マンガソムリエ兎来栄寿のブログ 先刻の箚記(さっきのさっき)
  • 07Mar
    • マンガソムリエが『鬼滅の刃』について語ってみた

      最近、ありがたいことに「『鬼滅の刃』についてお話を聞きたい」と取材を受ける機会が多いです。J-WAVE、週刊女性、そして昨日放送のとくダネ!などで色々と話をさせてもらいました。ただ、これはまったく責める意図はないのですが、メディアの特性上どうしても30~60分話しても使えるのはほんの数十秒~1分程度、ということもしばしば。その結果、話の文脈などは完全に立ち消え、非常に浅薄な意見を述べているように見えてしまうことにもなります。そして実際そのように拡散されてしまっていたのが散見されました。とはいえ、もし私が視聴者の立場で傍から見ていたらそう思っただろうなあと思います。個人的にはそういうものだと理解して割り切って出ているところではありますし、「マンガソムリエとか名乗っているヤツが適当なこと言ってるけど、実際はこうだろ!」と私がダシになることで『鬼滅の刃』談義が盛り上がりに一役買えていたなら、むしろそれは歓迎すべきところです。しかしながら、一応読み切り時代からずっとリアルタイムで吾峠呼世晴さんの作品を読んできて、コミックス1巻のあまりの売上の低さや常に雑誌の後ろの方にいる(掲載順番はあまり関係ないと言われていますが、それでも怖かった)ので応援のためにアンケートも送っていた身として、『鬼滅の刃』について改めて語っておきたいと思った次第です。◆『鬼滅の刃』はどれくらい売れているのか2016年2月に連載が始まり、2016年6月に第1巻発売。その時はまだ2万部も売れませんでした。週刊少年ジャンプ作品としてはかなり下の方であり、webのジャンプ+で人気の『地獄楽』が1,2巻で25万部といった数字と比較してもかなり心配になるものではありました。4巻位まではまだあまり名前も知られず低迷していたものの、5巻頃から徐々に売上が伸び始めます。そして、2019年に未曾有の快進撃が訪れます。2019年2月15日 350万部連載3周年を迎えてアニメ化も発表され、3年間で350万部に。4月7日 500万部アニメ開始時にはこれまでの1年分以上の売上を2ヶ月で達成。7月19日 800万部更に3ヶ月で300万部上乗せ。9月29日 1200万部神回19話を経て、アニメ終了時には2ヶ月と少しで400万部上乗せし1000万部超えの大台に。12月4日 2500万部勢い止まらず、2ヶ月で1300万部上乗せ。18巻は初版100万部超え。2020年1月27日 4000万部勢いは更に加速し2ヶ月足らずで1500万部上乗せ。19巻は初版150万部。5月1日に20巻が出ますが、その頃には4000万部の発表から3ヶ月経っており更に話題も人気も加熱していることから5000万部は悠々突破し累計約6000万部、20巻初版200万部といった数字になっていてもまったく驚きません。現在のジャンプでは3600万部の『ハイキュー!』や2600万部の『僕のヒーローアカデミア』を既に超え、上には4.6億部の『ワンピース』と7300万部の『HUNTER×HUNTER』しかいません。ジャンプ歴代でも既にベスト20に入る売上に達しており、今年中に7000万部の『るろうに剣心』や『キャプテン翼』を超えてベスト10入りするのは堅いでしょう。ちなみに『ワンピース』でも「頂上戦争編」の頃の2010年及び2011年の年間約3900万部が最高記録ですが、今の『鬼滅の刃』はそれを上回るペースで売れ続けています。現在の2ヶ月1500万部のペースを維持するだけでも年間9000万部という異次元の数字が見えてきます。劇場版の無限列車編公開タイミングなどにもよりますが、まだまだ話題は尽きないため維持するどころか更に加速していく可能性もあります。今年中に、あるいは今年達成しなくても来年前半には累計1億部を突破して、すべてのマンガの中での歴代ベスト10入りしていく可能性もかなり高いです。『ワンピース』が1億部突破するのに要した時間は7年でこれが歴代最速記録ですが、それを『鬼滅の刃』は4年で達成しようとしているペースであると言えばどれくらいの異常事態か伝わるでしょうか。◆ここまで爆発的に売れている外的要因まず、そもそも売れるマンガとは何か、と問うた時の答えとして「面白いマンガ」というのは二番目だと言われます。では一番目は何かというと「話題のマンガ」。身も蓋もない話ですが、「話題のマンガ」は話題だからこそ手に取られ更に売れ、そして売れたからこそ話題になり、有名人・インフルエンサーも話題にし、そしてまた売れるという好循環が起こります。多くの人が触れている作品というのは、それだけで面白い面白くないに関わらずコミュニケーションツールとして機能します。もちろん、「面白いマンガ」は話題になりやすいですし、多くの話題のマンガが一定水準以上面白いのは確かです。ただ、残念ながらとても面白いのに話題にならず売れないまま終わってしまうマンガも少なからずあるのが実情です。世界で一番売れているマンガは『ワンピース』ですが、では『ワンピース』が世界で一番面白いマンガかといえばそれは人によるでしょう。これはマンガのみならず他のコンテンツでも同様です。ともあれ、大ヒットを飛ばすためにはどこかで大きく話題になる必要があります。近年では『キングダム』がアメトーーク!のお陰で大ブレイクしたこともありましたが、『鬼滅の刃』の場合のそれは明らかにアニメ化であったと言えるでしょう。アニメ化前後での部数の推移が如実にそれを示しています。2011年にufotableが制作したアニメ版『Fate/Zero』を観た時、そのクオリティに私は心底驚き感動しました。その後もufotableは毎週放映するアニメとは思えない高クオリティの作品を生み出し続けています。『鬼滅の刃』がufotableによって作られたことは大きな幸運の一つであったと思います。マンガで読む時以上に映える美しく格好いい各種アクションを始めとする美麗な映像、紅白でも歌われた主題歌「紅蓮華」を始めとする素晴らしい楽曲、豪華声優陣の心震える熱演、そして類稀なる原作愛に裏打ちされた原作を補完し更に物語を深める数々の演出、そのどれもが超一級でした。そして、アニメが純粋にハイクオリティだったことに加えて、多くの人がスマートフォンやタブレットを所持しAmazon Prime、Netflix、hulu、U-NEXTなどなど何かしらの動画配信サービスと契約して気軽に観ることができる環境が整っていた、というのも大きな要因だったと思います。一昔前であれば「このアニメ良いよ」と言われてもDVDやBDを全巻を買う、借りる、それをプレーヤーにセットしてTVの前で観るなどする必要がありました。しかし、今や通学・通勤中でもベッドの上で寝転がりながらでも、かつてより遥かに安価かつ容易に作品に触れられるようになりました。録画し逃してテンションが落ちることもなく、すぐにネットを介して全話観ることができる。それによって布教のハードルも非常に低くなっており、布教する側も気軽に「観てみて!」と言うことができるようになっているのは現代の強みでしょう。アニメ放映時にはTwitter上でも日毎に鬼滅の刃について語る人が増えていき、特に神回と名高い19話の際には言及数も二次創作も観測範囲で爆発的に増えたことは記憶に新しいです。アニメを観終わった後に続きが気になって原作を求める人が続出し、無限列車編以降の巻だけ売り切れている書店なども数多く観測されました。そして、無限列車編以降更『鬼滅の刃』は更に右肩上がりに面白くなっていきます。単行本で続きを読んだ人は「アニメの後の方が面白い、この面白い部分を皆読んで欲しい!」と広めたくなる作りになっています。『鬼滅の刃』が作者の初連載作品であることもあり、正直序盤の巻だと画力や演出力の面でまだこなれていない部分がないとは言えません。実際に1,2冊読んで「そこまで面白いと思えなかった」と止めてしまう方も少なからずいます。ただ、『鬼滅の刃』は巻数が重なってから物語もキャラクターも画力も演出力も大きく魅力を伸ばしていきます。もっと言えば最新部分がクライマックスを迎えて一番面白くなっています。毎週月曜日には本誌勢の阿鼻叫喚が満ちることもあって、下手なお薦めより口コミ効果がありどんどん単行本派、そこからの本誌派も増えて行っている印象です。特に電子版のジャンプ+なら全国一律の配信日で、『鬼滅の刃』は毎週フルカラーで読める上にその他おまけも付くということで、相当購読者を増やしているでしょう(好きなマンガの好きなページをTシャツにできるという素晴らしいサービスも行われているジャンプ+ ですが、『鬼滅の刃』の場合はフルカラー版からも作れてお得なので推しのTシャツが欲しい方には非常にお薦めです)。また、ジャンプ編集部の努力も当然あります。毎巻発売の度に付く特典もそのひとつ。18巻はランダムで18種類のポストカードが付き、19巻は特典こそ付かなかったものの人気投票券が付いていました。これによって、推しのために複数買いする方もおり、中にはひとりで100冊以上買っている人も見受けられました。20巻も特装版として16種類のポストカードが付いているバージョンがあり、既に書店での予約も締め切られているところもある人気ぶりです。単行本発売の度にこうしたことでお祭化することもあり、話題になる機会が増えて現在も大驀進している状態です。◆『鬼滅の刃』のさまざまな魅力実に多岐にわたる作品の魅力。ひとつずつ語っていきましょう。1.ジャンプ作品らしい王道ストーリー『吾峠呼世晴短編集』に収録されている『鬼滅の刃』連載より前の短編を読むと、吾峠呼世晴さんの作家性が非常によく解ります。暗鬱さ、不気味さをはらみながらも、どこか琴線に触れてくる物語たち。その作風は、どちらかと言えばガンガン系やエース系、あるいはジャンプSQ.系でジャンプ本誌的ではないと思えます。しかし、『鬼滅の刃』ではその作家性も大いに残しながら、ジャンプらしいと十分に言える最大公約数的なところに上手く着地させています。これは、担当編集者の手腕によるところも大きいでしょう。ジャンプといえば「友情・努力・勝利」。間違いなく、その三拍子も『鬼滅の刃』にはあります。憎き悪役がいて、それを倒すために友と修行して強くなって、派手な必殺技で倒す。そして、『鬼滅の刃』では主人公・炭治郎の動機は家族を惨殺した鬼・無惨への復讐と、鬼にされた妹を元に戻すこと。ストーリーの骨子はジャンプの王道を踏まえています。もっと極めてシンプルに言えば、刀を振るって鬼を倒す話。日本人なら誰にとっても親しみのある題材であり、故に取っ付き易いです。また、『ワンピース』や『進撃の巨人』、あるいは『新世紀エヴァンゲリオン』など社会現象と言われるまでにメガヒットしたコンテンツのひとつの共通の特徴として、語り合い考察したくなる「謎」があることが挙げられます。しかし、『鬼滅の刃』にはそれはありません。あくまで純粋に物語を楽しむ作りとなっています。「謎」の存在は世界観を引き立て大きな楽しみを与える一方で、難解さを感じさせ物語へ入る障壁として作用する場合があります。そういったハードルがないのも、『鬼滅の刃』が子供から年配の方まで広く受け入れられる要因かもしれません。2.エンターテインメントの基本を押さえている「笑い」、「エロス(恋愛)」、「バイオレンス」は古今東西を問わず普遍的に人類が好むテーマであり、エンターテインメントから無くならない要素であろうと言われます。特に「笑い」は『鬼滅の刃』の特徴的な魅力を担っているもの。ストレートなギャグから独特のセンスによるシュールな笑いまで、多くのシーンで笑わせてきます。特に異端なのは、極めてシリアスな状況下であってもそうした描写がなくならない点。特に、連載最新の無惨とのラストバトルの最中であってもちょくちょく笑いを入れてくるのは今までのジャンプ作品と大きく異なる点のひとつと言えます。それが決して物語を追う邪魔となっておらず、悲喜の抑揚を生むアクセントとして働いているのは筆者の力量によるもの。エロス(恋愛)に関しては若干薄めではありましたが、中盤からは主に恋柱が八面六臂の活躍です。ネタバレとなるので深く言及はしませんが、恋愛という部分に関しても素晴らしいエピソードを見せて心を掴んでくれます。とある二人の関係性に私は目頭を熱くさせられました。バイオレンスに関しては言うに及ばず。そして、私は『鬼滅の刃』を「友情・努力・勝利」というより「愛・努力・勝利」のマンガであると定義することがあります。親や師や兄弟姉妹など、家族愛や恋愛、友愛なども含めた他者への想いが炭治郎たちの闘う力の源になっているのに加え、敵である鬼たちにもそういった物語が存在します(後述)。多くの人が普遍的に好むエンターテインメント性をしっかり取り揃えている作品であると言えます。3.テンポの良さ『鬼滅の刃』は、とにかくテンポが良いです。引き延ばされてるなぁと感じる部分は今のところ一切なく、気持ちよく話がどんどん進行していきます。ちょくちょく挟まれる修行パートは若干長めですがそれも気になるほどではありません。これは作者の「人間はそんなに簡単に強くならない」という想いからきているそうです。4.一線を画す魅力的な主人公悟空やルフィといった従来のジャンプ作品主人公の多くは超人的な力を身に付けているが故にどこか思考も人間離れして共感しにくい部分というのがあります。「死んでもドラゴンボールで生き返る」のような発言は最たる例ですね。一方で、竈門炭治郎という主人公はどこまでも人として真っ当であることを善しとする人間であり続けます。そして、道理に背く者がいればダメ出しし、諭し正していきます。自分勝手なところがなく、スケベでもなく、面倒くさがりでもなく、臆病でもなく、卑怯でなく、馬鹿でなく、戦闘狂でもない。働き者で家事もできて気配りもできて真面目で素直で家族・仲間思いで人の痛みに対して鋭敏で優しく自己肯定感がとても強く、いざという時は男らしくて頼りになり格好いい。故に仲間たちからの信頼も厚い。強いて言えば、ちょっと天然で頑固。こういった性格の男性キャラクターは恋愛マンガでは見かけることはあります。しかし、ジャンプのバトルマンガ、とりわけダークファンタジーの主人公としてはかなり異端な存在であると感じます。40代の女性が、子どもがハマっているわけでもないのに自分から読んでハマりとりわけ炭治郎をかわいい息子のように思いながら読んでいるという事例も耳にします。実際に自分の子供が炭治郎のように優しく強く育ってくれたら申し分ないでしょう。類稀な魅力を持った主人公であることは間違いありません。5.サブキャラクターの魅力『鬼滅の刃』が特に中盤以降に面白くなると言われる理由のひとつとして、魅力的なキャラクターである「柱」の登場が挙げられます。『HUNTER×HUNTER』の幻影旅団や『ブリーチ』の護廷十三隊のようにまず非常に戦闘力が高く、その上で個性豊かで、仲の良い者もいがみ合っている者もいる名脇役たちです。彼らが命懸けの修羅場で見せる強さは頼もしく格好よく、また垣間見られる彼らのささやかな日常はコントラストのように輝いて尊く見えます。『鬼滅の刃』はキャラクターの男性比率が高く、敵にも魅力的なキャラがいるため女性にも人気が高いのも頷けます。また今の読者の内、特に女性は「推しキャラ」を見つけて愛でながら楽しむ文化が根強くなってきています。『鬼滅の刃』はキャラ数が多いため推しを、推しでなくとも好きなキャラクターを見つけながら楽しむということがしやすくなっています。女性キャラだと禰豆子やカナヲがかわいい。それはもちろんあります。個人的には珠世さんも好きです。6.敵である鬼の物語炭治郎たちが闘う相手である鬼たちは皆元人間でありながら不老不死になっています。それは、永遠性を求めて人間の限りある時間を超越した存在です。その裏にはさまざまなエピソードがあり、それがまた非常に人間的で痛切で胸を打つこともあります。敵側の同情を誘うような話を用意することは、通常は打倒した時のカタルシスを削ぐため諸刃の刃だと言われます。しかし、『鬼滅の刃』では敢えてそれを毎回極めて丁寧に描いていきます。その鋭い諸刃が心に深々と刺さり、大きな感動や葛藤が引き起こされます。鬼たちは永遠の命を得ながらも完全に幸せになった者はおらず、享楽に耽る瞬間はあっても無惨のコマとしての鬼となった上での苦しみを抱えていたり、人間の時代からの後悔や怒りや哀しみを抱いていたりする者ばかりなのもポイントです。そして、たとえ無惨本人が太陽を克服して鬼狩りを滅ぼし尽くしたとしても、彼が真に幸せになれることはないでしょう。人間が追い求める理想を体現しながらも、そこに幸せはないという断ち切れない哀切が心を焦がします。7.類稀なる言葉のセンス担当編集者は義勇の「生殺与奪の権を他人に握らせるな」というセリフに感動したそうですが、吾峠さんは心の襞に引っ掛かる絶妙な言語感覚を持っています。「俺は長男だから我慢できたけど次男だったら我慢できなかった」のような名ゼリフもそうですが、シリアスにもギャグにもそのセンスが生きています。特に、ラスボスである無惨の言動には異常者感と小物感が双方ともに突き抜けていて不思議な魅力すら持っているのはセンスの顕現です。絶望感を覚える強さと人間離れした異常性を持ちながらある部分は人間臭くもあり、そして実に滑稽で笑わせてくれるというラスボスは『彼岸島』の雅などに類型はありますが、あまり見たことがありません。個人的にはシリアス部分の文学的なモノローグか好きで、特に20巻収録の177、178話は秀逸なので単行本派の方には是非堪能して頂きたいです。8.人間が人間として、元人間と闘うもののあはれ鬼狩りたちはどれだけ強くても人間です。四肢を落とされれば治ることもありません。怪我をすれば行動に支障が出ます。そして人間の命の時間は鬼から見ればごく僅かで限られています。しかし、鬼にはない人間の強みは自らの世代で叶わぬ願いを子や孫や友や伴侶に伝承していくことができること。自らの命が尽きた後も、意志を遺すことができることです。また、人間は人間同士で協力してひとりではできないことを成し遂げる力を持つことができます。それこそが人間の強さの一端であり、正に鬼狩りもそのような在り方を見せます。一騎討ちになるシーンもありますが、ケンシロウがラオウを、悟空がフリーザをひとりで倒すような時とは違い、炭治郎たちは多くのシーンで共闘して無惨や上弦の壱たちに立ち向かいます。「自分にできなくても必ず他の誰かが引き継いでくれる 次に繋ぐための努力をしなきゃならない 君にできなくても君の子どもや孫ならできるかもしれないだろう?」(12巻)という炭治郎のセリフにも、主人公自らが次世代への継承を考えて人間全体の力で闘おうとしていることが見て取れます。炭治郎たちはあくまでも人間としての範囲内で修行して強くなり、人間が持ち得る力で以て鬼たちに対抗します。親や、師や、兄弟姉妹や先達が伝えてくれた技術、知識、道具、想いを継承して共に闘います。哀しくも命を落とした多くの無念や願いも背負って。人間の最大限で、人間であることを止めた者たちを否定する。命に限りある者たちが、永遠の命を持つ者たちを超えていく。日本人には古来より散りゆく桜のような限りある儚いもの、亡びゆくものに美やあはれを見出す感覚が備わっています。「永遠性への憧れ」をどこかで持ちながらも同時にそれは叶わないと悟り、限りある生をできるだけ充実させて謳歌する。終わりがあるから哀しい、しかしだからこそ美しくもある。ただでさえ短い命を「痣者の代償」などで更に縮め、自らの命を他者のために差し出すような彼らの悲壮なる決死の覚悟には、そして実際に命を散らす時の様子には、あはれを感じずにはいられません。そして死した者の遺志を継いで遺された者たちは更に強く成長する。それは普遍的な人の営みの本質に通じています。こうした構図が貫かれているところは『鬼滅の刃』の大きな美点であり、それによって生まれる奥深い妙味こそ子供だけでなく大人にも受けている大きな一因と言えるでしょう。◆終わりに『鬼滅の刃』の細かい魅力に関しては他にも様々に述べることができると思いますが、紙幅の関係もあり今回はこの程度の概説に留めておきます。後はお酒でも飲みながら一緒に語りましょう。昨日の放送では、こうしたことを語った文脈の上で「それ以外に何か各世代に受けている理由として思いつくものは?」ということでああした回答になったことを述べさせて頂きます。繰り返しますが、それに関して番組側を非難する意図はありません。使いたい、使いやすいところを使って頂いただけという認識です。個人的にはこれだけ注目され売れている作品をジャンプ編集部はすっぱり終わらせるのか、それとも無惨を倒した後も何かしらの形で話は続くのかは非常に気になっています。やろうと思えば無惨のように鬼を増やせる鬼が新たに発生したり、無惨本人がDIOのように復活したりなどやりようはいくらでもありそうです。しかし、物語としては綺麗に、間延びせず終わって欲しいという気持ちも強いです。どういう結末になるにせよ佳境を迎えている今、月曜日の最新話が楽しみです。そして、単行本派の方は20巻ラストの方にいるはずの私の推しを何卒よろしくお願いいたします。参考『鬼滅の刃』大ブレイクの陰にあった、絶え間ない努力――初代担当編集が明かす誕生秘話https://news.livedoor.com/article/detail/17760339/

  • 11Feb
    • 少女たちの鮮烈な痛み、そして生。『センコウガール』という名のキセキ

      センコウガール 完全版「2019年に発売された中で最高のマンガを一つ挙げよ」と言われたら悩んでしまうが、筆頭候補に『センコウガール』を挙げることは間違いないだろう。少なくとも、最も推したいマンガであることは疑いようがない。『スメルズライクグリーンスピリット』を読んだその時から私の肉体・魂・精神は永井三郎さんへの敬慕をとめどなく溢れさせ続けている。『センコウガール』を読み終わった時、その想いは更に遥かなる高みへと昇華した。あまりにも良すぎたため、レビューを書こうと思っても「こんな言葉では全然形容し切れてない!」と作ったばかりの茶碗を叩き割る陶芸家のような気持ちになり数ヶ月書けなかったほどだ。『スメルズライクグリーンスピリット』はSIDE AとSIDE Bの全2巻。こちらもまとめて読んでみて頂きたい。永井三郎さんの作品には、「これは自分の物語だ」と思えるような心の傷を抱えたキャラクターが頻出する。理不尽な環境や運命に傷つけられてしまった少年少女たちが、痛みを曝け出し、苦しみ、叫び、涙し、葛藤しながら懸命に藻掻くように生きる姿はどこまでも胸を焙り焦がす。人は誰といようとどんな契約を取り交わしていようと、根本的は孤独な存在だ。されど、マンガを含めて優れた物語というものは時に人の孤独と痛みに寄り添い和らげてくれる。自分にしか解るまいと思っていた苦しみと同質の悩みを持ち葛藤しながら生きるキャラクターに出会った時、人はそこに自己を投影したり深い共感を得たりする。そして、その存在は人生を歩む際に心の杖となってくれる。そこまで思い詰めていない人が触れた場合でも「世の中にはこういうことで悩み苦しんでいる人がいるんだな」と可視化されることで、自身がまったく体験したことがないことであっても他者の痛みへの理解と想像力が育まれ、心と精神の成長を促してくれる。物語やエンターテインメントは、衣食住などに比べれば必ずしも人間が生きていくのに必要ではないとされている。しかし、渇いた体に滲み込む水が必要なように、渇いた心や魂を潤して生命の焔を賦活させてくれる力がある。『センコウガール』も正にそんな力を有する優れた作品だ。『センコウガール』は、2015年に雑誌ヒバナで「デストロイ新連載」というパワフルなコピーを提げて連載が始まった。しかし残念ながらヒバナ自体が休刊になってしまった。その後、裏サンデー・マンガワンでの掲載を経てまんが王国というサイトでのみ全巻が配信されていた。それが2019年になり、4月26日に遂に他の各電子書店でも配信が開始された。そしてこの度、2020年1月10日に1,2巻同時発売、明日2月12日には3,4巻が発売され紙の単行本で完全版として全4巻での発売となった。これを機に、全力でお薦めしたい。本作では不登校になっていた主人公の民子とその周囲のクラスメイト数名を中心に、ひとりの女生徒の死を巡って不穏な展開が続く。高まる緊迫感、謎が謎を呼ぶ展開に真相はどこにあるのか、彼女たちはどうなってしまうのかと読むほどに引き込まれる。純粋にサスペンス的な面白さも一級品だ。あまり内容に言及しすぎると楽しみを減じてしまうのでもどかしいところもあるが、この衝撃は一読に如かず。ぜひとも実際に体験してみて頂きたい。そして、物語を彩る端正な絵が純粋に魅力的だ。本作ではヒロイン・民子の美しさが一つ物語を構成する軸になっている。それが画的にも十分な説得力を持たされている。しかもただ単に美しいだけではなく、喜怒哀楽すべての表情の振れ幅が大きく、特にある回の扉絵などはぞっとするほど美しくも鬼気迫るものを感じさせられる。後半でキーとなる人物の一人である曜子もまた美しく描かれており、民子と並んだショットは非常に画になるのだが、彼女が美しいことにもまた意味が付与されている。美しさというものは人類が普遍的に求めるものだ。『センコウガール』は様々な方向に感情を大きく揺り動かしてくるところに類稀なる魅力がある。前述した通り、少女たちの葛藤こそが本作の真髄だ。容姿の悩み、夢の挫折、外部的要因による排斥、家族関係など、青春の輝かしい面の裏側にある闇に囚われた少女たち。それぞれが死にたいほど悩み半ば自棄になりながら、心の奥底では生きることを希求している。一人一人のバックボーンが丁寧に描写されていく中で、言動を好きにはなれなくとも悩む理由は理解はできていく。そこには強靭なリアルさがあり、胸に迫る。人によっては強く共感を覚えるだろう。噂話をするクラスメイトたちや主婦たちの無責任さがまたそのリアルさを補強している。物語で読んでいると嫌悪感を催すが、人間は無意識的にこういった立場に立ってしまいがちであることにも自覚的であるべきだと釘を刺されているようにも感じられる。期待をすることを諦めていた対象と改めて対話を深めることによって自らが抱えていた問題が大きく氷解していくシーンはとりわけ感動的だ。現実でも、こうした相互の歩み寄りによって解決する問題やシーンは存在するだろうと考えられる。一方で、どれだけ対話をしたところで理解し合うことは不可能であろうと思わされる対象も存在する。こういった相手とは物理的に距離を取り、社会のシステムがもたらしてくれる盾に縋るしかないのが現実だろう。修復できる関係が多数を占める中で、決して修復できない関係、しかも内心無理だと解っていてもそれを求めずにはいられない、それにより一層絶望感を浮き彫りにさせられる構造がそこにはある。しかしながら、そんな中ですらも笑って輝きを放つことができるのもまた人間なのだと『センコウガール』は示してくれる。それこそが本作の最大の美点だと言ってもいい。過酷な運命、過酷な世界の中で傷つきながらも前を向いて強く気高く生きる姿に圧倒的に魂を揺さぶられる。それは第三者から見ていると解り難いが、容易く行われていることではなく、決死の覚悟が必要な営為であると神視点から見ている読者には深く実感できる。果てしない困難の上に成り立つものだからこそ、余計に畏敬や尊さといった感情を覚えずにはいられない。『センコウガール』の「センコウ」には様々な意味を宛てがうことができるだろう。「先行」先に行くこと。先に行われること。「先後」時や順序の、さきとあと。さきとあとの順序にほとんど差がないこと。また、順序が逆になること。「鮮好」はっきりしていて美しいこと。主人公・民子の生き方の形容としてこちらも相応しい。「跣行」裸足で行くこと。これも民子に相応しい。「潜考」心を鎮めて深く考えること。そんな印象的なシーンもあった。「潜行」水中をもぐって進むこと。隠れて動き回ること。そうせざるを得ないこともあった。「閃光」瞬間的に明るくきらめく光。しかし、何と言っても一番はこの意味だろう。私は「閃光」というと、最近リバイバルで話題となった『ダイの大冒険』のポップの以下の名台詞を思い出さずにはいられない。「一瞬…!!だけど閃光のように!!まぶしく燃えて生き抜いてやるっ!!それが俺たち人間の生き方だっ!!」そう、閃光とは一瞬の燃焼の際に生じる刹那の輝き。素より、大いなる宇宙の長大なる歴史の流れからみれば、人間一人の命など本当に僅かなものである。しかし、そんな儚い生命から生れ出づる玉響の閃光の世界を覆わんばかりの烈しく美しき煌きがこの物語には綴られている。私はこの至高の人間讃歌に込められた魂の大熱と高貴さを、奇跡のように眩い青春の軌跡を、一人でも多くの人と共有し語り合えることを切に願って止まない。余談だが『スメルズライクグリーンスピリット』はNirvanaの『Smells Like Teen Spirit』が元になっていると思われる。そしてこの『センコウガール』もまたモチーフになっている曲があると考えられる。東京事変の『閃光少女』だ。敢えてここでは詳細は書かないが、読後に『閃光少女』の歌詞を読みMVを観るとストーリーに重なる部分があまりに多く感じ入ってしまう。ぜひ、読んだ際には併せて聴いてみて頂きたい。また、1月発売の話題の名作『マイ・ブロークン・マリコ』と相通ずる点も非常に多いので、『マイ・ブロークン・マリコ』が好きな方には『センコウガール』を読んで欲しいし、『センコウガール』が好きな方にも『マイ・ブロークン・マリコ』を読んで欲しい。

  • 11Jan
    • 『マイ・ブロークン・マリコ』と『センコウガール』完全版

      マイ・ブロークン・マリコそしてセンコウガール 完全版年末から向こう、年始も休みなく繁忙を極めており2019年のお薦めマンガ集も下書きに入ったまままとめ切れてない有様ですが、毎年選定している2019年に読んだマンガの私的ベスト、「俺マン2019」に選んだ作品が連日発売になっているのでこれだけは紹介しておきたいな、と。まず、『マイ・ブロークン・マリコ』。1話目がWebで公開された時、Twitter上で初めてこの作品の感想を言えたことが少し誇りです。こういう作品に出逢えるからマンガを読むのは止められません。一見して画力もキャラクターの描き方も突出しており、とんでもないマンガが始まったなと感じました。肌がビリビリ震えるような、魂の咆哮、激情。心の中に焔を焚き付けられ、焦がされます。1巻完結なので手に取り易いですし、間違いなく2020年を代表する一作ですので、読んでみて下さい。作者の平庫ワカさんは恐ろしいことにこれが初連載。今後も非常に楽しみです。そして、『センコウガール』完全版。こちらに関しては詳細なレビューを書いており、後日公開になるので追記します。一言で言うと「最高」です。2月10日に発売予定の3,4巻で完結する、全4巻の予定です。既に昨年電子だけで発売はされていたのですが、電子版では未収録のおまけが1,2巻併せて20P以上加わった紙版が今回完全版という形で発売になりました。こんなに素晴らしいマンガにはなかなか巡り逢えません。この両作は相関関係にあり、どちらか片方が好きな方はもう片方もきっと好きになると思います。ぜひ読んでみて下さい。

  • 26Dec
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      咲-Saki-212局 感想・考察

      前回記事:咲-Saki-211局 感想・考察ヤングガンガン15周年おめでとうございます!先日ガッツリとレビューを書いた、創刊号からの『ロトの紋章 ~紋章を継ぐ者たちへ~』もいよいよ次回最終回。こみ上げるものがあります。遂に『咲-Saki-』が最古参となることが感慨深いです。 メリークリスマ〜ス🎄🎁 pic.twitter.com/vmEeTaQQXp— 五十嵐あぐり(タヌキ) (@igarashi_aguri) December 24, 2019そんな折、突然あぐり先生から至高のクリスマスプレゼントが配られ阿知賀後援会は大歓喜。メロンブックスでの松実姉妹タペストリー以来2年ぶりのあぐり先生による松実姉妹……五臓六腑に染み渡ります。あれからもう2年経っているというのもビックリですが……世界はどうしてこんなに優しいのでしょう。http://www.sciasta.com/ritz/そして、更新されたdreamscapeにて最新話の展開に関連したものも含め様々な情報が。シノハユ扉絵発見に言及されていたのは笑いました。フランスまで飛ぶ予定の方が少なくとも5人はおり、ソフィアアンティポリスも別で行く気満々ですばらです。合同合宿後に和が咲の家に行って手料理を食べたことがある、というのが明言されたのは咲和の民にとっては天変地異に匹敵する大事件ではないでしょうか。143局扉絵集結には秋季大会など深い理由がなかったことが判明し、多治比さんが京都にいた理由も半ば氷塊したのは良いのですが、新たに多治比さんは淡の何なのだ、という議題が立ち上がりました。亦野さんもスパッツが好きなのか、私気になります。続きは最新話のネタバレになりますので、ご注意下さい。突然のヘリ、突然の新しい制服、突然の新しい髪型の照から始まった今回の咲-Saki-。1ページ目から非常に情報量が多い中で、「すごいものに乗っている――。」というアオリ文の小並感にも笑います。立先生のHPでも述べられている通り、世界ジュニアの日本代表の制服であるようです。絶対領域完備なのがすばらと言わざるを得ません。ぜひこの服に身を包んだ玄さんを見たいですね。 ワイヤーカッター(赤丸)とIRサプレッサー(黄丸)があるので陸自のUH-60JAだと思います。 なお、ロクマルの内部はこんなに広くないし、椅子もパイプ椅子だった気がします(^-^; pic.twitter.com/r799hhO3Zg— しにふぃえ@しの部 (@signifie) December 20, 2019このヘリはしにふぃえさんが一発でUH-60JAであると看破。https://rikuzi-chousadan.com/soubihin/koukuuki/uh-60ja.html海上自衛隊・航空自衛隊の機体は救難ヘリコプターのUH-60J、一方で陸上自衛隊の多目的ヘリコプターがこのUH-60JAだということです。ちなみに、お値段は38億円。聖路加レジデンスの入居費2億円が今までの咲-Saki-関連でも最も高額な買い物でしたが、遂にそれを上回る数字が出てきてしまいました。ぜひ照及びサトちゃんファンの皆様には頑張って頂きたいです。ちなみに、自衛隊のコールサインではUH-60JAを飛龍と呼ぶそうです。ここでも来るんか、ドラゴン――!運命か、それとも立先生が意図的に用いたのか……龍に抱かれ運ばれる照と智葉、という構図には今現在行われている決勝戦先鋒戦の象徴を否応なしに想起させられます。しかし、そもそもなぜわざわざヘリなのか。この世界の麻雀人気を考えれば照たちが国賓クラスの待遇を受けるのは解るのですが、問題はヘリに乗ってどこへ行くのか。大阪に向かってほぼ確定メンツであろう憩を迎えに行くのかな、とも思ったのですがUH-60JAの航行距離は500kmに満たないそうなので、それなら新幹線の方が良さそうです。空母か何かを経由して海外の決戦場へ向かうのでしょうか。そして、この飛行場の特定に勤しむ方も。しかし、流石に基地の中は確認が難しいですし、よしんば発見に至ったとしても入るのが難しそうです。でも、その辺も難なくクリアしそうな方がいる界隈なのがこわいです。髪型がかわいい照ですが、話している内容は極めて重要。照の連続和了のメカニズムのさらなる詳細が明かされました。・積み棒抜きの点数で前の局より少し高いてを和了するとその次の局のツモが良くなる・どんどん良くなる・最初の和了の打点が高いほどその恩恵が出にくくなると。なるほどなるほどなるほどー。照はツモが良くなる、としか言ってませんが、咲-Saki-Vita版での能力説明同様、配牌も良くなっているものと想像されます。もし制約なく和了さえすれば連続で和了できるようになる、という能力だったなら満貫や跳満スタートであっという間に数万点稼げることになるので確かにこの制約は納得です。そしてここに来て突然「阿知賀編3巻参照」というキャプションが。単体で見ればとても親切なのですが、咲-Saki-シリーズにおいて過去の描写を参照すべきシーンはムゲンにあるので、「何故、今になって!?」という想いが強く生じたのは正直な所です。とはいえ、ないよりは確実にあった方が読者にとっては親切。今後とも適切な補足を入れて頂ければありがたいです。折角ですので、実際に阿知賀編のそのシーンを振り返ってみましょう。このシーンですね。飄々と和了しているようにしか見えてませんでしたが、神の視点で見ている読者からしてもその真意は軽々には推し量れないということがわかります。しかし、恩恵が少なくなると言っても2回の連続和了後にはダブリーできる手牌が来ているので、さしてデメリットも強くない印象です(たまたまだったのかもしれませんが)。1300→2000→2600か3900くらいで終わるより、2600→3900→8000という実際に行われた刻みの方が優秀な気がします。残り局数が少なく親番もない場合は、高めスタートも上等ではないでしょうか。とりあえず、この和了によって点数はこう。南三局2本場 照、平和イーペーコー阿知賀 121200清澄 98600(-2600)白糸台 86500(+2600)臨海 93700そしてここで登場した背景に、私は大変高まりました。観て、一瞬で解る我が聖なる宿舎。また千里山の宿舎であるペニンシュラホテルも同時に映っています。そして、咲-Saki-シリーズで描かれるのは初となる、東京ミッドタウン日比谷。日比谷にはお陰様で足繁く通っていますが、できた当初はペニンシュラのすぐ横のペニンシュラより圧倒的に高い建物ができるとは思ってもいませんでした。ちなみに、この背景が撮れる場所から後ろを向くと、そこにはモモたちと邂逅した日比谷公会堂が。阿知賀が手前におり、新たな時代の象徴が千里山を超えて聳える。そして、陰には支えてくれた練習相手がいる。それが後半戦オーラスに入ることを告げる背景。見る人が見なければ何ということもない背景でしょうけれど、私にはこの背景が非常に示唆的に思えました。次のコマも、哩さん=阿知賀が破ってきた相手です。このページには阿知賀編を思わせる要素がとても多かったです。とりあえず、前回久が言っていた恐ろしい二局の内の一局は何とか終了。しかし本当の地獄はここからだ、とベジータでなくとも誰もが思う照のラス親。緩急が上手いですね。ライバルたちのカットを刻んで刻んでの見開きドーンで、「相棒」と思っていたガイトさんを討ち取る巧みな和了。南四局0本場 照、三色阿知賀 121200清澄 98600白糸台 90400(+3900)臨海 89800(-3900)久の解説が入っていますが、久の言う通りの意味プラスあまり大きく一気に点数を上げたくない意味も込めての9s残しの8s切りでしょうね。タンヤオ三色の40符は親だと7700なので、2600から7700だと能力的に微妙そうです。この、相棒と思っていた相手からの直撃で、再会に陥っていた照が逆転しまたガイトさんが最下位に。ガイトさんの表情には巧みな待ちだったことに加えてその辺の思いもありそうです。そして、淡の思う通り更に和了を重ねる照。南四局1本場 照、ツモ一気通貫阿知賀 119100(-2100)清澄 96500(-2100)白糸台 96700(+6300)臨海 87700(-2100)この和了によって、白糸台が清澄を押さえて一気に2位に浮上。玄さんとの点差は22600。ここでとんでもない事態が発生します。前局で2000オールを和了した照、次に和了する手は6400以上。この土壇場、和了すれば阿知賀が先鋒戦一位抜けという最終局面で、玄さんにチャンス手が入ります。ドラだけ来れば和了れる二シャンテン。つまり3回ツモれば、3巡あれば和了できる、ツモタンヤオ三色ドラ6の倍満。相手が連荘中の照でさえなければ、完全に個人戦3位のガイトさんでも追いつけないであろう速く強い手。やはり今この瞬間、玄さんは限りなく高校生の頂点にいると言って過言ではないでしょう。ここぞという所でしっかり応えてくれるドラゴンにもありがとうと私は言いたいです。ただ、6400点縛りの照が早々に副露をして非常に速そうな気配。玄さんっ…………!!祈りを込めてページをめくる私。そして、ここでまた玄さんがすばらな[決断]を見せてくれます。最強の相手に対してこのオーラスまで一歩たりとも引く事がない、常に前傾で攻めの姿勢を崩さない玄さん……大  号  泣。感  謝。感  動。もし神がいるのなら前を向くものを好きでいてくれるはず!ありがとう玄さん……!ありがとう世界……!!結果はロンでした。結果だけみればロンでした。開かれた手牌は、45789m西……んん? 7m??ドラの7mが照の手牌にある!?!?玄さんのドラ支配が破られた!?!?!!?!?大いなる驚きがそこにはありました。流石にこれはミスなのではないか、だって玄さん以外にドラが行ってしまっていたら赤土先生ももう少し取り乱していておかしくないのでは、と思いました。そして、dreamscapeにて無事にミスであった旨が報告され、一安心。しかし、話はこれでは終わりません。問題は照の手役です。恐らく鳴いたのが役牌で、手は混一色。もしドラがあればそれで11600でした。しかし、ドラがなければこの手は5800止まり。一気通貫が付いていれば、鳴きホンイツ+役牌+一気通貫で連続和了の条件を満たす11600点の手です。ここで重要なのは、dreamscapeで描かれた修正後の手牌も45789pという並びだったことです。そして、ガイトさんなどは割と手牌をランダムに並べる描写もありましたが、照はこれまで一度も理牌を崩した並びをさせていないということです。もし仮に、これがしっかり一気通貫であるなら南四局2本場 照、役牌混一色一気通貫阿知賀 106900(-12200)清澄 96500白糸台 108900(+12200)臨海 87700という結果で玄さんも逆転されて白糸台が1位になったという結果ですが、私は立先生を強く信頼しているのでこの45789という並びに必ず意味が込められていると考えます。阿知賀編8話で2600スタートした時は3回目の和了で終了したのでどこまで続けられるのかは未知数ですが、照は2000以上スタートしたことで、今までのような連続和了はできないのではないか。その覚悟と、玄さんの高い手を察しての一鳴きからの和了だったのではないか。多少遅れてもいいならメンホン+役牌or一気通貫で条件は満たせたものの、間に合わないことを察知したのではないか(全国編Vitaでは照には危険察知能力もある)。サブタイトルの[決断]は、押すことを決めた玄さんに対して宛てがわれたものに見えて、実は裏では照の決断という意味も込められているのではないか。優希と比した時に、常に攻めの守りを貫いていた玄さん。その真の能力は照魔鏡でもまだ見切れておらず、龍の勢いに気圧されて照も受け身な選択を選ばされたのではないか。故に、南四局2本場 照、役牌混一色阿知賀 113300(-5800)清澄 96500白糸台 102500(+5800)臨海 87700これが現状の点数状況で、玄さんは逆転されておらず照の連続和了も途切れたのではないかという大きな希望を抱いています。2019年を締め括る咲-Saki-の最後の1ページは玄さんでした。玄さんしか描かれていないページでした。こんな奇跡を体感して良いのでしょうか……普通に見れば、連続和了でロンされ逆転された玄さん。玄ファンにとっては絶望で終わる2019年、と思う見方が多くを占めると思います。しかし、よく見れば表情も絶望というよりは意外性に対する驚きが強く出ているようにも感じます。私はこの後連続和了が途切れた照、守りに入らざるを得なかった照を尻目に、誰よりも速く玄さんが和了して阿知賀が1位抜けする未来しか今は見えません。2019年、吉野山で世界各地で吉兆とされる二重虹を見て始まった今年。奇跡と呼ぶしかないような、龍の快進撃を目の当たりにし続けることができました。ただ確実に言えるのは、類稀なる努力があってこそ、その手に掴んだ奇跡であるということです。幾星霜もムゲンに読み返し、観返した阿知賀編。そして待ち焦がれたその先にある決勝戦。それがこんなにも、期待を超え予想を超え、最高を超える最高の展開で震え、滾り、歓喜の涙に咽ぶ内容とは……いくら感謝の言葉を並べてもこの想いを伝えることはできませんが、本当に本当に本当にありがとうございます。あまりにも、あまりにも幸せな1年でした。単行本作業が挟まるので次回は玄さんの誕生月である3月となりますが、心は喜悦に満たされた安閑恬静。20巻の表紙も内容的にも玄さん&吉野が来る可能性は非常に高いですし、世界に満ち溢れる輝きを両手を広げて賛美するような気持ちで穏やかに待ちます。

  • 20Dec
    • 咲-Saki-211局 感想・考察

      前回記事:咲-Saki-210局 感想・考察 さて、帰るかの。 pic.twitter.com/N303EQRbUp— ヤオキン【公式】 (@yaokinz) December 10, 2019というヤオキンさんの何気ない呟き。一般人にとっては何ということのない呟きなのですが、我々の業界には激震が走りました。「こ、この鉄塔は…………!?」 咲15-p2はこちらですかな?(既に見つかってる⁇)私が情弱なだけならあれですが… 34.7656114,135.4524400 ヤオキンさんツイートより RT pic.twitter.com/vuo0mTcyks— スタジオキムチ (@kimchi_fuji) December 10, 2019早速、それらしい場所を発見する慧眼の探訪勢。 143局扉絵ここで間違いないですね‥ 細か居場所探しします pic.twitter.com/wfj8xQUrg7— イジゲン@巻末のミョンファ (@ijigen77sevens) December 11, 2019そして、すぐに現地に赴くフットワークの軽い探訪勢。すべてがすばらですね!かつて、だーはらさんはこの背景を求めて東京中の河川敷を捜索したそうです。そして、私自身は以下のように考察しておりました。個人的に一つ推察するのであれば、背景も秋で皆の制服も夏服から秋仕様になっているこの状態。そして、もしもこの4人が一堂に会するとすれば……それはコクマ以外にないのでは?彼女たちがこの制服を着ている秋ということは、竜華が留年していない限り同じ年。即ち、長野県ではないかと思うのですけど、どうでしょう。立先生の行動範囲や咲-Saki-世界的に考えてもそんな気がしてなりません。後は長野中の河川敷を洗い出すだけです。しかし、蓋を開けてみればまさか大阪とは……。それでも、上記理由により現在のインターハイが終わった後の秋であろうということには変わりないので、そのタイミングでこの4人が、阿知賀編にてAブロック準決勝の大将戦を行った面々が大阪に制服で集まっている理由というのは非常に気になります。あれですか、全日本ジュニアの選抜メンバーを決める試合が大阪で行われていたりいなかったりするんでしょうか。スタジオキムチさんが立先生にメールを送ったそうですが、真相が非常に気になります。ともあれ、今年は公式からのヒントにより未発見だった舞台が本当に多く見付かっていますね。帰省する際にでも、怜-Toki-の舞台と共に寄りたいものです。さて、以下は最新話感想です。未読の方はゆめゆめご注意あれ!南二局2本場 優希、ホンロートイトイ三暗刻阿知賀 125300(-6200)清澄 109200(+12600)白糸台 88000(-3200)臨海 77500(-3200)前回は、優希の四暗刻を見切っての跳満により、ガイトさんの和了を潰した所でした。それに対し、珍しくガイトさんが口頭で感想を伝えます。それに答える優希の言葉は「常人の1万倍はタコスを食べているからな」。これには、あの優美で温厚で朗らかな玄さんも(何言ってるのこの人…)という反応。玄さんに心内語とはいえ「この人」呼ばわりされるのはなかなかのなかなかですね。ただ、(何言ってるのこの人…)と思っているのは照である可能性も少なからずあります。玄さんだったら心内であってもさん付けして呼んでいる方が自然である一方、照の言葉選びであるならば非常に自然ですからね。ちなみに、咲-Saki-ファンは常人の数倍タコスを食べているので参考にならないため、特に咲-Saki-ファンでない方々にアンケートを取った所、タコスは人生でも数えるほどしか食べたことがないという意見が大勢を占めました。しかし、一方で家で作って1年に数回食べますという方も。のべ300年に食べられるタコスを60個程とすると、常人の平均は5年に1タコスほど。その1万倍となると、5年で1万タコス≒1年で2000タコス≒1日で5.5タコス。一回で3個程度のタコスは普通に食べますし、優希であればもっと食べていそうなのでかなり実態に近い数値ではないでしょうか。1年に2個のタコスを食べれば、麻雀で和了した時に「常人の10倍はタコスを食べているからな」1年に20個食べれば「常人の100倍はタコスを食べているからな」と勝ち誇っていけます。ぜひ積極的に使って「何言ってるのこの人」とツッコミを入れられましょう。私は「常人の100倍は玄米茶を飲んでいるからな」「常人の100倍はどら焼きを食べているからな」といった感じで使っていきたいです。冗談はこの辺にして。和了を阻止される嫌な形で親を迎えたガイトさん。ここで臨海の幕間に。ガイトさんが何故臨海に来たのか、監督も知らなかったとのこと。流川楓のように「近いから」というような理由の可能性も考えてしまいましたが、ダヴァン曰く「船でかよえるから」。流石お嬢。そういえば、プレシャスメモリーズのカードにもなった伝説の神回105局[旧友]でも、船着き場にいてそのまま出発しそうな雰囲気もありましたもんね。それに対するミョンファさんのバッサリっぷりがあまりにも秀逸。ハオに対する、何とも名状し難い眼差しのコマが最高過ぎました。咲-Saki-シリーズで「スタンプにして使いたいコマ」をランキングにしても、(阿知賀を除けば)確実にベスト5に残るであろう絶妙な表情。前後の郝慧宇さんも良い味を出しています。やはり私は臨海ではミョンファさん推しだなと再確認させてもらいました。吹き出しについているネリー、ミョンファ、ハオのそれぞれのデフォルメもかわいい。あまりに破天荒なミョンファ、怖い顔で適当なことを言って更に混迷を深めさせるネリー、まともに見えてラーメン狂いのダヴァンという面子の中で、ハオの純粋な常識人ぷりが光り輝いています。「私のお尻をイクラでも叩いていいですよ」と、好物の魚卵を絡めたダジャレをもぶっこんでくるミョンファは今回本当にキレッキレ。ここに愛宕洋榎さんでもいれば的確にツッコんでくれたろうに惜しい……しかし、ここで更にとんでもない新情報を盛り込んできました。「私自身はマイクロバイオロジーで生み出されたモノですから」!?!?!!?!?!?!?!?な、なんだってーーー!?学術研究都市ソフィアアンティポリス出身というのは、本当にそういう意味ですか。そもそもこの咲-Saki-世界では同性同士でも結婚して子供を産めるということもあり、人工授精や体外受精に関する技術体系も大きく異なるとともに高度に発達している可能性があります。ミョンファさんは見た目だけなら完全に西洋人なのに姓名がアジア系なのは父親の遺伝子を色濃く受け継いだのかなと思っていましたが、そうではなくゼロベースでフランス人として作られたが故であるのかもしれないと。生まれてからまだ数年とかだったら確証を得られるのですが、年齢は17歳と14巻の幕間にて明記はされています。詳しく明かされることはないとは思いますが、大変気になりますね。14巻巻末の謎の涙の理由をひもとく鍵の一つもここにあるかもしれません。マイクロバイオロジーで生み出され、牌に愛されたような能力を持ち世界ランカーになっている(しかも超美少女)。これは凄いことだと思いますが、そんな科学の粋を先天的な更に牌に愛された子が更に上を行っていると思うとなかなかに熱いです。しかし、郷に入らずんば郷に従えの間違いを指摘できるダヴァンは大分日本語に精通しているなと。ちなみに、ガイトさんの臨海に来たもう一つの理由は「世界の強い同世代と日々鍛錬できる」。東東京の絶対王者である臨海、首都圏の中でも最も麻雀の強い者が集まる高校といえば、少なくとも3年前は臨海であったことは間違いないのでしょう。時には中国麻雀など相手のフィールドにも立って研鑽を積み続けるガイトさん。個人戦3位の実力の礎となる向上心を感じます。サトちゃん、と薬局にある某マスコットのような呼び方でミョンファに呼ばれてるのはかわいいですが。ホェイちゃん、ネリーちゃん、ミョンなど、今回は臨海内でのお互いの呼び方が解ったのも収穫でした。ダヴァンの「どうですカネ」は、魚卵が好きなミョンファの「イクラでも叩いていいですよ」に対しての、おカネが好きなネリーに向けた天丼なのかどうか、私気になります。何はともあれ、この面子で積み重ねてきたものが確実にガイトさんの力になっている。それを示す和了が、クイタンのように見せかけ自ら7mカンで壁まで作っての9m単騎待ち。ツモ切った2p単騎とて悪い待ちではなく、むしろタンヤオも付けられる中での見切り。和了できない役満より和了できる跳満を選択した優希に続いての、和了できない3翻より和了できる2翻。それも同じトイトイで優希からの直取りという、自分の和了を奪われた意趣返し。点数は低くとも熱い闘牌です。これによって点数はこう。南三局0本場 智葉、トイトイ阿知賀 125300清澄 105300(-3900)白糸台 88000臨海 81400(+3900)そして、勢いづいた智葉は更に疾風迅雷の和了を見せます。南三局1本場 智葉、ツモタンヤオ三暗刻阿知賀 121200(-4100)清澄 101200(-4100)白糸台 83900(-4100)臨海 93700(+12300)玄さんがいるのでリーチはできない状況ですが、これはリーチしても裏ドラを見なければ点数が変わらない形。優希のホンロー三暗刻に対してタンヤオ三暗刻でやり返した形ですね。最下位にいる打ち手が強いとき――たやすく逃げ切らせてはくれない必ず追い上げるように打ってくるこれはこの局面のみならず咲-Saki-シリーズ全般に言えることですね。しかしながら、その最下位にいる打ち手こそは高校生最強のチャンピオン。そしてそして、ここがやはり咲-Saki-はすばらだ! と思わせられた所なのですが、ガイトさんにとっては照は宿命のライバルでありながらも昨年の世界ジュニアでの最強の相棒でもあると!!いやはや、この構図の熱く滾る様ときたら!ちなみに、142局よりコクマでは高校2,3年生がジュニアA、高校1年生と中学3年生がジュニアBという区分であると明らかにされています。一方、166局[邂逅]では、熊倉さんが藤田プロとジュニアメンバーを選抜する話をしている時に「今年は宮永姉妹が鍵」という発言もしています。コクマでは1年生は別区分ですが、世界ジュニアは1年生でも出られるどころかネリーが去年の世界ジュニアで活躍している所からサッカーのU-18に近い形態であろうと予想されます。時期的にはインターハイの後であろうことから、インターハイで活躍した荒川憩も当然メンバーには選ばれていそうですが、「相棒」という表現が意味するところを考えるとどんなメンバーだったのか、もしかして憩ちゃんはいなかったのか、などとも考えさせられます。しかし、照とガイトさんがいながら、あるいは一昨年には照をも破った戒能さんや、それに繋がる活躍をした藤白七実がいながら「今年こそは決勝リーグですか」という藤田プロの発言からすると、数年予選リーグで敗退していることも匂わせられ、世界の強豪のヤバさを間接的に感じさせられます。去年の代表は誰だったんでしょうね。衣は実績的にも招聘されていておかしくなさそうですが、世界ジュニアで強敵と戦えていたなら言及されていそうな気がします。飛行機が苦手でもおかしくないですし。後は有力なのは姫様、竜華、洋榎、遊佐さん辺りでしょうか。セーラに関しては、本番では自分より先輩が活躍していたということで、蔵垣るう子や穂積緋菜さん辺りも候補。霞さん、はっちゃんも強さ的には全然行けそう。み、見たい……今のインターハイが終わった後、オールスターで世界の強豪に挑む世界編、堪らなく見たいです小林先生……何年掛かるかわかりませんが、いつまでもご壮健であられることを祈るばかりです。もしも今年のメンバーを選ぶとしたら、宮永姉妹と荒川憩さんまではほぼほぼ合意が取れることでしょう。次点はガイトさん、怜、竜華、セーラ、洋榎、衣、姫様、霞さん、爽、豊音、ルールによっては哩姫辺りを多くの人が挙げるでしょうか。しかし、私は客観的に言ってもここの一角に今の玄さんは十分食い込めると思います。日本の代表となった玄さんを全力以上で支え、応援したい。まあ、そもそも世界ジュニアのルールやチームの人数も明らかになっていないので机上の空論ではありますが、そういうのが楽しいですよね。

  • 30Nov
    • このマンガも素敵!2019 その1

      毎年恒例の「このマンガがすごい!」の発売・発表も近付いてきました。前回の記事ではベスト10入りするものを予想しました。一方で、このマンガも素敵なんだ! 個人的に推したい! という作品も沢山ありますので、紹介していきます(他のアワードでは上位に来るであろう、来て欲しい作品も含みます)。ぴっかり職業訓練中「お金も職もない、人生詰んだ」と思っている方にこそ読んでみて欲しいマンガです。『とろける鉄工所』の野村宗弘さんによる、ハロートレーニングと名前が変わったと共にその中身も変わりつつある現代の職業訓練所に様々な事情で通う老若男女の人間ドラマ。主人公は28歳のマンガ家になれなかった青年で、夢破れてもこういう風に学びながら誰でも職人となってお金を稼いで就職して生きていく道もあるんだ、と読みながら学べる作品です。ダブル天才役者を描いた作品は『ガラスの仮面』や『アクタージュ』など多々あります。しかしこれ程欠落した、日常生活を送ることすら困難な、それ故に相方が必要なほどの歪な天才ではありませんでした。主人公二人の関係性だけで無限にご飯を食べられる、マンガはキャラクターであるという原点を思い起こせられる作品。エッジの利いた野田彩子さんの作品群の中でも一際輝きを放つ、間違いなく今年を代表する傑作です。丁度、先日公開された最新話は本作の核心に触れとりわけ最高過ぎたので、一人でも多くの方に読んで欲しいです(11/30現在、単行本を買えばその続きはすべてWEBで読めます)。結ばる焼け跡昨日、『ALL OUT!!』が完結した雨瀬シオリさんが、ずっと描きたかったというテーマに挑戦した作品。2018年の読み切り版掲載時には個人的年間ベスト10にも入れた程の傑作です。終戦直後を舞台に、人間という物について深く考えさせられる物語になっています。ただ単純に戦争の悲惨さを謳う内容ではなく、純粋にその時代に生きた人間たちを卓越した筆力で描くことで、現代に生きる私たちが読んでも自分事として捉えてしまうような普遍的なテーゼに肉薄しています。雨瀬さんは『ここは今から倫理です。』「松かげに憩う」など描く物描く物すべてハイクオリティで素晴らしく、心酔します。片喰と黄金『てのひらの熱を』の北野詠一さん最新作。毎日お腹が満たされるまでご飯を食べられ、命を脅かされる危険もほぼない。そんな状況が人類史的にどれだけ貴重な状況かを再認識させられる、ゴールドラッシュで一攫千金を夢見る19世紀の物語です。帯では『ゴールデンカムイ』作者の野田サトルさんに激賞されるほど綿密に行われている歴史考証に、高い画力と演出力が合わさった作品。歴史マンガでありながら純粋に面白いが故に誰でも楽しめるハードルの低さもあり、お薦めする要素しかありません。その着せかえ人形は恋をする「着せ替え人形」と書いて「ビスクドール」と読む、ここテストに出ます。ヤングガンガンで1話を読んだ瞬間に「これは素晴らしい!」と思い、ラブコメ好き諸兄に沢山お薦めしてきた作品。まず絵が実に良く、女の子がとてもかわいい。雛人形職人を目指す男子高生という単体でも異色で面白い主人公の設定に、コスプレ好きのギャルという掛け算の絶妙さ。近年は上質なラブコメが豊富ですが、ラブコメ好きは絶対に読んで欲しい一作です。はたらくすすむ高齢主人公の作品って少ない(経験を元に書くのが難しいので当然ではある)のですが、高齢化社会においては今後ニーズは高まる一方ではないかと思っています。本作は妻に先立たれ、娘にも煙たがられる悲哀の66歳の主人公がピンサロで働き始める物語。嬢たちとの不思議な人間関係や、それぞれが抱える想い、ピンサロの内情、定年までのサラリーマン生活では味わえなかった新鮮な経験などが合わさってとても良い読み味を醸し出しています。読むだけで人生の経験値を得られる、そんな作品です。プリズムの咲く庭 海島千本短編集アニメ『ブラック・ブレット』では総作画監督も務め、現在はイラストレーター・漫画家として活躍中の海島千本さんのマンガデビュー作。絵が上手いからマンガも面白いと簡単には行かないのがこの世界の常ですが、稀にこういう絵も上手ければマンガ力も非常に高い、という方が現れるんですよね。作画のレベルが非常に高く眺めているだけで眼福なのはもちろん、様々なテイストの話の構成力、マンガとしての読みやすさ、流れる空気感なども実に上質。「今年の新人」「今年の短編集」という括りでは筆頭に挙げてお薦めする作品です。傾国の仕立て屋 ローズ・ベルタン歴史チェスマンガ『クロノ・モノクローム』も、野球マンガ『ナックルダウン』も個人的には大ファンだった磯見仁月さんの待望の最新作。タイトルにもある通りマリー・アントワネットに仕えた仕立て屋、ローズ・ベルタンを主人公にした物語です。本作の最大の美点は、彼女の最高の仕事が非常に華美なヴィジュアルで説得力を持って表現されている所。歴史物ですが、何の知識も持たずに読んでも面白い仕事マンガ/人間ドラマとして楽しめるので広くお薦めしたい作品となっています。ちなみに、花の都パリにおいてファッションデザイナーの祖とされるローズ・ベルタンは『ベルサイユのばら』にも登場する人物ですので、併せて読むのも面白いです。くだけるプリン『クロサギ』の黒丸さんによる、体を重ねるに至るまでの様々な男女の物語6編を収めた短編集。“女はみんな自分だけの『ご褒美』を持っている”“恋したものには触れてはならない 触れることは汚すことだからだ”など各作品の冒頭のモノローグが示すように言葉選びに情趣があり、特に第5話「まぼろし夫婦」で紡がれる切なる美しい言の葉はとても良いものでした。女性作家ならではの女性心理描写の的確さがあり、主に女性向けではありますが逆に男性が読むことで得られる気付きや学びもある作品となっています。『クロサギ』的なものも良いですが、こういう路線も今後も描いて頂きたいなと思う秀作でした。終わりの国のトワ文明が滅び「文字」と「女性」が消え、人は宿り木から生まれる世界。そんな世界でいなくなったはずの女から生まれ、文字を読むことができる少年を主人公としたSFファンタジーです。マントの少年、剣、連れ添う賢い狼と冒頭から王道ファンタジー感を非常に端然とした魅力的な絵で演出され、まず引き込まれます。そこに、今現在の日本人が知る固有名詞の数々が過去の文明として登場する世界観が露わになっていき、現実と地続きの世界における新たなシステムやその先の未来への興味を唆られます。ここ最近のオリジナルファンタジーとしては出色の出来で、続きがとても楽しみです。ワンダンス『のぼる小寺さん』『しったかブリリア』の珈琲さん最新作ですが、圧倒的に本作が私は一番好きです。吃音がありコミュニケーションが苦手な主人公が、ダンスで圧倒的な自己表現をするヒロインに出会ったことで自身もダンスを始めると共に成長し自分を変えていくという正統派ボーイミーツガールにしてジュヴナイル。こういう構造は琴線に触れます。何しろダンスシーンの表現力が素晴らしく、1話のヒロインの躍動感と美しさに一目惚れしました。その心の震えは主人公の少年が覚えたものと完全にシンクロしていたはずです。青春マンガが好きな方にお薦めですし、読むとダンスに興味も湧きます。個人的にダンス部部長の恩ちゃん推しです。君の大声を聞いたことがない普段は冴えないけれど、一芸に秀でていてその瞬間だけ輝くというタイプの主人公の物語は枚挙に暇がありません。しかし、本作は容姿的にも能力的にも本当に何一つとして自分に自信が持てる要素がない29歳のOLがヒロイン。そんな彼女にも、自分も輝きたいと心から乞い願う瞬間が訪れます。弱くひたむきな主人公の行く末はどうなるのか。切実な人間ドラマです。今の自分に自身が持てない、こんな自分を変えたいと思っている方、自分に重ね合わせて読める方には特に非常に刺さる作品でしょう。父のなくしもの『薫の秘話』『ママゴト』『私を連れて逃げて、お願い。』など、人生の不条理に晒されながらも必死に生きる人間の姿、心揺さぶる物語を心身・魂をも削るような筆致で描き続けて来た松田洋子さんによる、自伝的作品。「こんな作品群を描く松田洋子さんは一体どんな人生を歩んでこられたのだろう」と常々思っていたのですが、その答が本作に描かれていました。端的に言って私は気付いたら涙していました。そして、痛切なあとがきを読んで更にもう一度涙を流しました。深い深い想いの込められた作品で、読んだ後は大切な人を今まで以上に大切にしたくなります。松田洋子さんはもっともっと読まれてもっともっと評価されるべき作家です。鍵つきテラリウム『僕が私になるために僕が私になるために』『白百合は朱に染まらない白百合は朱に染まらない』の平沢ゆうなさんの新作は、美しく心温まるポストアポカリプスSF。まず、単行本冒頭にもあるフルカラーで描かれたepisode0のコロニーの風景に一瞬で心奪われました。そして、人間とロボット的なテーマも入ってきて心の奥底まで優しく時に切なく響き渡るストーリー。私のように廃墟に萌える方、『少女終末旅行』、たつき監督作品、ニーアオートマタなどの終末系世界観が好きな方にもお薦めしたい一冊です。ひゃくえむ。"大抵の問題(こと)は100mだけ誰よりも速ければ全部解決する"誰よりも100m走を速く走れる少年が、初日からイジめられた転校生にかけた言葉。ここから、狂気と妄執をはらんだストーリーが始まっていきます。人間が宇宙にまで行けるようになっても、原始の時代から重宝された「走るのが速い」という能力は子供にとっても大人にとっても未だ特別な物。努力したからといって必ず勝てる訳ではなく、勝者の側にいる者も油断すれば一瞬で敗者の側に堕ちる世界。自分の場所を守るため、あるいは奪い取るために迸る狂気にも似た執念の黒い炎のような熱にあてられる物語です。心焦がされる熱量ある物語が読みたい方にお薦めです。木曜日は君と泣きたい表紙絵の眼ヂカラに惹かれた方は、その感覚を信じて手に取ってみて下さい。『花もて語れ』の片山ユキヲさんの下でアシスタントをしていた、工藤マコトさんのデビュー作です。Twitter上で大人気となった『不器用な先輩』も、今度ヤングガンガンで連載が始まることになったそうで楽しみです。とにかく工藤マコトさんは絵が魅力的で、特に瞳に宿る力は今年の新人の中でも抜群。そして物語自体も面白く、幾重にも絡まった複雑な事情から織り成される群像劇には程よい痛みと緊張感があります。ネタバレになるためあまり具体的に内容には触れたくないので、とりあえず読んで新鮮な驚きと共に楽しんで頂きたい作品です。将棋指す獣藤井聡太七段の活躍もあり、将棋ブームがまた漫画界にも訪れている昨今の代表的将棋マンガの一つ。『アイアンバディ』の左藤真通さんと、『ミリオンジョー』の市丸いろはさんという豪華なコラボです。まだ女性でプロになった者がいない世界で、元奨励会三段のヒロインが前人未到の道を突き進んでいく物語。何と言っても、「将棋狂い」のヒロインが魅力的。将棋にのめり込み過ぎて常軌を逸した行動を取ってしまう様子の数々が描かれますが、それだけひたむきに打ち込んでいるからこそ息の詰まるような対局を読みながら応援したくなる気持ちも強まります。彼女は確かにケモノではなく、ケダモノです。それが良い。THE GIRLS SCHOOLたまにこういう頭のネジが2、3ダース飛んだギャグマンガを抉りこむように撃ち込んでくる新人作家が出てくることを嬉しく思います。表紙絵の美しさに騙されて手に取って下さい。中身も絵は綺麗(な所は綺麗、良い意味で酷い所は酷い)ですが、ぶっ飛んだテンションによる痛快さすら感じるカオスな世界が広がっています。私は何度も声を出して笑ってしまいました。下ネタが大丈夫な方、『あそびあそばせあそびあそばせ』や『春になるとウズウズしちゃう春になるとウズウズしちゃう。』、美川べるの作品などのような趣が好物の方はぜひぜひ。巻末のおまけも色々な意味でボリューミーで、今後も双刃美さんの描くマンガは問答無用で追っていきたいです。死ぬときはまばゆく主人公が抱く「痛み」の感情が赤裸々で切実で、 1話を読んだ時点で強く心を掴まれた物語です。 先天的なものであるが故にどうしようもない「容姿」という要素に起因する様々な負の事件に遭ってしまう主人公。ある決断と行動。その更に先にある試練。周囲の人物たちの悪意にヒリヒリします。 自分の容姿がもう少し良かったならこんな悩みを持つこともなかったのだろうか……そんな風に思ったことがある人であれば、他人事とは思えない主人公に共感必至です。 主人公にはどうにか幸せになって欲しいと思いつつ、タイトルを想うと彼女の行く末が案じられてなりません。 読んでいて辛くなりますが、良い作品です。妻、小学生になるニコニコ掲載時にもTwitter掲載時にも大いに話題になった本作。私はタイトルを聞いた時まったく違う内容を想像してしまいましたが、蓋を開けてみれば実に感動的でシリアスな内容でした。最愛の妻を若くして亡くしてしまう悲しみは如何許りでしょうか。そんな妻と10年ぶりに再び出逢うことができて、その手料理を食べられる喜びは如何許りでしょうか。妻の毅然としながらも根底に家族愛に溢れた性格がとても良く、運命がもたらした奇跡の再会に涙します。話が進むごとに深まっていく家族の絆に、最終的にどうなるのか期待と不安が混じりながらも最後にはまた泣かされる予感がします。チェイサーゲームサイバーコネクトツーの松山洋社長。マンガ・アニメ・ゲーム・映画など広いコンテンツを愛し、日々貪欲に摂取する姿には大きな共感と尊敬を抱いています。そんな松山さん自身が創る、自身の会社CC2を舞台にしたゲーム業界マンガ。ゲーム作りの裏側は純粋にゲーム好きとして楽しめると共に、ビジネスマンや中間管理職としての葛藤に対してはその辛さに共感を覚えるリアルな描写が多々。それでも根底には誰かを楽しませたいという想いがあり、苦難を乗り越えてチームでモノ作りをする尊さ・美しさがあります。また、この作品に対して書かれた鉄拳シリーズのプロデューサーである原田勝弘さんからの手紙が非常に熱く、聖剣伝説シリーズの作曲で知られる菊田さんをして「ここ10年のゲーム業界で最高に痺れる言説だった」と評された程。今後への期待も大きく、ぜひ原田さんが言うようなパブリッシャーとディベロッパーの間の葛藤なども見られればと思います。まだまだあるので続きます。

  • 27Nov
    • このマンガがすごい!2020予想

      今年も気付けば残す所40日足らず(嘘だろ承太郎)。毎年恒例の「このマンガがすごい!」の2020版発売・発表も近付いてきました。そこで、オトコ編・オンナ編のベスト10を予想してみます。個人的には「このマンガがすごい!」ではベスト10には入らないかもしれないけれど、このマンガも素敵なんだ! と心から叫びたい作品も軽く3桁はありますので、そちらもまた別途まとめたいと思います。まずオトコ編のベスト10を。SPY×FAMILY10月に2巻が発売されたばかりですが、先日早くも100万部突破の報が出たジャンプ+の看板作品。世界同時配信が始まっているお陰で、既に海外でも大人気だそう。基本的に海外ではアニメ人気から火が点くパターンばかりだったので、今後マンガ主導で人気の作品が増えていけば非常に良い流れですね。互いの正体を知らないスパイの夫と暗殺者の妻、そしてすべてを知る相手の心を読める超能力者の娘という設定が紡ぎ出す物語の妙、それを支える安定した画力。人気過ぎて投票時に敢えて外す人もいそうなレベルの、圧倒的キングオブエンターテインメント感があります。「すごい!」に限らず各所で名前を見ることになるでしょうし(既に次にくるマンガ大賞1位も取っていますが)、今後のメディアミックスも盛り上がってそこで更に跳ねるでしょう。間違いなく今年を代表する一作。僕の心のヤバイやつ『五等分の花嫁』がアニメで大ブレイクし『進撃の巨人』より部数が出たり、アニメと実写で大盛り上がりの『かぐや様は告らせたい』であったり良質なラブコメが元気の良い昨今ですが、そんな中で大きく話題になって更新の度に盛り上がっているラブコメが『僕ヤバ』。公式から「両片思い」と明言された市川と山田の甘酸っぱいにも程がある現代的なラブがコメる様子に、迸る感情を持て余す読者続出。好意を時に婉曲的に時に積極的に、絶妙に表していくエピソードの数々に身悶えさせられること必至です。時折Twitterで桜井のりおさんが投下する爆弾にも被害者続出。どっちのラブコメショーで高木さん派と山田派を戦わせてみたい。ラブコメって、いいものですね。王様ランキング一昨年に連載が開始され、各所で話題になった作品。大きく話題になったのは去年という印象ですが、単行本刊行は今回の集計期間内ですので、そうであるならば入るだろうと読みます。多少絵が拙くとも、抜群に面白いマンガは成立するという優れた見本です。特にキャラクターと世界設定、物語が非常に魅力的で、老若男女問わず楽しめるファンタジー。人間に普遍のテーマが溢れており、海外でも受け入れられそうです。上手いこと映像化も絡めて輸出すれば日本のハリーポッター的な存在にできるのではとすら思います。それでも歩は寄せてくる『からかい上手の高木さん』で一世を風靡した山本崇一朗さんが、マガジンで新しいラブコメの連載を始めると知った時は驚きました。こちらは将棋部の先輩女子と後輩男子という関係性で織り成されるラブコメ。1話1話は短い中に、身悶えするシーンが沢山ギュッと詰まっています。とらやの羊羹、文明堂のカステラ、山本崇一朗さんのラブコメ。そんな信頼感と安定感。こういうのが、良いんです。山本崇一朗さんや工藤マコトさんなど片山ユキヲさんの下でアシスタントをされていた方々が6桁のフォロワーを持つようになりブレイクしていっているのをとても嬉しく思います。潮が舞い子が舞い『月曜日の友達』以来、1年半ぶりに出た阿部共実さんの最新作。高校2年生の男女が日々繰り広げる他愛もないやり取りが、阿部共実さんらしい突出したセンスによって面白おかしく昇華させられています。ページの半分くらいをセリフが埋め尽くしていても、一切苦もなく読めてしまう所に力量を感じます。しかし『月曜日の友達』でもそうでしたが、阿部共実さんの作品はどこで暗黒面に堕ちるのかと警戒しながら読んでしまいます。大丈夫なのか、この青春感を素直に楽しんでて良いのか、こんなに爽やかなままで本当に何もなく終わるのか……そんなメタ的な部分も全部引っ括めて、阿部共実作品の味だと思います。水は海に向かって流れる2014年に出た『子供はわかってあげない』が3位になった実績も持つ、田島列島さん待望の最新作。本作もあらすじを説明することにあまり意味がない、田島列島ワールド全開な作品。何よりセリフのセンスが図抜けすぎており、絵と言葉で重い話も軽やかに読ませつつしかし沁みる独特の読み味。とりあえず何も言わずに読んでみて欲しいですし、同時にインタビューも読んで頂きたいです。千の言葉を並べるより、その天才性を体感できるでしょう。チェンソーマン「最近のジャンプはつまらない」という声は割といつでも聞こえますが、ワンピース、ハイキュー、ヒロアカ、鬼滅の刃、Dr.STONE、約ネバ、ブラクロ、呪術廻戦、アクタージュ等々、そしてこのチェンソーマンがある今のジャンプはなかなか熱いと個人的には思っています。『ファイアパンチ』でその名を世に知らしめた後、短編でも世間を騒がせつつ始まった藤本タツキさん待望の新連載。元から画力とセンスの塊でしたが、本作ではそれらが更に洗練されつつゴリゴリに発揮されています。話が進むに連れてますますエンジンも掛かってくるので、最新巻まで一気に読むことをお薦めしたいです。雪女と蟹を食うすれ違ったら振り向かれるような美女と出逢い、その美女のお金で各地で観光をして、美味しいものを食べ、酒を飲み、褥を共にする。「欲望の総合商社みたいなマンガ」と私は評しています。Gino0808さんの絵が非常に魅力的で、雪女のようなヒロインが儚い笑顔や憂い顔で佇んでいる姿だけでも成立してしまう感があります。艶かしさが前面に出るシーンでもどこか品があり、それが作品全体に漂う叙情性にも繋がっています。27歳で人生に行き詰まった主人公のダメっぷりも文学性を高めており、良い味を出しています。果たして二人はどのような結末を迎えるのでしょうか。見える子ちゃん非常に新感覚のホラー作品。通常、この世ならざる存在がいたとして主人公に特殊能力が持たせられるなら、それを退治できる能力です。しかし、本作では主人公は「見える」だけ。脅威に対する何の対抗力も持たずただじっと堪えてやり過ごすだけ。ただ、現実でも自分の力で全てを解決できる局面ばかりではない事を思うとある種の批評性すら感じます。時折ハートフルな話も交えてきて心がぽかぽかするのも良いです。1巻だけより、2巻まで一気に買って読むのをお薦めします。ワンナイト・モーニングとにかくTwitterで大いにバズって超人気となった本作。男女のワンナイトラブと、その翌朝の朝ごはんを描いた連作短編となっています。愛し合った翌朝の朝食にフィーチャーする着眼点もさることながら、その描き方のエモさがこの作品の最大の魅力です。男性・女性それぞれの感情の機微の良さみが深く、様々な感覚が芽生えます。一話完結型なので気軽に読めるのもいいです。その他、次点の作品などについて。プー●ン大統領的なサムバディのパワフル極まりない異世界転生。コアな人気だけではないのは部数が証明しており、馬場さんの作品がブレイクして私は嬉しいです。花沢健吾さん最新作『アンダーニンジャ』や鳥飼茜さん最新作『サターンリターン』や浦沢直樹さん最新作『あさドラ!』辺りはベスト10入りしていても全くおかしくない所。異世界モノはちょっと……という人すらも楽しめてしまう『異世界おじさん』も有力候補。対象期間中に4冊出た『バトゥーキ』は尻上がりにとても面白くなっているのですが、一番面白い最新5巻が対象期間外なのと、1巻だけで切ってしまった人もそれなりにいるのではないかという懸念が少々。今年一番盛り上がっている、期間売上でも遂にワンピースを超えた鬼滅について。最高に盛り上がり始めたのはギリギリ集計期間の前後であろうこと、また有名すぎて敢えて外す人もいるタイトルであろうことからベスト10には入らないと予想。とはいえ、今の鬼滅ならそれすら突き破ってくる可能性も否めません。ちなみに、現在一部の巻以外Kindleで30%ポイント還元中のようなので(ジャンプ作品では割と珍しい)気になっていた方はこの機会にいかがでしょうか。続いてはオンナ編。さよならミニスカート今年話題になった少女マンガと言えば、まずこれですね。連載開始時のりぼん編集長による声明、そして特設サイトの作り込みが話題になりました。その後も、りぼん作品が何とジャンプ+でも連載されるという正に異例中の異例扱い。牧野あおいさんは前作『セカイの果て』も、少女マンガの骨格はしっかり保持しながらもりぼんでは相対的に少々ハードな内容でした。だがそれがいい、と個人的には思います。りぼん、なかよし、ちゃお等でも昔から大人向けではないのかと思うような作品があり、そういったものに触れて様々な想いに駆られることもまた貴重な経験。故に、こういう作品がりぼんに載っていることに意義があると思います。君に届け 番外編~運命の人~『君に届け』の正式なその後のお話。爽子も登場しますが、本作の主役となるのは元々は同じ風早を好きだったくるみ。『君に届け』は、そもそも矢野ちんやちづなどサブキャラの方の恋愛の方がエンターテインメント性に溢れている部分がありました。そんな彼女たちの恋模様に負けず劣らず、くるみの物語も非常に上質です。端的に言って面白く、当たり前過ぎますが椎名軽穂さんはマンガが上手いな、と語彙力の低い感想を抱いてしまいました。本編を読んでからがベストではありますが、こちらから読み始めても十分楽しめるであろう良い王道恋愛マンガです。海街diary2008年2位、2012年7位。2018年末に出た最終巻で三度ベスト10入りするかどうか、正直五分五分だとは思いますが、『7SEEDS』も16年の連載が終了した際にはベスト10入りしていました。何よりあのラストを見せられては挙げずにはいられません。今更解説するまでもない超名作ですが、終始「人間」を描くのに長けた吉田秋生さんの凄まじい力量を感じさせられた内容でした。心の深い部分に浸透してきて、単純な悲しさなどではなく名状し難い複雑な感情からの涙が零れます。鎌倉に行く度に思い出して聖地を巡りたくなる、宝物のような作品です。グッド・バイ・プロミネンス2019年で最も注目すべき新人作家の一人でしょう。まず、端然とした絵が非常に魅力的。そして、一冊の本としての満足感がとても強いストーリーテリング・構成力も煌めく才気を感じさせてくれます。今日も回る世界の中で、奏でられ響き合う様々な感情と感情の綴織。それぞれに切実さを持ちながら発露したり秘められたりしている想いたちが豊かに描かれた、非常に令和感のある鮮烈な一冊です。絶対BLになる世界 VS 絶対BLになりたくない男SNS上で大人気を博した、メタBLマンガ。タイトル通り様々な事象がBL展開に収斂していく世界で、その流れに抗って平和(?)に暮らそうとするノンケの青年の物語です。「ゴミ捨て場で倒れている男を不用意に助ける」「男の幽霊がやってくる」「めちゃくちゃ可愛い女子だと思ったら男の娘」など、BL好きには「あるある!」と思えるイベントがガンガン起こり、アプローチされてはそれを頑張ってスルーしていく主人公。果たして、主人公は最後まで回避し続けられるのか、それとも……お兄ちゃんは今日も少し浮いてる『緑の罪代』、『妖怪村の3つ子たち』と来て、この『お兄ちゃんは今日も少し浮いてる』。作家買い大安定の梅サトさん最新作です。今までの作品の中でも最も自然体で、良い意味での脱力感を覚えます。しかし、それ故に逆説的に深部まで沁みる物語となっていました。男性にもお薦めできる秀作です。裸一貫!つづ井さんつづ井さんが帰ってきた!いつも通り、いえいつも以上に読むと沢山の元気を貰える一冊です。推しがいる人間としてはつづ井さんの推し活に狂おしく同意したり祝福したりせずにはいられません。周囲の理解のあり過ぎる友人たちもまた素敵ですし、振り切れた熱量には笑いが止まらない所も。作者のつづ井さんがどのような想いでこちらを上梓したかということを記したnoteがまた名文ですので、ぜひご一緒に。「裸一貫!つづ井さん」についてちょっと真面目に話させてくんちぇ〜新しい上司はど天然2019WEBマンガ総選挙で1位に輝き、Amazonでは136個のレビューが付いて★5が94%、★3以下は何と0という超高評価。とにもかくにも30超えの上司が可愛いコメディです。そう、齢30を超えた男性が、そこらのゆるキャラが裸足で逃げ出すほど可愛いのです。「可愛いは最強なんです!かっこいいの場合、かっこ悪いところを見ると幻滅するかもしれない。でも、可愛いの場合は、何をしても可愛い!可愛いの前では服従!全面降伏なんです!」という、『逃げ恥』のみくりの言葉がそのまま当てはまるような上司に萌え狂って下さい。ゲイ風俗のもちぎさん今やTwitterでのフォロワー数が50万人を超える人気者・もちぎさんによる、主にゲイ風俗で働いていた時の体験などの半生を綴ったエッセイマンガです。当時19歳のものとは思えない透徹した思考と言動が人間の本質を突いていて魅力的です。もちぎさんよりも更にある意味上手なボネ姉の「付き合ってなくても向き合ってはいるの」といった名言の数々も忘れられません。毒親から理不尽な扱いを受け、死にたいという想いを抱きながらも乗り越え、逆に数々の人を救う存在となったもちぎさん。そんなもちぎさんも今現在は田舎で穏やかに暮らしているということが個人的にはとても救いになります。人生を生きる上で大事なことが詰まっている一冊です。東京タラレバ娘 シーズン2このマンガがすごいオンナ編は結構男性選者も多く、それ故に男性でも読み易い少女・女性マンガというのが一つのポイントになります。その点で、東村アキコさんの作品はその筆頭。すごい!だけでも『きせかえユカちゃん』『ママはテンパリスト』『海月姫』、そして『かくかくしかじか』に至っては4年連続で10位以内に入り、最終巻の際は1位となりました。もちろん、『東京タラレバ娘』も2016年に2位。その続編ということで文句なく筆頭候補に挙げられます。少々毛色が変わった部分で賛否はありますが、今回もランクインしている方にベットします。そして、オンナ編次点。村井の恋今年、次にくるマンガ大賞webマンガ部門でSPY×FAMILYに次いで2位となった新星。昨年、トリガーで行われたマンガプレゼン大会優勝者が推していた作品でもあります。男女問わず読んで楽しい作品であり、ベスト5入り位していても驚きません。ポーの一族 ユニコーン長く生きていると、「エディス」のその後をご本人が描いた物語が読めてしまう……人生って凄い(※凄いのは御年70歳で描いて下さっている萩尾望都さんです)。『春の夢』から続いてやはり変化した部分で賛否両論はありますが、個人的には読めて嬉しいです。『春の夢』が2018で2位だったのでベスト10入りはしない読みですが、していても全くおかしくありません。恋と弾丸オトコ編に分類される作品を含めても、2019年上半期に1巻が発売された作品の中の売上では圧倒的1位だった『恋と弾丸』。どちらかと言えば、普段あまりマンガを読まないという方も含めたライト層に大きな支持を得ている作品です。故に、「すごい!」での順位がどうなるかはなかなか読み辛い所ではあります。写楽心中 少女の春画は江戸に咲く集計期間ギリギリの発売日でなければ、ベスト10入り予想に入れていたであろう作品。男性でも読み易い作品ですので、春画に興味のある方もない方も読んで欲しいです。今年は秋田書店の女性向けに良い作品が多かったですね。かげきしょうじょ!!シーズンゼロ発売に伴ってベスト10入りしていたら嬉しいですねえ。番外夢中さ、きみに。何なら俺マン2019などでも非常に高確率でベスト10入りしてくるであろう作品ですが、オトコ編なのかオンナ編なのか判別できなかったので一旦省きました。面白さは折り紙付きなので、未読の方はぜひ。

  • 21Nov
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      咲-Saki- 210局 感想・考察

      前回記事:咲-Saki-209局 感想・考察現在、紅葉真っ盛りの吉野山でこれを書いています。夜行で来て夜行で帰る忙しない帰省なのが残念ですが、それでも今年もこの紅葉を生で見られただけで生の幸いを感じます。高城山展望台、そして吉水神社は最盛の紅葉が見られました。西行庵はあと少しという所でしたが、これはこれですばら!こんな感じで20巻の表紙になってもおかしくないなと思います。秋のこの紅葉シーズンは、吉野山の二番目の繁忙期でもあります。桜のシーズンとは比べるべくもないですが、それでも平日ながらいらしている方は沢山。西行庵付近でもよくすれ違いました。人のいない状態で紅葉を撮りたい場合は、一泊して早朝に撮りに行くか、それが難しければなるべく早めの空いてる時間に行くのをお薦めします。そして、繁忙期の楽しみと言えば普段は開いていない店も開いていること、そして特別なメニューがあること。魚歌屋さんで、初めて見た「鹿の鉄板焼き」を頂きました。枳殻屋さんの鹿肉の串カツ並の柔らかさで、ジューシーで旨味たっぷり。旦那さん、お父さんが共に猟師だそうで、血抜きなどの処理がとても上手であることが察せられる味でした。柿もこのシーズンは吉野山のそこかしこで売っているのですが、本当に甘みたっぷりで食感も良く美味です。二等品であれば、蔵王堂手前の青木酒店さんで7個300円とかで買えるのでお土産にアリです。さて、以下はネタバレを含みますので未読の方はご注意下さい。祝・玄さん一人浮きトップ!!!!準決勝を闘った新道寺と千里山。その大将と、玄さんが実際に対峙した先鋒の二人ずつが試合を観戦しながら玄さんの成長に驚いています。麻雀という競技の性質で、敵ではありながらも宮永照を倒すために共闘もした奇妙な絆。準決勝ではチャンピオンに押さえ込まれてしまっていましたが、一度龍が舞い始めればこの火力。それは煌さんもびっくりです。千里山の服装にもびっくり……と言いたい所ですが、最早この世界ではこれが普通と思い流してしまう自分がいるのも否定できません。や、なぜか脱いでた時が最高潮だったというのもありますが。ともあれ、竜華がまた玄ちゃんと呼んでくれていることが私は凄く嬉しい……怜がまた何やら凄いことを言い始めました。「宇宙の一周分未来予知」。dreamscapeでも回る物なら原理的に予知可能とは言われていましたが、宇宙と来ましたか。冗談なのかも判別しづらいですが…………もし仮に怜の体力を医学的に何とか補強することができたら、最強の戦士が爆誕してしまうかもしれません。そして問題の次のコマの背景。ええ、見た瞬間に私は大号泣でした。吉野山が背景として描かれる。その事はただでさえ嬉しい訳ですが、ましてや本編で初めての吉水神社とあっては。一応、これまでにも阿知賀編[特別編]で数コマ描かれたことはありますが、咲-Saki-本編で登場というのはまた違った意味を持つエポックメイキングな出来事ですよ。しかも、よりにもよってこのタイミングで。一年前に個人的な思い入れも更に深まった、それに重なる季節に初登場という偶然。なんちゅー偶然、素敵! では済まない位の何とも言えない奇跡に飛び込ませてもらっている感。上のコマに関しては、「立先生、また何でそんな所に……」という所ではあるのですが笑ときに(怜だけに)横のあらすじ、「宮永照の連荘が始まるも、それを阻止した松実玄。勢いそのまま最下位から首位に立った」世界にこんなに泣けるあらすじがかつて存在したでしょうか。現実であることを思わず再確認してしまうような、でもそれはそれで玄さんの全身全霊の努力に失礼に当たってしまうようなそんな感じです。吉水神社が描かれた、ということはロンオブオモチその中にいる人々も登場。子どもたちは以前もはやりんと共に登場していましたが、新子望さんはここに来て本編では初登場ですね!もし万が一、誰だかわからないという方がいたら『咲-Saki- 阿知賀編 episode of side-A』という福音書を読んで下さい。人類の義務にして救済です。ギバードの「クロチャ〜〜」がここに来て聞ける嬉しさと言ったらもう…………そして、10年前のインターハイで赤土さんをチームメイトとして、無二の友人として最初から事後まで支え続けた、でも、麻雀的には責任も感じ続けていたかもしれない望さんがのこの感慨と回想もまた泣ける要素しかなくてですね…………阿知賀を全力で応援して練習試合もしてくれた小走やえさん、特に玄さんとは直接闘って敗北している訳で、その玄さんが活躍している喜びは彼女にとってもひとしおでしょう。37P左下のコマは、松実館で応援する私たちですね。私はここの枠外で屈みこんで喜び咽び泣いているともっぱらの評判です。タコスも、ドラ女から「松実玄」と名前で呼んでくれるように。そして、ここであまりに思いがけない事実が判明します。物議を醸した39P最終コマ。女性しかいないのはdreamscapeで指摘されていたように、この世界では女性同士で結婚して女性同士で子供を産めるという証左だ、というのがストレートな解釈です。しかしながら、個人的には顔の見えない方が男性か女性かは不確定であり、右から二番目の方はいかにも外国人っぽい風貌に見えますがそうと確定している訳ではないのでまだ解釈の余地は色々とあります。ともあれ、生まれた時から家庭環境的にタコスを食べる状況にあり、自然と好いていったという優希。そして、涙無しには読めない事実が。前回の感想で、和は転校が多く親しい友達を作り辛い、孤独になりやすい立ち位置にあったことに触れましたが、意外にも社交的で誰にでも屈託無く接することができそうな性格に思えていた優希も、同じようにかつては疎外感を味わっていたようだと。そんな中で、特に優しくしてくれたのが和。何と、優希が麻雀を始めたのは阿知賀の皆が和と麻雀をしていたことを羨ましいと思ってのことだったと…………!阿知賀女子の皆がいたからこそ、優希も今ここにいるのだ、と。うう、ううう…………立先生、立先生!!何という…………何というエピソードを放り込んで来るんですか…………!!泣くでしょう!!普通に考えて!!!!麻雀が紡いだ絆。それがこんなにも複雑に、強く、尊く結びついているとは…………元来、私は優希も大好きなので、相手が玄さんでさえなかったら滅茶滅茶応援してる所ですよ。「優しい希(のぞみ)」。どのような真意で今回描かれた親御さんに名付けられたかは定かではありませんが……ともあれ、そう名付けられた彼女の何という優しさに抱かれたいたいけで切実な希望であることか。底抜けに明るい能天気なキャラクター、というイメージの強い優希がここに来てその過去の痛みを曝け出すギャップの威力は絶大です。そう考えると、優希が常に携行するセアミィにもまた涙を誘うエピソードが隠されていそうな気がします。それこそ和のエトペンと同じように。こんな描かれ方をしてしまっては流石に優希が和了することはほぼ確定、流石の私でもそう思いつつ、でも、諦める訳がない!「もはや清澄にやれることはないだろう」とタカを括っているガイトさんと、一方で何かを感じている素振りの照。ここは、個人戦1位と3位の差が表れている所かな、と思いました。池田、衣、煌に応援されながら、一見クズ手にも思えた配牌から連続で有効牌を引き入れ役満一向聴まで行く優希。しかし、ガイトさんの1pを鳴いて役満を崩して跳満テンパイに切り替えて行きます。この1p鳴きが勝負の大きなアヤとなりました。まあ、普通に考えれば鳴く牌ですよね。1位との点差的にも、また団体戦でのチームの点数的にもそうですし、ましてや速度も非常にある、実際に全員テンパイしているこの面子です。いくら役満一向聴といえど、跳満をテンパった方が遥かに期待値は高いでしょう。しかしながら、それは普通ならの話。間違いなく、この優希の流れならこの後も2巡連続有効牌を引いて役満を和了したことでしょう。かつて同じように椅子を回した時にも引けた時と引けなかった時の感覚には確実に差があり、この時は前者の感覚を覚えていたでしょう。でも、優希はその道を選ばなかった。その見切りが凄い。32000点あれば一発逆転ですし、白糸台・臨海との差も非常に大きく広げられます。でもそんな幻想の誘惑に流されず、リアルの実利を優先する姿はまるで福本作品の雀鬼のよう。優希は最後に鳥さんをツモって和了するというどこかの島根のかわいくて強い女の子のようなことをやってのけますが、1pを鳴いていなければガイトさんがツモって和了していた牌でした。ツモ平和で決して高くないとはいえ。これにはガイトさんも49pの表情。「解ってて鳴いたのか……?」そんな風に問いたげに見えます。一方で、すべてを察しているとでも言わんばかりの照はやはり照。照もガイトさんもリーチをしなかったのは、手替わりを待っていたり他家のテンパイ気配を感じていたのもあるかもしれませんが、何より玄さんによりリーチした後にドラを摑まされることを警戒していた部分も否めないのではないかと。着実に龍王の支配が及んでいるのが見て取れて私は大歓喜です。この優希の和了は、優希を褒めて然るべきもの。流石の久も嬉しい誤算と述べるレベル。人は予想を超えてくる、はここでも顕在。優希もまた、最上の舞台で今この瞬間に高みへと引き上げられ、成長している。この局によって点数状況は以下のように。南二局2本場 優希、ホンロートイトイ三暗刻阿知賀 125300(-6200)清澄 109200(+12600)白糸台 88000(-3200)臨海 77500(-3200)依然阿知賀がトップですが、その差は僅か15600点。普通の麻雀であればそれなりの差ですが、ことこの第71回インターハイ決勝戦の先鋒戦においては薄氷の如き点差に過ぎません。優希 8回和了 143700点、平均17962点new!智葉 7回和了 93600点、平均13371点照 12回和了 111100点、平均9258点玄 6回和了 135000点、平均22517点優希も跳満を和了して平均和了点がやや下がる異常事態。もはや、異常が正常。そして最後に久が恐ろしいことを言い放ちましたね。「とても恐ろしい2局かもしれない」と。ビハインドとなりながらも親を残している智葉とラス親の照が爆発する……それが一般的な考え方かもしれません。しかし、私は勿論違います。ドラもリーチも封じられ、今までと違って思うように点数を伸ばせず苦慮することが必至の照。その間隙を、龍が喰らう。そう私は信じています。ドラゴンが復活してから、龍の支配力は更に高まっていっているのがここまででも描かれています。そう、玄さんもまだまだ成長途中。照が3,4回くらい連荘することはあるかもしれません。が、最後に和了して終わるのは阿知賀であることを願って止みません。無限の可能性を世界に知らしめて、先鋒戦を終える。そんな未来を数順先で見てきたかのごとくに信じて、応援します。それにしても、前号までを読み返す日々の何と幸せな営みか。2019年は最高の年でした。寒くなってきましたが、立先生にはご自愛頂いて元気に無理なく愛する咲-Saki-世界を描き続けて頂きたいです。

  • 14Nov
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      咲-Saki-209局 感想・考察

      前回記事:咲-Saki-208局 感想・考察 今朝の吉野山各所のモミジの紅葉です。 写真1と2…西行庵 写真3…金峯山寺蔵王堂周辺 写真4…七曲坂周辺#紅葉 #モミジ #紅葉狩り #秋 #吉野山 #奈良 pic.twitter.com/H5Fs3oC1Sj— 吉野山最新情報 (@News_Yoshino) November 13, 2019吉野山の美しい紅葉も本格的に色付き初めた昨今、いかがお過ごしですか。立先生自ら出された多大なヒントのお陰という所もありますが、ここ最近になって難攻不落で迷宮入りとまで言われていた様々な舞台が立て続けに発見され、咲-Saki-ファンの間でも特に舞台探訪を生業とする者たちに激震が走っています。先日は遂に3巻表紙が見付かりましたが、同じく10年間誰も見つけられずにいた5巻表紙、通称「ステルス坂」が左右反転というヒントを得て遂に発見されました。その立役者がはるまきさん。ステルス坂こと咲-Saki-5巻表紙の舞台を発見しました発見に至った経緯も上記の記事にて解説されています。そして、更にはるまきさんは シノハユ46話扉絵、ここでは?? "Google Maps上は階段じゃなくてストリートビューがない場所" にもあてはまるしそれっぽいけどそのせいで検証もできない。アルルに行って確かめるしかなさそう https://t.co/dVePZ2SPD2 https://t.co/NZVSF5RwbH pic.twitter.com/S0O8pgf1vb— はるまき (@bonjinobake) November 6, 2019と、dreamscapeでの記述により海外であることが明らかにされ、更に「ストリートビューでも見られない場所」というオマケ付きの超難関物件まで特定されました。ブログ名もTwitterアカウント名も「凡人」とされてはいますが、咲世界は末原さん然り自称凡人がこわいです。しかし、ニーマン絡みでドイツかと思ったらそれをブログで否定されましたが、南仏でしたか。未だ見付かっていない物件に関しては、固定観念を捨てて取り組んだ方が良さそうだと告げられている気がします。同じく南仏にあるソフィアアンティポリスもこれから雀明華さん絡みで出る可能性もかなりあるので、折角わざわざフランスまで行くならハシゴするのもアリですね。また、個人的には日本も世界も名所を旅していそうな立先生なら、折角アルルまで足を伸ばしたのならバルセロナにも行っているのではないかと推察するので普通に観光しつつバルセロナの階段や坂を押さえておくと世界編に向けて良い先行投資ができるのではないかと思っています(決勝、個人戦、国麻まで終えるのだけでも後10年以上は掛かりそうですが)。この勢いで、1巻2巻の表紙や冒頭シーンなども見付かるでしょうか。令和の舞台発見フィーバーがどこまで続くかも楽しみです。さて、以下は最新話ネタバレです。未読の方・単行本派の方はご注意下さい。ありがとうございます、立先生…………いやぁ……もう…………望外とはこのことですよね…………こんなに報われて良いんですか…………『咲-Saki-』は予想を超えてくる……玄さんがとても大きく反応しそうな、カラーで描かれる霞さんのおもちから始まった今話。更にカラーでの美麗な見開き。となれば、あの方が動きます。 第209局[来由]再訪!今号のJCのどっちが個人的ベスト・オブ・のどっちですね。ランキング変動の可能性。これからもいっぱい来ます(゚∇^d) グッ!! pic.twitter.com/4gS30UUyU0— ステルスだーはら (@d_hara_standard) November 2, 2019ランキングは常に変動しているので突っ込まないとしても、高遠原制服+ハーフコートの今回ののどっちは確かにとてもすばらでしたね。扉絵から既に吹き出しがあるのも斬新。すべての扉絵は実際にあった瞬間らしいので、描かれていないセリフもそこにはある筈ですけどね。そして、和が数多の強豪校のスカウトを蹴ってまで清澄を選んだ理由は優希の存在(そして優希は学食にタコスがあるから清澄を選んだので、和も実質タコスがあるから清澄にしたと言えるという)。「げきおも!」と優希に言われますが、これはね、読者視点だととても解る部分がありますよね。というのも、和は両親の仕事の都合で転校ばかり。穏乃たちにしてもそうですが、友達ができてもすぐに離れ離れになってしまうということを繰り返してきており、気のおけない本当の友達なんて極々僅か。そして、優希は和にとってその極々僅かな例外です。親には反対されているとはいえ、和とて麻雀に賭ける想いは人一倍でありインターミドルチャンプという結果も出しています。それでもなお、麻雀の強豪よりも大切な一人の友を選ぶという和の選択に、彼女の芯にある想いが見て取れます。この構図は、思い出させますよね。一度は皆と別れてでも麻雀の強豪・阿太峯中学への進学し、その後高校は晩成に行くという奈良県民としての黄金ルートを諦め、麻雀部すらなくなっていた阿知賀に進学して穏乃や玄さんと一緒に麻雀をする道を選んだ憧の事を。麻雀によって絆を結ばれた彼女たちは、根底にある精神性でも響き合うものがあるのだろうと思います。現実的には外部からはもったいない、と批判も出る行為かもしれません。しかし、実際にはそんな両者が揃ってインターハイの決勝という頂点の舞台で相見えている。そんなすばらなことはないではありませんか。そして優希の言うセリフ。「夢 持とうぜ……!!」や~、This is 優希! という感じの良いセリフですね。そう、夢、持ってもいいじゃないですか。甘っちょろいと言われるかもしれませんが、それでも楽ではない道で様々な物を乗り越えて今この舞台に立っている。「遊ぶんだ、和と」という夢が、今正に叶っている。それは願い、努力し、諦めず、行動し続けてきたから。どんな苦境も、大事な仲間たちと乗り越えてきたから。その姿の何と美しくすばらなことか。これだから咲-Saki-は、咲-Saki-シリーズは素晴らしい。P367の3コマ目、辻垣内さんが示唆する「気合で手牌が良くなる人物」は誰なのか。諸説ありますが、既存の人物とは微妙にシルエットが合いません。後ろ髪のハネは閑無ちゃんっぽさがありますが、サイドの髪の久っぽい具合は閑無とは別物。先日、同じくガイトさんの回想で出てきた鎖鎌使いに似たものも感じましたが気の所為でした。スカーフなのか腕に巻き付けた布なのかも特徴的で、恐らく今後登場してくる誰かかな、というのが暫定での個人的結論です。登場を楽しみに待ちたいと思います。椅子の大回転、それも南場であるという共通点も当然のように看破している赤土さんの慧眼は流石の一言。ここまで有能な監督も全国でもそうそういないでしょうし、人材として欲する人の気持もよく解ります。それをあらかじめ教えられて警戒する玄さん、トップの玄さん、歴代でも魔物大集結した異端なるインターハイの決勝のそのエースポジションで魔物of魔物が集う先鋒で、1位に立っている玄さん、あまりにかわいい。玄さんとしては言うまでもなく当然なのですが、トップになったことを全く意識することもなく、決して驕らずに盤面に集中して分析しながら戦っている。当たり前ですが素晴らしいことです。その神々しい姿を、祈りのポーズでただただ応援。そして訪れた370P。せっかくトップになれたのだからここは無理せずオリて守るべきかな…ダメダメダメダメダメダメ!!それはダメだ、玄さん!!!普通の麻雀ならそれで良いかもしれない!!麻雀は4局に1回も和了できないゲーム!!だからこそ!!確かに攻めよりも守りの技術の方が重要であることは否めない競技!!ただ!!それでも!!この決勝戦先鋒戦!!守りに入ったり後ろ向きになってしまった者はことごとく狩られている!!こと!!ここにおいては!!攻撃こそ最大の防御!!逃げて勝てる相手じゃない!!がんばれ!!がんばれがんばれ!!玄さんがんばれ!!負けるな!!国際フォーラムの魔物に心の弱さを突かれるな!!抗って!!龍は退かない!!麻雀の神は!!前に進む者を!!好きでいてくれるから!!一瞬の間に脳内に駆け巡る思考と応援。手は震え、心臓と脳の血管が爆発しそうになりながら読み進めたその先。2巡だけ勝負させて!!それーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!それ!!それだ玄さん!!それが良い!!それがベスト!!勝負こそベスト!!よくぞ!!よくぞこの局面で!!勝負を決断してくれた!!もう!!たとえ!!これで振り込むことになったとしても!!退かなかったという事実は!!永遠に心の支柱になってくれる!!ありがとう!!勝負してくれてありがとう!!強くなった!!技術だけでなく精神も本当に成長した!!ありがとう!!赤土先生!!阿知賀のみんな!!晩成のみんな!!長野県勢!!チーム憩のみんな!!後援会のみなさん!!彼女が強くなるために協力してくれたみなさん!!ありがとう!!流石にフラグを立てた優希の前に厳しいかもしれないけれど!!この勝負する姿を見られただけでも!!私の魂も救われました!!ありがとう!!ツモっ6100オールです!!ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああァァァアッァァァッァアァァァ!!!?!?!?!!?!??!??!??!ア………ォァ………????げん…………じつ………………?????まぼ……ろし…………………??????ゆ……め………………………………???????深夜に自分の都合の良い現実に描き換えるエイスリンのような能力に覚醒めてしまったか、と思いました。本気になっているインターハイチャンピオン、個人戦3位、そしてフラグをビンビンに立てた牌に愛された子である優希との全員テンパイでの捲り合い。準決勝までの玄さんは最も苦手としていた速度での勝負。流石の私も、応援をしながらも「ここで優希に和了されるのは仕方がない」と思っている部分があることは否めませんでした。しかし人は予想を超えてくる。これが、咲-Saki-。私が最も愛する作品だ。最高です…………何度も言ってしまいますが、こんなすばらなことはない……立先生、ありがとうございます……もう完全に今この時点で最強の高校生は誰か、という議論において「松実玄」と言うことは妄言でも何でもないとまで言えるでしょう。世界よ、これが覚醒した龍の力を駆る松実玄さんだ。照のラス親がある以上、たとえ10万点差あっても安心は全くできないのですが、それはそれ、これはこれ。南二局 玄、ツモ三色ドラ7阿知賀 113200(+24000)清澄 102700(-8000)白糸台 97300(-8000)臨海 86800(-8000)前回までがこうで、南二局1本場 玄、ツモタンヤオドラ5阿知賀 131500(+18300)清澄 96600(-6100)白糸台 91200(-6100)臨海 80700(-6100)今回でこうなりました。何と、玄さん以外全員原点割れ。2位と34900点差のトップ。315は玄さんのお誕生日なので、+31500という数字は何とも意義深く感じられます。思えば、咲-Saki-において唯一の元号を跨いでの対局です。時代が変わった。新しい時代、令和と共に到来した。そう、阿知賀のドラゴンロードの時代が。咲世界においても、ダークホース校が凄いことになっていると話題沸騰でしょう。実家の松実館に聖地巡礼に行ってしまう人もいるでしょうね。ちなみに優希 7回和了 131100点、平均18728点智葉 7回和了 93600点、平均13371点照 12回和了 111100点、平均9258点玄 6回和了 135000点、平均22517点new!親ッパネを和了したことで玄さんの獲得点数は1位に。一方で平均和了点は若干下がりました。そんな馬鹿な(笑)インパチを和了すると平均和了点数が下がる世界。これには一八先生もびっくりでしょう。暫定で獲得点数も玄さんが1位に立ちましたが、流石の私も次回は優希に和了されるかもしれないと覚悟しています。ただ、それでも更に予想を超えて欲しいという想いも一杯です。結果がどうなろうと、一片の悔いも残さぬよう残りの局も全力で闘い抜いて欲しい。そして、私が言うまでもなく彼女はそうしてくれるという安心感も今はあります。この数ヶ月、本当に幸せでした。紅葉の吉野山に御礼参りに行きたいです。

  • 05Nov
    • 【レビュー】ロトの紋章 〜紋章を継ぐ者たちへ〜

      今こそドラクエファンが『ロトの紋章 〜紋章を継ぐ者たちへ〜』を読むべき理由http://www.manga-news.jp/article/28741/久々にマンガ新聞にレビューを寄稿しました。こちらの記事を読んで全巻買って下さったという方もいらっしゃり、ありがたいです。現在、クライマックスを迎えていますが、ヤングガンガン最新号ではまたマンガ表現に挑戦するような凄まじい回でコミックスサイズで読んでしまうのが勿体ないと感じる程でした。ドラクエ好きな方にこそ、今ロト紋を読んで欲しいと願います。