夜明けのすべて | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

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ジャンルや新旧問わずに週末に映画館に通っています。映画の感想から、映画がらみで小説やコミックなんかのことも書ければ。個人の備忘録的なブログです。


夜明けのすべて


2024年作品/日本/119分

監督 三宅唱

出演 上白石萌音、松村北斗


2024年2月17日(土)、TOHOシネマズ渋谷のスクリーン5で、9時45分の回を観賞しました。


月に一度、PMS(月経前症候群)でイライラが抑えられなくなる藤沢さんはある日、同僚・山添くんのとある小さな行動がきっかけで怒りを爆発させてしまう。だが、転職してきたばかりだというのに、やる気が無さそうに見えていた山添くんもまたパニック障害を抱えていて、様々なことをあきらめ、生きがいも気力も失っていたのだった。職場の人たちの理解に支えられながら、友達でも恋人でもないけれど、どこか同志のような特別な気持ちが芽生えていく二人。いつしか、自分の症状は改善されなくても、相手を助けることはできるのではないかと思うようになる(以上、公式サイトからの抜粋)、という物語です。


3月8日は〝世界女性デー(International Women’s Day)〟。この日はジェンダー平等を含めた女性を取り巻く問題への啓蒙活動が世界で行われるのですが、PMS(月経前症候群、Premenstrual Syndrome)への理解浸透もテーマの一つ。最近では多くの企業がこの日に向けて社内啓蒙イベントをされ、PMSも社会的に認知されるようになってきているようです。


以下、ネタバレがありますのでご覧になってからお読みいただけると嬉しいです。


死にたくなるほどの生きづらさを抱えた二人の戦友の物語


PMSについての話から入ってしまったのですが、本作ではPMSを抱えた女性と、パニック障がいを抱えた男性の心の交流が描かれています。つまり、一般的には認知されておらず、理解されていない問題を抱えたことで、死にたいほどの生きづらさを感じている二人の物語なんですね。上司や会社に相談も出来ず、医薬品に頼ると副作用に悩まされるという悪循環。


古い体質の会社だと〝お前はやる気がない〟と一蹴され、パワハラまがいの指導を受けることも多いのかもしれません。そこで人事部が中心になって管理職研修のなかに、病気への理解を深め、正しく対応するためのコミュニケーションの取り方などを学ぶ時間を設けているところも増えているよう。そして大切なのは〝相談できる人が側にいる〟ことなんですね。


周囲(職場)の理解が大切なことは本作でもしっかりと伝わってきました。何と言っても同じ悩みを抱えた人のサポートほど心強いものはないのかもしれません。戦友というのでしょうか。〝がん〟の世界でも患者さんのコミュニティがありますよね。〝何でも相談してくれていいんだよ〟〝がんばりすぎなくていいんだよ〟言ってくれる友の存在が大きいのかと。


▼藤沢さんの差し入れ、その気持ちを考えるとー


静かに見守っている周囲の姿を繊細に描いた優しいドラマ


PMSの藤沢さんとパニック障がいの山添くんは、子供向けの実験玩具を扱う栗田科学という小さな会社で出会います。ここでお互いの病気のことについて知ることに。ただ、社長をはじめ社員はみんなその点に気づいてるようなんですね。特に社長は理解して採用している、といいますか病気を抱えた方の受け皿としての機能を積極的に果たそうとしていると感じました。


社長自身も亡くなった弟のことを忘れられなくて、心の傷を癒すために遺族サークルに通っているんですね。山添くんの採用は、そこで知り合った彼の元上司の辻本からの相談によるものでした。ということは、辻本もまた問題を抱えた側なんですね。この映画は、そういう人たちが藤沢さんと山添くんを静かに見守っている姿を描いた優しいドラマでもあります。


つまり、これは人が基本的に持っているであろう善意についての話であり、そこが素晴らしいと思いました。冒頭で登場するパワハラな上司も理解が足りてないためであることが分かるんですね。それは病気を抱えた側の説明の足りなさも原因の一つではあるのかもしれませんが、理解されないということがどうしても先に立ってしまうのかと思いますし難しいですね。


▼二人の距離感がとてもいい感じなのですよ


小さな宇宙に二人の心が吸い込まれ、そして癒されていく


藤沢さんと山添くんは、男女なわけですが決して恋愛感情にはならないのです。山添くんの部屋に上がり込んでいても、変な感情は起きない。気の置けない友人、ちょっと傍目にみると姉と弟のような雰囲気で会話をしてる。その距離感がいいんですね。お互いに分かり合えているから自分を隠す必要がない。それがどれだけ気持ちを楽にさせているかということ。


ドラマの終盤になって描かれる、この二人が協力し合って作り出したプラネタリウムのシーンが強く印象に残ります。様々な問題を乗り越えて、ついに作り上げた宇宙。健常であれば何でもないことであっても、二人にとっては初めて成し遂げた大きな仕事であり、かけがえのないものなんですね。その宇宙に二人の心が吸い込まれ、そして癒されていくようでした。


しかし、この二人が最後は別々の道を歩み出すという展開は意外でした。でも爽やかでした。栗田科学というマジックボックスを通して成長を果たした二人。また違う世界に飛び込んでいく藤沢さん。自分のできること、好きなことを見極めて等身大で生きていくことに喜びを見つける山添くん。エンドクレジットの背景に流れる日常に安堵感を覚えました。


▼お互いのサポートでやがて希望が生まれてくる


実は、ドラマのなかで栗田科学を取材しドキュメントビデオを作っている中学生の男女が出てくるのですが、これがちょっと最後に泣かせるんですね。でも全体的に大仰なシーンは、藤沢さんが感情を抑えきれなくなるところ以外には何ひとつなくて、とてもフラットなトーンなんです。そしてユーモアの感覚が優れている。そういうところも良かったですね。


前作「ケイコ/耳を澄ませて」の耳が聞こえない女性ボクサーと同様に、社会の偏見や無理解を乗り越えて自立していく若者と周辺の人たちの姿を描いた「夜明けのすべて」。今回も様々な気づきを与えてくれ、そして見終わったあとに心を前向きにしてくれる良作でした。上白石萌音さん、松村北斗さん他、渋川清彦さん、光石研さんのさりげなさも最高。


ぜひ多くの方にご覧いただきたい作品ですねー。


トシのオススメ度: 5

5 必見です!!
4 オススメです!
3 良かったです
2 アレレ? もう一つです
1 私はお薦めしません


夜明けのすべて、の詳細はこちら: 公式サイト


この項、終わり。