ロミと妖精たちの物語131 Ⅳ-17 遥かなる惑星から④ | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

 

マイナス50度の氷に覆われたピラミッド南極大陸の最高峰マウント・ヴィンソンの山頂、マリアが捧げ持つドラゴンボウルに集められた、太陽エネルギーの熱い鉄槌に穿たれ切り裂かれて出来た氷のクレパスから、この大陸の地底に眠っていたドラゴンがゆっくりと姿を現わした。

 

それはきっと、アパートに現れたシーオークの妖精、天使のファンションだとロミは勝手に想像していたが、現れたのはあの可愛らしいファンションでは無く、巨大なスノーウーマンだった。

 

氷のドラゴンと呼ぶに相応しく、凍て付いた黄金色のマントに包まれた氷の妖女だった。

 

宇宙少女神に姿を変えた身長7フィートのマリアよりも頭一つ背が高く、アンドロメダに変身した時のロミの視線よりも厳しい眼光を放ち、灰色に透き通るその瞳は、絶望と孤独と悲しみ、そして憎しみだけで作られた、憎悪に凍り付くその視線をロミたち三美神に向けていた。

 

ロミたちの背後で、半分地平線に沈む太陽を背にした小型宇宙船フェアリーシップの中から、万里生とフィニアンの二人は、精いっぱいのエンパシーを使って太陽の光を集め、虹色のプリズムに輝くバリアーを構築し、三人の女神を護り包んだ。

 

ロミはマリアとマーガレットの中央に立ち、トーガに包まれた両腕を広げ、目を閉じて黄金色に輝く心眼を開くと、目の前に立つ氷の妖女を真っ直ぐに見据えた。

 

 

 

 

氷の妖女は凍て付いた白い息を吐きながら、ロミの鋭い視線を無表情に見返した。

 

そしてゆっくりと足を運び、身長7フィートの宇宙少女神マリアに向かって手を差し伸ばした。

 

マリアはその手に向かって、ドラゴンボウルの光を当てて、思念の言葉を発した。

――あなたはどなた?私を知っているの?

 

氷の妖女は返事をすることも無く、持っている黄金の杖から電磁波が火花を上げて、マリアを護るバリアーに衝撃を与え始めた。万里生とフィニアンはフェアリーシップの頭脳を使ってエンパシーを集中し、バリアーを強固なものにしようと歯を食いしばった。

 

――ダメだ、ここに精霊はいないのか。

 

氷の妖女は黄金杖をフェアリーシップに向けた、すると船の後方の太陽は沈み、モルゲンロートの明かりは消えて、山頂にはドラゴンボウルの燃え上がるような光だけが残った。

 

そして蒼穹の天空に満天の星々が見え始め、幾千もの恒星たちの明滅の下に、北へ沈んでしまった太陽風の残したオーロラ電子が、氷の大陸の磁場に触れて緑色の光の帯を広げた。

 

氷の妖女はマリアに近づくと、大きく口を開き鋭い牙を光らせ、地響きのような唸り声をあげ、途方もなく冷たく凍った息を吐き出して、ドラゴンボウルを捧げるマリアの腕を掴もうとした。

 

ロミは声を上げた。

「待ちなさいファンション!」

 

ロミは銀の横笛を取り出し、音楽を奏で始めた。

 

アフリカの砂漠でスフィンクスから贈られた銀の横笛は、もう何度もドラゴンたちを癒し、解放をしている。その横笛は、ロミの唇に触れられると即座に癒しのメロディーを奏で、氷の妖女の動きを止めた。

 

そしてバリアーを突き抜け、マウント・ヴィンソンの山頂から、広く高く天空にまで広がり、いつの間にかオーロラの光の帯に誘われ集まってきた精霊たちに木霊(こだま)して、彼らはロミの演奏に合わせて、ロミの真心を歌い始めた。

 

 

 

 

――思い出して氷の妖女さん、あなたを愛した人々を

――思い出して氷の妖女さん、あなたが愛した人々を

 

――天の光はあなたを愛し、優しく包んでくれたこと

――海の波はあなたを愛し、大切に守ってくれたこと

 

オーロラの光の帯から、たくさんの精霊たちが降りてきて、大合唱が鳴り響く。

 

――あなたは花の妖精ファンション~♪

――心優しい愛の妖精ファンション~♪

 

――あなたはアイルランドの春の優しい雨音が好き

――あなたはアイルランドの夏の小鳥たちの歌が好き

 

――思い出して花の妖精さん

――思い出して愛の妖精さん

 

――みんなあなたが大好きなのよファンション~♪

 

ロミはバリアーを解き、マリアの腕をとって、ドラゴンボウルをファンションに近づけた。

 

――さあ、思い出したら触ってごらんなさい~ファンション~♪
 

氷の妖女は口を閉じ、黄金杖を突きながらロミとマリアに近づいた。

 

――さあファンション、みんなが待っているわ

――今こそあなたはほんとうの、本当のあなたに戻るのよ~♪

 

氷の妖女は左手に黄金杖を持ち、右手をドラゴンボウルの上にかざした。

 

ロミが奏でる銀の横笛に合わせて、たくさんの精霊たちの合唱が彼女を包み、その凍り付いた右の手はドラゴンボウルの炎に包まれて、暖かく濡れてゆきやがて柔らかく指を動かした。

 

そして、左手に握られた同じく凍り付いていた黄金杖には、天空からオーロラの輝きが舞い降りて届くと、虹色の温かな光彩を放ち始めた。

 

彼女はロミを見た、ロミの琥珀色の瞳は愛と癒しのエンパシーに溢れ、甦ったファンションを優しく見守ってくれていた。

 

彼女は思い出したように微笑むと、巨大な氷の妖女は小さくなって、愛の妖精ファンションの愛らしい姿となってロミを抱きしめた。

 

 

次項Ⅳ-18へ続く