ロミと妖精たちの物語66 Ⅱー30 愛の妖精⑤ | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

 

 

翌朝、南極点のアムンゼンスコット基地へ、ロミたちの他にマリアと父ローダン船長も同行することになった。基地から迎えに来た垂直離着陸ができるオスプレイ型ジェット機に乗って、2時間の飛行で南極点の基地に到着した。基地の暖房のきいた会議室に一同は通された。

 

会議室で待っていたのは、義理の叔父アメリカ合衆国、国務長官のロバーツだった。

 

「ロミ、トニー、そしてマリアさん、お疲れさま、フィニアンさん、そしてジム、よくやってくれた」

 

ミスター・ロバーツはチームの全員に一人ひとり挨拶をし、最後に愛妻春美の娘、真梨花の頬にやさしくキスをした。そして、ローダン船長に手を差し出し、二人は固い握手を交わした。

 

「ローダン船長、長旅ご苦労さまでした。まずはエチオピアコーヒーで温まってください」

一同は席に着き、エチオピアの女王からの差し入れのコーヒーに口を付けた。

 

「ロミや真梨花は知らなかったと思うが、米軍の最高機密の一つに、ウリギリアス星雲ヒューリット星の惑星ザワンとの交流がある。人類の歴史の中で登場する未知の力は、彼らがもたらしたものの記録でもある、ピラミッドや大運河など科学で説明できない大事業は皆、彼らがその時代の権力者に肩入れして行ったことなのだ」

 

「我々米軍は、ヨーロッパのハプスブルグや大英帝国に残っていた交流の記録を引き継いで、今も交流を続けている。しかしそれは、ザワンの意向を重視し、我々からコンタクトをすることは無い」

 

ロバーツ長官の話を、ロミと真梨花は固唾をのんで聞いていた。

 

「地球上のほんの一部の権力が宇宙人を知っていた。権力者たちは宇宙人に支配されることを恐れていたが、ザワンは友愛の精神をもつ人々で、決して地球を侵略することは無く、友好的に文明を提供し、権力者は宇宙から来た客のために、活動拠点とスペースを提供した」

 

「人類はザワンの好意を受け入れ、また彼らの活動を認めていたのだ。それらは全て神の奇跡と呼ばれた。世間の人々には、宇宙から来た人々についての奇跡は、神話として流布していった。そしてこれからも、宇宙人の存在は未知のままにしておく」

 

 

 

 

「オコーナー少佐、フィニアンさん、君たちもこれからはわたしたちの仲間だ」

「今回のことについて、今後一切口外をしないと誓えるかね」

 

二人は驚いて立ち上がり、長官の鋭い視線に釘付けになった。

 

「もちろんですとも、わたしは女王様からもきつく言われております。ロミ様とマックス卿のお手伝いをしても、その内容は絶対に秘密、口外はしてはいけないと、閣下、わたしは誓います」

アイルランドのガン・コナー妖精、フィニアンは格好を付けることもなく、素直に答えた。

 

そしてアタッカーの機長、オコーナー少佐も、長官に向かって敬礼をして、誓いを立てた。

「ありがとう、では滑走路にアタッカーを置いてあるので、君たちは準備をしてくれたまえ」

 

会議室に残ったのは、ローダン船長父子とロミの家族だけとなった。

「今回のことで、我々が知りえなかった新しい発見がある」

「それは、トーマス・ハリスンについてのこと。ローダン船長、あなたはご存知だったのですか」

 

ローダン船長は初老の端正な顔を崩さず、流ちょうな英語で淡々と語りだした。

 

「これはザワンの神話のようなものですが、遠い昔、彼の祖先は、何処とも知れぬ惑星からザワンに飛来し、長い時をかけてザワンの科学技術と、彼らの宗教哲学を融合した文明を開き、ザワンに同化してゆきました」

 

「彼らの能力を得て、ザワンはウリギリアス星雲を縦横無尽に活動し、偉大な文明を築くことが出来きました。しかし、主星の終末期の膨張が始まり、ザワンの温暖化がゆっくりと進み、居住地域が狭くなり始めると、ザワンは新天地を求めて宇宙へ飛び出しました。そして長い旅路の末に、この太陽系を発見しました」

 

「この太陽系の拠点となった地球を訪れた時、その一族の血脈を有しているものがおり、彼らはわたしたちザワンの科学力とは別に、思想哲学、とくに宗教の方面で優れておりました」

 

「そして彼らの子孫のうち、ハリスン家はザワンの築いた都市を離れ、地球人類に同化してゆき、この地球に宗教哲学を教えて行きました。彼らの子孫には稀に、わたしたちが第6の能力と呼ぶ超能力を有する者が現れました」

 

「それがあの男ハリスンであり、その子トーマスなのです」

 

ローダン船長は3杯目のコーヒーを口に含み、話を続けた。

 

「そしてあの人が地球の歴史を変えてから、他のハリスン家の人々は名前を捨てて、宗教とは遠いところへ去り、北欧のアングロサクソンに紛れて、マックス家へと継いでいったのです」

 

ローダン船長は、トニーと真梨花に視線を移した。

「トニー・マックス、真梨花マックス、あなた達はその末裔なのです」

トニーにとっては既知の事実であったが、真梨花にとっては途方もない話に思えた。

 

無表情に話を続けていたローダン船長は、席から立ち上がると、微笑みの表情に変わった。

「トニー・マックス、あなたはその能力でトーマスと連絡をとり、今回わたし達の危機を救ってくれました。そしてロミさん、あなたの偉大な愛と癒しのエンパシーは、大勢の魂たちを救い、解放してくれました」

 

「わたしは改めて、ザワンを代表して感謝を申し上げます」

ロミとトニーも立ち上がり、船長の握手を受けた。

そして、マリアがロミと真梨花を抱いて、その頬に感謝のキスをした。

 

ロバーツも立ち上がり、改めて船長と固い握手をした。

「ローダン船長、とても有意義なお話をしてくださり、ありがとうございました」

 

 

基地で昼食を済ませた後、ロバーツ長官とローダン船長に見送られて、超音速機アターカーはアムンゼンスコット基地を飛び立った。

 

「マリア、あなたよくお父さんが許してくれたわね」

「あらお姉さん、かんたんな事なのよ、父はエンパシーとは無縁の科学者だもの」

 

「マリア、ひょっとして催眠術を使ったの?」

「まあ、そんなところかしら――ウフ、冗談よ。私がいても積載の邪魔になるからだと思うわ」

 

「でも、マリアにお姉さんと言われるのは、どうでしょ、なんだかくすぐったいわ」

「ロミ姉さんは57才、私はザワン歴でまだ17才ですから問題ないわ」

「分かったわ、でもやっぱりロミと呼んで欲しいわ」

「わかりました、ロミ」

 

そう言って、5フィート3インチの可愛いマリアは、ロミに抱き着いて甘えた。

氷の塔での長い年月、マリアは孤独だった、姉のように思う気持ちにロミは優しく応えた。

 

「ところでトニー、あなたはいつ頃からトムと連絡を取り合うようになったの?」

トニーはロミの言葉にたいし、しばらく沈黙してから応えた。

 

「いつ頃?・・そうだね、今回の信号はマリアに会ってからだ」

「ロミがトムのワームを捕まえた時に、わたしは彼だと直ぐに分かった。それで彼に聞いた。ロミが分かるかと、そうしたら彼トムは言った。僕はいつも彼女のことを見ていた、そして今は僕が発信したエンパシーを彼女は見つけてくれたのだ、とね」

 

「そう、逆に私は彼に捕まったわけなのね」

 

 

 

 

「それで、彼にいろいろ説明をした、ロミの愛と癒しのエンパシーについて」

ロミは黙ってトニーの話を待った。

 

「その前は、もう30年以上前だよ、覚えているかな、南大西洋のトリスタン・ダ・クーニャで彼があなたを助けてくれたことを」

ロミはよく覚えていると応えた。

 

「小学校の時のことはあまり記憶にないが、あの島で聞いた彼の思念には驚かされた。わたしが学んだ宇宙哲学、マックス家に伝わるホーリーナイツの経典にあるような、まるで師が弟子に教示していくようにあなたの力を引き出した」

「だからわたしは、あの出来事を博士には言わなかったのだ。当時博士はロミに親子であることを伝えていなかったからね、もしあの太っちょトーマスの存在を知ったら、どうなるか心配だったんだ」

 

ロミは、ほんとうにトムが自分を気にかけていてくれたことが、とても嬉しかった。

そして、父博士にも気を使ってくれたトニーに感謝した。

「そうなのね、気を使ってくれて嬉しいわ、ありがとうトニー」

 

――それにしても、トムはいったい何処へ行ったのかしら。

 

「トムならもう今頃、ニューヨークに戻っているはずだ」

「えっ、どういうことなの?トニー」

 

「ロミ、彼から何も聞いていないのか?」

「ええ、彼は黙って消えてしまったのよ、私の腕の中から」

 

トニーは笑いながら言った。

「それではロミ、まるでガートルードに逃げられた、あの時のわたしみたいだね」

 

 

次項 Ⅱ-31に続く