【ライヴ鑑賞】「知られざる名曲~ロマン派の調べ~」新日フィル室内楽シリーズ 楽員プロデューサー編 | クラシックCD 感想をひとこと

クラシックCD 感想をひとこと

学生時代から断続的に聞いてきたクラシックCD。
一言二言で印象を書き留めておきたい。
長い文章だと、書くことが主になってしまう。
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新日本フィルハーモニー交響楽団の室内楽シリーズ。今回は、コントラバス奏者の城満太郎さんのプロデュースによるプログラムで、ロマン派のコントラバスの入っている室内楽作品が2曲となっています。メンデルスゾーンという名前に惹かれるのですが、この曲は作品番号は大きいのは没後に出版されたためで、作曲時期はあの弦楽八重奏曲よりも前になる、1824年、メンデルスゾーンが15歳の若き日の作品です。それはそれで面白そうなのですが、どちらかというと、聴く前に興味を抱いていたのはもう一つの作品。ルイーズ・ファランクのピアノ五重奏曲なのでした。

 

ルイーズ・ファランクは、アントン・ライヒャに教えを受けた女性作曲家でありピアニスト、そして教育者でした。1804年生まれといえば、ベルリオーズの1歳年下で、女性作曲家という意味では、ファニー・ヘンゼルの一つ年上に当たります。1842年38歳の時に女性として初めてパリ音楽院の教授に就任。その職を1872年までの30年間務めました。多数のピアノ曲と、多彩な室内楽曲、そして交響曲を3曲残しています。作風は、ウィーン古典派の流れを汲み、そこからロマン派の音楽に発展させていったもので、同時代のドイツのロマン派作曲家と同じ道を独自に進んだと言えるのでしょう。

 

同時代の女性作曲家である、ファニーやクララがいろいろと女性的なエピソードを残しつつ華々しく語られるのに対し、ルイーズ・ファランクは極めて実直といいますか、そこはあまり語られず、エピソードとしてWikiにあるのは、同じ教授職にありながらの男性教授との給与格差に関して長年戦い続け、1850年の九重奏曲がヨアヒムの出演を得て成功したおりに評価がやっと上がり、1852年にやっと給与格差を解消したことがメインで書かれていました。

 

長らく作品は忘れられていましたが、近年忘れられた女性作曲家の発掘の動きもあって、演奏機会も増え、録音も増えてきているようです。ロマン派の歴史の中の一人の作曲家としても大変興味深く、期待して会場に行きました。

 

◆プログラム
①ファランク:ピアノ五重奏曲第1番 イ短調 op. 30
②メンデルスゾーン:ピアノ六重奏曲 ニ長調 op. 110

 

演奏:西江辰郎(vn)、脇屋冴子(va)、日髙夕子(va)、サミュエル・エリクソン(vc)、

   城満太郎(cb)、岸美奈子(p)

2024年5月13日 すみだトリフォニーホール

 

トークでは、城さんが選曲の経緯を語られました。ファランクが先に決まり、もう一曲は編成が似ていて演奏機会の少ないメンデルスゾーンにしたとのこと。コントラバス奏者による選曲とはいえ、今回はコントラバスが前面に出るというよりは、堅実に下支えする曲を選ばれたようです。メンバーは、コンマスの西江さんに加え、フォアシュピーラークラスの方が並んでいます。

 

一曲目のファランクの曲は、さすがに古典派に造詣が深く、またピアニストであったというファランクの特徴が出ている曲で、しっかりした古典的構成の中にロマンティックなメロディや装飾が織り込まれた素晴らしい曲だと思いました。ピアノもキラキラと活躍しています。作りとしてはユニゾンとソロが目だつ感じで、あまり凝ったという感じではないと思いますが、チェロの美しいソロで始まり、ヴィオラのソロも登場する第二楽章などはとても美しい音楽だと思いますし、他の楽章も造形美の中にロマンが散りばめられた感じの美しい曲で、他の作品もいろいろと聴いてみたくなりました。

 

ロンドン・シューベルト・アンサンブルによる録音です。

 

メンデルスゾーンの曲はヴィオラを加えた編成で、弦楽は中低音を厚くして、その分高音域でピアノが活躍する様です。ピアノ協奏曲とまでは行かないとは思いますが、そちら寄りの音楽かもしれません。細かい仕掛けはファランクの曲より既に凝っていると思います。明るく楽しい曲で、演奏効果も素晴らしい曲だと思いました。時々聴いてみたくなる曲でした。

 

メンデルスゾーンのピアノ六重奏曲の、ユジャ・ワンたちによるライヴ映像です。

 

新日フィルの演奏は、暖かい音でゆったりと歌うような素晴らしい演奏だと思いました。そして、ピアノの岸さんは大活躍だと思います。こういった編成では後ろに配置されているので、視覚的にあまり目立たないですが、終始早いパッセージでピアノの音が響いている感じでした。この2曲とも、かなりピアノのウェイトは高いですね。めったに聴けない曲が、素晴らしい演奏で聴かれて良かったと思います。

 

アンコールは、シューベルトの「ます」の第四楽章でした。メンデルスゾーンの後で演奏されましたので、ヴィオラが1枚多くなっていました。アンコールらしく、楽しい演奏だったと思います。