渇水
2023年作品/日本/100分
監督 高橋正弥
出演 生田斗真、門脇麦、礒村勇斗
2023年6月11日(日)、アップリンク吉祥寺のシアター5で、9時30分の回を観賞しました。
日照り続きの夏、市の水道局に勤める岩切俊作は、同僚の木田とともに来る日も来る日も水道料金が滞納する家庭を訪ね、水道を停めて回っていた。妻や子供との関係もうまくいかず渇いた日々。県内全域で給水制限が発令される中、岩切は二人きりで家に残された恵子と久美子の幼い姉妹と出会う。父は蒸発、一人で姉妹を育てる母も帰ってこない。困窮家庭にとって最後のライフラインである“水”を停めるのか否か。葛藤を抱えながらも岩切は規則に従い停水を執り行うが(以上、公式サイトからの抜粋)、という物語です。
荻上直子さんの「波紋」を観たくて昨夜のうちに予約を済ませアップリンク吉祥寺へ出かけたのですが、なんと間違えて「渇水」を予約していたことがわかり(私が座っていたところに他の方がこられてー)、こちらを観ることに、トホホ。なんだか他のこともそうですが、最近歳のせいなのか注意力が落ちているような。
1990年の文学会新人賞を受賞し、芥川賞候補にもなったという河林満さんの同名原作小説があるそうなのですが未読です。8月、雨が降らないために水不足になった前橋市を舞台に、水道局員の岩切が同僚の木田とともに様々な理由で料金を滞納している家庭を回り、毎日たんたんと〝停水執行〟を行う姿を描いていきます。
岩切には実は妻子がいるのですが、今は別居中のようで、彼自身の心もまた干からびていることが分かり、〝渇水〟というのは彼の心情のことでもあることが分かってきます。そのうちに岩切は、母子家庭で母が仕事に行ったきり帰ってこない小出家の幼い姉妹と出会うのですが、この姉妹との交流が彼を変えていくことに。
▼礒村祐斗さんも出ているのですが好感度高いですね
水道局員のの大変さを知ることができる、仕事映画としての面白さ
映画は、岩切の視点と小出家の姉妹の二つの視点で進んでいく構図になっています。そのうち観客の心を掴むのは後者で、電気、ガスそして水というライフラインを奪われてしまった幼い姉妹が、二人の力で懸命に生き延びようとする姿なのですね。この展開は、是枝裕和監督の傑作「誰も知らない」を思いださせます。
母親は、出会い系サイトで出会った男たちから得たお金でかろうじて生計を立てている状態なのですが、ある日、その母親が帰ってこなくなり、音信が途絶えてしまいます。この育児放棄の母と、妻子との関係がうまく行っていない岩切は、ドラマ上、対になっており、二人が対峙する場面が大きな見せ場になっています。
本作は、仕事に忠実な岩切が一軒一軒、家庭を回りながら停水していく姿を通じて水道局員の方々の大変さを知ることができる仕事映画としての面白さもありました。しかし、人としての感情が希薄になっている岩切の姉妹たちへの関わり方や、給水に関する思考や行動の変化については舌足らずで、理解しにくかったです。
▼この姉妹が本当の姉妹のようで、けなげなのです
後半、展開が急ぎ足になり、岩切の行動が飲み込みにくいのが残念
〝空気や太陽と同じように水も無料であるべき〟という理論。水道水も雨水や雪解け水を飲料水にするために様々なプロセスが必要なわけですし、それこそ水道管など供給そのものを可能にする設備も必要ですよね。なのでちょっと飛躍しすぎている気がします。ただ生きる上で最低限必要なものだというのは分かります。
生田斗真さん、門脇麦さん、そして姉妹の存在感が良かったです。特に、しっかりした姉の心が折れていく様。演じた山崎七海さんの目の奥に潜む暗闇にぞっとしました。親の保護を受けられない子供たちのケア、水道局員の方々の過酷な業務、観るべきところのある作品だと思いましたが、後半の展開が唐突で残念でした。
▼髪を切る約束をしたお母さん、帰ってあげて欲しい
トシのオススメ度: 3
この項、終わり。