男はつらいよ 50 お帰り 寅さん | アレレの映画メモランダム/休日は映画の気分

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ジャンルや新旧問わずに週末に映画館に通っています。映画の感想から、映画がらみで小説やコミックなんかのことも書ければ。個人の備忘録的なブログです。

男はつらいよ 50
お帰り 寅さん

2019年作品/日本/116分
監督 山田洋次
出演 渥美清、倍賞千恵子、吉岡秀隆

12月27日(金)、新宿ピカデリーのシアター2で、18時15分の回を鑑賞しました。

柴又の帝釈天の参道にかつてあった団子屋「くるまや」は、現在はカフェに生まれ変わっていた。その裏手にある住居では車寅次郎の甥である満男の妻の7回忌の法事で集まった人たちが昔話に花を咲かせていた。サラリーマンから小説家に転進した満男の最新作のサイン会の行列の中に、満男の初恋の人で結婚の約束までしたイズミの姿があった。イズミに再会した満男は「会わせたい人がいる」とイズミを小さなジャズ喫茶に連れて行く。その店はかつて寅次郎の恋人だったリリーが経営する喫茶店だった(以上、映画.comより抜粋)、という物語です。

何が凄いといって、なんと22年ぶりの新作ですよ。そんなシリーズ見たことがありません。私は大の寅さんファンという訳ではありませんが、チェックすると殆どの作品は映画館やテレビやDVDで観ていました。今や映画のなかのファンタジーでしかない〝とらや〟の家族やスクリーンに出てくる日本の風景だとか、好きなのです。

過去49作品を2時間で駆け抜ける〝寅さん記念館〟

葛飾柴又に「寅さん記念館」というのがありまして、私も数年前にいちど行ったことがあります。そこでは映画のなかの〝とらや〟のセットや、全作品のアーカイブを見ることができるのですが、映画の一作品(シリーズものですが)が、これだけの規模の記念館を持つというのは世界でも「男はつらいよ」だけじゃないかと。

この記念館は江戸川のすぐ側でまさに映画のオープニングの風景と繋がっているのですよね。見学していると、シリーズの背景にあった高度経済成長に始まる日本の状況が懐かしく思い出され、モニターで流されている作品中の寅次郎をめぐる名エピソードに笑い、若き日のマドンナたちの姿が感慨深くて、時間が経つのも忘れます。

今回、このシリーズ最新作というか番外編とも言うべき「お帰り 寅さん」を観ていて感じたのは、これは映画という形を借りた「寅さん記念館」ということでした。でも単に過去作のフィルムをつなげても芸がないので、そこに〝物語〟をきちんと作って今作る意味を持たせているところが凄くて、さすが山田洋次監督だなと。

▼娘から、なぜ再婚しないのかと聞かれ、とまどう満男

歳を重ねた人たちの若き日の輝きがそこにある感動

この映画では、満男のモノローグに被せてかつての寅次郎の姿や、〝とらや〟の様子が挿入されるのですが、それがもう感無量なのです。寅さんの口舌も楽しいですが、何といっても目の前にいる歳を重ねた人たちが、いちばん生き生きと輝いていた若い頃や、あどけない子供の頃の姿を見せられたら、誰でも泣けるのじゃないかと。

しかも当然ながらみんな本人です。そこに自分自身の人生を重ねずにはいられないじゃないですか。大人になって独立すると親のありがたみを実感しますが、〝ひろし〟は自分の父の姿であり、〝さくら〟は自分の母の姿でもあるのですよね。その二人が若い頃に出会い、満男=自分が生まれた。そんなことを考えていると、じわーっと涙が。

そして、〝とらや〟の内装や茶の間は、時代や高齢化に伴い少し変化はしても、そこに住んでいる人たちの人情だけは今も変わらないのですよね。多くの日本人が、憧れながらも様々な事情で実現できないでいる理想の家族のあり方。まるで久しぶりに訪れたディズニーランドで歓待を受けているかのような楽しさなのです。

▼何十年ぶりかで、くるまやを訪れたイズミの笑顔

いつのまにか寅さんの役割を果たしている満男

本作のドラマの軸は満男。妻に先立たれ娘とふたりで暮らしている〝作家〟の満男が、高校生の頃の恋人だった泉(イズミ)と再会するところから動きだします。満男が書店で自著のサイン会をしていたところへ、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の職員として日本に来ていたイズミが偶然そのことを知り、目の前に現れるのでした。

ふたりの心の中をフラッシュバックする高校生時代のイズミの姿、満男の姿。離れていても、ずっとふたりは繋がっているのですね。可能性はあったけれども成就しなかった恋愛。このふたりの関係性は、さしづめ寅さんとリリーのそれと対になっているものかと思います。寅さんは満男にとっての鏡の役割でもあるのですね。

実際にこの映画では満男は寅さんの役割を果たしているのですね。イズミに対して、彼女の母親のことでアドバイスする彼の姿を見ていると、あれは過去作における寅次郎の役割なのですよね。長い歳月を経て、彼のメンターだった寅次郎の影響を受けた彼自身が、二代目寅さんになったことを実感させてくれるのでした。

▼人は変わっても、いつも変わらないお茶の間の賑わい

昔、寅次郎は満男に〝愛を伝えないのは本気が足りない〟からだと満男を諭したことがあるのですが、満男はそんな寅次郎のことを〝自分はどうなんだ〟と切り返します。ファンにとっては懐かしいやり取りなのですが、今回、満男はさいごにやってくれるのですよ。とても奥ゆかしい感じではあるのですが、満男らしくて良かったですよ。

会社の同僚のバリーも〝年末最後に観る映画として満足〟と言っておりましたが、まさにそんな感じの作品。これで本シリーズは、昭和、平成、令和を跨ぐことになったのですね。映画のラストに、これまで出演したマドンナの姿がババババーっと出てくるのですが、その笑顔がどなたも素敵で、女優さんの名前をいちいち心のなかで叫んでおりました私です。

▼寅さん記念館の壁一面にマドンナたちの写真が



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