見えない馬車に乗って、外部との出入り口を持たない暗黒空間の洞窟に入ると、フィニアンは足元の安全を確かめてから、トネリコの杖をクルリと回して馬車の結界を解いた。
そこは地球上にはあり得ないような継ぎ目のない鋼メタルに覆われた、まるでインカの女神ユマーマと共にロミと妖精たちが訪れた、あの巨大宇宙船の通路のように見える。
巫女少女は迷うことなく勾玉の光を前にかざしながら前に進んでゆき、博士はメグミの魂が眠っている黄金の女神像をしっかりと抱えてその後に付いて行く。
通路はやがて行き止まりとなり、一行は鋼(はがね)メタルの壁に遮られた。
継ぎ目のないのっぺりとした壁に触れてみると、まさに鋼鉄のように重厚な質量を感じた。
「どうやらこの扉を開かないと、洞窟の中には入れないようですな」
フィニアンはそう言いながらロミに思念を送った。
ロミからの返信は即座に現れた。
フィニアンの持つ杖の先に、宇宙少女マリアのドラゴンボウルの光が灯った。
――フィニアン、壁の向こうに悪鬼の群れを感じるわ。
――分かっていますよロミ、大丈夫、おまかせあれ。
――天使のように大胆に、そして悪魔のように繊細に、慎重に、進めて行きますよ。
――気を付けてね。
フィニアンは巫女少女たちを後ろに下げると、杖をサーベルのように鋭く振り回し、超重金属の壁に向かってドラゴンボウルの光を縦横十文字に切り刻んだ。
すると、あらあら不思議それだけで、難攻不落と思われた壁はあっさりと消えてしまい、足元から天井まで、硬い岩盤に覆われた洞窟に場面は転換した。
そして正面に現れた新たな岩壁の前には、黒い祭壇とその上にザワンの十字架が見えた。
巫女少女は膝を落とし両手を合わせて目を閉じて、頭を垂れて無言のままで、祈り始めた。
ファンションは胸の中にいるミドリの思念に促されるように、前に進み出て祭壇の下部にある見えない扉を探し当てると、巫女少女と同じように、だが、囁くように小さな声で祈りを唱え始めた。
愛の妖精の歌声と共に、ロミと妖精たちのエンパシーが届き、祭壇の扉は開いた。
同じようにミドリの思念を受け取った博士は、黄金像を祭壇の上の十字架の前に置き、かつて鍛えた逞しい腕を扉の中に差し入れて、中から黄金の輝きを放つ、超合金メタル製と思われる重厚で複雑な文様が施された壺を取り出した。
昔の米俵一俵(60キロ)はありそうな光り輝く重い壺を、博士は慎重に運び、ずっと跪いたまま祈りを捧げている巫女少女の前に置いた。
巫女少女は立ち上がり、鋭い視線で横にいるファンションを見た。
ファンションは愛の妖精の姿から、戦闘妖精の姿に変わり鋭い眼光を返した。
そして二人は同時にトーガを脱ぎ下ろし、何も身に着けぬ無垢な裸身となり、巫女少女は勾玉を口に咥え、ファンションは黄金像を左手で握りその腕と左の胸でしっかりと抱き包んだ。
十字架と壺の間に立った裸身の乙女たちは、手を繋ぎ再び聖なる歌を唱え始めた。
あの時世界中を翔け巡り、この惑星を浄めたメグミと巫女少女、あれから60余年の時が経ち、TSウイルスを封じ込めたメグミの身体は、果たして無事に甦るのだろうか。
巫女少女は勾玉を口に咥えたまま、逞しい戦闘妖精姿のファンションの裸身を抱きしめると、メグミの魂が眠る黄金の女神像に唇を当てた。
すると勾玉は眩い光を発し、薄闇の洞窟を真っ白な世界へと変えた。
見守っていた博士とフィニアンは、思わず膝を落として両手を合わせ、頭(こうべ)を垂れた。
そして巫女少女は戦闘妖精の手をきつく握り直し、右の手を黄金の壺の中に差し入れた。
シーオーク、取り替えっこの妖精でもあるファンションが抱いている黄金の女神像に眠るメグミの魂と、壺の中に残されたメグミの肉体を一つにして、この世に巫女戦士メグミを蘇らせるために。
次項Ⅴ-117に続く
(写真と動画はお借りしています)
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