ロミと妖精たちの物語 ㊹ Ⅱ-8 「氷の世界8」 | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

 

ロミはマックス邸の浴室で意識を取り戻すことが出来た。

 

熱いお湯の中でジェーンに抱かれて目を覚まし、半ば朦朧としていた視界が少しずつ焦点が合ってゆくと、浴槽の中にジェーンの他にもうひとり人がいるのを見て彼女は驚いた。

 

「まあ、ここはどこなの?」

自分を包んでいてくれた、ジェーンの腕を両手で握りロミは尋ねた。

「ここはトニーの家よ、あなたは凍りついたように冷たくなって戻ってきたの」

ジェーンは熱い浴槽の中で、ロミを抱いたまま応えた。

 

「どういう訳か真梨花も今ここに現れたばかり。真梨花、あなたはいったいどうしてここに?」

 

もう一人の人は真梨花だった。彼女も裸で浴槽に現れたことで、ロミと同じようにテレポートされてここへ来たことは明らかだった。

 

「ごめんなさい、挨拶が遅れたわね、お姉さんたち」そう言って真梨花は二人にキスをした。

 

可愛い妹にキスされて、ジェーンは微笑みながら訊ねた。

「それで真梨花、いったいどうやってここへ来たの?」

 

「私は年末休暇を利用して、イズモのミドリさんの所へ遊びに行っていたの」

 

「ミドリさんが案内してくれた森の社の奥の院で一緒にお祈りをしていたら、ミドリさんの思念にロミ姉さんの様子が見えたの、なんだか大変なことになっていると教えてくれて、ミドリさんからロミ姉さんの所へ行ってお手伝いをしてもらえないかと言われたのよ」

 

「私もまだ休暇があるからぜひ行ってみたいと応えたのね、それでミドリさんと森の精霊たちに送ってもらってここに着いたという訳なの。着いたら温かいお風呂の中でびっくりしたわ」

そう言って真梨花は二人の姉に向かって、にっこりと微笑んだ。

 

「真梨花、よく来てくれたわね、私も嬉しいわ」ジェーンが真梨花を抱きしめた。

「ロミと私にお姉さんはいらないわ、ジェーンと呼んでね」

「真梨花、私もよ、ロミと呼んでね」

「ありがとう、そうするわね、お姉さん」

 

「ロミ、身体はどう?ちょっと見せてね」

ジェーンはそう言ってロミの心拍数を計った。

続いてロミの瞳を見ながら「苦しいところは無い?」と聞いた。

 

「ええ、大丈夫よ、ジェーンもよく来てくれたわ、パパも一緒なの?」

「そうよ、今私たちの食事を作っているわ。真梨花が一緒にいると知ったら驚くでしょうね」

三人は改めてお湯の中で抱き合った。

 

「さあ、お風呂から上がる前に、ロミ、あなた思念の力は戻ったかしら」

 

「ええ、氷の世界で可哀そうな魂と交信することができたので、たぶん、もう出来ると思うわ」

 

「それではトニーと交信して、私たちの服を用意するように言ってちょうだい、3人ぶんね」

 

真梨花は、三つ子の弟マリオが元気になって、春美と一緒にニューヨークへ行ってしまい、また宏一も東京の山内家に間借りして美術学校で講師を始めたため、祖母宏美と二人きりの生活になり、自由に使える時間が増え、今回は偶然ミドリの所へ遊びに行っての事だった。

 

人数が一人増えて、博士は嬉しそうに料理を追加した。

「真梨花よく来てくれたね、しかしイズモからここまで一瞬で来てしまうなんて、まったく驚きだ」

 

「ほんと、あっという間に姉さんたちの前に着きました、自分でもよく来れたと思います」

真梨花はここへ来た理由を、改めて博士とトニーに説明した。

 

「それでミドリさんからの言付けがあります」

ロミとトニーは真梨花の話しのつづきを待った。

 

「まずガートルードさんのことですが、兄さんたちが行ったところは確かに南極大陸のどこかで間違いはないようですが、ガートルードさんはそこには居ないそうです。二人が見たのは別の場所から送られた映像、あるいは幻影を見せられたのではないかと仰ってました」

 

「ミドリさんの推測では、ガートルードさんは故郷アイルランドに戻っているのではないかと」

 

「彼女は家に帰ったのかね、トニー、君たち痴話げんかでもしたのかね?」

博士が冗談混じりで言ったが、誰も聞いてはいなかった。

 

真梨花の話では、今アイルランドの方で騒がしい思念の波動が起こっており、これは妖精たちが、或いは眠っていた霊魂たちが、何か争いごとを起こしているのではないかと、特にニューヨークにいるガンコナー妖精たちが一斉にアイルランドに帰ってしまったことと、何か関係がありそうだとミドリが言っていたとのこと。

 

そして、南極大陸については、かなり古くからさ迷える魂たちが存在し、地球温暖化の影響で低緯度の氷が解けて、古代から氷の中に埋もれていた怨嗟の魂が目を覚まし、活動を始めたのではないかと推測しているとのことだった。

 

「ミドリさんはアフリカのエスタさんとも連絡をとっています、今言ったアイルランドと南極大陸の両方に分かれて、まずは状況を調べる必要が有ると言われていました。ロミのエンパシーが甦り次第、行動をしてもらいたいと言われてました」

 

「ふむ、南極大陸の霊魂については想像できるが、アイルランドの妖精たちにいったい何が有ったのだろうか。二手に分かれるとして、トニー、君に何か考えはあるかね」

 

「博士、南極大陸は今が夏と言っても、海岸部でも夜はマイナス10℃、山間部ではマイナス30℃を超えます、危険ですのでロミにはアイルランドへ行ってもらった方がいいと思います」

 

「待って、南極大陸は私が行くわ」ロミが言った。

「私はあのさ迷える軍人を救いたいの」

 

「皆さん、ミドリさんが言っていました、別行動を取るのはあくまで調査のため、それぞれイズモのミドリさんが中継して連絡をとり合い、戦いは全員が揃って進めることになるだろうと」

 

真梨花が話したミドリからの伝言を聞いて、博士は決断した。

「そうだね、まずは調査をすることだ」

 

そして、博士はエチオピアコーヒーを飲み終えて言った。

「南極大陸の調査は、下調べということで、トニーとフレッドに行ってもらおう」

「そしてアイルランドはロミと真梨花に行ってもらう、どうかね」

 

トニーと真梨花は肯いたが、

 

ロミはガートルードの気持ちを考えた。

 

 

次項 Ⅱ-9につづく