ロミと妖精たちの物語 35話「灰かぶり姫の涙は黄金色に輝く」② | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

 

ロミとガーティーは、市バスに乗ってマンハッタンを東へ向かった。

 

バスは水素燃料電池で駆動し、エンジンの音は静かだったが学生たちで混み合い、車内は賑やかだった。

 

そして地下鉄に乗り換えて南へ下り、国連ビルの三十七階に上がった。

 

博士のプライベートルームから窓の外を見ると、もう日が暮れ始めていた。

 

ロミが聖少女として四十年間使っていた部屋で、荷物の一部はまだ置いてあるが、着る者は小さくなってしまい、もうロミが身につけることは無い。

 

十七才までの思い出の品々は、郊外の博士の家に置いてある。今は博士とジェーンの二人の愛の巣になっており、ロミの住むアパートから歩いても二十分くらいの距離にあるが、めったに訪れることは無い。

 

ガーティーもロミと同じアパートに部屋を持っているが、トニーが戻っている時は、郊外の高級住宅街にある瀟洒なマックス邸に泊ることが多い。

 

 

 

ロミが一人で窓の外を眺めていると、ジェーンが部屋に入ってきた、

「ロミ、元気だった?大学はもう慣れたかしら」

 

白いサマージャケットにあわせ、白いタイトなミニスカートを穿いた長身のジェーンがロミを抱きしめ、二人はお互いの頬にキスをした。以前はロミの目の高さに彼女の大きなバストがあったが、今は肩の位置にあり、首が疲れなくていいとロミは思った。

 

「間もなく博士も仕事が片付いて帰れると思うわ、もう少し待ってね。そうだ、何か冷たいものでも飲む?」

ジェーンが明るい表情で言ったが、ロミはいらないと断った。

 

胸元が大きく開いたドレスシャツに銀のネックレスを着けて、中ヒール(ハイヒールはめったに履かなかった)のサンダルからはペテュギアをしたつま先が見えている。

夏以来、ジェーンはおしゃれに気を使うようになっていた。

 

パウダールームからガーティーが出てきた。長い赤毛をアップにまとめ、昼間着ていた胸しか隠さないタンクトップの上には、ミニスカートと同じ柄のおしゃれなモンキーコートを着ていた。

 

「まあ、ガートルードとっても可愛いわ」

ジェーンがキスをしながら言った。

「聞いたわよ、学園祭の女王に選ばれたって、凄いわ、これから大変だけど頑張ってね」

 

「ありがとう、でもロミが出ていたらきっと女王はロミになっていたわよ、ねえジェーン?」

ロミは何も言わず、首を振りながら二人に笑顔を返した。

 

 

 

「やあみんなお待たせ」

博士が部屋に入ってきた。

「アッパーウエストの三美神がお揃いだね」

 

ロミとガーティーに軽くキスをした後、ジェーンを抱いてキスを二回した。

「駐車場にロバーツが待っている、春美も一緒だ、さあ支度はいいかな」

 

国連ビルの地下駐車場には大きなリムジンが待っていた。

ロバーツと春美、そして急成長をしているマリオもいた。

 

「博士、今日はお招きいただきありがとうございます」

ロバーツが大きな手を差し出した。

 

「いやいやとんでもないミスター・ロバーツ、あなたには四国での感謝も含めて、もっと早くご招待しなければいけなかったのですが、こうしてお忙しい長官にお出でいただいてなによりです」

 

二人はがっちりと握手をした。博士もロバーツも高級なスーツを着こなし、八十二才と六十九才、今を盛りの二人は堂々とした雰囲気をかもし出していた。

 

「ロミ、元気そうね」

薄化粧にワンピースのドレスを着て、ますます若返った印象の春美が声をかけてきた。

「春美おばさん、とっても素敵だわ」

 

ロミは一緒にいるみんなが綺麗な格好をしているのに、自分だけ着古したTシャツに丈の短くなったジーンズ姿で、なんだか場違いな灰かぶり姫になってしまったような、少しだけ淋しい気がしたが、大きくなっているマリオを見ると、気をとりなおして彼を抱きしめた。

 

「マリオあなた、とっても元気そうね、安心したわ」

マリオはロミの黄金色の瞳を見つめて、笑顔を見せた。そして恥ずかしそうに頷いた。

 

いつもはリニアモータートレイン(RMT)で通勤通学をしている一同は、ハイウエイを静かに走るエンパシー(愛と癒しの共感力)エネルギーを活性化した、月と星と太陽を利用した電磁誘導型リムジンの快適な乗り心地に満足しているようだ。

 

 

 

リムジンはRMT同様に三十分ほどで博士の家に着いた。

博士が玄関のドアを開けると、一行はポーチの両脇によけて、いちばん後ろにいたロミの前をあけ、うつむきながら付いてきたロミをガーティーが前に押し出した。

 

ロミが怪訝な表情で立ち止まると、玄関のドアの陰からそれぞれ日本の着物とエチオピアの民族衣装の正装をした、ミドリとエスタが出てきてロミを迎えた。

「ロミお帰りなさい」

ミドリがにこやかな笑みを浮かべて手を差し出した。

 

「まあミドリ、エスタ、いったいどうしたの」

戸惑うロミをエスタがやさしく抱いた。

 

二人に手をひかれて広間の螺旋階段を上がり、懐かしいロミの部屋へと入った。

 

 

 

 

 

 

ロミが十才から七年間過ごした部屋は昔のままだった。

 

「さあロミ、着替えなくてはいけないわ」

ガーティーも来て三人の女王がロミを取り囲み、くたびれた長袖Tシャツと丈の短くなったジーンズを剥ぎ取るように脱がせて、ロミは下着姿にされてしまった。

 

「ちょっと待って、どうしたのみんな」

 

「下着もいまひとつだわ」

ロミの声を無視してガーティーが言うと、下着も脱がされ、丸裸になったロミを姿見の前に連れて行き、お湯に浸したタオルでロミの全身を丁寧に拭いた。

 

「ロミ、見てごらんなさい」

ロミは姿見に映る自分の身体を見た。

 

肩幅が広く、筋肉に包まれた上半身と細長い脚、バストだけは以前よりふくらみがあるが、女性らしい丸みに欠けた自分の姿が全部見えて、恥ずかしい気持ちでいっぱいになった。

 

ガーティーが横に並んで、姿見に映ったロミを見ながら言った。

「とっても素敵よ、筋肉は優美に曲線を描き、ウエストはキュッと短くくびれ、腹筋はしなやかに左右に分かれて、脚の長さが身長の半分以上ある人なんて滅多にいないわよ、おまけに小さな顔で八頭身ときている、まあなんて綺麗なのでしょう、私なんか七頭身の頭でっかちよ」

 

「さあロミ、これを着てちょうだい」ミドリがハンガーに掛かったドレスを持ってきた。

ロミは魔法にかけられたようにポカンとしたまま、下着とドレスを着せられた。

 

エスタが櫛とブラシを用意して、ロミの髪を梳かし、ウエーブを付け最後にスプレーをかけると、ミドリがパフを出して軽く顔をたたき、淡色の口紅を塗った。

靴はドレスに合わせて白いハイヒールを履いた。

 

ロミは姿見の前で、まるでほんとうに魔法をかけられたように変身していく自分の姿を見た。

ほんとうに、灰かぶり姫はシンデレラに変わった。

 

「はいこれでよし、さあ下へ行きましょう」

廊下を階段の上まで行くと、下の広間の様子が見渡せた。

いつの間にか料理を載せたテーブルが並び、花が飾られて人がたくさん集まっていた。

 

ロミの耳元でガーティーが囁いた。

「ロミ、あなたの誕生パーティーよ」

 

「それはこの間、お祖母ちゃんの家でしてもらったばかりよ」

ロミは戸惑っていた。

 

「何を言っているの、これはあなたの十七才の誕生パーティーよ、もう一度あの日からロミは出発するの、みんな待っているわ、さあ行ってちょうだい」

 

ロミは三人の女王に押し出されるように、らせん階段を下りはじめた。

 

 

 

次項につづく

 

 

 

 

 

 

ロミの中に

アンドロメダはもういないのか

 

 

 

それとも