SPEC 警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿 DVD-BOX/キングレコード
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タイトルの「スペック」とは人間の潜在能力のことである。
そしてこの物語は、その能力を開花させたスペックホルダー(いわゆる超能力者)をめぐる物語である。
超能力の存在を前提とした刑事もの、というのは実に新鮮。
物理学や生物学の常識を無視した推論は、無意識のうちに常識的な思考をしている自分をはっとさせてくれる。
山口雅也の「生ける屍の死」
伊坂幸太郎の「死神の精度」など死神シリーズ
米澤穂信の「折れた竜骨」
など、超現実的な世界と推理物というのは、書く側からすれば、世界観を自分で規定し、それにのっとた事件や物語を構築するのだから、案外悪い取り合わせでないのかもしれない。
そして、読む側からすれば、13×13のマス目の将棋を見せられているようなものじゃないかと思う。最初に13×13だよと宣言させられていても、ついついいつもの9×9で考えてしまう。そのギャップを楽しむ物語といえるだろう。

この物語も、前半はまさにそういう意味でよかった。
しかし、
後半、物語はお定まりのコースとなり、やや残念な結果を見せる。
最後には「時間を止める」能力を持つ強敵を倒すのである。

確かに「時間を止める」能力は強い。

けれどな~、「時間とは何か」という考察なしに「時間を止める」って言われると少々納得がゆかない。時間というのは、ぼくらの存在に関係なく勝手に流れているものじゃない。時間とは、変化の過程や結果を説明するためにぼくらが考え出した道具だ。もっとも原始的な時計は日時計や砂時計であり、つまり、何かの変化の結果だ。だから、時間を止めるということは、動いている太陽や、重力によって落ちる砂や、ぼくらの意思にかかわらず鼓動をし続ける心臓や、無限に続く核融合や、何億匹という昆虫の営み、コンクリートの風化に対し直接的に働きかけ、変化を止めるということなのである。そのエネルギーたるやどれだけのものだろう。「時間を止める」能力が最強なのは、その能力によっていろんなことができるからではなく、その能力を使うためのあまりに大きすぎるエネルギーを体内に内包しているからではあるまいか。。。
まるでチューブを流れる液体を人差し指と親指でちょいとはさんで堰き止めたら、その結果時間が止まりましたというお手軽な描写はどうも好かない。
極端なことを言えば、脂汗をだらだら流しながら重いものをせき止めるようなそんな描写であってもらいたい。
ま、時間についてはまだ言いたいことはあるけれど、それは今度にさせていただくことにする。

ところで、世の中にはたくさんの超能力を扱った物語があるけれど、「時間を止める」能力というのはその一つの頂点といってよい。
ジョジョの空条承太郎も本編のニノマエくんも最強のキャラクターとして登場する。
しかしながらもう一つ、最強の能力があるのをご存じだろうか。
それは、他者の能力を吸収して自分のものにしてしまう能力。最初は最弱だが、いずれは最強の能力者になる
皆川亮二の「arms」、片岡人生 近藤一真の「デッドマンワンダーランド」に登場する。ジョジョのプッチ神父もその系統かな。古くは寺沢武一の「コブラ」にも最強の武器として登場している。

本編、「spec」はテレビドラマ版の後、映画として続いていくらしい。(ぼくはまだ見ていない)
願わくば、さらなる最強なスペックホルダーを登場させ、結局は能力の強さ合戦にならぬよう、祈りたい。