MINAMATA ーミナマター | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

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ジャンルや新旧問わずに週末に映画館に通っています。映画の感想から、映画がらみで小説やコミックなんかのことも書ければ。個人の備忘録的なブログです。

MINAMATA ーミナマター


2020年作品/アメリカ/115分

監督 アンドリュー・レビタス

出演 ジョニー・デップ、真田広之、國村隼


2021年11月14日(日)、渋谷のシネクイントのスクリーン1で10時からの回を鑑賞しました。


1971年、ニューヨーク。かつてアメリカを代表する写真家と称えられたユージン・スミスは、現在は酒に溺れる日々を送っていた。そんなある日、アイリーンと名乗る女性から、熊本県水俣市のチッソ工場が海に流す有害物質によって苦しんでいる人々を撮影してほしいと頼まれる。そこで彼が見たのは、水銀に冒され歩くことも話すこともできない子どもたちの姿や、激化する抗議運動、そしてそれを力で押さえ込もうとする工場側という信じられない光景だった。衝撃を受けながらも冷静にカメラを向け続けるユージンだったが、やがて自らも危険にさらされてしまう。追い詰められた彼は水俣病と共に生きる人々に、あることを提案。ユージンが撮影した写真は、彼自身の人生と世界を変えることになる(以上、映画.comからの引用)、という物語です。


ほぼ上映終了という感じですが、何とか間に合いました。ジョニー・デップが写真家ユージン・スミスを演じ、日本を舞台に水俣病について描くというのですから、これは日本人としてはやはり観ておかなくてはと。この一つの事例をもってコンセプチュアル化し、世界規模での問題提起にしていくラストに驚き、考えさせられました。あちらは実話のドラマ化が上手いですね。


今の社会科の教科書でどう扱われているのかな


私が中学生の頃の社会科の教科書では、四大公害病のことが取り上げられていたのを思い出しました。発生順ですと、富山県の神通川流域でおきたカドミウムによるイタイイタイ病、熊本県の水俣湾でおきたメチル水銀による水俣病、三重県の四日市でおきた亜硫酸大気汚染による四日市ぜんそく、そして新潟県の阿賀野川下流域でおきたメチル水銀による第二水俣病です。


これらは1950年代から60年代の日本の高度経済成長期におきた負の遺産で、ここには記載はしていませんが、それぞれに原因を作った企業があるわけでして、これらはその企業や管理を怠った国への被害者による訴訟(四大公害訴訟)として記載されていたようにも記憶しています。今では信じられないほと、圧倒的に環境や安全に対する企業の意識、配慮が低い時代でした。


今はこのあたりは教科書ではどう取り扱われているのでしょう。Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)というオシャレ感いっぱいのグローバルなお話に加えて、足元の自国において僅か50年前におきた過去の歴史をきちんと振り返り、記憶して引き継いでいく必要性を感じます。正直、この映画のことを知るまで、〝水俣病〟のことをすっかり忘れていました。


▼アイリーンが残した水俣の写真を手に取るユージン


訴訟団体対企業という構図のなかで見え難いもの


ユージン・スミスという方はアメリカを代表するキャメラマンで、従軍カメラマンとして第二次世界大戦中にサイパン、沖縄、硫黄島にて撮影をし〝ライフ〟などに写真提供していたとのこと。この映画では、1970年、写真家としては一線を退きニューヨークで暮らしていたユージンが、水俣病の取材を引き受けることを決意し、来日してからの活動の苦労・苦悩を描いていきます。


この提案はユージンの日本人の友人からのものだったそうですが、映画ではニューヨークで知り合ったアイリーン(後に彼と結婚するアメリカ人の父と日本人の母を持つ女性)になっています。これ以外にも映画向きにアレンジされているようで、例えば、ユージンが交渉団と警備員との抗争に巻き込まれるところなども水俣での出来事ではなく、千葉の別工場でのことだそう。


これはユージン・スミスの伝記映画というわけではありませんので、人物を整理したりドラマチックにしたりといった改変は結構あるのかもしれません。でも、借家を燃やされたり、工場内の研究施設(病院も兼ねているようですが)に潜入して写真撮影するところは〝ホント?〟という感じで、あまり感心はしなかったですね。そういったところのバランスが良くないかなと。


チッソ社の社長がユージンに百万分率(ppm)の話をするところなんかはゾッとはしましたが(これも創作?)、水俣病が引き起こした悲劇が描ききれてるのかというと、綺麗に描かれすぎていて恐ろしさか伝わりきらない。全体的には企業側の横暴さや無責任さに話が偏りすぎて、訴訟団体対企業という構図の中で、この病気の恐ろしさや個人が抱える問題の大きさが薄まった印象。


▼水俣を訪れたユージンは企業から買収をされます


一つの事例をもって世界規模での問題提起に


何となく散漫な感じで進むドラマなのですが、それでもラストに見せられるユージンが撮影した一枚の写真に慄然とし、涙するのですよね。それは水俣病を患った娘を母親がお風呂に入れている白黒写真なのですが、そこには慈しみ、喜び、悲しみ、恐怖、不安、怒り、すべての感情が渦巻いているような気がしました。見る人、見る時によって、捉え方が変わるような写真です。


ここに着地させるために2時間があったのだとしたら、全然長くないです。しかし、それでもやはり最後に出てくる本物の写真にはかなわない。なので、この映画は〝水俣病〟という病気や、社会問題を考えるきっかけとして、またユージン・スミスが記録した魂の写真を見るためのきっかけとしてあればいいのかなと思いました。語り継ぐため、伝えていくための映画ですね。


そして、この映画が凄いなと思うのは、水俣病を日本のこと、過去のこととせずに、ラストで写真を使って世界の至る所で起きていること、今も起き続けていることだと、次々と実例を見せていくんですよね。観客に〝目を開け〟と警鐘をならしているんです。こういうところは、ローカル国の日本の映画制作者の発想ではなかなか出てこないんじゃないかという気がします。


▼訴訟団とともにユージンは企業の株主総会に参加


ジョニー・デップがこういう作品に関わり、主演もするというところ、メッセージの発信者としての世界に与えるインパクトが違いますよね。戦場キャメラマンとしてのトラウマとアルコール中毒を抱え、人間としての強さ、弱さ、優しさ、怒りを見せるユージンを見事に演じてます。真田広之さん、加瀬亮さん、國村隼さんなど日本人の俳優のみなさんも良かったです。そして音楽は坂本龍一さん。


色々と指摘もしてしまいましたが、これは観ておいて良かったです。


トシのオススメ度: 4

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3 良かったです
2 アレレ? もう一つでした
1 私はお薦めしません


MINAMATA 、の詳細はこちら: 映画.com


この項、終わり。