竜とそばかすの姫 | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

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ジャンルや新旧問わずに週末に映画館に通っています。映画の感想から、映画がらみで小説やコミックなんかのことも書ければ。個人の備忘録的なブログです。

竜とそばかすの姫


2021年作品/日本/121分

監督 細田守

声の出演 中村佳穂、成田凌、染谷翔太


2021年7月22日(木)、TOHOシネマズ府中のスクリーン2で、8時30分の回を観賞しました。


高知県の自然豊かな田舎町。17歳の女子高生すずは幼い頃に母を事故で亡くし、父と2人で暮らしている。母と一緒に歌うことが大好きだった彼女は、母の死をきっかけに歌うことができなくなり、現実の世界に心を閉ざすようになっていた。ある日、友人に誘われ全世界で50億人以上が集う仮想世界「U(ユー)」に参加することになったすずは、「ベル」というアバターで「U」の世界に足を踏み入れる。仮想世界では自然と歌うことができ、自作の歌を披露するうちにベルは世界中から注目される存在となっていく。そんな彼女の前に、 「U」の世界で恐れられている竜の姿をした謎の存在が現れる(以上、映画.comからの引用)、という物語です。


四連休の初日の朝、今日は仕事のことを忘れてゆっくりしようと、カンヌで評判になったという細田守監督の新作アニメーション「竜とそばかかすの姫」を観てきました。新宿や渋谷は避けて電車で府中へ。朝早い回ではありましたが、まあまあ入ってました。座席は市松模様の状態でしたね。前情報を入れずに観たのですが、これは素晴らしいミュージカルでした。英語タイトルが〝Belle〟。これ「美女と野獣」なんですね。


なぜ母親は知らない子を助けたのか


高知県の田舎に住む17歳のすずは、幼い頃に母親と死に別れ、今は父親との二人暮らし。母親は増水した川の中の島に取り残されたよその子供を助けるために勢いを増す川に入り、その子を助けたものの自分の命を落としてしまったのです。彼女は、自分が泣いて止めたにも関わらず、川に入っていった母親のことをトラウマのように覚えて、忘れられないのでした。それ以来心の傷が癒えず、引っ込み思案な性格になってしまったすず。


この「竜とそばかすの姫」では、実はこのすずの母親にまつわるエピソードがキーポイントになっていて、大変重要な意味を持っています。〝U(ユー)〟と呼ばれる仮想現実の世界のなかへ〝ベル〟という名前のアバターとして参加をしたすずは、歌姫〝ディーバ〟として信じられないほどの人気を得ます。そして彼女もまた、自分に助けを求めている何者かを目の前にして、自分自身の命運をかけた選択を迫られるからです。


彼女はその時どういう行動を取ったのか。見ず知らずの者に対して、自分の全てを曝け出して手を差し伸べることができるのか。彼女の取った行動そして勇気は、〝U〟の世界に参加している50億というアバターの心を動かしていきます。その時、すずは理屈ではなく、母親の行動を心から理解するのですね。この利他の精神、自分ではなく他人のために何かをすることの必要性を、本作は今の世界に問いかけているかのようです。


▼17歳のすずは本当にどこにでもいそうな女子高生


見たことのない世界観に圧倒されて


何はともあれ、この「竜とそばかすの姫は、その仮想現実世界〝U〟の壮大な世界観に目を見張ります。本作の物語の舌足らずなところに不満を持たれた方も、この点については皆さん大いに認められるところではないでしょうか。その世界は、細田守監督の「サマー・ウォーズ(09)」を彷彿とさせますが、私には「バケモノの子(15)」のなかで、クジラが泳ぐ渋谷の世界を仮想現実世界に置き換えたという印象を持ちました。


そして、その〝U〟のなかで歌うディーバとしてのすず=ベル。そのダンス、歌の美しさ。次々と変化するコスチュームの見たことのないデザインも含めて素晴らしいのひとこと。歌が人々の心を癒し、世界を一つにするということに見事な説得力を持たせています。この〝U〟のなかと、現実の高知県の山間にある緑に囲まれた小さな町、この二つの舞台が「竜とそばかすの姫」の大きな魅力の一つだと言ってもいいのかと思います。


さらに皆さんお気づきのように、下敷きにしたであろう「美女と野獣」との共通性。すずの〝U〟のなかでのアバター名であるベルは「美女と野獣」のヒロインの名前ですね。薔薇の花によって魔法をかけられたかのような竜とベルのお城でのシーンも、記憶に残ります。本作でも、本当の姿を現す(unveile=ベールを脱ぐ)ことが、重要な意味を持っていますが、そこから現れた姿は王子様でもなく、お姫様でもないのですね。


▼仮想現実の世界で歌姫として注目されるベル


人生を肯定し前を向いて歩いていく


この「竜とそばかすの姫」がいい作品だなと感じるのは、色々とあっても人生に対して肯定的なところですね。「美女と野獣」では最初から歌を歌えるベルですが、母親の死をきっかけに歌を歌えなくなったすずが歌を取り戻し、人前で声を出せるようになるというお話。映画のオープニングとエンディングの間にある2時間の物語を通して、観客が前向きな気持ちになって劇場を後にできる、私はとても大切なことだと思います。


でもそれが決して声高に表に出てくるような感じになっていないんですよね。押し付けがましくないと言えばいいでしょうか。そこがいいと思います。加えて、この作品ではネット社会やソーシャルネットワークのなかで起きていそうな問題についても触れているのですが、そこもあからさまな描き方は決してしていないのですね。あくまでも世界をリアルに見せるひとつの仕組みとして機能させていて、そこに好感が持てます。


この作品を観ていると、日本のアニメーションのレベルというのは凄いものだなと感じます。今回は世界的に活躍する海外クリエイターも参加しているようですが、技術だけではなく、描こうとしている内容も高度です。なお、この作品は、映像に加えて音楽・音響も良いので、テレビでなく、ぜひとも環境の優れた最新の映画館でご覧いただきたいと思います。IMAX上映もあるそうで、私はそっちで観ればよかったと思いましたよ。


▼〝U〟のなかで危険人物として手配されている竜


声のほうは色んな方が出ておられるようですが、すずとベルの両方を演じた中村佳穂さん、映画の成功は彼女のキャスティングも大きいですね。なんと言っても、もともとシンガーソングライターということで、劇中の曲も全てご自身が歌っておられるということなのですが、心に響く歌声で本当に癒されるのです。これは凄かったですよ。もういちど映像とともに、この歌、歌声にどっぷりと浸りたい気分になりました。


本作は、「未来のミライ」に続き細田守監督ご自身による脚本です。奥寺佐渡子さんとの共同脚本を止めてから、話が少しいびつになっているところがあり、今回は特にすずと竜の関係性においてクライマックスに向けて強引さを感じるところがあります。でもそこを映像の素晴らしさで押しきっていきます。川沿いのラストシーンは、夏に観る映画に相応しい感じで、清々しく、ほのぼのとさせてくれました。


本当にいい映画だと思いますのでぜひこれは映画館でご覧いただきたいです。


トシのオススメ度:4
5 必見です!!
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3 良かったです
2 アレレ? もう一つでした
1 私はお薦めしません


竜とそばかすの姫、の詳細はこちら: 映画.com


この項、終わり。