ゾフルーザに抵抗するインフルエンザウイルス | 俳句銀河/岩橋 潤/太宰府から

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塩野義製薬が新たな抗インフルエンザウイルス薬 (キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬 S-033188) を開発し、昨年春から発売されている。

薬の一般名称はバロキサビルマルボキシル、商品名 「ゾフルーザ」

錠剤で、服用は1回のみ。

既存の抗インフルエンザウイルス薬とは違う作用機序でのウイルス増殖抑制活性をもち、大きな期待が寄せられていた。
 

抗ウイルス薬にしても、抗菌薬 (対象は細菌)や抗真菌薬 (対象はカビ・酵母) にしても、すべての薬で遅かれ早かれ耐性をもつ病原体が現れている。
このゾフルーザも、いつかは耐性ウイルスが登場すると予想されていたが、今シーズン既に、ゾフルーザを服用した患者における耐性ウイルスの出現がニュースになった。

 

塩野義製薬のゾフルーザに関するいくつかの文書を見ていて、気になるデータがあった。
それは、塩野義製薬が薬の承認に向けて行っていた治験で得られたデータである。

 

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<塩野義製薬の医薬品インタビューフォームから一部書き換えて転載>
12歳未満の小児を対象とした国内第III相臨床試験において、ゾフルーザを投与された小児のA型インフルエンザウイルス感染患者から、投与前と後の両方でインフルエンザウイルスの塩基配列解析が可能であった77例を調べたところ、18例でいずれもウイルスの三量体 RNA ポリメラーゼにあるゾフルーザ (の活性体型の) 結合部位に、アミノ酸置換 (変異) がみられ、ポリメラーゼの PA サブユニットの N 末端から数えて38番目のイソロイシン残基 I38 が変異していた。
成人及び12歳以上の小児を対象とした国際共同第III相臨床試験においても、ゾフルーザが投与された患者で、同様に370例中36例で I38 の変異がみられた。
また、いずれの臨床試験においても、ゾフルーザ投与中に I38 に変異が生じた患者集団では、本剤投与から3日目以降に一過性のウイルス力価の上昇がみられた。
なお、成人及び12歳以上の小児を対象とした国際共同第Ⅲ相臨床試験で、ゾフルーザが投与された患者でみられた I38 の変異の有無別のウイルス力価の推移は、下のグラフのようになった。

 

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上のグラフについて説明する。

 

グラフ縦軸の目盛は常用対数で、1は10の1乗=10、2は10の2乗=100を意味する。
横軸は、ゾフルーザ投与日を1日目としている。
プラセボ群と比較して、ゾフルーザ投与群では I38 の変異の有無にかかわらず、投与2日目でウイルス力価が10の1乗付近まで急激に低下しており、薬が早く強く効いたことを示す。
変異がないウイルスは、投与2日目以降ずっと力価が低下した (増殖が抑制された) ままであった。
ところが、I38 が変異したウイルスでは、投与3日目を境に力価が一過性の増殖を示した。
つまり、変異したウイルスは患者体内で一過性ではあるが増殖したことになる。
しかし、投与6日目以降は力価は低下し、試験最終日の9日目には、変異が無いウイルスと同じ水準にまで力価が低下した。

グラフのデータとは別に、実験室分離株を用いた in vitro 耐性分離試験では、A型インフルエンザウイルスの中からゾフルーザの活性体型に対する感受性が元のウイルス株に比べて最大約 100 倍低下 (感受性の低下、つまり、耐性の上昇) したウイルス株が得られ、それらのウイルス株では38番目のイソロイシン残基がトレオニン残基に置換した I38T 変異がみられた (一方で、培養細胞におけるウイルス増殖能の低下がみられた)。

グラフが示しているのは、ゾフルーザを服用した患者集団の一部では、インフルエンザウイルスのゾフルーザ (の活性体型の) 結合部位に変異が生じ、それがウイルスが薬剤に抵抗して一過性ではあるが増殖することに寄与したということである。
それにしても、治験の段階で既にインフルエンザウイルスがゾフルーザに抵抗を試み、将来の耐性獲得につながる可能性がある変異の一つを獲得していたことは驚きである。
インフルエンザウイルスは、ウイルスの中でも変異速度が速い。
治験の段階では I38 の変異で済んでいたが、ゾフルーザの承認後広く使用されるようになると、変異が蓄積されて、いつかはゾフルーザ耐性ウイルスが現れるだろうと考えられてはいたが ・ ・ ・。
ゾフルーザ耐性ウイルスの出現が余りに早かった。

 

<後日ブログ> (大学の生物学講義レベル)

インフルエンザウイルスの急速なゾフルーザ耐性化を考える

https://ameblo.jp/toonomikado/entry-12450148904.html