ロミと妖精たちの物語216 ⅴ-14 死と乙女④ | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

 

ロミはおやゆび姫となったマリアを胸に抱き、天使の翼を借りて戦闘妖精のたくましい姿に変身したマドレーヌの手に繋がれて、パリの上空に舞い昇った。

 

東の空には朝の眩しい太陽が昇り、そのやや南を望めば昨日のノートルダム大聖堂の鐘楼が見え、視線をずらして真南に眼をやると、コンコルド広場のオベリスクが見えてきた。

 

天使の姿のマドレーヌは、ロミたちを連れてオベリスクの上に行き、太陽を背にして西の方角を指さした。

 

そこから始まる広いシャンゼリゼ通りに沿って、ロミたちはゆっくりと飛行を続ける。右手に広い公園が広がり、左手のやや遠くには、ひときわ高いエッフェル塔が見え、手前の通りには高級店舗やレストランが立ち並んでいる。

 

オープンカフェで寛ぐ人々を眺め、公園の森の上には大きな鷲が飛び、ロミと妖精たちの姿に気がつくと、マドレーヌの前を横切り、彼女の翼の光に驚いたように、そのままブローニュの森の方へと飛んで行った。

 

シャンエリゼ通りのマロニエの並木に沿って真っすぐに進むと、右手に続いていた森も終わり、映画館や劇場が並んでゆくと、やがて道路の真っ直ぐ前方に凱旋門の重厚な姿が見えてきた。飛行する高度は凱旋門と同じくらいの高さ、50メートルほどであろうか、そして凱旋門の周囲を回る自動車専用のロータリーに入ると、マドレーヌは一気に高度を上げた。

 

凱旋門の真上を上昇してゆくと、眼下に大都市パリの中心部が広がった。

 

 

LYS GAUTY 巴里の屋根の下

 

 

 

――ロミ、下を見て、街が目を覚ましたわ。

 

眼下に拡がるパリの街、その中心に、昇り始めた朝日に当たる大きな凱旋門があり、そこから12本の道路が周囲に向かって放射状に伸びている。

 

その放射状の道路に沿って、高い建物たちのガラスや金属部分にも朝日が反射して、キラキラと輝いている。少し離れたところには、北東にサクレ・クール寺院、南にモンパルナスタワーそしてひときわ高いエッフェル塔にも黄金色に輝く朝日が反射している。

 

空の上からパリを眺める、ロミと妖精たちの目に映る、それはまるで、凱旋門という太陽を中心に、円を描いた一つの宇宙が拡がっているようだ。

 

――すごいわ、マドレーヌ、これが星の広場なのね。

 

――エトワールは星、でも、今は太陽に見えるでしょ。

――夜になれば分かるわ、これが星の広場の所以(ゆえん)なの。

 

――あなたのお母さま、シモーヌ伯母さんは何処にいらっしゃるの?

 

――ママは凱旋門の西側の古いビルに住んでいるの。

――今からそこに降りましょう、ロミ、もう手を放しても大丈夫よ。

 

いつのまにか、ロミの背中にも翼が生えていた。

 

ゆっくりと羽ばたいてみると、ロミの身体も宙に浮かんでいた。そしてロミの胸から飛び出したマリアにも白い羽が付いていた。黄金色のトーガに包まれたロミの横に、朝の光を浴びて真っ白な裸身を優雅に翻しながら、白い翼をやさしく羽ばたく宇宙少女マリアが浮かんでいる。

 

凱旋門の屋上に立っているフィニアンは、ルネッサンスの名画に描かれた天使の姿を見るように、口をあんぐりと開けたまま、両手を握り合わせて、パリの空を見上げていた。

 

 

次項Ⅴ-15につづく