HERO(29)


地区予選1回戦、淀川球場に夏の甲子園を目指し球児が集った。



祐輔の星城高校はここ2,3年は2回戦どまりで、今年は3回戦以上を


目標にしていた。



天気にも恵まれ、祐輔の家族や友達が応援席にいた。



相手チームは大海高校で互角の試合が予想された。



―ウーーーン―



始まりのサイレンが鳴り響き、1回の表、大海高校の攻撃から始まった。



―サクッ、   シュルシュルシュルシュル スパーン―



「ストライーク」



城星高校のピッチャーは3年生で、立ち上がりがまずまずのピッチングを




見せた。


祐輔はレフトでその様子を見守っている。



(よーし、始まったぞ 落ち着いていこう)



と自分に言い聞かせている。



しかし、始まる前、健太からこんなメールが来た。




「―この試合をあの娘が見に来ているかも知れないぞ―」



それは、祐輔がもうすっかり忘れかけていた淀川河川敷で会った




女子高生の事であった。




自分は彼女の事は知らないが、彼女は祐輔が星城高校の生徒だと知っている。




そんな思いが、また恋心に火をつけた。


―カキーン―  




いい当たりがショートに飛んで、そのボールをファーストに投げる    




―パシーン―



「アウト」




そんな事を考えている最中も試合は進み、スリーアウトチェンジを迎えた。




ベンチへ帰る途中、観客席を見渡した。



彼女らしき姿は何処に見当たらない。



(そんな事より、試合に集中だ)



ベンチに座って、そう思った。



1回裏、星城高校の攻撃。




バットをブンブンと振り回して、打席に向かう2年生先輩をベンチから




声援する。



藤代監督からサインが出る。



バッターボックスに入って、ピッチャーに向かって鋭い目をして構えた。

  HERO(28)


「よし、明日から待ちに待った地区予選が始まるぞ」


ベットの中で、祐輔は明日に迎えた夏の高校野球地区予選に向けて、胸を躍ら


せた。



明日に備えて、野球道具もピカピカに磨いて、高校生の晴れ舞台に準備した。


そんな事を考えてウツラウツラと眠りに入った。


―シュルシュルシュルシュルシュル  カキーン―


「打ちました、打ちました。星城高校8番、織原祐輔がレフトセンター間を真



っ二つに割りました」



「はぁ、はぁ、はぁ」


1塁を回って、2塁に向かう祐輔。



3塁コーチが手を回すのを見て、2塁ベースを蹴って一気に3塁へと走った。



センターからボールをショートに返球して、3塁に投げた。



―ザザザーン   パシッ―



「セーフ」  



3塁審判が両手を水平に広げている。



「わぁー」



観客からの声援が鳴り響き、祐輔はガッツポーズの拳を高く突き上げる。




ベンチもヤンヤヤンヤの大騒ぎ。




星城高校のリードと1回戦を優位に戦っている。



その時、ベース上で肩をポンポンと叩かれ、



「祐輔、祐輔、起きなさい・・・・起きなさい」




目に入る光の強さに祐輔は母の顔がそこにあった。




「あれ、今のは夢だったのか、なんだ」



ベットの中で、パジャマ姿のまま自分の打った事が夢だと分かり




がっかりした。



「何、寝ぼけているの 今日は大事な地区予選なのよ」



布団をめくりながら起こしに来た母は息子が出場する試合を楽しみに



している。



お天気は快晴の絶好の野球日和となった。



会場は試合前の練習に両チーム共緊張していた。



祐輔の星城高校は後攻で3塁ベンチに陣取った。




藤代顧問(監督)も選手を全員集めて、最後のミーティングを始めた。



「いいか、お前らの相手はまず、自分との戦いだ、序盤は緊張の中で自分



らしさを発揮する事を心がけろ!決して浮き足立つな」



祐輔もこの言葉に自分に言い聞かせるように心の中で



(落ち着くんだ、いつもと同じように力を出せば必ず勝つ)



観客席には、健太や家族が応援してくれている。


そんな光景に祐輔は、ポケットのお守りを握りしめて、いざ出陣の狼煙



を自分の心に打ち上げていた。

HERO(27)


地区予選までの間、祐輔はバッティングに力を注いだ。


―カキーン―



今日も祐輔は、バッティング練習をやっている。


ピッチャーは2年生の先輩に投げてもらっていた。




「織原、もっと下半身を使って、手だけで打つな」



投げている先輩がアドバイスする。


「わかりました」


(そうか、下半身の捻りで遠くへ飛ばすんだな、難しいな)


祐輔は考えながら11球、打つのであった。



それでも、速球にはなんとか対応できるまでになっていた。



あとは、変化球をどうやって芯に当てて飛ばすかだ。


―カキーン―


しばらく祐輔のバッティング練習が続いた。



空は日が長くなり、暑さもジワジワと球児達をいたぶり始めた。



「よーし、ラストだ」



「はい」



最後のボールに気合を込めて振った。



―カキーン―



センター方向へライナーで飛んでいった。



「ありがとうございました」



先輩に一礼をして、バッティング練習を終えた。



「おい、織原」



そう呼ばれて振り向くと、藤代顧問が自分を呼んでいた。



すぐさま傍に行くと



「カウントと相手のピッチャーとの心理面を考えてバットを振るんだ」



「はい」


「いいか、何でもかんでも振りにいくな、相手も釣り球や決め球を使い分けて



くるからな、そこのところをもう少し頭に入れて打席に立つんだ」



藤代顧問はそう言って、祐輔にアドバイスした。



祐輔はそういう駆け引きも大事と教わった。



試合になるとみんな緊張して、その事など忘れがちになることが多い。



日頃から心がけて練習するようにと付け足される。



それから、祐輔は技術面と頭脳面からの両方で練習するようになった。



次第に力みがなくなり、状況に応じてバッティングも変えるように



なっていた。



予選も数日前になって、練習も中身の濃いものになっていた。