子供はわかってあげない | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

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ジャンルや新旧問わずに週末に映画館に通っています。映画の感想から、映画がらみで小説やコミックなんかのことも書ければ。個人の備忘録的なブログです。

子供はわかってあげない


2021年作品/日本/138分

監督 沖田修一

出演 上白石萌歌、細田佳央太


2021年9月19日(日)、テアトル新宿にて、10時00分からの回を鑑賞しました。


ひょんなことがきっかけで意気投合した美波ともじくん。美波のもとに突然届いた「謎のお札」をきっかけに、2人は幼い頃に行方がわからなくなった美波の実の父を捜すことになった。女性のような見た目で、探偵をしているというもじくんの兄・明大の協力により、実の父・藁谷友充はあっさりと捜し当ててしまった。美波は今の家族には内緒で、友充に会いに行くが(以上、映画.comからの引用)、という物語です。


公開から1ヶ月が経ち、上映館数も上映回数も少なくなりましたが、どうしてもみておきたくて駆け込みで行ってきました。もう空いているのかなと思ってたら結構な観客が入っていて、しかも若い方から年輩の方まで幅広い年齢層の方が。評判がいいのでクチコミで広がったのでしょうか。さて、結果ですが、これは観ておいて良かったです!沖田修一監督の見事な青春映画。


高校二年の等身大男女のキラキラ感

なんといっても上白石萌歌さんの演じている美波ちゃんの好感度につきるのだと思います。しかも彼女が所属する部活が水泳部ということで、真夏の照りつける日差しが水面に反射してキラキラそしてユラユラと輝くところが、そのまんま彼女の今の姿、青春そのものにつながって見えてしまうというわけで、その美しい映像だけで私なんかはもうマイってしまいました。

その相手役としての細田佳央太さんが演じた書道部の門司くん。彼がまた誰も嫌いにならないんじゃないかというようないいやつでして。細田佳央太さんが前に演じた「町田くんの世界(19)」の町田くんがそのまんま再登場してきた感じなのですよね。どうやったらこんなに純粋培養された高校生が出来上がるのかというくらいに男を感じさせないというか本当に危険度ゼロ。

この二人が出会って仲良くなっていくプロセスが、大人じゃないけど子供じゃない高校生らしさに満ちあふれているんですよね。それは〝恋愛〟というのともまた違っていて、最初は一緒にいて楽しかったなあ、また話がしたいなあという実に初々しい感じで微笑ましくて最高です。そのきっかけを作るお互いの共通の話題がアニメというのも今時の子らしく自然でなんです。

▼美波ちゃんと門司くんのプラトニックな初恋物語

おかしいけど、なんかいいひとたち

こんなにいい高校生がいるか?という映画の嘘を成り立たせてしまうところが、この「子供はわかってあげない」の秀逸なところなんだと思います。観客がこの二人を、特に美波ちゃんをすんなりと受け入れてしまえるのは、彼女の家庭の描きかたによるところが大きいのでしょうね。決して怒らない、怒鳴らないで、いつも笑いが絶えず、子供の心に寄り添っている両親の姿。

ドラマの最初のところで、美波のお父さん、お母さん、そして年の離れた弟が登場するのですが、こういう家庭だったら子供もこんなふうに育つかもなと思わせてしまうのですよね。アニメの主題歌を一緒に歌い踊る父親。なにかと〝OK牧場!(ガッツ石松?)〟とオヤジギャグを放つ軽いノリの母親(でも、ちゃんと美波のことをすごく気にかけていることが後半で分かるんです)。

そして美波には今の父親とは異なる本当の父親がいて、彼女が幼い頃に家を出て新興宗教の教祖になっていたという事実。美波は門司くんの性同一視障害の兄の力を借りてこの父親のもとを訪ねる夏の冒険に出るのですが、この父親がまた変わってるんです。ということで、この映画は美波と門司くんも含めて、ちょっとおかしいんだけれども、いい人たちの集まりなんですよね。

▼人の考えが見える元教祖を豊川悦司さんが怪演です

夏休みのかけがえのない経験と成長

この愉快な仲間たちが紡ぎ出すドラマ、ずっとホノボノとユーモラスな場面の連続で私は笑みが溢れっぱなしだったのですが、最後の最後にホロッとさせてくれました。夏休みが終わりプールをひとり掃除する美波が、水につけたブラシでプールサイドに門司くんの名前を書くシーンがあるんです。その意味するところですよね。その行為に込められている彼女の心のうち。

これまでドラマをずっと観てきた観客からすると、もう〝あー、あれがここにつながるのか!〟という感じで、いやだから〝次の展開はきっとこうなるはずで!〟みたいなドキドキ感に包まれてしまうわけでして。私はここに来て涙腺が崩壊してしまいました。そして、そこからの猛ダッシュです。走る美波ちゃん、追いかけるキャメラ。自分の気持ちも彼女に伴走します!

校舎の一階から屋上まで美波ちゃんが階段を駆け上がっていく姿をワンカットの長回しで撮らえた疾走感が素敵すぎて、二人が出会う最初の階段の場面の多幸感が重なり涙ダダ漏れになってしまいました。階段をいっきに駆け上がる行為そのものが若さの特権で、これがこの時期の一瞬のキラメキであることが分かるだけに切なくて。そして、ここからの屋上でのラスト数分がまた青春映画でしたよ!

▼美波役の上白石萌歌さんの代表作になりそうです

学生にとって夏休みの経験というのはかけがえのないものですよね。夏休みが終わり、美波ちゃんが一回り大きく成長したように感じられました。書き忘れましたが、こちら原作コミックは未読です。私は沖田修一監督作品では「横道世之道(13)」が大好きなのですが、この「子供はわかってあげない」もまた好きな一本になりました。本作の美波ちゃんと門司くんは、「横道世之道」の祥子ちゃんと世之介でもありました。

これは上白石萌歌さんの代表作になりそうです。毒は全くありませんが、こういうのも私は好きなんですね。沖田修一監督作品が苦手でなければぜひご覧になっていただきたいです!

トシのオススメ度:4

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2 アレレ? もう一つでした
1 私はお薦めしません

この項、終わり。