ロミと妖精たちの物語130 Ⅳ-16 遥かなる惑星から③ | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

 

アムンゼン・スコット基地のある南極点から約700マイル北北西に位置する高地、ヴィンソン・マシフは冬に向かって厳しい寒さに包まれていた。

 

雲一つない蒼穹の空の下、標高4,892mのピラミッド、マウント・ヴィンソンの山頂は高く深い天空を突き刺すように鋭く尖り、ロミを乗せたフェアリーシップの背後の地平線に止まる太陽の光を反射して、この世の果てに聳え立つモルゲンロートに輝く氷塊は、オレンジ色に輝く、まるで宇宙の墓標のように見えた。

 

かつて、氷に覆われる前は緑豊かだったこの大陸も、今はこのマシフ(氷山塊)の霊場の下に、全ての実りを滅ぼし眠らせてしまっているのだろうか。

 

フェアリーシップは、ゆっくりと尾根に沿って上ってゆく。

 

万里生は、西方から吹き付ける突風から受ける横風に気を付け、傾斜30度の尾根道を慎重にルートを見極めながら、フェアリーシップの進路をトリミングしていた。

 

それは、ロミが見た夢の映像と今見ている現実の光景とを比較しながら、イメージをすり合わせフェアリーシップの頭脳に送り込む、思念とエンパシーの作業だ。

 

周囲の山々を望みながら、フェアリーシップは尾根道を上ってゆく。

 

正面の大画面は、後方の地平線すれすれに在る太陽の光を受けて、赤く染まったピラミッドの氷の頂上を映し出しているが、それはまだまだ遠い位置にあり、左右の小画面には幾重にも重なるマシフの山々が見えている。

 

――ロミ姉さん、トーマスはどのあたりで吹き飛ばされたのですか。

 

「具体的には説明できないわ、ただ、正面にあの頂が見えていたと思う」

 

――この細い尾根道も、あと僅かで終わります、このまま前進を続けましょうか。

 

「そうね万里生、続けてちょうだい」

「お母さま、あの方から何かメッセージなどありませんか?」

 

「残念だけど、あれから何も送られてきていません」

 

「そうですか、スノーマンの夢では、間違いなく山頂にあの方の姿が見えたのに」

 

ロミはそう言った後、目を閉じて心眼を開いた。

 

そこには、精霊も悲しき魂も、何の存在も感じることは出来なかった。

マイナス50度の氷の世界には、生命の痕跡は何もなく、霊魂さえも存在しないのだろうか。

 

――マリア、一緒に付いてきて。

 

ロミは思念の翼を広げ、フェアリーシップの上空に翔び上がった。ロミの意識は上空から尾根を見下ろし、ピラミッドの頂きの高さまで上昇し、周囲を見渡した。後ろを振り返ると、地平線に浮かぶ太陽が、遮るものの無い眩しい輝きを放っていた。

 

――あの太陽も、この先は北に移動していき、もうこの山々を照らすこともないのね、冬の南極点は絶対的な孤独の世界になってしまうのだわ。

トーマスの母マーガレットの思念が語った。

 

――まあ、お母さま、あなたも心眼を持っていらしたの?

 

――いいえロミ、あなたのエンパシーに付いてきただけよ。

――ロミ、あなたに提案があるの。

 

――提案?

 

――ロミ、私をあの頂に降ろしてほしいの。

 

――あそこは今、気温マイナス50度、風も30メートルを超えています。

 

――ええ、承知しています、でも、あの太陽の光が届いている今がいいのです。あの方は私の願いを叶えてくれると信じています。この大陸の何処かに閉じ込められている、私たちの子トーマスを求める母の心を、きっと救ってくださると思います。

 

母マーガレットの強い意志を確かめると、ロミは言った。

 

――わかりました、トーマスが私にくれた白いトーガを持ってきています。それに着替えて降りましょう、私たち三人で――マリア、あなたも大丈夫ね。

 

――もちろんよロミ。

 

ロミは思念の翼を閉じてフェアリーシップの船室に戻った。

 

彼女は着ているものを全部脱ぐと、ショルダーバッグから白いトーガを取り出して、それに着替えた。そして、思念で呪文を唱えながら、両手を揉み擦り合わせて、母マーガレットの身を護る白いトーガを作り出した。

 

「お母さま、これに着替えてください。このトーガはトーマスから贈られたもので、どんな環境でも私たちの身を護ってくれます」

 

マリアも、ハンプトンコートの地下迷宮でロミに作ってもらった白いトーガに着替えた、そしてその手には、タートル型宇宙人から贈られた、異次元をも見通すドラゴンボウルを握っていた。

 

 

 

 

「万里生、私たちは山頂に降り立ちます、船を山頂に進めてちょうだい」

 

――了解、シップはこのまま前進します。

 

 

フェアリーシップは速度を早め、尾根道から東側の登山ルートに入り上昇を続ける。

強風はピラミッド状の山岳に遮られ、登行はスムースに進んだが、やがて山頂に届くと、正面から吹き付けてくる、強烈な西風に煽られた。

 

ロミとマリア、そしてマーガレットの三人は、白いトーガのフードを頭まで被り全身を包み込むと、マウント・ヴィンソンの山頂に降り立った。

 

氷の地平線に浮かぶ太陽の強烈な光線も、白いトーガのフードが視線を護ってくれ、風速30メートルの突風からも、白いトーガは三人の身体を護ってくれていた。

 

マリアがドラゴンボウルを両手で掲げ、太陽に向かってかざすと、太陽の強烈な光を受けて、ドラゴンボウルは赤々と燃え上がるように輝きだした。ドラゴンボウルを掲げ持つマリアは、身長7フィートの宇宙少女神の姿に変身した。

 

そして無限に続く太陽エネルギーをドラゴンボウルの中に凝縮させると、天に向かって光の矢が放たれ、地に向かってはその熱量の塊りが鉄槌の如く凍った大地を叩きつけ、ピラミッドの氷塊を砕き始めた。

 

ミシミシと氷の砕ける音が響き、熱い鉄槌はなおも氷塊の中に潜り込み巨大な裂け目を作り、その深い亀裂の底から、眠っていた超古代のドラゴンが姿を現した。

 

 

次項Ⅳ-17へ続く