ロミと妖精たちの物語16 第3章「アッパーウエストの聖女」② | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 
 
 
四十年前に起こったロミとトニーの事故の時、ロミの父博士による手術を見ていたジェーンは、彼の偉大な医療技術と瞬時に判断しながら遠隔装置を操作してゆく。
 
また、時には直接メスと鉗子を動かしてゆく、ジェーンはその恐ろしいほどの集中力に心を奪われ、自分もいつか医学者になりたいと思うようになった。
 
はじめ、手術のとき見学ブースから見てみたいというジェーンにたいして、彼女の母親から女の子が見るものではないと反対されたが、博士が「男女の違いを理由にするのはどうでしょうか、それに12才なら間近に手術を見学することはとても勉強になるでしょう」
 
「外科手術を見せるなんて恐ろしい、とても残酷なことだと思います」と母親は言った。
「そのとおりです、お嬢さんが何秒耐えられるか、夕飯を賭けましょうか?」
またしてもつまらないジョークで、博士は母親を黙らせた。
 
しかし、ジェーンは強い少女だった、見学ブースのモニター画面に映し出された八時間に及ぶ大手術を、血と内臓器と格闘する博士の姿を、そのすべてを彼女は見ることができた。
 
五人の医師と七人の看護士が、博士の指示のもとにテキパキと動き、ロミとトニーの二人を同時に手術していった。博士は受傷部位の一つひとつを瞬時に判断し、手分けをして処置にあたった。
 
とくに二人の頭部を開き灰色の脳を扱うときは、ふだんの柔和な顔がまるで鬼のような形相に変わり、次から次へとチームを指揮し、初めての医術であるサイボーグ技術の脳神経部への利用をためらっている若い医師たちをしかり、鼓舞した。
 
したたる汗を看護婦にふき取ってもらうときは、ほんの束の間、眼を閉じて天上に顔を向けている間、真っ赤な血に染まったオペ用白衣と広げたたくましい両の腕が、まるで悪魔と戦う騎士が神に祈りを捧げる姿に見えた。
 
博士の凄まじい姿を見て、ジェーンは息が止まるほどの衝撃を受け、自分の胸が激しいドラムを打ち鳴らし、その鼓動はお腹の下まで叩き振動させてゆき、自分の下腹部が熱くなっていくのを感じた。
 
――わたし、いったいどうしたのかしら。
 
彼女が博士を男として意識した最初の時だった。
しかし、それが何のことかは、その時のジェーンには分からなかった。
 
学校が終わると毎日大学病院へまっすぐ向かい、二人を看病する母親と交代に、点滴液量の確認や排尿タンクの処理を手伝った。
 
そして快復までの三ヶ月間、毎日一日の半分を病院で過ごし、医師や看護師の仕事を注意深く観察した。愛くるしい少女ジェーンは入院患者たちの人気者となり、二人の付添いの合間に、骨折などで暇を持て余している教育者たちに勉強を見てもらうことも出来た。
 
そしてその三カ月の間に、博士の執刀する脳外科手術を見学することも許されたのだった。
 
ロミとトニーのリハビリも順調に進み、ジェーンがすることもだんだん減っていったが、大学病院は彼女の好奇心を刺激し、薬局やリハビリ室、はてはランドリーにまで出入りし、雑用を手伝うまでになっていた。
 
そして二人が退院した後も、こんどは博士の研究室に通い、邪魔にならないように書類の整理や、専門書の閲覧を手伝い、雑用をこなしながら、医学、物理学、数学などを学び、彼女の好奇心を満たしていった。
 
だが、やがてハイスクールに通うようになると、彼女の際立つ美貌とグラマラスな肢体が人目を引くようになり、研究室に二人きりでいることが、博士にとって息苦しいほどの時間となってしまい、少しずつ距離をおくようになっていた。
 
ジェーンもそれに気付いたのか、徐々に足を遠ざけてゆき、大学の受験勉強があるからと、最終学年の一年間は。研究室に足を踏み入れることは無かった。
 
 
博士はほっとしたものの、会えなくなって初めて、自分の思いに気付いた。
 
恋をしている?あと三年もすれば五十になろうという自分が恋をしている。それも、十七才の少女に?と思ったが、自分の心の中を騙すことは出来なかった。
 
しかし、この恋の行方にあるものは、とうていバラ色に包まれたものとは思えず、博士はこの思いは胸の内にしまっておくべきだと考えた。
 
かつてロミの母親との交際は、ほんの束の間の出会いと別れであった。留学先のベルリンで出会った二人の儚くも短い恋、それは結果的に幸せな恋愛とはいえないものであった。
 
自分は恋愛には向いていないし、女性を幸せにするには、自分には何かの能力が欠けていると当時の博士は思った。それからはなるべく女性を意識しないようにつとめてきたのだ。
 
ロミの母親、聖なる乙女と呼ばれたマリアはジェーンの叔母にあたる。十七才で出会い二十才で別離をむかえたマリア、青い瞳は深淵を見通し、輝くブロンドはそよ風をさそう。
 
博士は、けしてジェーンにマリアの面影を見ている訳ではなかったのだが。
 
 
 
ジェーンは大学へ進むようになると、ふたたび博士の研究室へ通うようになった。
 
「博士、コロンビア大学の医学部に合格したわ」
 
久しぶりに姿を見せたジェーンは髪を短く切り、ジーンズにだぶだぶのTシャツというボーイッシュでラフなスタイルで登場した。しかし、それは彼女の美しさを損なうものではなく、その質素な服装は返って瑞々しい魅力を強調し、本人の目立ちたくないという思いには逆らう結果となった。
 
「それはおめでとう、君なら合格すると思っていたよ」
博士はまるで父親のように、ジェーンの頬に軽くキスをし、決してその身体に触れようとはしなかった。思いを断ち切り、父親代わりとして彼女を受け入れたのだ。
 
ジェーンは父マックス教授の研究する超能力と、エジマ博士の進める医療サイボーグの研究を学び、新しい研究分野を学びたいと言った。
 
そして女性としての自分を意識しはじめ、子供っぽい仕草や甘えも控え、研究者と生徒としての距離を保ち、医学に限らず自然科学、天文学、物理学、哲学、その他多様な分野にわたって博士に質問した。
 
そして博士はジェーンの頭脳の父親ゆずりの優秀さと、回転の速さに驚き、しばしば舌を巻くこととなった。
 
また、学問ばかりでなく、博士の愛好するテニスにも興味を示し週に2,3回博士の自宅近くの会員制テニスクラブへも同好するようになった。
 
初めは博士のコーチに従いテニスを習うという関係だったが、彼女の運動能力は非常に高く、半年も経つと互角に打ち合うようになり、ここでも博士は舌を巻くこととなった。
 
 
 
次項につづく
 
 

 
 
 

 

2013年度さくら学院テニス部

リーダー杉崎寧々さんは

今年大学を卒業し看護師に

 

 

 
 
 

 

 

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