第27話「与那国島雷鳴事件」(沖縄県与那国島) | 地鶏

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「与那国島雷鳴事件」

 

沖縄県那覇港近くの公園で出会った田中くんと石垣港へ。

翌日、早速、日本最西端の島である与那国島へ行くことにした。

石垣ー与那国間のフェリー「よなぐに」は、週2便運航していた。

石垣島離島桟橋より与那国島へ出港。

4時間の船旅。

竹富島、小浜島、西表島、鳩間島と順に離島が流れていく。

 

 

与那国島は東京から1900㌔、石垣島から117㌔の距離がある。

そして隣国の台湾まで111㌔という本当に日本の端っこである。

与那国島は断崖絶壁が多く荒々しい。これまで幾多の台風強風烈風スコールで海岸線が削り取られ、男らしい感じがする島だった。

 

 

島の周囲は27㌔ほどで人口は1500名程度。

島は久部良、比川、祖納の3つ集落で成り立っている。

フェリーは週に2便しか運航していないので、5泊する事になる。

拠点は島の南部に位置する比川浜キャンプ場とした。

 

南洋の心地いいぱいかじを全身で感じることができる、見晴らしのいい原っぱのど真ん中にドカーンとテントを張った。

「ぱいかじ」とは、南風のことで、沖縄では幸せを呼ぶ風なのだそうだ。一方、漁師たちはこれが吹いた場合、天候の変化の兆しとして警戒する。

そんなことも知らないバカ旅二人組は、遠浅の比川浜が見渡せる絶景スポットを「二人占めだ〜、この絶景はオレたちのものだ」などと日本最西端を制した喜びを分かち合いながら、せっせとテント設営などをして5泊する拠点づくりに励んだ。

田中君と並んでテントを張り、簡単なキャンプ料理を済ませ、それぞれのテントで就寝した。

 

 

その夜、事件は突如やってきた。

深夜2時頃、凄まじい強風で目が覚める。

テントを揺らす風の強さでない。

風の音に起こされたのだ。

山の方角から「ヒュー、ヒュー」という音を立てて風が、海の方に抜けていくのがわかる。

次第にその風音が大きくなりテントを襲う。

この風の7回の内1回ぐらいはとてつもない突風がやってきて、テントをぶっ飛ばす勢いなのだ。

テントを固定しているペグが根こそぎ取られ、強風にあおられ、宙に浮きそうになった。

僕のテントは、モンベルムーンライト3型というドームタイプで2畳ほど広さがある。

荷物一式で約20㌔ほどと俺の体重約70㌔が宙に浮きそうなぐらいの強風が続く。

同時に突風をともなった大粒の雨が轟音とともに降り注ぎ、テントはたちまち右に左にかしぎ、巨大粒の豪雨があっという間にあたり一面を水浸しにしていった。

 

「なんだ、どうしたんだ」

 

と突然の天候の変化に戸惑う。

戸惑っているのは隣の田中君も同じだった。

隣のテントのヘッドランプの光が、サーチライトのように右に左に激しく動いている。

ヘッドランプとはその名の通り、頭の額のところにくくりつけるランプだ。

せわしなく動き回るヘッドランプの光が事の緊急性を物語っていた。

 

「ドガドガバリバリバリッ」

 

閃光とともに近くに雷の落ちる音がした。

烈風は勢いを増し、テントの隙間から入り込んでくる突風によって内側から大きく膨らみ、空中に持ち上げられそうになる。

 

「あかん、ヤバイ、田中君大丈夫か」

 

思わず隣の田中君にわめいた。

 

「しんじさん、大丈夫ですか」

 

田中君のヘッドランプの光芒がせわしなくテントの中を走り回っていた。

雷鳴が急速に接近してきた。

少し前までは稲妻の閃光が走って一呼吸おいてから爆音が鳴り響いていたのが、次第にその間隔が短くなってきている。

ピカッと閃光が弾けるとストロボ効果のように隣テントのヘッドランプが一瞬静止する。

それから間髪入れずに「バリバリバリッ」と突風と豪雨を引き裂くように雷鳴が突っ走り、すぐ近くにドカーン、ドカーンと落ちてくるのだ。

その都度、隣のヘッドランプは一瞬静止し「ヒィエー、ヒィエー」と小動物が絞め殺されるような声が聞こえてくるのだ。

 

「田中君、テントが飛ばされそうや。」

 

俺はクモのようにピタッと床面に這いつくばって飛ばされないようにしながら隣のテントを心配した。

 

「シンジさん、ポールを抑えた方がいいかもですよ」

 

田中君は冷静にこんな状況の中でもナイスなことを言う。

ポールとはテントの支柱でこれが外れたり折れたりするとテントが崩壊してしまう。

絶え間なく吹き付けてくる烈風と豪雨の音にかき消されながらも俺たちはこの局面を耐え忍んでいた。

すでにテントの上のフライシートは烈風でまくり取られ、雨水もテント内に侵入していた。

雷鳴が轟く中、気づかなくてもいいことに気づいてしまった。

 

「田中君、ポールを押さえるのはいいけど、このポールは伝導体と違うか。水に濡れたポールなんか、避雷針やど。雷が落ちたら終わりや。」

 

と俺はわめいた。

 

「ワ~、ヒィエ〜」

 

冷静を装っていた田中君が再び、動物が絞め殺されるような声を上げた。

バリバリバリドドーンとすぐ近くで炸裂音がして同時にピリッと空気を震わせ閃光が走った。

閃光が走るたびに隣のヘッドランプは、一瞬静止し、ヤギが締め殺されるような声が連呼された。

数時間に及ぶ長い長い格闘が終わった。

 

我々は与那国の自然の脅威を目の当たりに、翌朝にはテント設営場所を見晴らしの良い一等地から、安全な林の木陰に変更したのだ。

肉食動物から草原を逃げ回る小動物に格下げされた気分になったが、あの恐怖はもう2度と味わいたくない。俺たちは完全なる敗北感を味わったのだ。

 

男ってやつは、想定外の出来事に遭遇した時、腹を決めて受け入れなければならない。

それだけで一回りも二回りも大きな人間になれる。

男を磨くとはそういう事だ。

 

何事も一回経験していれば対処しやすい。

ゼロと一との差は大きいのだ。

与那国島雷鳴事件から学んだ教訓だ。