ロミと妖精たちの物語158 Ⅳ-44 聖なる山の頂きに⑱ | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

インカ帝国皇帝アタワルパが、ザ・ワンの力を借りて建設しようとしたピラミッドの遺跡があるサクサイワマンの北東10マイルほどのところに、タンボマチャイの聖なる泉の遺跡がある。

 

その遺跡を超えて急峻な断崖絶壁をウルバンバ川の渓谷に向かって下降した密林に、ロミと妖精たちが休息をとったペンションがあり、そのペンションから200メートルほど上部の開けた湿地帯にかけられたシールドの中に、フェアリーシップは停まっていた。

 

全ての準備が整うと、フィニアンはペンションのオーナーに金貨5枚を支払い、ロミが感謝を込めて愛と癒しのエンパシーでその家族を包むと、フィニアンはトネリコの杖をクルリと回した。

 

そのまま5人が空気の中に溶け込み、消えてしまったことについては、超能力者の家系マックス家の次男、万里生が思念を使ってオーナー家族の記憶を、アイルランドの中年紳士と美少女ファンションの親子と、その友達の登山グループの徒歩による出発に修正した。

 

見えない馬車に乗って、ロミと妖精たちは湿地帯で待っているフェアリーシップに移動した。

 

ロミは、小さな声でフィニアンの耳元で囁いた。

「フィニアン、今の金貨は本物でしょうね」

 

フィニアンは耳をピクリとさせてから、ロミを見上げて応えた。

「ロミ、わたしはレプラコーンの偽物ではありません」そして淋しそうに言った。

「わたしを疑うなんて、ひどいあんまりだ」

 

フィニアンは肩を落として俯(うつむ)いた。

「ごめんなさいフィニアン、そんなつもりで言ったわけではないのよ」

ロミは慌ててフィニアンの肩を抱いた。

 

 

 

 

 

 

強靭でしなやかなロミの腕に包まれて、フィニアンは少しばかり有頂天になった。

そして立ち上がると指をパチンと鳴らし、手のひらを上に向けると1枚の金貨が現れた。

「どうですロミ、これは本物の金貨ですよ」

 

ロミは金貨を受け取ると、金貨商人の真似をして大げさに口を開けて糸切り歯で噛んでみた。

「たしかに、これは本物ね」

 

ロミはそう言うと、ピカピカの金貨をみんなの目の前で、胸の間にしまってしまった。

すると、ロミのあまり大きくはない胸の谷間から、眠っていたユパンキが姿を現した。

 

20世紀風のユーモアにあまり慣れていないユパンキは、遠慮がちに言葉をかけた。

 

「そろそろマチュ・ピチュの太陽も沈むころ、月の女神が紅く輝く時刻となりました。おかげさまで、わたしはロミ様の懐で癒されました、皆さんのご準備の方は、よろしいでしょうか」

 

「ええもちろん、美味しい料理に柔らかな温泉、みんな元気になったわユパンキさん」

 

ロミの明るい声を聞いてユパンキは、妖精一座のみんなに向かって笑顔を見せた。

「では、進路を西に向けて、チョケキラオへと向かいましょう」

 

フェアリーシップは高度を一気に5マイル上昇し、西方に沈みゆく太陽に向かって飛翔した。

 

 

距離は40マイルほど、今朝と同じようにギャロップでゆっくりと飛行し、それでも僅か20分ほどでフェアリーシップは、まだ西日に映えるチョケキラオ上空に到着した。

 

ユパンキの意思がそうさせているのか、シップは山の中腹からゆっくりと遺跡の階段を昇るように進んだ。巨大な階段状の壁を幾つも昇り越えて、山頂の手前に石積みのかべに囲まれた広場が見えてきた。フェアリーシップ・ユマは音もたてずにゆっくりと着陸した。

 

太陽が西の山陰に沈むと、広場の東方に上がる石積みの階段の上、遺跡の建物が並ぶ方角から、昨夜と同じ巨大な紅い月が上り始めた。

 

ユパンキに案内されて、ロミたちはユマの船室から降り立ち、石積みの重々しい遺跡群と、その上に昇る巨大な紅い月を見上げた。

 

ユパンキは紅い月に向かって跪き、手を合わせてインカの祈りを始めた。

 

ロミはじっと建物を見つめ、石積みの門に向かって愛と癒しのエンパシーを送り続けた。

マリアは祈りながら手をすり合わせ、その手のひらを広げると、ドラゴンボウルを出現させた。

 

ロミたちが立つ広場の正面に、遺跡の建物へと昇る石段が続き、その建物の上に紅月が上りきると、広場と遺跡は月の光に紅々と照らし出された。そ

 

して対象的に闇の空間となった暗黒の石門から、右手に剣を左手に青銅の盾を持つ、若く荒々しいインカの戦士が現れた。

 

 

ロミは目を閉じて黄金色の心眼を開き、思念の翼を広げた。

 

 

次項Ⅳ-45に続く