エルヴィス | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

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ジャンルや新旧問わずに週末に映画館に通っています。映画の感想から、映画がらみで小説やコミックなんかのことも書ければ。個人の備忘録的なブログです。


エルヴィス


2022年作品/アメリカ/159分

監督 バズ・ラーマン

出演 オースティン・バトラー、トム・ハンクス


7月10日(日)、新宿バルト9のシアター5で、8時00分の回を観賞しました。


ザ・ビートルズやクイーンなど後に続く多くのアーティストたちに影響を与え、「世界で最も売れたソロアーティスト」としてギネス認定もされているエルビス・プレスリー。腰を小刻みに揺らし、つま先立ちする独特でセクシーなダンスを交えたパフォーマンスでロックを熱唱するエルビスの姿に、女性客を中心とした若者たちは興奮し、小さなライブハウスから始まった熱狂はたちまち全米に広がっていった。しかし、瞬く間にスターとなった一方で、保守的な価値観しか受け入れられなかった時代に、ブラックカルチャーを取り入れたパフォーマンスは世間から非難を浴びてしまう。やがて故郷メンフィスのラスウッド・パークスタジアムでライブを行うことになったエルビスだったが、会場は警察に監視され、強欲なマネージャーのトム・パーカーは、逮捕を恐れてエルビスらしいパフォーマンスを阻止しようとする。それでも自分の心に素直に従ったエルビスのライブはさらなる熱狂を生み、語り継がれるライブのひとつとなるが(以上、映画.comからの引用)、という物語です。


「ロミオ&ジュリエット(97)」「ムーラン・ルージュ(01)」といったミュージカル映画で、ギンギラギンの映像と目が回るような編集で独自の世界観を打ち出したバズ・ラーマン監督の新作「エルヴィス」。予告編では監督みずからが登場して作品を売り込む熱の入れようでしたが、それくらいバズ・ラーマンって知名度が高い監督なのかな?と感じていました。「ムーラン・ルージュ」だってもう20年前の作品なんですね。


全く異質なものが掛け合わされることで生まれた音楽のイノベーション


私の年代(五十代なかば)だとたぶんプレスリーを本格的に聴いたということはあまりなくて、ロックンロールだと慣れ親しんだのは1960年代から1970年にかけて活躍したビートルズか、ローリングストーンズになってしまうんじゃないかと思います。プレスリーの曲はアルバムで聴くというより、映画やラジオで耳にして覚えたんですよね。〝ハートブレイク・ホテル〟〝ラヴ・ミー・テンダー〟〝好きにならずにいられない〟。


なので、プレスリーの音楽は知っていても、いったい彼がどういうミュージシャンだったのかはいまひとつ分かってないのではと想像します。もしプレスリーに対して、アメリカ出身のロック歌手かつ映画スターで、ドーナツ好きで最後は激太りして心臓発作で亡くなった、といった単純化されたイメージを持っておられるとしたら、本作を観ることで彼の真の人物像に迫ることができますので、ぜひご覧いただきたいです。


音楽の歴史に詳しいかたは何を今さらということなのかもしれませんが、今まで文字で読んだり話で聞くことでしか知らなかったロックンロールが誕生し、世に広がっていくまでの経緯もこの映画ではきちんと見せてくれます。人種差別の強いアメリカ南部で、黒人のリズム&ブルースと白人のカントリー&ウェスタンという異質なものを融合させて白人の青年が歌い踊るというショッキング。これは音楽の革命の物語でもあります。


▼観客に困惑と熱狂の両方をもたらしたエルヴィス


悪徳興行師とタレント(才能)だから成しえたスーパースターの誕生


この音楽の革命であるロックンロール誕生のうらに隠されたエルヴィス・プレスリーの幼年期のエピソード。貧しい家庭に育った彼が、黒人社会のなかで暮らしていたというのが驚きでした。だから黒人のためのリズム&ブルース、ゴスペルを白人である彼が当たり前に歌えるのですね。そこには黒人に対する偏見も差別も存在しないわけです。彼の歌や踊り方は保守的な大人たちを悩ます一方で、若い世代を虜にしていきます。


そんなエルヴィスに目をつけたのが、カントリー歌手のマネジャーだったトム・パーカー。自らを〝大佐〟と名乗る彼は、エルヴィスの稼ぎの半分を自分の取り分とするとんでない契約を結ばせます。そして次々と興行を組み、今でいうところのキャラクターグッズを販売し、エルヴィスを利用し大儲けを企むのです。一方で社会との対立を恐れてエルヴィスに曲や歌い方の指示をし、とにかくうまくこの世の中を渡っていこうとする。


しかしながら、エルヴィスの才能に目をつけて売れっ子に育てあげたのはこの大佐の力があってのものだったかもしれず、ふたりのそれぞれの持ち味があったからこそのスーパースターの誕生だったとも言えるような気がします。とはいうものの優しいエルヴィスの心の隙につけ込む大佐のやり方がかなり憎らしくて、それでもそんな大佐を最後まで頼みにせざるを得なかったエルヴィスがすごく不憫に思えてならなかったです。


▼パーカー大佐と二人三脚、依存関係のエルヴィス


歌うことで社会への反骨精神を示し、燃え尽きてしまった優しい男


スポットライトのなかで、喜んでくれている観客のために最大のパフォーマンスを見せたエルヴィス。お金の管理には無頓着だった彼(その点では父親譲りなのかもしれないのですが)は、何のためにステージに立つのかというと、彼は純粋に観客のために来る日も来る日も歌い続けたように思います。彼が〝Trouble〟を歌うシーンに鳥肌がたち、晩年、ボロボロになってもステージに立とうとする姿は感動的でありました。


1968年にマーティン・ルーサー・キング・ジュニアがメンフィスで銃弾に倒れた際に、有名な演説のメッセージ〝I have a dream(私には夢がある)〟に応えるかのように、〝If I Can Dream(明日への願い)〟を歌うシーンも素晴らしいです。私がイメージしていたエルヴィス・プレスリーが単なるスターでなく、アメリカに根強く残る人種差別や偏見といったことと歌を通じて戦い、反骨精神を見せたことを知りました。


その姿はまさにキング・オブ・ロックンロールの名に相応しかったです。ラスベガスのインターナショナルホテルで肥満の彼がピアノを弾きながら〝Unchained Melody〟を歌う姿には涙を堪えきれなかったです。アメリカが生み出したエルヴィス・プレスリー。〝アメリカンドリーム〟の体現者。彼の人生に自分の青春を重ね合わせることのできるアメリカ人はこの映画を深い感慨を持って観賞しおえるのではないでしょうか。


▼観客のために自分のスタイルを貫いたエルヴィス


物語がトム・パーカーの視点で進むため、このドラマはエルヴィスの話であると同時に、パーカーの話にもなっています。なので、面白いことにパーカーという人間のもつ負の魅力みたいなものもあって、そこがユニークです。逆に言うとパーカー自身のドラマが一本できそうな感じです。エルヴィスを演じたオースティン・バトラーも良かったですが、このパーカーを演じたトム・ハンクスの悪役ぶりもみどころのひとつかと。


これは音楽映画ですし音響のよい劇場で観ることをオススメします。今日から三連休のかたはお時間がありましたらお近くの映画館に足を運んでみてはいかがでしょうでしょうか。


トシのオススメ度: 5

5 必見です!!
4 オススメです!
3 良かったです
2 アレレ? もう一つです
1 私はお薦めしません


エルヴィス、の詳細はこちら: 映画.com


この項、終わり。