燃えよ剣 | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

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ジャンルや新旧問わずに週末に映画館に通っています。映画の感想から、映画がらみで小説やコミックなんかのことも書ければ。個人の備忘録的なブログです。

燃えよ剣


2021年作品/日本/148分

監督 原田眞人

出演 岡田准一、柴咲コウ、鈴木亮平


2021年10月23日(土)、TOHOシネマズ府中のスクリーン2で、11時05分の回を鑑賞しました。


江戸時代末期。黒船の来航により、外国から日本を守るため幕府の権力を回復させようとする佐幕派と、天皇を中心にした新政権を目指す討幕派の対立が深まりつつあった。武州多摩の農家に生まれた土方歳三は「武士になりたい」という思いで、近藤勇、沖田総司ら同志とともに京都へ向かう。芹沢鴨を局長に、徳川幕府の後ろ盾で新選組を結成し、土方は「鬼の副長」と恐れられながら、討幕派の制圧のため京都の町で活躍を見せるが(以上、映画.comより抜粋)、という物語です。


私の最寄り駅は京王線にあるのですが、これに乗って西へ行くと〝高幡不動〟という特急の停まる大きな駅があります。ここでモノレールに乗り換えて一駅の〝万願寺〟で降りますと、徒歩10分もしないところに〝土方歳三資料館〟があります。土方家の御子孫のかた(女性なんです)が運営されていて、私も何回か足を運んだことがあるのですが、一見の価値ありですよ。


夢を追わず、時代を追った超高速絵巻物


司馬遼太郎の「燃えよ剣」「新選組血風録」は若い頃に読んでますが、内容の詳細は覚えてないです。それでも「燃えよ剣」の最後は印象に残っています。函館市街の官軍を撃退するために、土方歳三が五稜郭から馬で向かっていき、一本木関門で名を問われたところ堂々と「新撰組副長、土方歳三」と名乗って参謀本部に切り込んでいき、遂に銃弾に倒れるのですよね。


この土方歳三が何を考え、どう生きたのか?について、多くの人の想像力を掻き立て、興味を惹くところなのかなと思います。剣はめっぽう強く、鬼のように怖い男だったというのがよくある人物像ではありますが、それは一体なぜ?というところが知りたくなります。なので、この映画でも土方歳三という人間を原田眞人監督がどう描くのかが楽しみでありました。


ところがですね、残念ながらそれが全く伝わってこなかったです。長いドラマのなかで土方歳三という人間について深く理解し、共感できるところがない。彼が望んでいる夢は何であったのか、どこへ向かって生きて行こうとしていたのか。そういう点には関心がまるで行かず、時代のなかの出来事をただ羅列するかのように追いかけて、超高速絵巻物にしてみせたような感じでした。


▼岡田准一さんの土方、山田涼介さんの沖田


幕末の空気を丸ごと捉えようとした群像劇


高速であるがため、この絵巻物は「新撰組」を取り巻く時代背景への知識が必要かと思います。この映画で初めて「新撰組」を知った方でも理解ができる親切設計にはなっていないので、何が起きているのか分からないままお話が進んでいくのではないかと。その点で、原田監督にはドラマを語るという意識はなく、時代の雰囲気を丸ごと勢いで捉えようとしたのかも。


お話は、近藤勇、土方歳三、沖田総司がまだ日野の石田村で燻っている頃に始まります。そして京都の治安維持のために幕府が清河八郎の献策で結成した浪士組に3人が参加するところから、基本的には新撰組に関わることは〝全部、描く〟というスタンスのため、登場人物もかなり多いです。この人物たちを、一人ひとり認識し、頭に整理するだけでもひと苦労という感じです。


なので、この映画を観るまえに予習は必須で、例えば司馬遼太郎の「燃えよ剣」「新選組血風録」を読むなり、他の新撰組関連の映画やドラマを観るなりしてから鑑賞に臨むほうがよいのではないかと感じます。ちなみに学生のころに見たNKKの連続ドラマ「壬生の恋歌(83)」は良かったなあー、と思い出します。土方歳三の役は夏木勲さんが演じてましたが、雰囲気あります。


▼鈴木亮平さんの近藤、伊藤英明さんの芹沢鴨


役者も殺陣も撮影もいいし見せ場もある


この映画は、長い物語を土方歳三が函館で回想する形式になっているのですが、その功罪が出ましたかね。物語をテンポよく運ぶことに成功した反面、どうしても言葉に頼るし、感情が途切れてしまう。じゃあ2時間半もあるこの映画がダメダメなのかというと、観るべきところはあり、全く退屈なわけでもないように思います。役者もいいし、殺陣も良かったし、画面も綺麗。


多くの方が岡田准一さん見たさで鑑賞されるのかもしれませんが、さすがに殺陣や馬上の姿は決まってました。また沖田総司役の山田涼介さんが良かった。綺麗な顔立ちが、余命のない男の儚さにピタリとはまってました。その他のキャスティングや演出も面白かったですしね。そして京都他でロケをした映像の美しさがとにかく素晴らしくて、これも見どころになっています。


見せ場ももちろんありまして、京都の八木邸における初代局長の芹沢鴨の暗殺事件や、新撰組の名前を一躍高めることになった「池田屋事件」(「蒲田行進曲」の階段落ち、ですね)が描かれておりまして、ここらは全体の中ではさすがにかなり丁寧にお話が進んでいましたし、迫力がありましたねー。そういうわけで、いわゆるチャンバラ場面としての面白さもあるのです。


▼土方歳三の恋人で架空の人物お雪の柴咲コウさん


原田眞人監督の同じく司馬遼太郎原作の「関ヶ原(17)」も人間・石田三成が描けておらず残念だったのですが、本作はそれ以上に土方歳三の描き方が弱いように感じました。出ずっぱりの土方歳三がそうなので、他の人物もそうなります。函館五稜郭で写真を撮る土方歳三を近藤勇と沖田総司が見守るといういいシーンがあるのですが、もっとグッときてもいいようなー。


とにかく万人向けにはなっていない映画です。なので、それぞれに乗っかれるところを探して観ていただければと思います!


▼高幡不動にあります土方歳三像ですがカッコいい!


トシのオススメ度:3

5 必見です!!
4 お薦めです!
3 良かったです
2 アレレ? もう一つでした
1 私はお薦めしません


燃えよ剣、の詳細はこちら: 映画.com


この項、終わり。