ショスタコーヴィチ:バレエ組曲第1番~第4番 ヤルヴィ スコティッシュ・ナショナルo(1988) | ~Integration and Amplification~ クラシック音楽やその他のことなど

~Integration and Amplification~ クラシック音楽やその他のことなど

学生時代から断続的に聞いてきたクラシックCD。一言二言で印象を書き留めておきたい。その時の印象を大切に。
ということで始めました。
そして、好きな映画や読書なども時々付け加えて、新たな感動を求めていきたいと思います。

ショスタコーヴィチの時代 ㊱

バレエ組曲は、1949年から1953年にかけて編曲され、その第1番から第3番までは、ショスタコーヴィチ自身の選曲により、アトヴミャーンが編曲したもの、第4番はアトヴミャーンによる編集とされています。元の曲は「明るい小川」がかなりの部分を占めています。

【CDについて①】

作曲:ショスタコーヴィチ

曲名:バレエ組曲第1番(アトヴミャーン編)(13:34)

   バレエ組曲第2番(アトヴミャーン編)(19:38)

   バレエ組曲第3番(アトヴミャーン編)(15:46)

演奏:N.ヤルヴィ指揮 スコティッシュ・ナショナル管弦楽団

録音:1988年4月22-26日 グラスゴー City Hall (No.1)、Henry Wood Hall (No.2,3)

CD:CHAN 8730(レーベル:Chandos)

 

【CDについて②】

作曲:ショスタコーヴィチ

曲名:交響曲第10番ホ短調op93(53:02)

   バレエ組曲第4番(アトヴミャーン編)(12:50)

演奏:N.ヤルヴィ指揮 スコティッシュ・ナショナル管弦楽団

録音:1988年5月12日 ダンディー Caild Hall

CD:CHAN 8630(レーベル:Chandos)

 

【曲と演奏について】

ジダーノフ批判の期間中は、ショスタコーヴィチは愛国的な合唱曲や映画音楽などを発表し、自らの欲求に基づいて作曲した純音楽的な作品は、完成しても封印されていました。そんな流れの中で、過去のバレエ音楽の中から選曲し、盟友のアドヴミャーンがコンサートでのオーケストラ演奏用に編曲したこれらの曲は、非常に理解しやすい大衆的なメロディで、耳障りの良い音楽なのでした。

 

という風に理解すると、大衆用の娯楽作品を用意したようにも見えますが、この選曲は歴史的に見て大いなる皮肉を含んでいるように感じられます。というのは、ショスタコーヴィチの主要なバレエ音楽と言えば、「黄金時代」「ボルト」「明るい小川」ですが、前2者が体制への強烈な皮肉を含んだ物語で、アヴァンギャルドな曲になっているのに対し、「明るい小川」は比較的平易なメロディで、ロシアの伝統に根差した、体制寄りの曲調とも捉えられなくもないですね。そんな中で、ここで選ばれた曲は半数以上が「明るい小川」からとられ、まさに「明るい小川」の再現になっています。

 

実際、「ボルト」の曲は「明るい小川」にも埋め込まれて使われたという事もあり、良く目立つ曲でもありますが、この組曲も「ボルト」が少しだけ埋め込まれています。そして、そんな「明るい小川」は、大粛清時代の生涯最悪の「プラウダ批判」の名目上の矢面に立った曲でもあります。そんな矛盾もはらむ歴史を「ジダーノフ批判」にぶつけていること自体が、ショスタコーヴィチの皮肉と思えます。そして、ショスタコーヴィチがこれを許されて、当時のソ連で一線を越えない範囲で活動している様子は、寧ろショスタコーヴィチにはこれが許される権威と環境をスターリン時代でも維持していたという風にも思ったりします。

 

曲の構成は以下の通りです

第1番

1.リリック・ワルツ(明るい小川)
2.ダンス(明るい小川)

3.ロマンス(明るい小川)

4.ポルカ(明るい小川)

5.ワルツ・スケルツォ(ボルト)
6.ギャロップ(明るい小川)
第2番
1.ワルツ(明るい小川)
2.アダージョ(明るい小川)

3.ポルカ(ジャズ組曲第1番)

4.感傷的ロマンス(司祭とその下男バルダの物語)

5.春のワルツ(ミチューリン)

6.フィナーレ(明るい小川)

第3番

1.ワルツ(人間喜劇)

2.ガヴォット(人間喜劇)

3.ダンス(明るい小川)
4.エレジー(人間喜劇)
5.ワルツ(明るい小川)
6.ギャロップ(明るい小川)

第4番
1.前奏曲・変奏曲(明るい小川)
2.ワルツ(団結(大いなる河の歌))
3.スケルツォ(ボルト)

 

見事に、「明るい小川」を中心にしてくみ上げられていますね(笑)。

 

さて、演奏はN.ヤルヴィで、この時期にショスタコーヴィチの管弦楽作品をたくさん録音しています。活動は前半はChandosで、後半がDGと別れています。当時は、ショスタコーヴィチの音源の貴重な供給源であったので、いくつか買い求めました。このCDもその中の物です。アトヴミャーンの編曲という事で、バレエ原曲よりは、より演奏効果をより表に出した感じがします。もともとの曲調自体が当時のポップスやジャズを取り入れたものがあるので、それに演奏効果が加わると、ボストン・ポップスなどが演奏しても十分に映える曲になっていますね。楽しいCDです。

 

このCDはおまけに、交響曲第10番がついています(オマケではない…?)。私は当時この演奏を気に入っていて、まだショスタコーヴィチの演奏と言えばソ連ものが中心だった時代に、こういった国際的な演奏スタイルで、ショスタコーヴィチの曲を思想や感情とは別のところで、純音楽的に見通して解釈した演奏がとても新鮮でした。当時繰り返し聴いた愛聴盤の1枚です。もちろん、今聴いても、高いレベルで通用する演奏だと思います。

 

購入:1993/10/06(CHAN 8730)、1993/10/11(CHAN 8630)年

鑑賞:2024/03/31(再聴)

 

リンクは、過去のショスタコーヴィチのバレエ音楽から