ブルックナーを聴こう第2部
~巨匠たちのブルックナー⑨~
第9回:ロブロ・フォン・マタチッチ
今回は、マタチッチの演奏を聴いてみたいと思います。マタチッチがいろいろな面で巨匠であるという評価は少々異論がありそうな気がしますが、少なくともブルックナーの演奏や日本での評価から見た場合、巨匠に列するのもいいのではないかと思います。これは、マタチッチと関係の深かったチェコ・フィルとの録音です。
【CDについて】
作曲:ブルックナー
曲名:交響曲第7番ホ長調 初版 (68:53)
演奏:マタチッチ指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1967年3月27-30日、プラハ 芸術家の家
CD:COCO-73076
(レーベル:Supraphon、発売:コロムビアミュージックエンタテインメント)
【曲について】
第7番は、第4楽章が短いことが問題点として評されることがありますが、そのような名曲はほかにもいろいろ思いつきます。全体の構成に比較して第4楽章が短いと感じるのは、シューベルトのピアノソナタ第21番とか、ショパンのピアノソナタ第2番とか(これは極端ですが)…。そのような名曲は前の楽章が、全てを語りつくしたような名曲になっています。ブルックナーのこの曲の第一楽章と第二楽章。素晴らしいです。
【演奏について】
ロブロ・フォン・マタチッチは、第二次大戦時前後に政治信条などから不遇となっていた指揮者で、戦後になって東欧を中心に活躍した、クロアチア出身の指揮者。日本に度々来日しており、その時の演奏も近年いろいろとリリースされました。このCDは、当時マタチッチと関係の深かったチェコ・フィルとの演奏による、スプラフォンへの録音で、長く名盤として聴き継がれているCDです。
いつも期待して神妙に聴き始めるブルックナーの第7番の冒頭。この演奏はまさに悠然と始まります。弦の明るい音色や管楽器の渋い音色の対象が印象的で、意外に色彩豊かな音色に包まれます。滑らかに進行していく序奏部は、ゆっくりと盛り上がっていき、チェコ・フィルの美しい音で、細部まで克明に表現されていきます。そして、首部に入るてまえで大きく減速していくニュアンスがなかなか効果的です。第一楽章は、ゆっくりしたテンポの中で、曲の美しさが堪能できる名演奏です。美しい旋律を美しく表現する演奏は、聴かせ方がとても上手いと思います。緻密に作り上げられた、美しい構造物のようです。
第二楽章に入っても、同じようなゆっくりしたテンポと雰囲気で、曲は大河のように流れていきます。そして、最後はゆっくりと何度も大きな波が打ち寄せるように、かなり爆発的に盛り上がっていきます。これが大変迫力がある演奏になっています。第三楽章、スケルツォ楽章でテンポは上がりますが、相対的なテンポの雰囲気はあまり変わらない感じです。スケルツォ部分の演奏は、意外と強いアクセントのキレのいい演奏だと思います。
第四楽章も、引き続きダイナミックな雰囲気の演奏だと思います。時々強めのアクセントもつけながら、全体的にパワフルに展開していきます。チェコ・フィルは、音も美しい上になかなか力強い演奏をしていると思います。マタチッチの演奏は、その体躯も大きいのですが、演奏も圧倒的は巨大かつ精緻な構築物といった感じのブルックナーで、少し長めの演奏時間をじっくりと堪能できるものでした。
【録音について】
当時のスプラファンの音は、自然でバランスや臨場感がとてもいい録音だと思います。細部から全体感まで、よく捉えられた優秀録音になっています。
【まとめ】
マタチッチの演奏は、この曲の美しさや構造を克明に構築した巨大な感じのする演奏でした。この演奏を聴いていると、まさに巨匠の演奏という感じがします。
購入:2013/02/11、鑑賞:2023/10/20(再聴)