斎藤美奈子の「中古典のすすめ」(紀伊國屋書店:2020年9月10日第1刷発行)を読みました。
その前に読んだのは、「日本の同時代小説」ですね。
どうしてこのような本を読むのか?
僕は、本はけっこう数多く読むのですが、その読後感を書けない、というか、本の批評がまったくできない。文章にまとめることができない、人を納得させるような文章が書けない。そんなわけで、勉強のつもりもあり、斎藤美奈子の書く本を昔からよく読んでいるのですが、なかなかというよりまったく上達しない。斎藤の文章はグイグイ読ませます。あのドライブ感が素晴らしい。え~っというようなキャプションの付け方が上手い。けっこう下世話な話でも、オブラートに包んでうまくまとめちゃいます。あの人の代表作が入っていないとか、なぜこれほどまでに酷評かはともかく、挙げれば数限りない斎藤の見事な切り口と文章。斎藤の書くものはまさに「ツボ」、「推し」ですね。多くの美奈子ファンがいることは重々承知しています。売れてるんですね。向かうところ敵なしです。
さて、「中古典のすすめ」です。なんじゃ、中古典とは?
中古典とは、斎藤の造語である。古典未満の中途半端に古いベストセラーを指す。・・・中古典は歴史的な評価がいまのところ定まっていない本である。それが古典に昇格するか否かは、現時点では神のみぞ知るである。
「ベストセラー」以上「古典」未満
読書界の懐メロ=中古典を一刀両断!
一世を風靡した本には、古典に昇格するものもあれば、忘れ去られてしまうものもある──人気文芸評論家が、ひと昔前のベストセラー48点を俎上にのせ、現在の視点から賞味期限を判定する。
【名作度】
★★★ すでに古典の領域
★★ 知る人ぞ知る古典の補欠
★ 名作の名に値せず
【使える度】
★★★ いまも十分読む価値あり
★★ 暇なら読んで損はない
★ 無理して読む必要なし
以下は、48点の目次
(*印は僕が読んだもの)
1960年代
水平社運動に向かった少年たちの物語
住井すゑ『橋のない川』
憲法が破壊される時代への警告
*丸山眞男『日本の思想』
貧しい少女を描いた社会派YA文学
早船ちよ『キューポラのある街』
「しがないサラリーマン」の秘めたる思い
*山口瞳『江分利満氏の優雅な生活』
最低な男を正当化する弁明の書
遠藤周作『わたしが・棄てた・女』
アラフォー女性の恋の顛末
*田辺聖子『感傷旅行』
性と政治のはざまの青春群像
*柴田翔『されどわれらが日々――』
組織内の権力闘争を描くピカレスクロマン
山崎豊子『白い巨塔』
六〇年代的旅行記の価値と限界
森村桂『天国にいちばん近い島』
左右の論客を刺激した居酒屋談義
梅棹忠夫『文明の生態史観』
どこが名著かわからない
*中根千枝『タテ社会の人間関係』
争議も描いたドラマチックな記録文学
*山本茂実『あゝ野麦峠』
法に溺れて破滅した青年
石川達三『青春の蹉跌』
東大受験生の明るい屈折
*庄司薫『赤頭巾ちゃん気をつけて』
1970年代 みんなだまされた怪評論
*イダヤ・ベンダサン『日本人とユダヤ人』
死を選んだ女学生の「いちご白書」
高野悦子『二十歳の原点』
幼児的依存を体現した書
*土居健郎『「甘え」の構造』
ルポライターとからゆきさん
*山崎朋子『サンダカン八番娼館』
高齢化社会の入口で
*有吉佐和子『恍惚の人』
男子高校生たちのあきれた青春
井上ひさし『青葉繁れる』
天変地異の大盤振る舞い
小松左京『日本沈没』
大企業を敵に回した果敢なルポ
鎌田慧『自動車絶望工場』
お嬢さん先生の修行と遍歴
灰谷健次郎『兎の眼』
疾走するハードボイルド
片岡義男『スローなブギにしてくれ』
青春小説を異化するカゲキな女子高生
橋本治『桃尻娘』
翔んでる女の「自分探し」の物語
*五木寛之『四季・奈津子』
ローテク現場の過酷な労働
堀江邦夫『原発ジプシー』
上り坂の時代の日本礼讃論
エズラ・F・ヴォーゲル『ジャパン アズナン バーワン』
1980年代
伝説のアイドルの「闘い」の書
*山口百恵『蒼い時』
旧日本軍の暗部を暴いたノンフィクション
森村誠一「悪魔の飽食」
無駄に優雅な大学生の生活と意見
*田中康夫『なんとなく、クリスタル』
日本のピッピ、世界を席巻する 黒柳徹子
『窓ぎわのトットちゃん』
まるで酔った上司のお説教
鈴木健二『気くばりのすすめ』
均等法前後のサクセスストーリー
林真理子『ルンルンを買っておうちに帰ろう』
不倫にのめった中年男の夢と無知恥
*渡辺淳一『ひとひらの雪』
ポストモダンって何だったの?
*浅田彰『構造と力』
うわべで勝負の最強レジャーガイド
ホイチョイ・プロダクション『見栄講座』
元祖子育てエッセイのまさかの展開
伊藤比呂美『良いおっぱい悪いおっぱい』
職場と見まがう刑務所内ツアー
安倍譲二『塀の中の懲りない面々』
危険なアイドル製造プロジェクト
小林信彦『極東セレナーデ』
過剰な「性愛と死」があなたを癒す
村上春樹『ノルウェイの森』
「みなしご」になった少女の回復の物語
吉本ばなな『キッチン』
バブル期日本の過信と誤謬
盛田昭夫・石原慎太郎『「NO」と言える日本』
1990年代
利用された自尊史観
司馬遼太郎『この国のかたち』
バブル崩壊期の典雅な寝言
*中野孝次『清貧の思想』
夢のような時間とその代償
*ロバート・ジェームズ・ウォーラー『マディソン郡の橋』
斎藤美奈子:
1956年新潟県生まれ.児童書などの編集者を経て
現在─文芸評論家
著書─『妊娠小説』『紅一点論』『文章読本さん江』(以上,ちくま文庫),『文壇アイドル論』『モダンガール論』(以上,文春文庫),『戦下のレシピ』(岩波現代文庫),『冠婚葬祭のひみつ』『文庫解説ワンダーランド』(以上,岩波新書),『名作うしろ読み』(中公文庫),『名作うしろ読みプレミアム』(中央公論新社),『ニッポン沈没』(筑摩書房),『学校が教えないほんとうの政治の話』(ちくまプリマー新書)ほか多数.『文章読本さん江』で第1回小林秀雄賞受賞.
朝日新聞:2020年11月21日
過去の関連記事:
他に、(ブログを始める前に読んだもの)
「趣味は読書。」(平凡社 2003年)
「文章読本さん江」(筑摩書房 2002年)
「文壇アイドル論」(岩波書店 2002年)
「モダンガール論 - 女の子には出世の道が二つある」(マガジンハウス 2000年)
「あほらし屋の鐘が鳴る」(朝日新聞社 1999年)
「読者は踊る - タレント本から聖書まで。話題の本253冊の読み方」(マガジンハウス 1998年)
「紅一点論 - アニメ・特撮・伝記のヒロイン像」(ビレッジセンター出版局 1998年)
「妊娠小説」(筑摩書房 1994年)
等々