斎藤美奈子の「文庫解説ワンダーランド」を読んだ! | とんとん・にっき

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斎藤美奈子の「文庫解説ワンダーランド」(岩波新書:2017年1月20日第1刷発行)を読みました。


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朝日新聞の書評欄、「文庫」のコーナーに、斎藤美奈子の「本の本」が載っていたので、すかさずアマゾンで注文し、届きましたよ、この分厚い文庫本が!もちろん、まだ読んではいません。815ページもあります。パラパラとめくっただけ。末永く、辞書のようにひければいいと思っています。なお、本書は2008年3月、筑摩書房より刊行されたものです。


5年前の話、斎藤美奈子の「本の本」がアマゾンから届いたときに、上のように書きました。が、しかし、ほとんど読んでいません。「末永く、辞書のようにひければいいと」などと、カッコつけて書いていました。なんともはや情けないやら、恥ずかしいやら・・・。はい、ここに、これから頑張って読みますと宣言をしておきます。


それではならじと、斎藤美奈子の「文庫解説ワンダーランド」の方は、しっかりと読みましたよ。これがまた、文庫本の解説の解説、ですよ。まさに目からうろこ、です。こんなこと、ミナちゃん以外、誰が考えつきますか。本の帯にも「こんな読み方があったのか!」とあり、「あなたの文庫熱に火をつける抱腹絶倒の『解説』批評」とあります。


例えば「古典に求められる解説とは?」(「序にかえて」より)

古典的書物の解説に求められる要素は、として以下の情報をあげています。

①テキストの書誌、著者の経歴、本が掛れた時代背景などの「基礎情報」

②本の特徴、要点、魅力などを述べた読書の指針となる「アシスト情報」

③以上を踏まえたうえで、その本のいま読む意義を述べた「効能情報」

そして

④その本の新たな読み方を提案する「リサイクル情報」


また、石原慎太郎の「太陽の季節」を取り上げて、

このような「事件的作品」の文庫解説にはひとつのパターンがある。

①作品発表当時の騒動を紹介しつつ、

②旧世代の戸惑いを軽くいなし(あるいはあざ笑い)、

③新世代の文学の新しさをこれ見よがしに賞賛し、

④何よりも文体や感覚が新しいのだと述べる。


一方、日本の現代文学の解説には、次のような特徴が見られる。

①作品を離れて解説者が自分の体験や思索したことを滔々と語る。

②表現、描写、単語などの細部にこだわる。

③作品が生まれた社会的な背景にはふれない。

斎藤はこのような解説を、「同人誌の合評ならいざしらず、解説としては落第だろう」と述べています。


これだけでは「抱腹絶倒の『解説』」のぶっ飛んだ面白さは伝わらないのですが、まあそれは斎藤美奈子の本文を読まないと…。


僕も以前、下のように書いたことがあります。

文庫本を読む楽しみは、巻末の「解説」を読むことにある、といえば、作家には失礼だが、事実、そういう解説に出合うと、我が意を得たり、膝をたたいて喜んだりもします。川上弘美が「解説」を書いてると聞いて、単行本を持っているにもかかわらず、その文庫本を買い求めたこともあります。


話は少し脇道に逸れますが、最近、栗原康著「村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝」を取り上げて、朝日新聞の書評を斎藤美奈子が書いていました。この書評がぶっ飛んでいて面白い。伊藤野枝伝ですが、ずっと昔に、瀬戸内晴美著「美は乱調にあり」(文藝春秋:昭和41年3月1日第1刷)、母親の本を借りて読んだことがありました。まだ返していませんが。最近瀬戸内寂聴名で単行本で出ましたが、岩波現代文庫でも瀬戸内寂聴著「伊藤野枝と大杉栄 美は乱調にあり」(岩波現代文庫:2017年1月17日第1刷発行)が出て、いまそれを読んでいます。


この本の内容:

基本はオマケ、だが人はしばしばオマケのためにモノを買う。夏目漱石、川端康成、太宰治から、松本清張、赤川次郎、渡辺淳一まで。名作とベストセラーの宝庫である文庫本。その巻末の「解説」は、読者を興奮と混乱と発見にいざなうワンダーランドだった! 痛快極まりない「解説の解説」が幾多の文庫に新たな命を吹き込む。


目次

序にかえて――本文よりエキサイティングな解説があってもいいじゃない


Ⅰ あの名作に、この解説
1 夏目漱石『坊っちゃん』
 四国の外で勃発していた解説の攻防戦
2 川端康成『伊豆の踊子』『雪国』
 伊豆で迷って、雪国で遭難しそう
3 太宰治『走れメロス』
 走るメロスと、メロスを見ない解説陣
4 林芙美子『放浪記』
 放浪するテキスト、追跡する解説
5 高村光太郎『智恵子抄』
 愛の詩集の陰に編者の思惑あり

Ⅱ 異文化よ、こんにちは
6 サガン『悲しみよこんにちは』/カポーティ『ティファニーで朝食を』
 翻訳者、パリとニューヨークに旅行中
7 チャンドラー『ロング・グッドバイ』/フィッツジェラルド『グレート・ギャツビー』
 ゲイテイストをめぐる解説の冒険
8 シェイクスピア『ハムレット』
 英文学か演劇か、それが問題だ
9 バーネット『小公女』
 少女小説(の解説)を舐めないで
10 伊丹十三『ヨーロッパ退屈日記』『女たちよ!』
 おしゃれ系舶来文化の正しいプレゼンター
11 新渡戸稲造『武士道』/山本常朝『葉隠』
 憂国の士が憧れるサムライの心得

Ⅲ なんとなく、知識人
12 庄司薫『赤頭巾ちゃん気をつけて』/田中康夫『なんとなく、クリスタル』
 ン十年後の逆転劇に気をつけて
13 吉野源三郎『君たちはどう生きるか』/マルクス『資本論』
 レジェンドが鎧よろいを脱ぎ捨てたら
14 柴田翔『されど われらが日々──』/島田雅彦『優しいサヨクのための嬉遊曲』
 サヨクが散って、日が暮れて
15 小林秀雄『モオツァルト・無常という事』
 試験に出るアンタッチャブルな評論家
16 小林秀雄『Xへの手紙』/吉本隆明『共同幻想論』
 空からコバヒデが降ってくる
17 夏目漱石『三四郎』/武者小路実篤『友情』
 悩める青年の源流を訪ねて

Ⅳ 教えて、現代文学
18 村上龍『限りなく透明に近いブルー』『半島を出よ』
 限りなくファウルに近いレビュー
19 松本清張『点と線』『ゼロの焦点』
 トリックの破綻を解説刑事が見破った
20 赤川次郎「三毛猫ホームズ」シリーズ
 私をミステリーの世界に連れてって
21 渡辺淳一『ひとひらの雪』
 解説という名の「もてなし」術
22 竹山道雄『ビルマの竪琴』/壺井栄『二十四の瞳』/原民喜『夏の花』
 彼と彼女と「私」の戦争
23 野坂昭如『火垂るの墓』/妹尾河童『少年H』/百田尚樹『永遠の0』
 軍国少年と零戦が復活する日

あとがき


斎藤美奈子:

1956年新潟県生まれ。児童書などの編集者を経て

現在―文芸評論家

著書―「妊娠小説」「紅一点論」「文章読本さん江」(以上、ちくま文庫)、「文壇アイドル論」「モダンガール論」(以上、文春文庫)、「戦禍のレシピ」(岩波現代文庫)、「冠婚葬祭のひみつ」(岩波新書)、「名作うしろ読みプレミアム」(中央公論新社)、「ニッポン沈没」(筑摩書房)、「学校が教えないほんとうの政治の話」(ちくまプリマー新書)ほか多数。「文章読本さん江」で第1回小林秀雄賞受賞。


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