最近リリースされた新譜から ㉑
スティーヴン・オズボーンによるドビュッシーのピアノ曲集を買ってみました。スコットランドのピアニストで、ハイペリオンレーベルに数々の録音を続けられています。聴くのは初めてと思いますが、そこそこ評判も良さそうなので楽しみに聴いてみます。
【CDについて】
作曲:ドビュッシー
曲名:練習曲集 L143 (43:18)
ピアノのために L95 (12:35)
レントより遅く L128 (3:45)
英雄の子守歌 L140 (3:50)
発見された練習曲 L143 No11第1稿 (4:18)
演奏:オズボーン(p)
録音:2021年8月4日,2022年12月7-9日 ロンドン St.Silas the Martyr, Kentish Town
CD:CDA68409(レーベル:Hyperion、販売:東京エムプラス)
【曲について】
練習曲集はドビュッシー晩年のピアノ曲集で、ショパンの練習曲集の校訂に取り組んだ後に作曲されたとのことですが、楽曲そのものの明確な関連性はあまり無いようです。全12曲は前後半それぞれ6曲ずつで構成され、第1部は「指の柔軟性とメカニズム」に、第2部は「響きとリズムの探究」となっています。調性はある程度便宜的で、各曲ごとに練習目的が題名となっています。
【演奏について】
ドビュッシーの練習曲は、CDは持ってはいるものの普段はほとんど聴かない分野でした。ドビュッシーのピアノ曲と言えば、どうしても有名な表題付きの曲を聴いてしまいますし、ドビュッシーの名曲集なんかにも、練習曲はまず入ってくることはないようです。そんな曲でちょっと敷居が高そうではありますが、初めて聴くオズボーンのピアノと併せて楽しんでみたいと思います。
最初の曲は、ちょっとパロディっぽい始まりで音階が奏され、その後すぐに一気にドビュッシーの世界へと入っていきます。なかなか刺激的な開始でした。この曲は、曲毎に練習のテーマが題名となっていますが、そんな、無機的な表題とは裏腹に、曲の雰囲気はまさしくドビュッシーのもの。かなりの技巧曲の雰囲気もあり、これを弾きこなすのが、ドビュッシーのピアノ曲を弾きこなすための練習だといった事を感じさせます。ドビュッシーが晩年に残した、ドビュッシーの音楽技法の総決算ということかもしれません。
ここでは、オズボーンの弾くドビュッシーの「夢」をリンクしておきます。
さて、オズボーンの演奏は強い明確なタッチで、この練習曲にある、純粋な音楽の芸術性を浮かび上がらせていると思います。情緒や雰囲気には頼らず、彫りの深いはっきりした演奏で表現しているところが、なんとも潔く爽快で、押しの強さを感じました。練習曲にの後に収められている「ピアノのために」を練習曲から続けて聴くと、技巧的な部分が際立って聴かれると同時に、2つの激しい動きを持つ曲に挟まれたサラバンドに澄んだ情緒を感じます。このCDには普段はめったに聴かない曲が収められていますが、オズボーンの演奏で改めて聴いて、ドビュッシーのピアノ曲をまた違う角度から体感した次第です。
【録音について】
クリアな録音で、強靭なピアノの音も無理なく自然に聞こえるものです。
【まとめ】
ドビュッシーも曲と言えば、情緒たっぷりに演奏されることも多いですが、オズボーンの演奏はストイックな方ではないかと思います。そういう意味ではイギリスのドビュッシーという事かもしれません。今回はドビュッシーのピアノを味わう上でも一つの形を体験できた気がして、ドビュッシーのピアノを聴くうえでいい経験になったと思います。
購入:2023/11/10、鑑賞:2023/12/24