率直に言えば、分量の割に大した内容のないつまらない記事だった。まあ大きな話題になった事件であるし、手記は早速増刷がかかるほど売れているらしいので、いっちょがみしないわけにもいかないのだろう。
作家や評論家、精神科医等6名が「私はこう読んだ」という感想文みたいなものを書いた6ページは特につまらなかった。
それぞれ皆出版には否定的なのだが、それは良いとして通底しているのは前途だの矯正だの治療だの社会のサポートだの課題だのという、つまり元少年Aが「更正して真人間になる」ことを前提にした議論だということだ。
現行法の制度下では犯行時に少年だったAは刑罰を受けることなく「矯正」を施され、社会復帰しているわけで、そうした前提が誤っているとは思わない。
しかし、個人的にはあれだけの異常な罪を犯した人間が更正するとはどうしても信じられない。少年法の立法目的自体は理解できる部分もあるのだが、無差別殺人は「若気の至り」とは到底言えないだろう。殺人だけは余程情状の余地でもない限り成人と同じ扱いにすべきものだと思う。
中でも一番失望させられたのは最初に出てきたノンフィクション作家の柳田邦男だ。冒頭から「混沌とした不安に満ちたこの国で、なぜ異様な少年凶悪事件が頻発するのか」ときた。
柳田は支那事変が始まる前年の昭和11年生まれだが、昭和初期から戦後の混乱期に至るまで「異様な少年凶悪事件」はいくらでも起こっているし、少年ではないが昭和13年の岡山では犯罪史上空前の「津山三十人殺し」(津山事件)も起きている。
柳田が犯行時のAと同じ年齢だった昭和25年の前後をざっと見るだけでも少年による殺人事件は頻発しているのだ。
昭和24年・茨城県真壁郡
「14歳の子守少女が3歳児と1歳児を絞殺。後にまた3歳児を絞殺しようとするも未遂」
昭和24年・神奈川県小田原市
「18歳少年が隣家の銭湯に押し入り、鉈と肉切り包丁で4歳児を含む家族5人を殺害」
昭和24年・東京都中野区
「16歳(満14~15歳)少年2人が野球をめぐる口論の末に友人を鉈で滅多打ちにして殺害」
昭和25年・東京都品川区、渋谷区
「19歳少年が連続殺人、うち1件は縛った男性の目の前で交際女性の頭部と首を滅多切り」
昭和25年・宮城県仙台市
「18歳と16歳の少年が強盗。魚屋の夫婦を殺害し、店員に重傷を負わせ金品を強奪」
昭和26年・山形県東置賜郡
「中学2年生男子14歳が隣家の4歳女児に柔道技をかけたり踏みつけるなどして殺害」
(「少年犯罪データベース 異常犯罪」より)
つまり柳田が「異様な」、「凶悪」と称するような少年事件は自分と同世代の人間も少年期に多数起こしていたということになる。
なぜ「ノンフィクション作家」が誰でも少し調べれば分かることを知らないのだろうか?
そもそも「犯罪統計」や「犯罪白書」を見たことがないのだろうか?
まず「戦前の少年犯罪」や「反社会学講座」でも読んでほしいものだ。
さらに柳田は衝撃を受けた点として「驚異的な記憶力」と「三島由紀夫やドストエフスキーのような文体」を挙げているのだが、「驚異的な記憶力」については手記に出てくる回想場面の記述が詳細であることから、「瞬間映像記憶能力と言おうか」と述べている。
「少年A事件は重要な関心事であり続けた」とまで書いているにも関わらず、家庭裁判所が特例的に公開した精神鑑定結果にも登場する「直観像素質(直観像記憶・映像記憶)」という用語すら知らないことに衝撃を受けざるを得ない。
ずいぶん昔に「マッハの恐怖」を読んだことがあるが、今後柳田の本を読むことはないだろう。
文春の記事に多少読みどころがあったとすれば、元々Aから出版を持ちかけられていた幻冬舎の見城社長が執筆をさせつつ出版を見送って版元が太田出版に変更された経緯と現在のご遺族とA家族の状況位だろう。
百田尚樹にあの「殉愛」を出させた見城氏が出版しないという決断をしたことには驚いたが、やはりそれだけの理由があった。同氏は「三つのハードル」として「本当に贖罪意識を持つこと」、「実名で書くこと」、「遺族に事前に挨拶をすること」を挙げていたが、そのどれもがクリアされなかったということなのだ。
太田出版はかつて「完全自殺マニュアル」を手がけた役員が編集を担当し、社長とこの役員を含めて3人しか知らない極秘プロジェクトとして出版を準備したそうだ。情報漏洩を防ぐために取次にもタイトルだけを伝え、著者名は伏せていたという徹底振りで、発売当日に朝日新聞が報じるまで全く外部には漏れなかった。
遺族や支援者は皆怒りの声を上げている。当然だろう。太田出版も批判を承知で刊行に踏み切ったのだから十分叩かれればいい。
私はAの手記を読んでいないが、各種報道を見ているだけで読む必要はないという結論に至った。今後も手に取ることはないだろう。犯罪者心理の研究に資するような部分が多少なりともあれば良いのだが。
Aは総額二億円という賠償金を一億数千万円残しているという。「今後、遺族側が印税を差し押える可能性も少なくありません」という支援者のコメントが取り上げられている。
ぜひ実行していただくべきだと思う。
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