ロミと妖精たちの物語80 Ⅲ-12 Amore失われた時を求めて⑫ | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

 

ロンドン塔の亡霊たちが姿を消して、タワーグリーンの広場に静寂が戻ると、再び月の光が満ちてゆき、広場の中心にあるクリスタルのモニュメントを、明るく照らし出していた。

 

王女メアリーは広場へ下りると、夫とオーツ大佐に娘たちをクイーンズハウスで休ませるように頼み、ひとりクリスタルモニュメントの前に近づいた。

 

モニュメントの前には、メーヴ女王の娘マリアが身長7フィートの威風堂々とした姿のまま、クリスタルトレイの上に置かれたドラゴンボウルを見据えていた。少し離れたところに真梨花とフレッドが手をつないでマリアを見守り、キャサリン・ロバーツもその横に並び、両手を握りしめ、固い表情のまま立ち尽くしていた。

 

 

メアリーはゆっくりとマリアに近づいた。

「マリア、ありがとうございました。シスター・ロミはどちらに?」

 

マリアは王女の言葉を聞いて緊張が解けたのか、大きく息をすると、トレイに手を伸ばし、ドラゴンボウルを取り上げて、たいせつに両手で包みながらメアリーに見せた。

 

メアリーはテニスボウルほどの大きさの宝石を見た。透明のガラス球の中心には、光の粒がきめ細かく渦巻いており、それは途方もない深さを感じさせ、無限の深淵を思わせている。

「まさか、ロミも一緒にあの世へ行ってしまわれたと言うの?」

「そうでは有りません、悲しき亡霊たちと共に、神の国へ昇ったのは私の従弟たちです」

 

 

 

 

 

   

 

 

   

 

 

「まあ、あの大きな少年たちは死んでしまったのね、マリア、お可哀そうに」

長身の王女は、自分より1フィート以上背の高いマリアを抱き包んだ。

 

 

「いいえ、メアリー、彼らは既にこの世の人ではなかったのです。200年も前に南極を飛び出し、世界を渡り歩いたのです。南極で生まれた彼らには、温暖地方で生きていくのはとても過酷なことだったはずです」

 

「もう少し南極に残っていれば、生きていた英国隊の人たちとふれあい、生活菌類にも耐性が出来て、私のように順応できたと思うのですが、彼らはいきなり温暖地方に出たため、様々な病気に罹り寿命を縮めてしまったのです」

 

「それでも彼らは世界中を回り、様々な経験をしたようです、そして3人とも、60年前のTSウイルスで命を落としたのだと、彼らは立ち去る前に、ビジョン(思念の幻影)で伝えてくれました」

 

 

「今回のドラゴンは、マリアの従弟たちだったのでしょうか」

フレッドが訊ねると、メアリーが振り返り、その質問に応えた。

 

「そうではないと思います。今回のエンパシー行動は、あの4人の方々の無念の思いが起こした事だったのではないでしょうか。たぶん、ロミとともにスライゴーを訪れたマリア・メイヴに救いを求めて。マリアの従弟たちについてもきっと同じ願いからだと思いますが、その前から騒がしていたのはどうしてなのか、後でテロリストの少女たちに聞いてみましょう」

 

「それよりロミはどうしているのでしょう、マリア、何か分かりますか」

メアリーはマリアに聞いたが、マリアは首を小さく振りながらドラゴンボウルを見つめた。

 

「私は少し疲れました。元々の体格でいるのは疲れるのです」

そう言って、マリアはおやゆび姫になり、キャサリン・ロバーツの胸に飛び込んだ。

 

マリアは南極大陸の氷の塔を離れロミとともに宇宙を旅して、その環境変化に著しい体調変化を起こしていた。

 

エンパシー能力についても、元々潜在能力は強いものがあったのだが、母ワームの中でロミとあの神の使者の影響を受けて、急激に能力を身に着けて成長をしたためか、彼女の体内には、今も激しく燃え続けるエンパシーエネルギーが活動を続けていた。

 

 

「まあ驚いた、こんなところでよろしければ、どうぞお休みなさい」

キャサリンは乳房の上のおやゆび姫を、ドレスの布地の上から、その大きな手で包んだ。

 

フレッドは、マリアが身に着けていたドレスとティアラを拾い集めながら言った。

「メアリー王女様、マリアの落ち着いた様子からすると、ロミはきっとどこかへテレポートしているのでは無いでしょうか。たぶんミドリさんかトーマスの力を借りて」

 

「そうですね、ロミ姉さまはいつも、突然私たちの前に現れて、私たちを助けてくれてあと、またどこかへ行ってしまわれるのです、まるで春の風のように」

 

そう言って、メアリーはミス・ロバーツの乳房の上に眠るマリア優しく撫でながら、西方のウエストミンスターに向かって傾き始めた紅い月を見つめた。

 

 

沈みゆく月は、まるでロミの行先を暗示するかのように、紅々と燃えるように見えていた。

 

 

 

次項Ⅲ-13へ続く

 

 

2013年、飛翔するための自分との闘い、15才のSU-METAL