波紋
2023年作品/日本/120分
監督 荻上直子
出演 筒井真理子、光石研、磯村勇斗
2023年6月17日(日)、新宿シネマカリテのスクリーン2で、13時05分の回を観賞しました。
須藤依子は、今朝も庭の手入れを欠かさない。“緑命会”という新興宗教を信仰し、日々祈りと勉強会に勤しみながら、ひとり穏やかに暮らしていた。ある日、長いこと失踪したままだった夫、修が突然帰ってくるまでは—。 自分の父の介護を押し付けたまま失踪し、その上がん治療に必要な高額の費用を助けて欲しいとすがってくる夫。障害のある彼女を結婚相手として連れて帰省してきた息子・拓哉。パート先では癇癪持ちの客に大声で怒鳴られる(以上、公式サイトからの引用)、という物語です。
「かもめ食堂(06)」「彼らが本気で編むときは(17)」「川っぺりムコリッタ(21)」の荻上直子さんの新作、「波紋」を観てきました。先日、間違えて「渇水」のチケットを購入してしまったもので、今月、いちばん見たかったのに観賞が遅れました、笑。荻上監督の新境地でありながら、紛れない荻上作品でした。
《感想です》
- 中年女性のストレスと苛立ち、そこからの精神の解放を描いています
- 女性の方を中心に心のケアというものをどうすればいいのか考えます
- いやし系ではない荻上監督の異色作でそのチャレンジに一票を投じたい
荻上直子さんの映画は、小林聡美さんを主演に撮った初期の「かもめ食堂(06)」「めがね(07)」が断然有名かと。独特のゆったりしたリズムや間で進んでいくことが多く〝いやし系〟と言われてますが、人と人との関係性を紡ぎながら、疲れた現代人の心の〝快復〟を描いているところに特徴があるのかと思います。
精神性についての映画なので、鼻につく、趣味に合わないという方も多いかもしれません。逆にハマればファンになるでしょうし、要は賛否両論、好き嫌いが大きく分かれてしまう作風なのかと。私は、トランスジェンダーを扱った「彼らが本気で編むときは」で注目してからフォローを始め、過去作を遡って観たクチです。
さて「波紋」ですが、これは驚きの映画でした。先ほど〝精神性〟と書きましたが、本作では傷つき疲れきった中年女性が陥っているクライシス、そこからの精神の解放を描いていると感じました。荻上監督の過去作のような〝ほっこり〟する要素はなく、サスペンス映画のような趣きもあり、新境地を切り開いています。
男性目線で恐縮ですが、夫や息子を中心に身勝手な周囲に翻弄される、嫁・妻・母といった多面な役割を果たさなけれならない女性のストレスと苛立ちが、びしびしと伝わってきました。寝たきりの義理の父、震災後に行方をくらました夫、家を飛び出し他県で就職した息子。さらに彼女を襲う更年期障害による体調不良。
そんな彼女を包み込む宗教団体の存在。この団体で信者たちが歌い踊る場面は、過去作「めがね」の海辺の体操につながるわけですが、こういう点を気持ち悪い、不快と感じる方もいるかもしれないですね。そして場面転換の際に使われるリズミカルなハンドクラップも含めて、いつもの荻上監督らしさも感じました。
観たあとに日頃周囲の女性の皆さんに対しデリカシーの無い言動をしているであろう我が身を振り返り反省するわけですが、女性ならではの問題(男性にも更年期があるそうです)や、パワハラ、セクハラ、メンハラなどに泣き寝入りさせられている女性のかたの心のケアのあり方についても深く考えさせられる作品です。
筒井真理子さんの演技と、常連の皆さんのキャスティングも楽しめました。女性の観客が多いのだろうと思いますが、本作は男性の方にぜひご覧いただきたい作品です。
トシのオススメ度: 4
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