ロミと妖精たちの物語129 Ⅳ-15 遥かなる惑星から② | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

マリアが思念(テレパシー)を使って万里生(マリオ)に呼びかけると、マンハッタンの自宅で待機していた万里生は即座に思念を返してきた。

 

――マリア、実は今朝からロミ姉さんと君の会話はよく聞こえていたよ。

 

――まあ、ほんとうに?

 

――君たちは何も隠さず会話をするからね、特にロミ姉さんは昨夜のアパートを覆い隠していたバリアー障壁が気に障ったみたいで、さっきバリアーが消えたあとも、まるで僕に伝えるように強い思念で会話をしていたね。だから僕は、今の成り行きも大体理解出来ているよ。

 

――そうなのね、だったら話が早いわ。万里生、そういう訳で、トーマスのお母さまもここに来ているのよ。どうやら本物のトーマスは南極大陸にいるみたいなの、万里生、アタッカーを使えるようにお義父さまにお願いして欲しいの、いいかしら?

 

――わかった、今準備をしているので、用意ができたら迎えに行くよ。

 

――うん、私たちも南極大陸へ行く準備をしておくわね。

 

――向こうは本格的な冬が近づいている、しっかり装備を整えてね、――じゃ、また後で。

 

「という訳でロミ、万里生がここへ迎えに来てくれることになったわ」

 

二人の思念のやり取りを聞いていたロミは、ニッコリと微笑み頷くと、再び旅の支度を始めた。

 

トーマスの母マーガレットは、ラゲージバッグとリュックサックに全て詰め込んできたと言った。

「さすが、宇宙を旅慣れているお母さまは、準備万端でいらしたのね、さあマリア、私たちもヴィンソン・マシフに滞在できるように装備を整えましょう」

 

そして、万里生は宇宙船に乗って、空からロミたちを迎えに来た。

 

アパートの屋上のドームに小型宇宙船が降り立ち、万里生が思念で二人に到着を伝えると、ロミたちは専用エレベーターで屋上に上がり、フロアーとエレベーターにロックを掛けて戸締りを済ませ、屋上ドームにいる小型宇宙船に乗り込んだ。

 

小型宇宙船の内部は、外観同様に円形のスペースに半円形に座席が7席並び、前方に操縦席が3つ並んでいる。操縦席の更に前の壁には、まるで窓のように大型スクリーンがあり、前方の風景を映していた。更に両サイドに小型スクリーンがあり、たぶん横向きの風景を映していた。

 

ロミたちは、万里生の案内に従って、7つ並んだ客席の中央に並んで座った。

 

「この宇宙船はマリアのお父様から譲り受け、僕の義父の指示で、僕たちはこの4週間NASAの超能力プロジェクトの方から指導を受け、漸く操縦する許可を頂きました」

 

「すると、私たちは最初のゲストという訳?」

ロミは嬉しいような怖いような、ワクワクするような、少しだけスリリングな気持になった。

 

「そうです、でもご安心ください、この船”フェアリー・シップ”号は思念で動いてくれます。エネルギーは太陽風と地球コアの磁力と宇宙線の電気エネルギー、そして搭乗している皆さんのエンパシーが動かしてくれるのです。危険はありません、目的地南極大陸までは数時間で到着いたします」

 

 

 

 

説明が終わると、万里生は上部から操縦シャフトの上部カバーを下ろし、座席と接続させて頭から全身に装着させて操縦姿勢を整えた。

 

――皆さん、シートベルトを締めてください。フェアリーシップは大気圏を抜けるまで4Gクラスの衝撃を受けますので、口を閉じていてください。

 

「ちょっと待って万里生、フィニアンがまだ来ていないわ」

――フィニアさんンなら、もう来ています。彼は僕と一緒にNASAで訓練を受けていました。

 

「えっ、フィニアンも操縦訓練を受けていたの?彼から何も聞いてないわ」

ロミは口をふくらませて少し怒ったように言った。

 

すると、万里生の操縦席の隣に、宇宙服を身にまとったフィニアンの姿が見えてきた。

彼はヘルメットをずらしてロミに顔を見せ、ほんの微かにウインクをして見せた。

――ロミ様、何事も男は黙って行動あるのみですよ。

 

「まあ、フィニアン言ったわね」

それでも、ロミはほっとしたようにフィニアンに向かって微かな笑みと、旅の安全を祈るように愛と癒しのエンパシーを送った。

 

――皆さん、座席のアームレストに腕を置いて、先端の握りをしっかりと握ってください。

 

フェアリーシップは、ザ・ワンの科学技術、反重力装置を使ってゆっくりと上昇を始めた。

正面のスクリーンには、雪雲を抜けて青い空が広がり、眩い太陽の白い光が反射した後、やがて蒼黒の宇宙空間が映し出された。

 

ロミたちを乗せた小型宇宙船フェアリーシップは、成層圏を抜けて宇宙空間へ飛び出し、大気の抵抗を受けることもなく、音速の10倍以上の速度で真っ直ぐに南極点を目指す。赤道を超えて南極大陸に近づくと再び大気圏に突入する。

 

その瞬間、円盤状の翼部を超高速で独楽のように回転させながら、垂直磁場を利用して大気との摩擦熱を放出し、船内の人間に影響を与えることもなく、次第に速度を落としながら静かに柔らかく、地上へと近づいてゆく。

 

「今、ロス海を通過しました、間もなくヴィンソン・マシフ上空です」

万里生がマイクを通して室内にアナウンスした。

 

「現在マシフは晴れ、気温はマイナス32度です」

万里生の操縦席の上部にある大画面に、氷の高地マシフ(氷の塊り)が広がり、その向こうに真っ白な氷のピラミッドの形をした、ヴィンソン・マウントが見えてきた。

 

「ここからはロミ姉さんの夢に現れた道を、トカゲ尾根に沿って、低速で山頂を目指します」

 

――そうだわ、この尾根をトムが登っていたの。

 

――そして山頂にあの方が待っていたのだわ。

 

フェアリーシップは反重力装置と前進エンパシーだけで、まるで翼を持った天使が空を滑るような速度で、音も無くゆっくりと氷の尾根を登り始めた。

 

 

次項Ⅳ-16へ続く