雨はすっかり上がり、薄雲の向こうにまだ

若い月が隠れている夜。


カフェ・ルミエールの奥の書架で、チャップは見慣れない本に気づいた。 


――深い藍色の布張り、背には銀色の三日月。

ページを開くと、押し花のように乾いたハーブがところどころに挟まれている。

タイトルは 『月と香りの護符録(ごふろく)』。


「ルミ婆の私蔵本かにゃ…?」

チャップがそっとページをめくると、淡い香りが舞い上がった。

レモンバーム、クラリセージ、そして月光で乾かしたラベンダー。

その横には、小さなカードサイズのレシピが手描きで残されていた。





✦〈新月のお守りハーブカード〉の作り方(本より抜粋)



  1. 月のない夜に 心を鎮め、求める願いを紙に一言だけ書く。
  2. ハーブを選ぶ
    • レモンバーム … 「心を整える」
    • ラベンダー  … 「安眠と癒し」
    • クラリセージ … 「直感と再生」

  3. 小片の紙にハーブを数枚のせ、月のしずくを1滴、指先に想像して垂らす。
  4. カードを折り封じ、枕元か大切な本の間にはさむ。
  5. 次の新月まで、夜毎に香りを吸い込みながら願いを育てる。


雨上がりの実践



ルミ婆はカウンターで、手のひらほどの厚紙を数枚切りそろえていた。

「今夜作ってみるかい? 雨で湿った空気が、ハーブを柔らかく包んでくれるよ」


チャップは頷き、

レモンバームの葉をそっと摘み取ると、カードに重ねた。

小さな鉛筆で書いた願いは――


“ただいま、と言える場所が育ちますように”


静かな店内には、ハーブを押し包む紙の音だけが響く。

雨だまりに映るランプの灯りが揺れ、

ジャスミンの香りが再びそっと漂った。


カードをそっと閉じると、ルミ婆が藍色の布張りの本を差し出す。

「この本もお守りさ。忘れられていたけれど、香りは記憶を呼ぶからね」


チャップはページの間にカードを挟み、

胸の奥で小さく灯った“ただいま”の火を感じながら、

早くも次の新月を待ち遠しく思った。


🌿 物語に登場したハーブ

レモンバーム 心の調律.安心 新月の始まりに気持ちを整える

ラベンダー 安眠 雨上がりの夜を優しく包み込む香り。

クラリセージ 直感.再生 新しいサイクルへ導く