HERO(26)

ノーアウト1,2塁のチャンスに、9番のピッチャーが送りバントで

 

ワンアウト2,3塁になった。



打順は1番に戻って、足が速い選手になる。



また、バントかと、守備陣は前進守備の陣形になりつつも長打を警戒する。



―カキーン―




ライト前ヒットで2者生還して、30になった。



その後は、両軍追加点が入らず30で白組の勝利に終わった。



祐輔はこれからの課題はバッティングを強化して、バント以外でも




攻撃に貢献できるようになりたいとつくづく思った。



藤代顧問がみんなを集めて今日の試合結果について話す。



「いいか、考える野球を心がけろ、その場その場の状況判断が勝負を



左右する。ピンチになった時こそ、ピッチャーに声を掛けて力になって



乗り切るように・・・・」



あと、個々の良い所と注意すべき点をまとめて話してこの日は終わった。



祐輔も家に帰って、みんなに話す。



「俺には、バッティングがみんなから遅れているように思えるんだ」




「そうだな、高校のピッチャーは中学生とは別格だからな」




父の言葉に



「そうね、バッティングセンターでも行って練習することもいいかもね」




母は気軽にそう言った。



「そうか、バッティングセンターがあるか?」



祐輔はうなづく。




「バッティングセンターで速いボールの練習して力をつけなさい」



母の言葉には可能性を見出す力強さが込められていた。



そばに居た美香が



「でも、お兄ちゃんの良い所を見込んで監督さんが選んだんじゃない」



「お、そうだな」



「それに磨きをかける事も大事になってくるわね」



そう付け加えた。







「今まで以上に祐輔の長所を伸ばし、短所も克服する事だな」



父からのアドバイスに勇気がわいた。





「みんな、ありがとう。 あせらずに着実に進歩していくよ」




祐輔はそう言って、家族みんなに感謝した。



それから毎日、近くのバッティングセンターに行って練習する。



もう、日も長くなって、夏が本番になろうとした7月の初旬の事だった。

            

              HERO(25)



レフトからのボールは、ランナーとの競争になった。



―シュルシュルシュルシュル   バシッ ザザーン―



「アウトー!」



滑り込んだランナーにキャッチャーが足でブロックしてタッチした。



ランナーは悔しがって、握った土を叩きつけた。



レフトを守る祐輔は、スーと胸を撫で下ろした気分になった。




自分の肩を見せ付けた思いに、ナインも祐輔を褒めた。


藤代顧問も祐輔の肩に目を見張るものを感じた。


後続もアウトになって、依然10のまま6回の裏の攻撃。


白組7番からの打順にネクスト・バッターズ・サークルにバットを振って


準備する祐輔。


ここらで追加点を入れておきたい白組だった。


―カキーン―


いい当たりのセンター前ヒットが出た。


祐輔の前にランナーが出て、祐輔もこの時を狙っていた。



ここで、相手チームは、祐輔がバントしてくるものと予想して前進守備の


陣形を取る。


それを待っていた様に祐輔は、強振して粘る。


カウントが2ストライク、2ボールになった途端に元の守備位置に


守り直した。


基本2ストライクからのバントはしないのが常識で、成功する


確率が低いからだ。


ここで、祐輔は一か八かの賭けに出た。


ピッチャーはランナーを気にして、牽制球を投げるあまり


バッターへの気持ちが薄らいでいた。


軽くセットポジションに構えて、素早く投げたその時



祐輔はバットを胸の前で構えてブラックバント(普通に構えて急遽バント

に転じる事)を仕掛けた。



―シュルシュルシュルシュルシュル    コン  コロコロ―



まさかここでバントを仕掛けるとは思わない守備陣は焦った。


うまく3塁前に転がしたボールも、打球の勢いも死んで絶好のバント




となった。


当たった瞬間に1塁へ走り始めていた祐輔は必死だった。


3塁手はやっと、ボールを素手で掴んで1塁へ送球した。



―ダッダッダッダッダッダッダッ   バンッ  パシッ―



「セーフ!」



祐輔の足が勝った。


1塁ランナーも悠々2塁へ到達する。


藤代顧問が祐輔のバントを見て、ニヤリとした。


これで、ノーアウト1塁、2塁になって、追加点が期待される。


それを見て今度は白組のベンチが賑やかになった。


               

       HERO(24)


ようやく打球に追いついたライトは、中継に入ったセカンドに

  


ボールを返球した。



透かさず、セカンドが3塁へ矢のような送球。



―ザザーン―



サードがキャッチングした時には、ランナーは滑り込んで3塁ベースに


到達していた。



「ナイスバッティング!」



紅組ベンチからヤンヤ、ヤンヤの大騒ぎ。



今まで大人しかった選手も、この時とばかりにはしゃぎ回った。



これで、試合の流れは一気に紅組に傾き出した。



藤代顧問もこの様子に満足といった表情に変わる。



声援が静まり、バッターには4番が2,3回大きく振り回して、



右バッターボックス入って構える。



ここは、最低でも3塁ランナーをタッチアップ(打球が捕球された場合、


進塁に備えていったん塁に戻ること)で返さないといけない場面。


それは、バッターにも充分分かっていた。


祐輔もそれに備えて、少し前に守備位置を変える。


(ゴロでも、フライでもランナーを刺す(アウトにする)には、


この位置しかない)


ピッチャーは肩越し(左ピッチャーの場合)にランナーを見て


牽制球を投げて間を置いた。


レフトの祐輔はじっとバッターを見据えていた。




牽制球がピッチャーに返り、セットポジション(ランナーがいるときにバッタ



ーに対し、横向きで投げる構え)でキャッチャーとサインを決める。





サインが決まり、胸の前でボールを持ってランナーを見ながら投げる。


―ザクッ      シュルシュルシュルシュル   カキーン―

「おお!」


誰もがいい当たりに声をあげる。



打球は案の定、祐輔の守るレフトに飛んだ。


(やっぱり、ここに守っていたのは正解だったぞ)


一旦下がって、前に前進しながら捕球する。

ランナーは、それを見てホームに向かってタッチアップした。



前進する反動で、身体全体を使ってバックホームした。