魚影の群れ | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

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ジャンルや新旧問わずに週末に映画館に通っています。映画の感想から、映画がらみで小説やコミックなんかのことも書ければ。個人の備忘録的なブログです。


魚影の群れ


1983年作品/日本/135分

監督 相米慎二

出演 緒形拳、夏目雅子、佐藤浩一


2021年12月26日(日)、下高井戸シネマで16時35分の回を鑑賞しました。


厳しい北の海で小型船を操り、孤独で苛酷なマグロの一本釣りに生命を賭ける海の男達と、寡黙であるが情熱的な女達の世界を描く(以上、映画.comからの引用)、という物語です。


今年は相米慎二監督の没後20年ということで特集上映が組まれていたのですね。それがいま地元の下高井戸シネマで行われておりまして、時間を見つけてこちらを観て来ました。本作は若い頃にテレビやビデオで見たのですが、今回、初めて劇場鑑賞(35ミリフィルム上映)しました。「老人と海」や「ジョーズ」を思い出させる迫力と、漁師の生き様を描いた秀作です。



《感想です》


相米慎二監督の作品は「ラブホテル(85)」「夏の庭/The Friends(94)」を除いて、何らかの形で観ています。「ラブホテル」は成人映画ですしねー。基本、アイドルを主演に使った作品が多いのですが、決して子供向けのアイドル映画を撮っているわけではなかったです。斉藤由貴さんの映画デビュー作の「雪の断章(85)」なんて、暗いという印象しか残ってないほどです。


「魚影の群れ」は、そういう作品群のなかでは珍しくアイドルの出ていない作品でした。夏目雅子さんが出演されていますが、当時はもうアイドルではなかったと思います。緒形拳さんが演じているマグロの一本釣り漁師・房次郎と、夏目雅子さん演じる娘のトキ子、そして彼女が恋に落ちた依田という若い男の物語。漁師を目指す依田を演じたのが、まだ新人の頃の佐藤浩一さんでした。


この映画の見どころは何と言ってもマグロを釣り上げる場面で、緒形拳さんが本当の漁師にしか見えないのです。荒れる海で俳優がマグロ釣りに挑戦している姿をドキュメントで収録したかのようです。ここまで成りきれるものかと驚くばかりです。佐藤浩一さんもしかりで、最初は喫茶店のマスターとして出てきた彼が映画が終わる頃にはちゃんと漁師になっているという。


マグロを追いかけ、釣り上げることでしか自分自身の存在価値を示すことができないという男たちの姿。それが本人だけでなく、周りの人の人生も巻き込んで狂わせてしまう。まさに男たちの狂気の世界にあって、女はもう泣いて男たちの帰りを待ち続けるか、それが嫌なら離れていくしかない。これを男のロマンと言うのでしょうか。ラストのトキ子の慟哭が心に沁みます。


映画は相米慎二監督の代名詞となった長回しが多様され、特に海の場面において効果を上げています。実際に演技どころではなかったのかもしれませんが、先に書きましたドキュメンタリーにも見えるリアリズムに溢れていました。一方でロングショットでの移動撮影の長回しとなると、技術的に凄いのかもしれませんが、映画として効果的なのか私にはよく分からないです。


その長回しに耐え、津軽弁を使いこなし演技された緒形拳さん、夏目雅子さん、佐藤浩一さん、そして十朱幸代さんらは素晴らしいの一言。ストーリーは三部構成で無駄な説明はなく、とにかく映像で見せていきます。未見のかたはぜひご覧ください。


✳︎追記

12月28日の某新聞で、今年は相米慎二さんが没後20年、森田芳光さんが没後10年、そして澤井信一郎さんが今年お亡くなりになったことをもって、80年代の日本映画と彼らが今の映画に与えた影響を総括していました。みなさん当時の映画界を語るに欠かせない方々で、同時代を過ごした身として感慨深かったです。





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魚影の群れ、の詳細はこちら: 映画.com


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