007 ノー・タイム・トゥ・ダイ
2021年作品/アメリカ/164分
監督 キャリー・ジョージ・フクナガ
出演 ダニエル・クレイグ、ラミ・マレック
2021年10月16日(土)、新宿ピカデリーのシアター3で、8時40分の回を観賞しました。
現役を退きジャマイカで穏やかな生活を送っていたボンドのもとに、CIA出身の旧友フィリックス・ライターが助けを求めにやってきたことから、平穏な日常は終わりを告げる。誘拐された科学者を救出するという任務に就いたボンドは、その過酷なミッションの中で、世界に脅威をもたらす最新技術を有した黒幕を追うことになるが(以上、映画.comからの引用)、という物語です。
公私ともバタバタしておりまして、観たい映画も後手後手になっております。感想もなかなか書く時間が取れず、こちら先週末に観たダニエル・クレイグ版の〝007〟ことジェームズ・ボンドの最終章。いつも拝見している映画レビュアーのみなさん、ほぼ感想をアップし終えておられていますねー。公開までかなり待たされましたし、人気の高さが窺えます。面白かったです!
15年かけて描かれた極めて人間くさいJ・ボンド
私は、どちらかというと〝007シリーズ〟にはさほど思い入れはなく、ずっとテレビの洋画劇場での放映を観ることで済ませていました。最初の出会いはショーン・コネリー版の「ゴールドフィンガー(64)」だったか、シルクハットを武器にした悪役が印象的で。「007は二度死ぬ(67)」は日本が舞台でカルデラ湖の地下の秘密基地や〝リトル・ネリー〟もかっこよかった。
ロジャー・ムーア版では「私を愛したスパイ(77)」が記憶に残っていて、テレビの特番で見た水陸両用のロータス・エスプリ。その頃はスーパーカーブームもあって、興奮しましたねー。ただ私の知ってるのは、この辺りの作品までなんです。この後のティモシー・ダルトン版、ピアーズ・ブロスナン版はストーリーも覚えておらず、観たのか観てないのかもあやふやです。
派手なアクションが売りの娯楽映画という感じで、仕掛けばかりが目につくマンネリで、スパイものとしてあまり面白さを感じられなくなっていたのかもしれません。ところがダニエル・クレイグ版が「カジノ・ロワイヤル(06)」でスタートし、〝007〟がリブートされると聞き観たところ、これが良かった!久しぶりにリアルで人間味のあるボンドの姿に〝これだっ!〟と。
▼ビシッと決めたタキシードも〝007〟の定番ですね、
5本のシリアルな展開が魅力的なドラマ
「カジノ・ロワイヤル」には、それ以前の〝007シリーズ〟の誰とも似ていない、ダニエル・クレイグが演じた新しいジェームズ・ボンドがいました。どちらかと言えば小柄だけれどもよく鍛えられた身体と俊敏さ。過去作のような甘いマスクではないけれども、精悍な顔立ちに鋭く光るブルーアイズ。そして肉体だけでなく知的な感じが漂うところに時代を感じさせてくれました。
そして何よりも面白かったのは、「カジノ・ロワイヤル」から始まる5本のシリーズが、「慰めの報酬(08)」「スカイフォール(12)」「スペクター(15)」「ノー・タイム・トゥ・ダイ(21)」まで、個々に独立した作品であるとともに、一連のシリアルなドラマになっているというところで、全作を通じて人間ジェームズ・ボンドが形成されていくというところでした。
ボンド最愛の女性ヴェスパー・リンド、シリーズ通してカギを握ることになるミスター・ホワイトとその娘のマドレーヌ・スワン、徐々に明らかになる悪のシンジケート〝スペクター〟の存在とその首領でありボンドの義理の兄でもあるブロフェルド。そういう多様な人物たちが織り成していくドラマが、アクションに埋もれずに確りと描かれているところに魅了されました。
▼前作に引き続き「ブルー」のレア・セドゥが登場
21世紀にスパイアクションをリブートさせ大成功
まあスパイものだと最近は「ミッション・インポッシブル」シリーズがあり、そちらも面白くて比較されがちだと思うのです。でもこちら〝007〟は、シリーズとしてのお約束ごとや昔ながらのファンの方も多く、時代に相応しい悪役の作り方など、色んなしがらみや制約のなかで作らなければならないなか、見事に21世紀のジェームズ・ボンドとして復活させたと思います。
今回の「ノー・タイム・トゥ・ダイ」では、前作から5年後という設定でスタートするのですが、ここにきちんと意味を持たせてあるわけです。なぜ5年経ったのか。その意味を知ってラストを観たときに、この今までにないボンド像を受け入れられるかどうか。私は良かったと思いました。ジェームズ・ボンドはスーパーヒーローではなく〝人間だった〟というところですね。
ボンドを取り巻く関係者についても、昔のように敵味方が明確でなく、より組織内が複雑さを増しています。ガジェットや秘密兵器の類も度を越しておらず、アストンマーチンの活躍もいかにも現実的路線という感じで、このあたりのセンスも良かったです。ダニエル・クレイグ版〝007〟は大人の鑑賞に耐えうる娯楽アクション作品として、大成功を収めたのではないかと思います。
▼ダニエル・クレイグがボンドとして有終の美を飾る
ただちょっと残念なところもありまして、特に「スペクター」とそれに続く「ノー・タイム・トゥ・ダイ」は〝お色気〟が希薄、笑。過去の〝007〟シリーズはそこがウリだったりしたのですが、そこも含めてのこのダニエル・クレイグ版、現代に相応しい形でのボンドガールたちとも言えるのでしょうね。女性のみなさんにも受け入れられるのはそういうところもあるのかも。
あとは悪役に迫力がないのですね。世界征服を企む悪の天才ブロフェルドについてはなんか狡猾さ、怖さが不足していて、ミスキャストなのかも。ラスボスとなるサフィンについては出番らしい出番もあまりなく、輪をかけて小物に感じられ、子供を(二度も)助けるという時点で、〝いいひと〟感もあったり。このあたりの作劇はどうだったのでしょう。もう一工夫欲しかったか。
しかし2時間半を超える長尺ですが、とても面白かったですよ。次のボンド役はこりゃまた大変だろうなあー。
トシのオススメ度:4
007ノー・タイム・トゥ・ダイ、の詳細はこちら: 映画.com
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