リコリス・ピザ | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

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ジャンルや新旧問わずに週末に映画館に通っています。映画の感想から、映画がらみで小説やコミックなんかのことも書ければ。個人の備忘録的なブログです。

 

リコリス・ピザ

 

2021年作品/アメリカ/134分

監督 ポール・トーマス・アンダーソン

出演 アラナ・ハイム、クーパー・ホフマン

 

2022年7月9日(土)、TOHOシネマズ新宿のスクリーン11で、8時30分の回を観賞しました。

 

1970年代のアメリカ、サンフェルナンド・バレーを舞台に描いた青春物語。主人公となるアラナとゲイリーの恋模様を描く(以上、映画.comからの引用)、という物語です。

 

ノーマークの映画だったのですが、いつも拝見しているブロガーの〝大佐〟さんが本作を取り上げておられ、ポール・トーマス・アンダーソン監督ということを知り観賞しました。これは観ておいて良かったです。最近だと「mid 90’s(18)」という90年代を舞台にした青春映画がありましたが、こちらは70年代のロサンゼルス郊外が舞台の青春映画で、当時の世相をうまく反映した疾走感あるボーイ・ミーツ・ガールものでした。

 

カッコよくない普通の男女がみせる等身大の青春恋愛映画

 

学校のトイレで鏡をみながら髪の毛に櫛を入れて整えている高校生たちの姿から始まるこの映画。その髪型や服装のスタイルからいっきに70年代の若者たちのドラマであることを理解させられるわけですが、高校生の〝髪の毛いのち〟みたいなところって、どの時代のどの国でも共通なのかな?って思いました。40年も前の私の同級生もみんなどこで買うのか、美容院でしか使わないようなでかい女性用のヘアブラシを持ってましたね。

 

なんでみんなヘアスタイルを整えているのかといいますと、この日に校内で証明用写真を撮るからなのです。ここにキャメラマンの助手として来ていたアラナに、ゲイリーが一目惚れしてしまい猛烈なアタックをかけるのですが、彼女は彼よりも10歳以上年上だというのですね。この会話シーンがずーっと続いて、キャメラがふたりのやり取りを延々と追いかけていくうちに、どんどんふたりの世界に引き込まれていきました。

 

このふたりが美男美女でないのがいいんですね。ゲイリーは小太りで愛嬌があって(演じるクーパー・ホフマンは、故フィリップ・シーモア・ホフマンの息子)、アラナはスレンダーで長身だけれでも美人タイプじゃない。どちらも本当に普通にいそうなタイプなのです。これが日本のアイドルのようなタイプの男女が出ていたら本当につまらなくなってしまいそう。このキャスティングとキャラクターで本作はまずは成功しています。

 

▼二人の移動をずーっと追いかけていくシーンで心をつかまれます

 

青年がもつ根拠なき自信と楽観、年上の女が見せるプライドと不安

 

ゲイリーは高校に通いながら俳優業をしているというのですが、どこからそんな自信が溢れ出てくるのか不思議なもののアラナに対して「君との出遭いは運命なんだ」みたいなセリフをぶつけてみたり、またビジネスに関心を持っていて年下の子分たちとウォーターベッドの販売やピンボールを置いたゲームセンターの開業など、とにかくチャンスがあるとみれば積極果敢にチャレンジをする夢の大きな楽観的なタイプの青年なのです。

 

一方でアラナはというと、二十台も半ばを過ぎたにも関わらず、将来の方向性も決まらず彼氏もいない状態で、プライドが高く強がりは言っているものの少々焦りを抱えているようにも見えます。友達関係からのスタートといってゲイリーと付き合い始めるものの、彼の子供っぽさや世の中の見方の幼さに呆れたり、またそういうなかで別の男性に魅了されたりも。さらに家庭の事情もあいまっていつまでも不安定な精神状態から抜け出せないでいるかのようです。

 

こんな磁石の両極にあるゲイリーとアラナが、時間を経るうちに徐々に距離を詰めていく様がとても魅力的に描かれています。そしてそこに性的な関係を持ち込まなかったところが大変良かったですね。ウォーターベッドに寝転んで小指が触れ合うところや、食事をしながらテーブルのしたで膝を突き合わせるところ等、ドキドキするような場面があるのですが性的関係にならない節度がふたりが精神的に純化されていく様を感じさせます。

 

本作では二人が会話しながら歩いている場面が印象的に撮られていて、そんなところに私は色気を感じ〝はっ〟としたのですが、セクシャルに近づく場面というのは描かれていないのですね。一カ所、アラナが(嫉妬心から)〝そんなに、おっぱいがみたい?〟と感情的にゲイリーの家に乗り込んでくる場面がありましたが、そこはギャグっぽい落ちがついてはいたものの、私は彼女の気持ちを考えるとちょっと切なかったりもしました。

 

▼いろいろな見せ場を経て二人が心の関係を深めていきます

 

迷走する70年代の米社会を泥臭くても自分らしく疾走するふたり

 

このふたりのドラマが展開するのが1970年代のロサンゼルス近くのサンフェルナンド・バレーという街。当時の社会的・経済的な背景をドラマに巧みに取り入れながら、映画や音楽それにファッションといったカルチャーやライフスタイルもまた魅力的に描かれています。それらの一つひとつを味わいつくせるのは私よりもまだ少し上の年齢の方々になるのかと思いますが、分からない部分は色々と調べてみる面白さもあるかと思います。

 

ベトナム戦争後の混沌とした社会、強いアメリカが自信を失い自分たちの今後を決めかね迷走していたような時代でしたでしょうか。そういう世の中でより個人にフォーカスがあたり、個人の自由や権利、特に女性は〝ウーマン・リブ〟が叫ばれていましたよね。この映画でもアラナがノーブラで登場するのはそういう時代背景があってのことですね。さらに人種、宗教、同性愛、ドラッグなどの問題ついても挿話としてうまく描かれていきます。

 

本作にはポール・トーマス・アンダーソンの個人的な(特に映画界に関しては)経験がベースにあるそうてす。ウィリアム・ホールデン(演じるはショーン・ペン)やサム・ペキンパー(同トム・ウェイツ)らしい人物やプロデューサーのジョン・ピーターズ(同ブラッドリー・クーパー、この怪キャラ最高!)も登場。そういう時代をゲイリーとアラナという男女がいじらしく、もがきながら駆け抜けていく様子がユーモラスでキュートでした。

 

▼とにかくこの二人がことあるごとに走るシーンが心に残ります

 

この映画を観たあと、アラナ・ハイムが〝HAIM〟というサンフェルナンド・バレーに住む三姉妹のロックバンド出身であること、またHAIMの楽曲のミュージックビデオをポール・トーマス・アンダーソンが撮影していることを知りました。道理で映画のなかのアラナの家族の顔が激似だったわけですね。ちなみにYouTubeで何本かビデオを観てみたのですが、これもとても良かったので、よろければ検索してみてください。

 

ポール・トーマス・アンダーソンの作品のなかでは分かりやすいしとてもハートフルです。あちらのカルチャーに精通していなくても、描かれている男女の世界はどこの国にも共通で普遍性があるので興味が湧きましたらぜひご覧いただきたいです。

 

トシのオススメ度: 4

5 必見です!!
4 オススメです!
3 良かったです
2 アレレ? もう一つです
1 私はお薦めしません

 

リコリス・ピザ、の詳細はこちら: 映画.com

 

 

この項、終わり。