ミッシング | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

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ジャンルや新旧問わずに週末に映画館に通っています。映画の感想から、映画がらみで小説やコミックなんかのことも書ければ。個人の備忘録的なブログです。


ミッシング


2024年作品/日本/119分

監督 吉田恵輔

出演 石原さとみ、青木崇高、中村倫也


2024年5月19日(日)、新宿ピカデリーのシアター2で、8時45分の回を観賞しました。


とある街で起きた幼女の失踪事件。あらゆる手を尽くすも、見つからないまま3ヶ月が過ぎていた。娘・美羽の帰りを待ち続けるも少しずつ世間の関心が薄れていくことに焦る母・沙織里は、夫・豊との温度差から、夫婦喧嘩が絶えない。唯一取材を続けてくれる地元テレビ局の記者・砂田を頼る日々だった。そんな中、娘の失踪時に沙織里が推しのアイドルのライブに足を運んでいたことが知られると、ネット上で“育児放棄の母”と誹謗中傷の標的となってしまう。世の中に溢れる欺瞞や好奇の目に晒され続けたことで沙織里の言動は次第に過剰になり、いつしかメディアが求める“悲劇の母”を演じてしまうほど、心を失くしていく(以上、公式サイトからの抜粋)、という物語です。


吉田監督作品は追いかけて観ており、2021年に「BLUEブルー」と「空白」が公開され、この年を代表する監督であったのが記憶に新しいです。ほぼ全ての脚本をご自身で書かれているのと、キャスティングが上手いという印象です。一方で、人物描写が誇張気味で、単調になるきらいがあるという印象です。



《感想です》


  • 犯行や犯人を描かずドラマを前へ前へと走らせる脚本が見事
  • 母親は感情的でドラマチックではあるが、リアリティは他に
  • 家族を追いつめるSNSによる誹謗中傷への怒りが大きく


幼い娘が行方不明《ミッシング》になった経緯を全く描かず、いきなりその何年後かの両親の捜索活動からドラマをスタートさせ、そのまま最後まで走り切る脚本が素晴らしいです。凡百な作品なら過去に話を持っていこうとするところ、前へ前へとブレーキの効かなくなった暴走機関車のように走らせていく。


その中心が母親で、物語を引っ張っていくのですが、実は大切なことはこの母親の内ではなく、外で起きているという点が面白いところなんじゃないかと思いました。この母親の行動や感情はエモーショナルでドラマチックではありますが、真のリアリティはむしろ彼女の関係者に色濃く出ている気がします。


それが、夫であり、弟であり、テレビ局の記者なのですね。母親とこれらの関係者との温度差こそがドラマに奥行きを与え、見応えのあるものにしているのかと。なので私の心を揺さぶってきたのは、夫が泣き崩れる姿であり、弟が悩み苦しむ姿であり、記者が怒りをぶつけようとしてできず葛藤する姿でした。


娘のための母親のなりふり構わない言動にいたたまれなくなり、今はいない娘が残したものを愛おしく感じている姿を見るのは辛かったです。しかし、そこは警察のやり方、悪質なSNSによる誹謗中傷、心無いいたずら電話、他人事のようなひと言と、彼女を追い詰めるものへの怒りのほうが私は大きくなりました。


娘の失踪事件に寄った展開にすると犯人側の人物像や娘の様子、また警察の動きをそれなりに追わねばならず、かなり散漫なドラマになったに違いありません。さらに、激昂する母親のパートは下手をすると単調に陥るところ、コントラストをつけるように関係者を配置、そちらを深掘りしていくのが成功したかと。


何も解決しない話のなかに、心の整理をようやく少しつけられたような感じがしました。ただ、実際はずっと自責の念を抱え、深い悲しみやもやもやを背負い続けなければならないという、苦しいドラマでした。





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ミッシング、の詳細はこちら: 公式サイト


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