本日発売の「週刊文春7月7日号」の右トップは、予想以上に面白かった。
タイトルは、“安倍首相自ら口説いた参院選トンデモ候補 青山繁晴「450万円私的流用」で共同通信を退社の過去”というものだ。既に一部は昨日からWebで公開されており、その内容に関してはイマイチだと思っていたが、誌面の記事そのものは(私の)痒いところに手が届く内容だった。
それにしても、「トンデモ候補」という言葉はきつい。個人的には人格否定に等しい表現だと思う。ここまで強い言葉を選んだことが、文春側の自信を物語っている気がする。
小見出しだけでも面白いのだが、中でも3つ目の「当時はスペイン語が話せた」(傍線引用者)には、声を出して笑ってしまった。そして、初めて知った共同通信時代の仇名である「文豪」は、正に私の中の青山繁晴という人物に対する評価に非常に近いものだった。
これまで、同氏のジャーナリストとしての客観的な評価を殆ど目にしたことがなく、本人が得意としている「今だから明かせる裏話」の類についても、「ホントかよ」と思ったところで裏の取りようがないものばかりだった。
今回の文春記事は、こうしたフラストレーションをかなりの部分で解消してくれた快作といえる。
個人的に、青山氏は落合信彦氏と同じ箱に入れている。実在すら定かでない匿名人物を取材源とする話が多すぎるためだ。話自体は面白く、サービス精神旺盛なのは良いのだが、裏の取れない話ばかりで、到底鵜呑みにはできない。
つまり、情報や解説についても参考にできる部分が少ないので、結局はエンターテインメントとして楽しむ以外になくなってしまうのだ。
かつて週刊文春の記者でもあった立花隆氏が、著作で自嘲気味に週刊誌ジャーナリズム批判を書いている。
「日本の、特に出版ジャーナリズムに蔓延している一つの悪弊は、ヴァーバル・ジャーナリズムである。要するに、人のコメントをあれこれ集めてきてそれを面白おかしく適当につないでいくことで一本の記事を作るという、週刊誌の記事で一般的に用いられている手法のことである。最近では同じ手法で単行本まで書いてしまう人もいる。この手法の記事においては、ほとんどすべての情報が、人のコメントにある。発言内容が事実かどうかには、筆者は責任を持てないという形式を取る。要するにそこにあるのは、ヴァーバルな(ことばの上だけの)事実だけで、ほんとうの事実かどうかはわからないというわけだ。この手法は明らかにずるい逃げであり、退廃である(「『知』のソフトウェア」1984年・講談社現代新書)
立花氏も80年代までは名著が多いなぁ……インターネットに触れてからおかしくなったのかな? 決定的なのは臨死体験だったか……?
そもそも「ヴァーバル・ジャーナリズム(Verbal Journalism)」という表現が英語にあるのかすら知らないが、この指摘に衝撃を受けたことは覚えている。
本来、この批判は正に週刊文春のような週刊誌報道についてのものだが、青山氏にはより強く当て嵌まるように思えてならない。
青山氏の問題点は、かなりの部分が
「ヴァーバル・ジャーナリズム」(©立花)と度を超した「取材源の秘匿」によって作り上げられた創作
にあるのではないかというのが、私の仮説だからだ。
青山氏の言説には首を傾げたくなる話が多くある。特に科学や経済に関するものが酷いのだが、専門としているはずの安全保障や軍事についても、しばしば誤りがある。
青山氏は以前から関西のテレビで有名だったようだが、そもそも私はテレビを見ないので、あまりよく知らなかった。しかし、数年前から保守系雑誌で見かけるようになり、YouTubeでテレビやラジオの出演番組を視聴するようになった。正直、話はうまいと思うのだが、気になる癖がいくつかある人物だというのが、最初の頃の印象だった。
ざっと上げると、
1.「お世辞は言いません」、「正直に申して」、「フェアに申して」等多くの口癖がある。
2.必要性のよく分からないところで独特の巻き舌英語を使うが、その発音や意味が誤っていることも多い。
3.各国の軍部や諜報機関にコネクションがあり、しょっちゅう議論をしていると話す。
4.メタンハイドレートで日本は資源大国になると喧伝している。
5.「複数の裏を取っている」というが、決して当てた先を明かさず、誰にも確認しようがない情報を喋る。
といったところだが、それぞれについて疑念を抱かざるを得ない。
1については、わざわざ口にすることの不自然さに思い当たらないことが不思議だ。お世辞を言わない人がしょっちゅう「お世辞を言わない」と宣伝する必要があるだろうか? 正直者がいちいち「正直に言います」と前置きをするだろうか? 「フェアに申して」と言わない時はフェアに申していないのだろうか? クレタ人は皆嘘つきだろうか?
2は聞いているこちらが恥ずかしくなるほどだが、何故か本人はいつも得意げだ。少し前に、「虎ノ門ニュース」で「タックスヘイブン」を「税金天国」と言ってしまい、共演のケント・ギルバート氏に突っ込まれていたのには大笑いしてしまった。
3については、私が青山氏を落合信彦氏と同列視している理由なのだが、なぜ諜報機関が「一民間人(©青山繁晴)」に機密を明かす必要があるのだろうか? 諜報員が身分をオープンにして青山氏に接触することに何かメリットがあるのだろうか?
4に関しては、知人が資源開発の事業に関わっており、専門的な話を何度か聞いてみたことがある他、官庁の公表資料についてもある程度触れて見たことがあるのだが、青山氏の主張内容と整合性が取れるものを見たことがない。ご本人は「利権を持つものに妨害」されていると主張しているので、私がまんまと陰謀に嵌められている可能性も否定出来ないが。
5については、「取材源の秘匿」を拡大解釈というか悪用しているようにしか思えない。誰に聞いたのかすら分からない話では、裏を取ることなど不可能である。記者時代の上司にもこのスタンスを貫いていたのだろうか?
政治、外交、軍事に関わる青山氏の言説は、それぞれのキーパーソンとされる人物に青山氏が聞いたという話ばかりなのだが、取材対象の具体名が明かされることは非常に少なく、他者が裏を取りようがないケースが殆どである。
そして、青山氏は、誰でも裏取りが可能な「客観的事実」についても誤りを述べていることが非常に多いのである。
細かく上げていくとキリがないが、かなり適当なことを言っているので、「おいおい」と思わされることが多い。違和感を覚えた際に、実際に裏を取ってみると、やはり殆どの場合誤りなので、一時はツッコミを入れるためだけに発言をチェックしていたこともある位だ。
ここでいちいち論うつもりはないが、青山氏は根本的に「数字にいい加減」である。
例えば、専門であるはずの軍事については、最近も北朝鮮のミサイル発射に絡み、明らかに誤った「マッハ数」の説明をしていたし、熊本地震の際にも、「日本はマグニチュード9を超える地震を複数回経験」と大嘘を話してしまっていた。おそらく「マグニチュード」が対数であって、数字が1増えるとエネルギーは約32倍、2増えると約1000倍になることを知らないのだろう。
また、経済学部を出ているはずだが、経済に関する言説も聞く価値のないものが大半であり、科学についての言及に至ってはかなりデタラメである。
数ヶ月前も虎ノ門ニュースで、「小保方晴子氏は実験の天才で、STAP細胞は実在する。京大の山中伸弥教授に検証させるべき」と力説していたのを見て、あやうく顎を床に落としそうになってしまった。この問題については、もっとタイムリーな時期にもう少しまともな話をしていたように思うが、いつの間にかトンデモ科学者として名高い武田邦彦氏と瓜二つの主張をするようになってしまったようだ。
もう少し青山氏がメジャーな存在ならば、暴露本が出版されていたのではないかと思うが、現段階ではまだそれほどの価値がないということだろう。それほど突っ込みどころが多いのだ。
個人的に「コメンテーター」という人種を信用できない理由は、少数の例外を除いて専門外のことに対して恥じることなく嘴を挟むことだ。青山氏もそうした傾向が強い。
しかし、遂に政界に打って出たことが、青山氏の意図とは別の意味で同氏の人生を変えてしまう可能性が出てきたのではないかと思う。舛添氏が韓国人学校に都有地を貸与すると言い出した時から、青山氏はラジオ番組等で厳しく批判していたし、私もそれ自体には大いに賛同していた。
しかし、あの問題が、それ以前に明らかになっていた様々な問題では決定的なバッシングには至らなかったマスコミの方向性を変えるきっかけになったことを考えると、青山氏の場合今回の出馬が、バッシング開始のトリガーとなった可能性がある。
書いている間にふと思い出したのだが、青山繁晴氏を初めて見たのは、朝まで生テレビだったかもしれない。10年程前、核武装議論がテーマだった回に出演していた青山氏は「命あるかぎり日本の核武装に反対」と主張していた。故中川昭一氏が「核武装の議論が必要」と主張してバッシングされていた頃のことだ。この回の「朝生」では、視聴者アンケートで核武装容認論が過半数となってしまい、田原総一朗のみならず、パネリストの多くも動揺していたのを覚えている。
この頃、保守を名乗る人々の中でも、「核武装には反対だが議論自体は必要」というよくわからない意見が支配的だったように思うが、青山氏も所詮この程度の認識の人物の一人という印象だった。「核武装の議論」自体が批判されていた位だから、「保守派」の主張も空気を読んでいたということなのだろうか。
そういえば、全く意味が分からないのが、同氏が代表取締役を務めている(参院選出馬のために辞任すると表明済)株式会社独立総合研究所(通称:独研)のウェブサイト(http://www.dokken.co.jp/)に記載されている会社概要(http://www.dokken.co.jp/corporate/)に、所在地がきちんと記載されていないことだ。正確にいうと、「本社所在地」の欄にはこう記載されている。
「東京都江東区(※詳細はセキュリティのため非公開)」
これを初めて見たときには、本当に驚いた。商業登記は言うまでもなく公開情報である。株式会社の登記事項には、本店所在地どころか代表取締役の住所も含まれるが、当然法務局へ行けば「誰でも」閲覧・謄写が可能である。サービスに申し込みさえすれば、ネット経由でも登記事項の確認は可能だ。
本店所在地を明らかにしていない株式会社のサイトなど初めて見たし、今後も新たに見ることはないのではないかと思う。あまりにも驚いたので、勢いで商業登記を確認してしまった。
そして、詳細を公開していない(したくない?)理由もなんとなく分かってしまった。「シンクタンク」を名乗る上である程度のハッタリが必要なのだろうが、所在地のビルは、いわゆるSOHO向けのレンタルオフィスだったのだ。知り合いの社長が、数年前までオフィスを置いていたので、何度か訪問したことがあるビルなのだが、一番広いスペースでも確か25~30坪程だと聞いたように思う(ちなみにその社長は順調に事業を拡大させ、今は若者にも人気のある山手線駅近くの一等地にオフィスを構えている)。そして、青山氏の居住地も、物件から程近い賃貸タワーマンションだった。
久しぶりに独研のサイトを確認してみたところ、「沿革」にも突っ込みどころをいくつか見つけてしまった。取り敢えず、一番最初の2004年からおかしい。
「三菱総合研究所から円満に独立し(以下略)」(傍線引用者)
ですと。 「円満に」なんて書くかねえ、普通……。
上で書いた口癖と同じく、どうしても違和感を覚えてしまう。心理学的な分析でも明らかになることがあるはずだ。
今回の出馬会見でも青山氏は「政治家は嫌い」と話しているのだが、近畿大学の客員教授に加え、最近は東京大学でも教鞭を取り始めたことも含め、実際はかなり名誉欲の強い人物なのだと思う。
そういえば、「もうジャーナリストではない」とか「私はタレントじゃない」とか、奇妙なこだわりを表す口癖もあった。おそらく、彼の中には「こうあるべき」という信念ではなく、「こう見られたい」という理想像のようなものがあって、それとの乖離が生じるときに、言い訳がましい口癖が出てきてしまうのではないだろうか。
こう考えつつ、「三菱総合研究所から円満に独立し」を文春記事の共同通信を辞めた際の挨拶文の件と合わせて読んで見ると、非常に味わい深いものがある。
そもそも、青山繁晴氏の話を他人としたことは殆どないので、完全に個人的な興味のみで同氏をウォッチしてきたのだが、文春記事が思いの外ヒットだったことから、朝っぱらから長文を書き飛ばしてしまった。
おそらく、これから物語が急展開することが予想されるので、引き続きこっそりとウォッチしていきたいと思う。
結論:まあそれでも当選してしまうのではないかと思うが、ブログ(http://shiaoyama.com/essay/detail.php?id=418)で
「すでに法的手続きを開始した。民事のみならず刑事も含めて告発し、徹底的に戦っていく」
とまで書いている青山氏は、おそらく分が悪かろう。
舛添氏と比べられたことで激高してしまったようだが、記事にされてしまった罵詈雑言は同氏の印象にかなりのダメージを与える可能性が高い。
そして、舛添氏の記事を文春が何回報じたかについても思い出すべきである。そう、青山氏の話題についても、続報がないわけがないと思うのが当然ではないだろうか?

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