イーユン・リーの「理由のない場所」を読んだ! | とんとん・にっき

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イーユン・リーの「理由のない場所」(河出書房新社:2020年5月30日初版発行)を読みました。イーユン・リーの小説を読むのは、ほぼ7年ぶりです。最初に初期の代表作「千年の祈り」を読んだのは2008年ですから、なんと12年前ぶりになります。

 

実は「理由のない場所」の前に、「独りでいるより優しくて」(河出書房新社:2015年7月30日初版発行)があるので、本来であればこちらを先に読むべきだったのに、購入してあるのになぜか、読まれずに過ぎてしまいました。なにをおいても、次はこれを読むべきですね。

 

他に類を見ない設定

訳者の篠森ゆりこは、以下のように言う。

この小説は、自死した少年とその母親が生と死の境界を越えて会話を交わし、それ母親が小説として書くという、他に類を見ない設定になっている。心に深い傷を負った語り手である母親は、深刻な事件からさほど時がたっていないのに、ほど普段通りと思われる、驚くほど冷静な会話を始める。

 

さて、「理由のない場所」、この本の内容は以下の通りです。
母親の「私」と自殺してまもない16歳の息子との会話で進められる物語。著者の実体験をもとに書かれた本書からは、母親の深い悲しみが伝わり、強く心を打つ。他に類をみない秀逸な一冊。

16歳で自死した息子とこの世の母親との16章からなる対話。息子は作家である母親と口論しつつ、とりとめもなく綴られる想い。

 

今日も明日も、一週間後も一年後も、永遠に悲しい。あなたを話すためにこの場所を作ることにした。
 

翻訳者の篠森ゆりこは、「訳者あとがき」で下のようにまとめて言う。
結局のところ、リーは「うまく言葉にできない物事」を語るためにこの小説を書いていること。たとえ語りえないことだとしても、語らずにはいられないから書いている。その語りえぬ悲しみは既存の物語の形式にはおさまりきれない。だから断片的でこれといった筋がないこの作品は、前衛的で斬新な印象すら与える。

 

で、書いておきたいこと。(上とは逆かもしれませんが)

最近、翻訳小説に限ってのことなのか、「訳者あとがき」が年々長くなる傾向にある、ということです。以前はそれほど長いとは感じなかったのですが、最近は訳者による解説が、これでもかというほど詳細を極めます。著者の略歴や、小説の内容の概略、小説の見所・勘所等々、微に入り細に入り、懇切丁寧に書かれています。ちゃんと読みこなせない読者としてはありがたいのですが、でも、やや行き過ぎの感があります。読み方は読者にまかせろ、と言いたい。なんて書いたら、しっぺ返しがきそうで、ちょっと怖い。「訳者あとがき」がないと、何も書けない読者としては、痛しかゆしですが…。

 

違う立場から、いとうせいこうは、以下のように言う。

自分をなかなか許さない息子と対話し続ける母に何が訪れるのか。彼らは単純な和解の物語を選ばない。だがしかし、その人生のありように読者は胸をしめつけられるだろう。これは本当の話なのだ。

(下に載せた新聞の書評より)


イーユン・リー :
1972年、北京生まれ。北京大学に入学し、生物学を専攻。卒業後の1996年にアメリカに留学し、アイオワ大学大学院で免疫学を研究していたが、進路を変更し同大学院の創作科に編入。子育てをしながら英語で執筆するようになる。2005年に短編集「千年の祈り」を刊行し、フランク・オコナー国際短編賞、PEN/ヘミングウェイ賞、ガーディアン新人賞などを受賞。続いて2009年、初の長編「さすらう者たち」を発表。2010年には「ニューヨーカー」誌上で、注目の若手作家「四十歳以下の二十人」の一人に選ばれ、また「天才賞」と呼ばれるマッカーサー・フェローシップの対象者にも選ばれた。同年、短編集「黄金の少年、エメラルドの少女」を刊行。さらに2011年に絵本The Story of Gilgamesh、2014年に「独りでいるより優しくて」、2017年には初のエッセイ集Dear Friend ,from My Life I Write to You in Your Lifeを刊行し、いずれも高い評価を受けた。現在、プリンストン大学で創作を教えながら、執筆を続けている。

篠森 ゆりこ :
翻訳家。訳書に、イーユン・リー「千年の祈り」「さすらう者たち」「黄金の少年、エメラルドの少女」「独りでいるより優しくて」、クリス・アンダーソン「ロングテール」、サム・ゴズリング「スヌープ!」など。

 

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朝日新聞:2020年7月18日

 

「独りでいるより優しくて」

2015年7月30日初版発行

著者:イーユン・リー

訳者:篠森ゆりこ

発行所:河出書房新社