【新譜】リムスキー=コルサコフ 歌劇「クリスマス・イヴ」 S.ヴァイグレ フランクフルト歌劇場 | ~Integration and Amplification~ クラシック音楽やその他のことなど

~Integration and Amplification~ クラシック音楽やその他のことなど

学生時代から断続的に聞いてきたクラシックCD。一言二言で印象を書き留めておきたい。その時の印象を大切に。
ということで始めました。
そして、好きな映画や読書なども時々付け加えて、新たな感動を求めていきたいと思います。

最近リリースされた新譜から ⑳

【CDについて】

作曲:リムスキー=コルサコフ

曲名:歌劇「クリスマス・イヴ」 (146:51)

演奏:ヴァクーラ:ゲオルギー・ヴァシリエフ (t)
   オクサーナ…ユリア・ムジチェンコ (s)
   ソローハ/紫色の鼻の女…エンケレイダ・シュコーザ (ms)
   チューブ…アレクセイ・ティホミーロフ (bs)
   悪魔…アンドレイ・ポポフ (t)
   パナス…アンソニー・ロビン・シュナイダー (bs)
   村長…セバスティアン・ゲイアー (br)
   輔祭…ピーター・マーシュ (t)
   女帝…ビアンカ・アンドリュー (ms)
   パツューク…トーマス・フォークナー (bs)
   普通の鼻の女…バルバラ・ツェヒマイスター (s)
   フランクフルト歌劇場合唱団(合唱指揮:ティルマン・ミヒャエル)
   フランクフルト歌劇場管弦楽団
   セバスティアン・ヴァイグレ(指揮)

録音:2021年12月17-19日,2022年1月8日 フランクフルト Oper Frankfurt

CD:8.660543-44 (レーベル:NAXOS)

 

【曲と演奏について】

クリスマスあたりにどうか…と思って、先だって出た様子の新譜を買っておいたのでした。ただ、この録音はDVDやBlu-rayもでています。鑑賞するなら圧倒的にあちらが有利です。CDだと、歌詞すらついてない…。ロシア語歌唱なんか解る訳ないやん…。

 

という訳で、鑑賞にあたって用意したのは、まずあらすじを読むためのWikiのあらすじの翻訳。これは、日本版より海外版Wikiの方が詳しい。ドイツ語・英語・ロシア語をざっと見て、ドイツ版Wikiのパソコン和訳が一番読みやすかったので、それにしました。

幸い、ブックレットにはトラックの内容表記くらいはついているので、今、どの場が進行中かくらいはわかります。

そして、もう一つ用意したのが↓。これ、原作本なんですが、1994年に買っていたものの、1937年の初版本の復刊なので、読みづらくて、買ってそのまま積んであったのが、30年ぶりに陽の目をみました(笑)。哥薩克とかすんなり読めない。(慣れですけどね)。今回は、飛ばし読みしています…。

という訳で、この3つを駆使しながら、内容を理解しました。

原作は、このゴーゴリ作の「ディカーニカ近郷夜話」の中にある、「降誕祭の前夜」という中編小説です。平たく言えば、クリスマス・イヴですね(笑)。

 

ちなみにこの「ディカーニカ近郷夜話」は、8編のウクライナの中部の伝承や民話という形式の物語で、悪魔や魔法使いが出てくるお話は、独特の世界観があって、ロシアの文化の淵源という形でいろいろな出し物の原作になっています。

この、「降誕祭の前夜」は、チャイコフスキーの歌劇「鍛冶屋のヴァクーラ」の原作であり、またチャイコフスキーはこれを、歌劇「チェレヴィチキ」として、改作しています。リムスキー=コルサコフは、この「クリスマス・イヴ」以外に、歌劇「五月の夜」も、この小説集からオペラ化しています。バレエではアサフィエフが「クリスマスの夜」を作曲しています。その他、映画はたくさんです。このゴーゴリの作品とその周辺だけでも、なかなか興味深いものです。

 

さて、聴いてみましょう…。

リムスキー=コルサコフ作曲 歌劇「クリスマス・イブ」フランクフルト歌劇場のライヴ録音です。

 

第一幕第1場

前奏曲

クリスマスらしい前奏曲で、ハリウッド映画にでもはじまる感じです。チェレスタを使って雰囲気を出しているのですね。

 

未亡人で魔女のソローハは、ほうきに乗って小屋の煙突から飛び出し、冬至の夜のことを歌います。悪魔が屋根の上で彼女と一緒になり、彼は、人々がもはや彼を恐れないことを嘆きます。ソローハの息子である鍛冶屋のヴァクーラは、特に彼を嘲笑していました。ソローハは、悪魔が息子とオクサーナの恋を止めるのを手伝うなら、問題を解決すると約束します。彼女は、裕福なコサックであるオクサーナの父親のチューブに興味を持っていました。ソローハと悪魔は、ヴァクーラのイヴの外出を防ぐために、空から月と星を盗み、吹雪を引き起こします。

 

チューブは相棒と、あるお祝いに出かける途中で、ヴァクーラは、家に一人でいる最愛のオクサーナのところへ行こうとしていました。ヴァクーラはオクサーナの気持ちが計り知れずにドアの前で迷っていましたが、そこで嵐で引き返してきたチューブと出会い、チューブは暗闇で家が判らずヴァクーラに追われてソローハの家へと向かいます。

このあたりは、状況設定です。よく理解しておきたいところです…。

第1幕第2場 チューブの家の中

若く美しいオクサーナは、子供のように自分の姿を賞賛しています。

なんだか、ハラショーを連発するアリアが聴かれます(笑)。

 

ヴァクーラは勇気を振り絞って中に入ります。しかしオクサーナは彼の求愛にあまり興味を示さず、彼をからかって、退屈だと言い放ちます。友人が新しい靴を持って入ってくると、オクサーナは笑いながら、ヴァクーラが女帝の使う靴を持ってきてくれたら結婚してもいいわと宣言します。このいたずらは、外で集まっていた村の若者たちの間にすぐに広まっていきます。

これで、お話の筋が決まりました。さぁ、どう展開していくでしょう…。


第2幕第3場 ソローハの家の中
ソローハが悪魔と楽しんでいると、村長、輔祭、チューブなど、求婚者が次々とソローハの家に入ってきて、次の客が来ると、前の客は鉢合わせを避けるため、部屋の中の大きな石炭袋に隠れていきます。

この、ソローハとの会話?や音楽がなかなか滑稽です。映像と対訳がないので、いったい何をしているんだろうと思いつつ、「ムツェンスク郡…」のあの夜の密会の音楽を思い出してしまいました。ここではそんなことはしてないでしょうが、滑稽な音楽になっています。

最後に到着したヴァクーラは、その皆が入った石炭袋を鍛冶場に運んでいきます。

第2幕第4場 村の通り、ヴァクーラの鍛冶場
ヴァクーラが通りで袋を降ろすと、クリスマスキャロルを歌う若者たちに出会い、オクサーナは靴のことで再び彼をからかいます。彼は悲しく別れを告げ、鍛冶の道具だと思った、最も小さな袋だけを持って立ち去ります。皆はヴァクーラの行動を不思議に思い、普通の鼻の女と紫色の鼻の女は、ヴァクーラは自殺するのだと言い張ります。オクサーナは一瞬考え込みますが、すぐに友人たちに向き直ると、皆で残っている袋を大喜びで開けます。しかし、そこには期待していた宝物はなく、ソローハの恋人たちが入っていました。ソローハの恋人は自分だけだと思っていたチューブに、群衆は爆笑します。
さて、ヴァクーラはもうこの世では合わないというような感じで、思い詰めてオクサーナに別れを告げました。オクサーナに一瞬迷いが生じます。

第3幕第5場 パツュークの小屋
ヴァクーラは太った魔術師のパツュークに、女帝の靴を得るための助言を求めに小屋に入ります。ヴァクーラは靴を手に入れるためには、悪魔の助けに頼ってもいいと話すと、パツュークは、悪魔は既にヴァクーラが背中に背負っていると話します。悪魔は袋から出ると、ヴァクーラが悪魔に魂を渡すなら助けると話します。ヴァクーラは承諾しますが、すぐに悪魔の隙をついて十字架の印を使い、悪魔を従えると、ペテルブルクの女帝の元に連れていくよう強要します。
このパツュークという魔法使いは、ドアから出られないほど太って、食事も魔法を使って食べ物がかってに口に入ってくるようにしているようです。怠惰の塊といった感じです。面白いキャラクターです。

第3幕第6場 大空、月と星

前奏曲
ここは、空を行く場面になります。前奏曲はキラキラした音楽が展開します。これぞクリスマスの飛行なんですね。ここでは星のゲームや踊りが展開する一方で、クリスマス前夜の闇夜に集ってお祝いをする悪魔たちが描かれています。それをヴァクーラたちが十字架の力ですり抜けて進むのですが、この歌劇の名場面となっているようです。リムスキーコルサコフの管弦楽もひとつの見せ場となっています。原作ではあっさり書かれていますが、リムスキー=コルサコフの歌劇では、見せ場とばかりに展開しているようです。

夜通しの飛行中に、ヴァクーラは星のゲームや踊りをみます。パツュークやソローハなどの魔女や魔術師たちは、冬至の夜を祝い、光の神々との戦いに備えます。彼らはヴァクーラに気づくと止めようとしますが、十字架のしるしに道を譲らざるを得ません。遠くには都の明かりが見え始めています。

 

フランクフルト歌劇場の悪魔の集いの場面です

 

第3幕第7場 宮廷
廷臣たちが女帝に敬意を表す中で、ヴァクーラはザポリージャ・コサックのグループに加わり、彼らと共に女帝の前にやってきました。ヴァクーラはこの機会に女帝に靴を所望し、愉快な依頼に驚き面白がった女帝は、最も美しいペアをヴァクーラに渡しました。さっそくヴァクーラは悪魔に指示して故郷に戻ります。

この宮廷の場面は一転ゴージャスな音楽や舞曲が出てきます。原作では比較的長くとられており、エカテリーナ2世やポチョムキンなど実名が登場しますが、オペラでは当時はまだ帝政の時代でもあり、憚りがあったようです。

第3幕第8場 大空
夜が明けると、悪魔や魔術師たちは去っていき、その未明の空をヴァクーラは飛んでいきます、すでに、明けの明星をはじめ光の精霊たちの世界となり、教会の鐘が鳴り響き、故郷では歌声が響き渡っています。

夜明けになると、今度は輝かしい音楽に変わります。この第3幕は、全曲中でもリムスキー=コルサコフの見せ場になっています。組曲版はこの第3幕の音楽が多くの採用されています。

そして夜が明けると、クリスマスの日です。


第4幕第9場 チューブの屋敷
オクサーナはとても心配になります。目の前では二人の女性がヴァクーラの死について、自分の意見を言い争っています。

この口論の描写は、なかなか面白いやり取りの音楽になっていました。

 

オクサーナはヴァクーラへの愛に気付き罪悪感に苛まれます。

大変美しいアリアです。女声のアリアとしては、この歌劇の中の白眉だと思います。

 

そこへ本人が帰ってきます。父親のチューブにもプレゼントを渡したあと、ヴァクーラはオクサーナに女帝の靴を差し出します。彼女は喜んで結婚に同意し、靴ももう必要はありませんでした。チューブは村中に朗報を知らせ、誰もがヴァクーラの帰郷を喜びました。
ここで物語としては完結です。

エピローグ ゴーゴリを偲んで
毎年クリスマスに語り継がれる。詩人ゴーゴリを讃える歌で大団円となります。

 

はい、最後まで来ました。リムスキー=コルサコフのコミカルで輝かしい管弦楽も楽しめる、ロシアの民話でのクリスマスのお話でした。こういった、ロシアの歌劇は聴く機会は少ないですが、なかなか面白いものがあると思います。

 

ゴーゴリはウクライナ中部地方の出身で19歳でペテルブルグに上京しました。この小説には、かつてのこの地方の風物がいろいろと出てきます。聴きなれた地名となってしまったサポリージャなども小説中には出てきますが、再び平穏な日々が戻ることを願っております。

 

購入:2023/11/10、鑑賞:2023/12/12