ベイビー・ブローカー
2022年作品/韓国/130分
監督 是枝裕和
出演 ソン・ガンホ、カン・ドンウォン
2022年7月3日(日)、TOHOシネマズ日比谷のスクリーン5で、9時の回を観賞しました。
古びたクリーニング店を営みながらも借金に追われるサンヒョンと、赤ちゃんポストのある施設で働く児童養護施設出身のドンスには、「ベイビー・ブローカー」という裏稼業があった。ある土砂降りの雨の晩、2人は若い女ソヨンが赤ちゃんポストに預けた赤ん坊をこっそりと連れ去る。しかし、翌日思い直して戻ってきたソヨンが、赤ん坊が居ないことに気づいて警察に通報しようとしたため、2人は仕方なく赤ちゃんを連れ出したことを白状する。「赤ちゃんを育ててくれる家族を見つけようとしていた」という言い訳にあきれるソヨンだが、成り行きから彼らと共に養父母探しの旅に出ることに。一方、サンヒョンとドンスを検挙するため尾行を続けていた刑事のスジンとイは、決定的な証拠をつかもうと彼らの後を追うが(以上、映画.comからの引用)、という物語です。
洋画よりも邦画を観ることのほうが最近は多いのですが、こちらは是枝裕和さん監督ではあるもののスタッフもキャストも韓国の方による作品なので洋画ですね。是枝監督作品では「誰も知らない(04)」に衝撃を受けました。でも多くの方に受け入れられ決定打になったのは、福山雅治さんの人気もあっての「そして父になる(13)」でしょうか。集大成的な「万引き家族(18)」での評価は少し遅すぎという感じもしました。
《感想です》
- 人物ごとの背景など話が重層的に広がるものの、それぞれ描き方が不十分な感じ
- みんな基本的には違法な行為に手を染めているので、両手をあげて共感しにくい
- 作品のクオリティは決して低くないですが、期待値を上回ってくるところがない
韓国における赤ちゃんポストと、そこに置き去りにされた子供の人身売買にまつわる複数の関係者たちの話を描いています。産みの母親ソヨン、ブローカーのサンヒョンとドンス、ブローカーを追いかける女性刑事のスジンとイが主な登場人物。これだけでもお話の整理が大変なところに、さらにソヨンの子供の父親にまつわるお話や、ドンスの幼児期のお話、スジンの隠された(と思われる)過去など、風呂敷がどんどん広がっていくのですね。
たぶんこれは〝赤ちゃん〟がいったい誰に、どういう環境で育てられるのがいちばん幸せなのだろうかという選択肢をたくさん観客に提示しているのだろうと思います。犯罪者の子供として実の母に育てられるのがよいのか、児童養護施設に入って育てられるのがよいのか、あるいは人身売買の形であっても子供を心から望んでいる人のところへ行くのがよいのか、はたまた愛情はないかもしれないが大金持ちのところがよいのか。
でも、その一つ一つが十分に描けていなかったですね。ちょっと中途半端な感じで分かりにくかったように思います。ソヨンが売春相手を殺したことや刑事と裏で通じるところの葛藤のなさ、サンヒョンとドヨンがベイビー・ブローカーの行為に手を出すようになったところの気持ちや事情、スンジが囮捜査という手を使っても執拗に彼らを追い詰めようとする背景。みんな違法な行為に手を染めているところの〝なぜ〟の説得力ある理由が不足しているような。
ドラマの口当たりはすごくいいんですよね。印象的な見せ場も多くて、サンヒョンを演じたソン・ガンホを始めとしたキャストのみなさんの演技も素晴らしい。映像も音楽も美しくて良かったです。途中からドラマに入ってくる養護施設のサッカー好きな少年の扱い方はさすが是枝裕和監督という感じ。やはり子供を演出させたら文句なしに上手いです。作品のクオリティは低くなくて、2時間を超える長さでも最後までじっくりと観ていられます。
でも両手をあげて賞賛する気になれるかというと、どうもそんな感じじゃないんです。〝こんなものなのかな〟という。これなら過去の是枝裕和さんの監督作品を観賞しなおしたほうが遥かにいいんじゃないかなあと。私には過去作の上を行くようなところ、おー!と思えるところが無かったです。是枝裕和さんってもうピークが過ぎてしまったのかもしれない?「ベイビー・ブローカー」を観ながらそんなことを感じていました。
韓国映画だから暴力とか犯罪を絡めないと流行らないということではないと思うのですが、そういうとこも含めて脚本をもう少し研ぎ澄ますことができていればな、と感じたり。といいながら、これ期待値の高い是枝裕和監督だから厳しいコメントになってしまうのであって、やっぱり扱っているテーマも含めて、観て良かったとは思える作品ですね。私はこのドラマから中島みゆきさんの〝誕生〟という曲を思い浮かべました。
あと、こういう形で日本の映画監督が海外のスタッフと組んでグローバルに活躍すること、これ素早らしいですね!
トシのオススメ度: 3
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