない。最初から全部固めればいい」ということにはなりません。
逆も同じで、「腹横筋さえ働けば、どんな運動でも脊柱は安定する」わけでもありません。
深層筋研究が教えてくれたのは、分節単位の制御と、活動するタイミングの重要性。
McGillらの研究が教えてくれたのは、脊柱全体として必要な剛性を、多数の筋の協調によって作る重要性。
見ているものが違うのです。
そして、ここからもう一つ別の視点が加わります。
「固める」だけではなく、「力を伝える」
Vleemingらは、胸腰筋膜を介した筋の連結と、脊柱・骨盤・下肢間での荷重伝達に注目しました。
胸腰筋膜には、広背筋、大臀筋、脊柱起立筋などの作用によって張力が伝わります。

Vleemingらは解剖学的・生体力学的研究から、こうした筋が胸腰筋膜を介して機能的に結びつき、脊柱から骨盤、そして下肢への荷重伝達に関与する可能性を示しました[8]。(PubMed)
ここでは、体幹の役割がさらに広がります。
脊柱を「動かないように固める」だけではない。 上半身と下半身の間で力を伝えながら、同時に安定させる。
たとえば歩行では、右脚と左腕が連動します。骨盤と胸郭は互いに相対運動を起こし、その間で体幹筋群や筋膜系を介して力が伝達されます。
つまり、安定性と運動は、本来対立するものではありません。
動きながら安定する。
そして安定しながら、力を次の身体部位へ伝える。
ここまで来ると、体幹トレーニングを単純に「腹横筋を鍛える」「腹部全体を固める」だけでは説明できないことが分かります。
「安定すること」は「固まり続けること」ではない
ここで、体幹から少し離れて「運動学習」という視点から考えてみましょう。
人間の身体には非常に多くの関節があり、それぞれがさまざまな方向へ動きます。この膨大な自由度を、初心者が最初から自由自在に制御するのは非常に難しい。
Bernsteinは、運動を学習する初期段階では、利用する自由度を一時的に制限し、身体の制御を単純化するという考え方を示しました。

いわゆる、「自由度の凍結(freezing)」です。
そして運動に習熟するにつれて、それまで制限していた自由度を徐々に解放し、より柔軟な協調運動が可能になる。freezingからfreeingへ。
ただし、現在のシステマティックレビューでは、すべての運動学習が必ずこの順序をたどるとはいえず、課題の種類や目的などによって自由度の制御戦略は変化するとされています[9]。(PubMed)
それでも、この考え方は体幹トレーニングを考えるうえで非常に示唆的です。
最初は「全体」で安定し、やがて必要な部分だけを使えるようになる
たとえば、自転車に乗る練習を始めたばかりの人を想像してください。
・最初はハンドルを強く握る。
・肩に力が入る。
・体幹も固まる。
身体全体を一つの塊のようにして、何とか転ばないようにします。
ところが、自転車に慣れた人は違います。骨盤周囲では細かな重心移動を行いながら、脊柱や上肢には余計な緊張がありません。必要なところを安定させながら、必要な自由度を利用しています。
これは乳児の発達やリハビリテーションを観察していても、非常に興味深いテーマです。
ただし、ここは慎重に考える必要があります。特に脳卒中後の運動再学習について、Bernsteinのfreezing→freeingと同じ過程が生じるかを調べた近年のレビューでは、研究自体がまだ少なく、現時点では確認も否定もできないとされています[10]。(MDPI)
したがって、「人間は必ず全身を固めてから分節運動を獲得する」とまでは言えません。
しかし、運動学習の過程で一時的に自由度を制限して安定性を獲得し、その後課題に応じて自由度を解放していくという現象がみられることは、非常に興味深い事実です。
体幹トレーニングのゴールは「固めること」なのか?
ここまで来ると、少し違った景色が見えてきます。
・深層筋を働かせる。
・体幹筋を共同収縮させる。
・脊柱のstiffnessを高める。
・筋膜を介して上下肢へ力を伝える。
これらは互いに対立するものではありません。課題によって必要な戦略が違うだけです。
低負荷の運動であれば、必要最小限の筋活動によって分節を制御できればよい。大きな外力が加わるなら、多数の筋を動員して脊柱全体のstiffnessを高める必要がある。そして歩行やスポーツ動作では、安定性を維持しながら胸郭・骨盤・上下肢の間で効率よく力を伝達する必要があります。
つまり、
体幹機能とは「固いか、柔らかいか」ではない。
必要な安定性を、必要な場所に、必要な強さで、必要なタイミングに作り、それを課題に応じて変化させられること。なのではないでしょうか。
ここで、姿勢制御の話に戻ります
この連載の第1回では、Horakらの姿勢制御モデルを紹介しました。
姿勢制御には、バイオメカニクス的制約、運動戦略、感覚戦略、空間定位、動的制御、認知処理など、複数の要因が関係します。

したがって、「姿勢制御で一番重要なのは体幹である」という話ではありません。
しかし体幹は、運動に先立って姿勢を準備するAPAに関わる重要な要素の一つです。もし動作前の準備が十分でなければ、動作後により大きな姿勢調節を必要とする場面も出てくるでしょう。
つまり、本来なら小さな調整で済んだものを、姿勢が変化してから代償的姿勢調節(CPA)によって補わなければならない可能性があります。
だから体幹機能は、「良い姿勢を保つため」だけに重要なのではありません。
その後に続く運動を、より自由にするためにも重要なのです。
そして「3つのカウンター」へ戻る
第2回ではKlein-Vogelbachの、
カウンターアクティビティ(CA)/ カウンターウェイト(CW)/ カウンタームーブメント(CM)
という3つの考え方を紹介しました。

身体は一つの方法だけでバランスを取っているわけではありません。
・筋活動によって安定させることもあれば、身体各部の質量配置を利用することもある。
・必要なら反対方向への運動を利用することもある。
重要なのは、「どの戦略が正しいか」ではなく、課題に応じて選択できること。
体幹機能を適切に獲得することは、特定のカウンター戦略に依存するためではなく、むしろ利用できる姿勢制御戦略の幅を確保するための一つの条件と考えることができます。
ここまで考えると、「ドローインか、ブレーシングか?」「インナーか、アウターか?」という議論そのものが、少し違って見えてきます。
現在の体幹トレーニングは「融合型」で考える
・Panjabiは、脊柱安定性を構造・筋・神経制御の相互作用として捉えました。
・HodgesやRichardsonらは、深層筋の分節制御とタイミングの重要性を示しました。
・McGillらは、多数の体幹筋による協調的なstiffnessの重要性を示しました。
・Vleemingらの研究からは、筋と筋膜を介して身体各部の間で荷重を伝達するという視点が見えてきます。
どれか一つを選ぶ必要はありません。むしろ現在の体幹トレーニングは、これらを課題や対象者に応じて使い分け、統合していくものと考えた方が自然でしょう。
深層筋の制御が十分でない人なら、まずそこから再学習する必要があるかもしれない。
大きな外力へ対応する競技者なら、より高いstiffnessを作る能力が必要になる。
そして最終的には、その安定性を保ったまま、脊柱、骨盤、胸郭、四肢を自由に使い、力を伝達できなければなりません。
だから――
安定性とは、動かない能力ではありません。
必要なところを安定させることで、それ以外の自由度を解放できる能力です。
「動きを良くしたい」なら、やはり動きだけを見てはいけない
4回にわたって、姿勢制御から体幹トレーニングの歴史をたどってきました。
腹圧、深層筋、ドローイン、ブレーシング、表層筋、筋膜による荷重伝達……どれか一つが「正解」で、それ以前の考え方がすべて「間違い」だったわけではありません。
研究の歴史とは、「脊柱をどう安定させながら、人間を自由に動かすのか?」という問いに対して、少しずつ解像度を上げてきた歴史なのだと思います。
だから体幹トレーニングの目的も、「腹横筋を鍛えること」でも、「腹部を強く固めること」でもありません。
必要な筋を。
必要な強さで。
必要なタイミングに。
そして必要な身体部位へ力を伝えながら、課題に応じて安定性と自由度のバランスを変化させる。
動くために、安定できること。
そして――
「動きを良くしたい」なら、やはり動きだけを見てはいけない。
これが、この4回のコラムを通して最もお伝えしたかったことです。
そして、この連載で本当に伝えたかったこと
ここまで4回にわたり、姿勢制御、脊柱安定化、深層筋、モーターコントロール、そして体幹トレーニングの歴史をたどってきました。
しかし、私が本当に伝えたかったのは、
「どの体幹トレーニングが正しいのか?」
という話ではありません。
ドローインなのか、ブレーシングなのか、McGillなのか、モーターコントロールなのか。方法だけを追いかけていると、新しい理論やメソッドが登場するたびに、私たちはまた「正解」を探さなければならなくなります。
でも、歴史をたどってみると分かります。現在「正しい」とされている方法も突然生まれたものではなく、先人たちが
「人間の身体は、どうやって安定し、どうやって動いているのか?」
という問いに向き合い、一つひとつ積み重ねてきた結果です。
だからこそ本当に身につけたいのは、メソッドそのものではなく、そのメソッドが生まれた理由を理解し、目の前のクライアントに必要かどうかを自分で判断できる力ではないでしょうか。
流行しているから使うのではない。有名な先生が言っているから使うのでもない。
「なぜ、この人にはこれが必要なのか?」を説明できる。
私は、それが専門家としての大きな価値になると考えています。
9月27日のセミナーでは、この4回のコラムで触れてきた内容をさらに掘り下げながら、脊柱安定化理論からモーターコントロールまで、体幹トレーニングを「方法」ではなく「原理原則」から体系的に整理します。
もし今回の連載を読んで、
「体幹トレーニングを、もう一度ちゃんと学び直したい」
そう感じていただけたなら、下の画像をクリックしてセミナーの詳細をご覧ください。
参考文献
[1] Hodges PW, Richardson CA. Inefficient muscular stabilization of the lumbar spine associated with low back pain: a motor control evaluation of transversus abdominis. Spine. 1996;21(22):2640-2650. (PubMed)
[2] Hides JA, Richardson CA, Jull GA. Multifidus muscle recovery is not automatic after resolution of acute, first-episode low back pain. Spine. 1996;21(23):2763-2769. (PubMed)
[3] Hides JA, Jull GA, Richardson CA. Long-term effects of specific stabilizing exercises for first-episode low back pain. Spine. 2001;26(11):E243-E248. (PubMed)
[4] Saragiotto BT, Maher CG, Yamato TP, et al. Motor control exercise for chronic non-specific low-back pain. Cochrane Database Syst Rev. 2016;1:CD012004. (コクラン)
[5] McGill SM, Grenier S, Kavcic N, Cholewicki J. Coordination of muscle activity to assure stability of the lumbar spine. J Electromyogr Kinesiol. 2003;13(4):353-359. (PubMed)
[6] Cholewicki J, McGill SM. Mechanical stability of the in vivo lumbar spine: implications for injury and chronic low back pain. Clin Biomech. 1996;11(1):1-15. (PubMed)
[7] McGill SM. Low back stability: from formal description to issues for performance and rehabilitation. Exerc Sport Sci Rev. 2001;29(1):26-31. (PubMed)
[8] Vleeming A, Pool-Goudzwaard AL, Stoeckart R, van Wingerden JP, Snijders CJ. The posterior layer of the thoracolumbar fascia: its function in load transfer from spine to legs. Spine. 1995;20(7):753-758. (PubMed)
[9] Guimarães AN, Ugrinowitsch H, Dascal JB, Porto AB, Okazaki VHA. Freezing Degrees of Freedom During Motor Learning: A Systematic Review. Motor Control. 2020;24(3):457-471. (PubMed)
[10] Do Bernstein’s Stages of Learning Apply after Stroke? A Scoping Review on the Development of Whole-Body Coordination after Cerebrovascular Accidents. Brain Sci. 2023;13(12):1713. (MDPI)
「脳卒中の動作分析」金子著 医学書院
「身体運動学」石橋著 メディカルヴュー
「非特異性腰痛の運動療法」荒木著 医学書院


